第23話 形勢逆転
「ところで、結局何が原因で別れたんですか?」
例のカクテルの4杯目に口を付けた。閉店30分前です、と友人がラストオーダーを取りに回っているのが視界に入る。私の視線に気付いた友人がこちらを向いたので、両手でバツ印を作り、アイコンタクトを交わす。
「それがさ、別の女作って出て行ったんだよね。ホントウケる。あーもう信じらんない。最悪。」
「信じられないですね…最悪ですね…。」
できるだけ言葉を選ぼうとしたが語彙力の乏しさゆえ、オウム返しにすることしか出来なかった。
「えっと、そうだ!次行きましょう、次。恋愛の傷は恋愛で癒しましょうって誰かが言ってましたよ!」
間髪入れずに「誰よ」と返ってくる。適当に言ったので、誰かがパッと思い付かない。
「てきとーだなぁ!」
斉藤が笑顔で私の右肩を小突いた。私はアハハ、すみませんとヘラヘラ謝る。
「まぁでも良いや。ちょっと元気出た。ありがと。あーでもやだな、家に帰るの。だいぶ片付いたとは思うんだけどね、家にいると思い出しちゃって…。」
斉藤が時計を確認したので、電車大丈夫ですか?と聞くと、あと15分だと告げられた。ここから駅までは早歩きで5分。きれいにまとめて気持ち良く帰って頂かなければ、と次に掛けるべき言葉を思案する。
先に口を開いたのは、斉藤だった。
「ねぇ、家、行っちゃダメ?」
上目遣いでこちらを窺う斉藤。うちですか?良いですけど何もないですよ?明日仕事大丈夫なんですか?私9時から学校ですよ?と返すと、問題ないと言う。さらに、うち狭いし私のベットしかないですよ?と確認する。貧乏学生の一人暮らしなんて、そんなものだろう。斉藤は聞いているのかわからない素振りでサッと会計を済まし、私の腕を引く。
コートを羽織って外に出ると、雪はすっかりやんでいた。白い息を吐きながら、寒いね、と斉藤が身を寄せて来る。寒いですねぇ、と彼女の肩を抱き、いつもは私が甘える方なのに新鮮だな、などと考えながら、タイミング良く通ったタクシーを捕まえた。
家に着き、ストーブの設定温度を上げる。日が変わったこともあり、早々に化粧を落とし、寝る身支度をする。斉藤にスウェットの上下を渡したのだが、あまりにもぶかぶかで「子供みたい。かわいいな。」と思わずニヤついてしまう。ササッとベットメイクを済まし、寝ますよ、と誘導すると、スススッとベットに潜っていった。
「今日の聖子さん、子供みたいで新鮮です。かわいい。」
ベットサイドにあるリモコンで部屋の灯りを消し、何だか大変な一日だったなぁと思いながら、目を閉じた。
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