第24話 初めてのキュッ

真っ暗な部屋に、2人の呼吸音が静かに響く。そろそろ夢の世界に落ちかけようとした時、

「寝た?」

と斉藤の声。

「起きてますよ。」

寝かけていたことには触れないでおいた。

「眠れないんですか?」

「うん。」

「ナデナデしましょうか?」

「うん。」

本当に今日の聖子さんは子供みたいだな。弱ってるんだな。と彼女の方を向く。すると、彼女は私の腰に腕を回し、キュウッと身体を寄せてきた。その瞬間、キュッ!と心臓が締めつけられるのを自覚した。一体何が起こったのか、わけが分からないでいると、

「心臓、すごいドクドクしてない?」

斉藤が私の胸に、耳を押し当ててきた。

「さっき、心臓が『キュッ!』ってなったんですよ。ビックリしたぁ。」

彼女の頭を撫でながら答える。ふふっ、何それ、と笑いながら彼女は続ける。

「身体、細いと思ってたけど、意外とガッシリしてるんだね。」

「スポーツやってたからですかねぇ。というか聖子さん、凄くいいニオイしますね。ドキドキする。」

「どんなの?」

「うーん、女の子のニオイ?」

「変態。」


彼女の髪を梳く手が止まりかけ、再び夢の中へ落ちるのも時間の問題と思われた。最後の力を振り絞って語りかける。

「聖子さん、辛かったですね。今も辛いのかもしれないですけど。」

彼女は何も答えない代わりに、私の腰に回した腕にいっそうの力を込めた。

「これくらいしかできないですけど、これくらいはいつでもできますからね。だから寂しくなったら声掛けて下さい。弱ってる聖子さんもかわいくて好きですけど、しっかり者の聖子さんも好きです。だから、ゆっくり早く元気になって下さい。」

「『ゆっくり早く』って。」

斉藤が、笑った気がした。




朝目覚めると斉藤の姿はなく、代わりにきれいに畳まれたスウェットがベットの側に置かれていた。

【今日は色々ありがとう。だいぶ元気になったよ。今度お礼させてね。仕事行かなきゃだから先に出ます!カギかけてドアポストに入れとくからねー】

テーブルの上に彼女からの書き置きを見つける。元気になったなら良かったと胸を撫で下ろし、学校へ向かった。

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