第41話 ペットの素質

「女同士って、すごいね。いつまでもできるんだね。」

「そうですね、体力が続く限りは。」


−−−−−

その後、斉藤とは1〜2週間に一回、身体を重ねる関係となった。一度、2人で行った旅行先でというシチュエーションがあったが、ほとんどは私の家だった。


その間、問題となったのは谷藤である。幸いにも連絡先を交換しておらず、プライベートな時間に糾弾されるようなことはなかったが、特に斉藤との初夜、谷藤の車に乗らず彼女を追って走り出した日から数週間後、忘年会の二次会では終始私の隣に張り付き、尋問?躾?が繰り出された。


「あの日、聖子ちゃんと、何かあったの?」

ボルドー色のVネックセーターから、華奢なゴールドのネックレスが覗く。先端にぶら下がっているアクセサリーのエンブレムが、ブランド物であることを主張している。

「ちょっと話しただけですよ。せっかく送って頂ける、ってなったのにすみませんね。」

私は当時ハマっていたソルティドッグを喉に流す。

「随分な態度じゃない?」

チェーンのついたメタルフレームのメガネを外して首に掛ける谷藤。

「…どういうことですか?」

眉間に皺を寄せて彼女を見る私の左手の上に、彼女の右手が重ねられる。

「隠しごとはいけないわ。あなたのことならわかるの。そしてわかっていたいの。」

テーブルの上の左手を引こうとしたが、彼女にしっかりと握り締められている。斉藤の居場所を確認しようと彼女から視線を外すと、

「こっち見なさいよ。」

冷たい怒りを帯びた声が放たれた。

「何に怒ってるんですか?」

「あなたが悪い子だから。」

それってどういう…、そう口にしかけた時、

「もっとちゃんと躾けておかなきゃいけなかったかしら。」

「申し訳ありませんが、私は」

「このバイト、辞めなさい。」

私の言葉を遮る谷藤。話が見えず、彼女の目を見たまま固まる私。

我々の様子にただならぬ空気を感じたのだろう。そこに、斉藤がやって来た。ガッチリと手を握られているのを一瞥し、谷藤に言う。

「お取り込み中でした?私も良いです?」

「丁度良いわね。聞いてもらいましょう?」

私は再び、ソルティドックに口付ける。


「斉藤さんと何かあったのか聞いても、特に話すようなことはないって言うの。」

斉藤はいつもの細いタバコに火を付け、黙って聞いている。

「それでね、あんまりな態度に私も反省して。ちゃんと言葉と態度で示さないとダメね。」

何を言い出すのか。

「あなた、私に飼われない?」

斉藤も私も、目を見開いて谷藤を見る。

「いや、飼われなさい。あなたには素質があるもの。」

「一体どういう…。」

「前から素敵だと思ってたの、あなたのこと。」

左手を再度引こうとしたが、谷藤の右手の力がさらに強まる。

「私がここのバイト分出してあげるから、飼われなさい。そうしたら、あなたに美味しいご飯を作って、たくさん気持ち良くしてあげる−−前よりもっと。」

「ちょっと谷藤さん!」

「ねぇ聖子ちゃん、この子、とっても可愛い声で鳴くの。それでね、『気持ちいい、もっと』って目でおねだりするの。」

一体、何を言ってるんだこの人は。

「素直でイイ子だったのに。」

ラストオーダーでーす、と背後のテーブルから誰かの声が響いた。


「聖子ちゃん、あなたこの子に何かした?」

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