第42話 都合の良い関係

「谷藤さんっ!」

空いている右手も使い、彼女の手を払った。

岡がラストオーダーだよ、と言いに来たが斉藤が手でバツを作るとそのまま去って行った。

「…しましたよ?」

斉藤が静かに言葉を放った。

「谷藤さんがしたいこと、して欲しいこと、何度も。」

谷藤が、他所で手懐けられた飼い犬を見るような目で私を見た。

「谷藤さん、やめてくれます?うちの子、取るの。」

「付き合ってるの?あなたたち。」

「付き合ってませんよ。」

「じゃあどういう筋合いで」

「『都合の良い関係』ですが?」

店内は騒がしいのに、まるで空間を切り取られたかのような沈黙に包まれた。


谷藤の手が、私の肩に置かれる。

「あなた、この子が良いの?私ならこの子よりもっと色々なこと教えてあげられるし、もっと気持ち良くさせてあげられるわ。私が欲しくて堪らなくなるくらい、溺れさせてあげる。あなた、こういうの好きでしょう?」

彼女の手を取り、彼女の膝の上に戻す。

「ごめんなさい。酔っ払ってそういうことをしたことは、心から謝ります。でも私は、聖子さんが好きなんです。バイトも春までやめないですし、谷藤さんに飼われる気はないです。」

そう、と返答があったきり、谷藤から言葉が発せられることはなかった。


その夜、本来であれば斉藤は自宅に帰る予定だったが、私が「どうしても側にいて欲しい。」と頼み、私の家に2人で帰宅した。タクシーの中でもずっと手を繋ぎ、玄関に入った瞬間、ドアが閉め切らないうちから斉藤に抱きついた。

「聖子さん、好きです。愛してます。」

唇を重ね、舌を絡ませながら、彼女の制服のスカートをずり上げる。

「ちょっと、こんなとこで」

そう言い掛けた唇を塞ぐ。彼女の腰に手をやり、腿の間に入れた自分の太腿に押し付ける。

「ねぇ、ベットに」

舌を入れ、彼女の口内を弄る。彼女の身体を壁に押し付け、自分の体重を預ける。

んっ、はぁ…2人の吐息が重なり合う玄関。

彼女のストッキングをずり下げると、ショーツも一緒に下がった。

「んっ、ダメ、ここじゃ」

彼女の耳を舐めながら、指を入れる。

「こんなに濡れてるのに?ダメですか?」

あっという間に、2本の指が飲み込まれた。

「まだ入りそうなんですけど、とりあえず今はこれで。」

彼女から返答はなかったが、私の首に回された手がキスをねだった。

「聖子さん、ちょっと今日…優しくできないかも。」

再び唇を重ね、彼女の首筋を吸いながら彼女を突き上げる。

「いいよ、壊して。」

そのまま、何かをぶつけるように、力任せに腕を動かす。

「んっ、クリと奥、一緒に押されて…」

「気持ちいい?聖子さん、すごい締めてくる。」

水音と、彼女の喘ぎ声と、私の吐息が玄関に反響する。

「ねぇ、イッちゃいそうなんだけど…」

「こんなところで?」

意地悪、と彼女が言い終わらないうちに、腕の動きを早める。

「あっ、ねぇ、もう…んんっ!」

「いいよ、イッても。」

はぁ、はぁ、と息を切らして私の肩を握る手に、グッと力が籠もり、力が抜けた。

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