第21話 カサカサのティッシュ

その日はたまたま斉藤と帰りが一緒になった。聖子さん、今日何か元気なくないですか?大丈夫ですか?などと話しながらバイト先のビルを出ると、いつもの場所に、斉藤の彼氏が待つ車がない。

「今日はお迎えないんですか?」

と尋ねると、うん、まぁ…今日は電車なの、と歯切れの悪い回答が返ってきた。私はバス通勤だったのですぐ近くのバス停までで良かったのだが、何となく斉藤の様子が気に掛かり、何も言わずバス停を通過して彼女と歩く。


「ケンカでも、しました?」

私がバイトに入る頻度はそんなに高くなかったが、斉藤が迎えの車に乗らないのを見たのは初めてだった。

数刻の沈黙が流れる。

「お迎えないの、初めて見たんで。」

沈黙に耐えかねて、言葉を続けた。斉藤は俯いたまま、ポツリと言った。

「別れたの。」


うわマジか、これはやってしまったか?マズイ、どうしようと、二の句が継げないでいると、斉藤が力ない笑顔でこちらを向いた。

「まぁ何となく前兆はあったしね。だいぶ立ち直ってきたから大丈夫。」

「『大丈夫』って…そんな泣きそうな顔で…。」

斉藤がズズッと鼻を啜る。

「あー、コンタクトが…。」

そう言って、両の目頭を人差し指で拭う。

「ホントに大丈夫なんですか?そうは見えないんですけど…。」

うん、ごめんね、大丈夫、そう言い終わないうちに、斉藤の目からボロボロと涙が溢れ出た。立ち止まり、慌ててカバンの中をゴソゴソ探ると、幸いにも奥の方にポケットティッシュの存在を確認できた。コンタクトレンズのチラシが挟まった袋から1枚渡すと、ごめん、と言いながら目頭を押さえる斉藤。

「全部あげますから。」

彼女の肩をさすりながら袋を手渡す。無言でコクコク頷く姿を見て放っておけない気持ちになり、

「近くに友達がバイトしてるバーがあるんですけど、寄って行きます?」

そう言うと、一瞬の間を置いて、コクン、と彼女が頷いた。

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