第33話 303号室

−−−−−

今、駅裏のホテルでシャワーを浴び、洗面所を出た。薄暗い部屋の中でソファーに座り、バスローブを来た斉藤と彼女から吐き出されるタバコの煙が、天気予報を伝えるテレビの光に反射している。

ふぅっと息を吐き、1人分のスペースが空いたソファーに歩みを進めた。

−−−−−


涙を流しながら腕を掴んでいる私に、はぁ、というため息が聞こえた。

「わかったから、まず涙拭いて。」

彼女がカバンの中からポケットティッシュを1枚差し出した。礼を言い、涙を拭く。ハーッと息を吐き、

「もう1枚下さい。」

と要求して鼻をかむ。ズズッと鼻をすすり、

「このティッシュ、ガッサガサですね。」

と籠った声で言うと、

「あなたからもらったヤツなんですが?」

と眉間に皺を寄せた彼女がティッシュを裏返した。そこには、コンタクトレンズのチラシが挟まっていた。


−−あぁ、あの雪の夜の。


彼氏と別れて落ち込んでいた斉藤。

名前のないカクテル。

寒いねと身を寄せてきた斉藤。

ブカブカのスウェット。

ベットの中でしがみついてきた斉藤。

締め付けられる心臓。


途端に、堤防が決壊したかのように涙が止まらなくなった。うぅ、グスッ、うぅー!と声を漏らす私に彼女がティッシュを2枚差し出し、空になった袋をカバンに捻じ込む。

彼女が無言で私の左手を引き、改札口を通り過ぎて駅裏へと繋がる連絡通路へと歩き出した。


「どこ行くんですか…。」

グスッ、グスッ、と鼻を啜りながら尋ねる。

「人に見られず落ち着けるところ。」

バス通勤の私は駅周辺の地理に明るくなかっちめ、手を引かれるままに着いて行くと、落ち着いた雰囲気ながら「いかにも」といった外観のホテルに入って行った。無人のカウンターで空いている部屋のボタンを押し、カタン、と出てきた鍵を手に取る斉藤。無言でエレベーターに乗り、3階の一室に入った。


「まだ落ち着くまで時間掛かりそうだね。私、先にシャワー浴びていい?」

私はコクコク頷く。

「とりあえず、座って、水飲んで、落ち着きな。」

彼女は冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを手渡すと、洗面所へと向かった。


ムワッとした空気を引き連れ、次いいよ、とバスタオルで髪を拭きながら斉藤が言った。振り返ると、バスローブ姿だった。やっと落ち着きを取り戻し、促されるまま浴室へ向かう。バスローブの下は裸で良いんだろうか?そんなことを気にするくらいの冷静さは取り戻していた。


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