第36話 商談成立
「それで?」
谷藤との一件にお灸を据えられ、口を開けない私に斉藤が尋ねた。何の話かと彼女の目を見る。
「『都合の良い関係』って?」
その説明には体勢を変えた方が良さそうだと、我々の前にあるテーブルを押しのけ、まるで女王様に跪くかの如く、彼女の前に膝立ちになった。
「話し相手から、晩酌のお供、マッサージ、添い寝。その他性的なものも含め、聖子さんが幸せに過ごせるお手伝いをしたいと考えています。」
「『性的なもの』。」
「あなたが望むのであれば。」
彼女の左手を取り、両手で包む。
「気持ち良くしてくれるってこと?」
「最大限の努力を尽くします。」
「女同士って、どうなの?男とするより気持ち良いの?」
「性別はどうあれ、相手によるかと。」
ふうん、と彼女の視線が答えた。女同士のセックスに興味があるのだろうか、と話を続ける。
「ただ、肌の質感が男女では全然違うので、女同士のセックスに病みつきになる、と言うのは良く聞く話です。身体を触ったり、触られたり、私はそれだけで気持ち良くなれますし、何ならキスだけでイクこともあります。」
「『キスだけで』?」
両手に包んだ彼女の左手を、自らの唇に誘った。彼女から抵抗がないのでそのまま続ける。
「女の人の唇って柔らかいじゃないですか。」
人差し指を挟みながら、彼女の顔を見上げる。
「ぷにぷにしてたり、ふっくらしてたり、薄かったり。質感は人それぞれですけど、共通してるのは『柔らかさ』かなと。どうです?」
彼女はなるほど、といった表情で私を見ている。拒絶ではなさそうだ、と次のステップに進むことにした。
「舌もそうです。柔らかくて、温かくて…。」
彼女の人差し指と中指を、口内に優しく迎え入れる。それらが引き抜かれる様子がないのでOKのサインと判断し、くちゅ、くちゅ、と控え目に水音を立ててみる。
「ろうれすか?」
彼女の指を咥えたまま、反応を窺う。返事は何もなかったが、その瞳に潤いを増したのがわかった。私の唾液で艶を増した彼女の指を引き抜き、再び唇に添える。彼女の目をじっと見ながら、指にまとわりつく自らの唾液を舐め取る。
「どうですか?」
心なしか、彼女の頬が紅潮したように見受けられる。自分の前に跪き、指を舐め、顔を見上げる私は彼女にどう写ったのだろうか。
「もうホントに…自覚してる?その目。」
「目、ですか?」
ちょっと前にも同じことを言われたな、と思い出す。
「そう。その目。もの凄くゾクゾクする。」
「それは、褒められてるって認識で合ってます?」
「うーん、褒めてるって言うのは違う気が…貶してるわけでもないんだけど。と言うか、今のだけで、価値観変わった。」
「と言いますと?」
彼女が空いた右手の甲で口元を隠し、視線を外す。
「その…凄く興奮した。」
ふふっ、そうですか、と立ち上がり、今度は彼女が私を見上げる格好になる。左手は、依然として私の右手にホールドされたままだ。
彼女の顎をそっと掴み、こちらを向かせる。
そして、彼女のリアルな目の前で、彼女の人差し指と中指にちゅ、と音を立ててキスをした。彼女の瞳がいっそう潤ったところで確認する。
「…続き、欲しいですか?」
彼女は何も言わない。初めての経験に戸惑っているのだろう。無理もない。
「…やめます?無理強いはしたくないんですけど。」
彼女の指から唇を離し、顎に添えていた手で髪を撫でる。無言で俯く彼女をそっと抱き締めようとした時、彼女が言った。
「やめないで欲しい。」
承知しました、優しくしますね。
再び彼女の指を迎え入れる。今度は、ソファーに向き合って。
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