第51話 教育の場、引率
あぁ、自分は隙だらけの「たらし」なのか、と肩を落としながら帰路に着いた。思い起こせば、誰かと恋人関係になることがここ数年ない。その代わり、性的なお戯れはまぁまぁある方だ。「たらし」というか、自分の性欲に正直なだけかもしれない。
ただし、色気溢れるお姉様からちょっかいを掛けられるというのは久し振り過ぎて、どうも狼狽えてしまう。高田の言う通り、スナックママとNo.1キャストがガチでアプローチしてきているとすると、どこまで理性が持つのか、自信がない。
それから半月ほど経とうとした頃。
偶然が重なり、再び私は例のスナックに行くことになる。
今回は、山中と山中の知人男性、私の知人男性と私の4名だ。なぜこの面子でスナックを訪ねることになったかと言うと、私の知人男性が山中たちに気に入られたことに起因する。
山中たちと私・知人はそれぞれ別の店で飲んでいて、2件目に入った店のカウンターで隣合わせになった。この知人は真面目で純朴な田舎の青年という見た目よろしく、女性に不慣れで、そんな彼への「大人なんだから行きつけのスナックの1件くらい持っておきなさい。」という先輩方からの教育の場、それがこの状況である。
店に入ると、ボックス席で接客中のママがこちらを見た。相変わらずの麗しい笑顔だ。
「あら、山中さん!それにあやちゃんも!そっちの席、使って。」
トイレ横のテーブル席を案内される。
閉店まで残り1時間というタイミングのせいか、今日は店にキャストが少ないようで、我々はテーブル席で誰かがつくのを待っていた。
私はタバコに火を着けようとライターに手を伸ばす。が、火が着かない。ガス切れだろうか。そこに、ポーチ片手にお客様をトイレに連れて来たキャストが通った。そのお客様がトイレに入ったタイミングで、
「すみません、ライターって余ってませんか?」
と尋ねる。
「あっ!」
…No.1キャストだった。
「2回目だね。」
3回目ですよ、と答える私を他所に、私の隣に腰を降ろし、ポーチの中をガサガサする彼女。
(わざわざ座るほど?)
そんなことを考えていると、「これ、使っていいよ。」と、ポーチの中からとあるバーのライターを差し出した。
「ありがとうございます。」
タバコに火を着ける。
ふぅっと吐き出した煙を眺めていると、頭に感触があった。
隣を見る。
彼女が私の髪を触っている。
「いいなぁ。髪多くて。私なんか少なくて大変でさぁ。」
そうですか?と彼女の頭に視線を移す。
「ホント。むしろ薄毛だから。」
そんな風に見えないですけどね、という私の手が取られる。
「触ってみて、髪。」
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