第48話 距離感

「この前、すごかったよね。特にカラオケの最後!盛り上がったなぁ。」

ママの右腕らしきキャストが笑顔で語りかけて来る。いやぁ、とまんざらでもない様子でナッツを口に入れる私。このキャスト、ママほどではないものの、気品溢れる可愛らしい姉御肌と言った具合で、年上の美人なお姉さまが好物の私としては何とも言えない幸せな状況だった。

「で、結局うちの店で働かないの?」

(あぁ、この人はママからのスカウトのことを知ってるんだっけ。)

「うちの会社、副業ダメで…。」

「そっかぁ。一緒に働きたかったな。」

そんなこと仰って頂けるなんて光栄の極みです、と答える私。

その時、店の入口が開き、ママと見知った顔と知らない男性数名が入って来た。見知った顔というのは上司の南(ミナミ)で、知人と思しき2名を引き連れている。

「丁度良かった、皆さん一緒で良い?」

広いテーブルを山中と私の2名が占拠する状況だったので、勿論異論はない。最終的に我々のテーブルは山中、南、南の連れ2名、ママ、右腕のNo.1キャスト、若いキャストと私の大所帯となり、私と南の間にはNo.1キャストが座った。

それぞれ自己紹介を済ませると、話題は私の話に。

「南さん、御社、やっぱり副業はダメ?」

ママが南の目を見る。

ダメですし、石橋はうちの会社に必要な人間です、と答える南。

私はと言うと、身に余る光栄にニヤつきたいところだったが、それどころではなかった。

隣のキャストが、べったり身体を寄せて来るのだ。

(何か凄いくっついて来るなぁ。この店の人、客との距離感こんな感じ?私、2回目なんだけと…)

周りを見渡すが、他の客とキャストの間には然るべき距離が保たれている。

(このお姉さんがそうなだけかなぁ、まぁこれはこれで幸せだから良いか。)

喧騒の中、右半身に感じるNo.1キャストの体温と重みを噛み締めながら、水割りで火照った身体と頭を冷やす。

すると、別のキャストがまたママに耳打ちしに来た。ママはちょっとごめんなさいね、と離席し、入口付近の別のテーブルに向かう。彼女が席に戻って来ると、今見に行ったテーブルにキャストがいないため、No.1キャストに向かうように指示をした。

「わかりました、じゃあこの子も連れてって良い?」

私の右腕に手を回し、立ち上がるNo.1キャスト。状況が飲み込めず、へ?なんで??と固まっていると、

「社会勉強。ダメ?」

とこちらを見る。

「別に良いですが、私が行って大丈夫なんですか?」

と答える。

「大丈夫、ちゃんと教えてあげるから。」


そのまま彼女に手を引かれ、店の中を移動した。

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