第17話 暗闇で鈍く光る

「起きたの?」

耳元にくぐもった声が聞こえた。隣にいるのは谷藤だとわかる。岡もこの部屋で寝ているのだろうと、ボリュームを絞って答える。

「起きました、というか…頭痛いし目も開かないんですけど…。あとごめんなさい、記憶飛ばしました。結構飲んでました?私。」

「ワイン2本近く空けたかな。ワイン好きなのね。また用意しておく。」

右耳に、谷藤の吐息を感じる。ため息をつく私の左肩に布団が掛け直されると、首筋に細い指が伸びて来た。

「っ…!」

突然の出来事に、思わず肩が上がる。

「しーっ。岡さん客間で寝てるけど、聞こえちゃうかもしれないから、声、落としてね。」

いつも通りに透き通っていながら、有無を言わせないような、中低音の声が聞こえた。私の身体は、まだ動きそうにない。

「初めて、って感じじゃなさそうね。」

谷藤の唇が、右の耳たぶに触れるか触れないかの距離で動いているのを感じる。男性とのこういうことか、それとも女性との…?と答えあぐねていると、

「いい子にしててね。」

クチュリ、と小さく音を立て、谷藤の舌が私の耳の中に入ってきた。その瞬間、ピリッと小さな電気が身体に走るのを自覚する。酔っていても、身体は正直なようだ。


自分から漏れる吐息が暗闇のせいか、部屋全体に反響しているかのように感じる。谷藤は息をしているのだろうか?彼女の呼吸音は全く耳に入って来ない。

首筋を行ったり来たりしていた谷藤の右手が、私の顔を押さえる。と同時に、中から外へと私の左耳を這っていた舌先が離れ、ゴーッという音とともに、耳全体が谷藤の口の中に飲み込まれる。

「っ…はぁっ…!」

ピクリ、と身体が跳ねた。

開放された左耳に、威圧感のある中低音が響く。

「前に、送別会の二次会で、あなた聖子ちゃんとベタベタしてたじゃない?見てて苛々したの、アレ。」

聖子ちゃん、というのは社員の斉藤(サイトウ)のことだろう。


「それは…。」

やっとの思いで重い瞼を開くと、部屋に灯りがないのにも関わらず、嫉妬に燃えた谷藤の瞳が目の前にあるのを認識した。

谷藤の太腿が、私の股を割って入ってくる。ヌルリという感触とともに、続きを弁解しようとした唇は塞がれてしまった。

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