第52話 おねだり

言われるがままにNo.1キャストのセミロングの髪を梳く。クセがなくストレートで、細くて、柔らかい。シルク生地に手を滑らせているような、ずっと触っていたくなる心地良さだった。

「髪、柔らかいですね。私はこっちの方が羨ましいな。」

そう告げると、彼女がこちらを見た。

(…っ!)

彼女の揺らめく瞳が、「もっと。」と訴えている。思わず息を飲み、手が止まる。彼女の目からは視線を外せないままだ。

(その目、ガチで誘いに来てるな…。この状況でどうしろと?)

ニコチンと確信を吸い込み、次の句を吐き出そうとしたその時−−トイレから初老の男性が出てきた。


「あ、おかえりなさい!席戻りましょうね。」

彼女が席を立った。

助かった、と安堵した。


−−安堵?何に?助かったとは??


自分自身に疑問符を浮かべたタイミングで、ショートヘアの若いキャストが席に着いた。ひと通り飲み物が渡り、皆で乾杯をし、談笑する。しかし、女性に不慣れな私の知人のせいか、今ひとつ盛り上がりに欠ける。山中の知人男性に至っては、柱に頭を預けて寝始めていた。

山中から発せられた下ネタも、私とキャストにより多少の色が付けられたものの、私の知人の頭上で空中分解するような状況だ。下ネタって、こういう場の鉄板ネタじゃないのか?そんな状況をどうにかせねば、と考えていると、

「彼にママ紹介したいから、ママ呼んで。」

と山中がキャストに告げた。

わかりました、とキャストが席を立つ。


「ママ来ますよ。」

私は隣で項垂れている山中の知人男性の肩をポンポンと叩く。お、ママか、と頭を起こす男性。


数分後、ママが席に着いた。

男性客たちの間で交わされる、ママと私のプラトニックで官能的な時間が始まる。

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