第50話 炭火、七輪、ホルモン

「ねぇ、高田ってスナックによく行くよね?」


その日、私は飲食店オーナーで友人の高田(タカダ)と焼肉屋にいた。

「『よく』かどうかは分からんけど、たまに行くかな。」

「私よりは行ってるよね。私もその辺の女よりは行く方だと思うんだけどさ。で、そんな高田くんに聞いて欲しい話があって。」

網の上でホルモンの脂を落としながら、これまでにあったことを掻い摘み説明した。


−−−−−

「前提としてさ、水商売って、ドキドキを売るもんだと思うんだよ。店にもよるけど『疑似恋愛空間』とか言うじゃん。だから、そのお姉さん方の対応はね、理解はできるの。1点を除き。」

「『1点』って?」

「イッシーが女だってこと。」

ホルモンから炎が上がったので、氷を置いて鎮火しながら「やっぱそうだよね。」と答える。

「あとイッシーに金持ってそうなオーラもないしな。」

「そうなんだよ。『金無さそうな女』をドキドキさせて、何のメリットがあるのかなぁと思うわけよ。私がキャストなら、私に構ってる時間で男性客ドキドキさせるわ。」

確かになぁ、と高田が塩キャベツを口に入れる。

「正直、童貞ばりに動揺が凄いんだよね。」

高田がブハッと噴き出す。

「そんな真面目な顔で言われても。」

「だって当方、至って真面目だもん。」

意味分かんないよホント、とグラスにビールを注ごうとすると瓶の中が空だったので、追加の瓶ビールを注文する。

「まぁ意味はわかんないね、俺も。考えられるとしたら、ビジネスじゃなくてガチってパターンかな。」

ガチ!?とポカーンとしている私のグラスにビールが注がれる。

「おい高田、私は心を落ち着けたくて今日キミを呼んだんだが?動揺を悪化させてどうすんだよ。」

「んなこと言ったって仕方ないだろ、事実なんだから。」

はぁ…、どうすりゃいいんだよ、と嘆く私に、

「イッシーって、『たらし』だよね。」

と高田が焼けたホルモンを差し出す。

「誰もたらし込んでない。むしろ、たらし込まれてる。」

「たらし込まれるのは『隙』があるからだろ。『ママに惚れちゃうよぉ』って言ってたのが『No.1キャストがエッチだよぉ』って、たかだか数時間でコロコロ変わり過ぎ。ちょろ過ぎ。だらしないの。」

ぐぅの音も出ない。

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