第39話 継続契約

「大丈夫?」

私に抱き抱えられたままこちらを向いた斉藤の指が、私の髪を梳く。

「あ、すみません。だいぶ寝ちゃってました?」

「いや、ほんの数分。」

「そうですか。失礼しました。」

ううん、と彼女が小さく答える。彼女の指の感触が心地良く、ついまた眠ってしまいそうになる。

「それで、どうでした?気持ち良くなれました?」

彼女の頬に手を添える。

「うん、気持ち良かった。何と言うか…今まで体感したことのない気持ち良さだった。」

良かった、と思わず笑みが溢れる。彼女の頬を撫でながら続けた。

「『都合の良い関係』、初回お試しプラン終了なんですが、継続利用は如何でしょうか?」

斉藤は、うーん、と唸りながら私の腰に腕を回し、顔を胸の谷間に寄せてきた。

「はぁ、もうなるようにしかならないか。うん、そうだね…もっと色々やってみたくなった。でも良いの?」

「もちろん。…とりあえず、ベットに行きます?」

テレビを消し、部屋の照明を小さく落とす。シーツを剥ぎ、彼女をベットに迎え入れると、彼女の上に静かに被さり、右脚を彼女の腿の間に滑らせた。

改めて、目の前の彼女を眺める。化粧を落とし、ただでさえ幼い顔がいっそう若く見えた。太めの薄眉の下、ぱっちりとした大きなタレ目が私を見ている。スッと通っていながらぷりっとした鼻に、ぽてっとした薄ピンクの唇。私は、自分の髪を耳に掛けると、その指で彼女の下唇を挟んだ。

「あの、キスしたいんですけど、良いですか?」

「…うん。キス、して。」


彼女の白くて丸いおでこに、キスを落とす。そのまま左瞼、頬、顎まで落ちて来たところで、ふぅっと息を吐き、彼女を力強く抱き締める。

「どうしたの?」

急に変わった私の様子に、彼女が私の頭を撫でながら訝しがる。

「ごめんなさい、この2週間、すごく会いたくて恋しくて…それで今日、私は恋してるんだって分かって。それでこんなことになって。いや、嬉しいんですけど。」

彼女は黙って私の話を聞いている。

「だから、聖子さんとキスできるなんて夢みたいで、現実味がなくて…それで、怖気つきました。ごめんなさい。」

そう話すと、彼女は私の顔を持ち上げ、自分の顔に近づけて言った。

「意気地なし。気持ち良くしてよ、私のこと。」

「気持ち良くして」の一言に、自分からフッと緊張が抜けていくのを感じた。彼女の唇に触れるか触れないかの距離で、

「かしこまりました。」

そう言って、唇を重ねた。

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