第19話 置いてけぼりの朝

「おーい、起きてー。朝だよー。」

うぅ…。

「学校でしょー。」

…むぅ。


意を決して目を開けると、すっかり身支度の済んだ岡が心配そうにこちらを伺っている。自分が寝ていたのは谷藤の(おそらくダブル)ベッドだったようだ。身体から掛け布団が剥がされた際、谷藤から香ったローズ系の匂いがフワッと鼻をかすめ、記憶が断片的にフラッシュバックする。

「…はよごさーす…。」

「おはよ。ふふっ、やっちゃったねぇ。ま、そんな日もあるよ。強く生きろ若人よ。」

私の頭をポンポンとしながら励ます岡。おそらく谷藤と私の間に何があったかは知らないだろう。そう思うと急に安心し、もう少しの間、心地良いリズムと岡の優しさを堪能していたくなった私は、再び瞼を閉じた。

「おーい、寝るな。子供ですかぁ?」

そう言うと、岡は私の身体を起こし、部屋の外へ連れ出した。


リビングに着くと、谷藤が何事もなかったように、おはよう、大丈夫?と笑いかけてきた。あれ、何か普通だ、昨晩の出来事は夢だったのだろうか、そんなことを考えながら、岡に手を引かれてダイニングチェアに着席する。

「おはようございます…。」

「ご飯食べられそう?」

「ごめんなさい…無理そうです…。」


テーブルには、サラダとベーコンエッグ、そしてまた自家製のパン、ジャムとヨーグルトが並べられていた。絵に描いたような素敵な朝食を食べられないことにほぞを噛みつつ、ヨーグルトとオレンジジュースだけ頂く。

その傍で、岡と谷藤は「また来て良いですか?」、「いつでも大歓迎よ。」と楽しそうに談笑している。あまりにも自然な谷藤の振る舞いに、やはり数時間前のアレは夢だったのだろうか、それにしては随分と生々しいな、とヨーグルトから谷藤に視線をずらす。目が合った彼女は、どうしたの?具合悪い?といった感じで小首を傾げたので、無言で首を振る。


何となく腑に落ちないまま、足元で座っている2号の頭を撫でる。1号は谷藤の太腿に身を乗り出し、おねだりをしているようだ。

(犬のしつけがどうこう、って言ってた気がするんだけどな、あと聖子さんがどうこうとか。)

真偽の程を確認できないまま、例の外車で帰宅の途に着いた。

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