第47話 やり手の美人に惚れない方が無理だったはずが
「あの、先日はせっかくお会いしたのに挙動不審で申し訳ありませんでした!」
あれから1週間と少しが経過した、とある日の午後11時。私は山中と、例のスナックにいた。目の前には、水割りを作るママ。
「いいの、また来てくれたから。」
彼女が笑顔で答える。
その日、私は山中と焼き鳥屋にいた。ひとしきり仕事の話をした後、さり気なくママの話題を出してみる。
「いやぁ、あのママ凄いですよね。カリスマ性って言うか、やり手って言うか、今まで出会った人の中で、トップクラスにオーラが凄いです。」
「そうなんだよ。美人で頭切れて、俺も一目置いてるんだよなぁ。俺だけじゃないと思うけど。」
私はししとうに齧り付きながら、うんうん、と頷く。
「何?またあの店行きたいの?」
(山中社長、ごめんなさい、そしてありがとうございます。死ぬ程行きたいです。利用した感じになってますが、正直、期待してました。一緒に飲むお約束を交わしてから、ずっとソワソワしてました。今日は私の所有する中で一番良いスーツを着て、いつもより念入りに化粧しました!)
「えっ、行きたいです。またあの凄いママに会いたいです。」
決して悟られないよう、ししとうと一緒に沸き立つ思いを飲み込んで、返事をした。
そんな願ったり叶ったりの状況が今なのだが、前回と違う点は私の容姿だけではない。店がほぼ満席状態、非常に混み合っていたのである。そこで、私は改めてママの凄さを痛感することになる。我々の席にやって来て、ママに耳打ちするキャスト。ほんの一瞬、視線を店の中に外したかと思うと、キャストに指示出し。それでいて、我々の会話に対し、しっかりリアクションを取り、的確な返答をする。それが1回2回の話ではなかった。ひっきりなしだったのである。
(凄い…カッコいい…。惚れる…。)
こんな方に自分がキャストとしてスカウトされたことを誇らしく思えた。
「盛況だねぇ。さすがママの店。」
たまたまよ、とママが答えたところでキャストがまた耳打ちしに来た。
「ごめんなさい、お見送り行って来るわ。また後で来ますからね。」
とママが席を立つ。その際、以前来た時にもいた、おそらく彼女の右腕と思しきキャストを呼ぶ。
「お見送りしてくる。」
ママが小声でそのキャストに伝えると、わかりました、とアイコンタクトを交わし、我々の席についた。
このキャストにより、自分がまた淫靡な沼へ沈んで行くことを、私はまだ知らない。
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