第25話 次の日も
その晩、研究室で実験のデータ処理をしていると、斉藤から電話が掛かって来た。部屋を出て、誰もいない実験室に向かいながら電話を取る。
「もしもし。」
「お疲れ様。今、学校?電話大丈夫?」
「お疲れ様です。学校ですけど、大丈夫ですよ。仕事終わったんですか?」
「うん、今ビル出たとこ。」
部屋の時計を確認すると、18時30分だった。
「今日、大丈夫でした?」
「うん、何とか。」
「良かった。心配しましたよ。」
と言うと、一瞬の間を置いて、
「今日は、帰り遅いの?」
斉藤が尋ねる。
「そうですね、もうちょっとかかるかなぁ。何かありました?」
電話越しに、躊躇う様子が伝わってきた。
「20時には学校出れると思いますが。どうしました?」
「…今日も一緒に寝たいって言ったら、引く?」
何だそんなことか、と安堵する。
「引かないですよ、『いつでも声掛けて』って言ったじゃないですか。そうですね…20時30分にうちでも良いですか?なるべく急ぎますんで。」
「買い物してるから急がなくてもいいよ。とりあえずその時間に向かうね。ちなみにご飯食べた?」
「いえ、まだです。」
「じゃあ何か買ってくね。飲み物は?」
「今日はお茶でいいです。重いんで私買って帰ります。聖子さんは?」
「私もお茶で。」
さすがにね、そう笑って電話を切った。
ピンポーンとチャイムがなり、ドアを開けると、スーパーの袋を手に下げた斉藤が立っていた。袋を受け取り、どうぞ、と招き入れる。昨日より元気そうな姿にホッとしながら袋の中身をテーブルに並べていると、背後から斉藤の気配を感じた。と同時に、彼女のおでこがコツン、と右肩に乗せられた。
突然の出来事に、春雨サラダを持った手が止まる。
「何かあったんですか?」
サラダのパックを静かに置く。
「ううん、何も。」
「汗臭いですよ、私。」
「うん、頑張ったニオイがする。お疲れ様。」
膝立ちの私の腰に、彼女の腕が回される。寂しかったんだろうな、そうしていたいんだな、と私は何も言わずに作業を続けた。全ての料理が並んだタイミングで、
「準備、できましたよ。」
と右肩の斉藤に伝えるも、
「うん。」
と返事したきり動かない。
「お腹空いてないんですか?」
「空いた。」
「じゃあまず、ご飯食べましょう?」
彼女の身体を引き剥がすと、不満そうな顔でこちらを見ている。もー、そんな顔しないの、まずご飯。と彼女を座らせ、遅い夕食を摂った。
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