第16話 ワインは水にあらず
あれから数日後、岡からメールが届いた。
【来週の火曜、谷藤さんちにローストポーク習いに行くけど、一緒に来る?うちらが作ってる間、犬と遊んでていいよだって。】
谷藤さんと一緒なのかな、と時計を見る。13時20分。遅出シフトの昼休憩の時間だったのでおそらく一緒なのだろう。
【行きたいです!】
すぐに返事が届く。
【私その日は午後休だから、谷藤さんと先に買い物済ませて迎えに行くよ。何時がいい?】
【15時には出れます!】
【りょーかい!着いたら連絡する!あと次の日は学校?】
【祝日か!午後から研究室行きます…】
【そっか、泊まってってもいいよって。帰りも送ってってくれるってさー。私は休みで午後から用事ある。イッシーどする?】
うーん、泊まりかぁ。一瞬躊躇したものの、きっと朝ご飯、凄いんだろうな、と食欲に負ける。
【泊まりたいです!お願いします!】
【着いた!正門前ファミマ】
指定された場所に着くと、かの有名なエンブレムのついた、黒いRV車の助手席から岡が降りて来た。
「お疲れ様。カッコいいでしょ、車。助手席乗っていいよ。」
こんな車の助手席なんて、そうそうある機会じゃない、とお言葉に甘えることにした。
「お疲れ様ですー。この前はありがとうございました。おぉ、カッコいい…。」
黒で統一された車内に、ウッド調のセンターコンソール。皮張りのシートが丁度良い塩梅で身体を受け止める。会社の重役にでもなった気分だった。
「ウフフ、ありがとう。では帰りますよ。」
谷藤がそう言うと、ボルン、ボッボッボッ、と重低音が響き、大学を後にした。
谷藤の家に着くと、先日と変わらず1号が飛びかかって来たが、私も学習をしており、しっかりとタックルに対応できるようになっていた。舐め回し攻撃には相変わらずやられっぱなしだったが幾分か慣れ、数分後にはお腹を撫でるまでに成長した。
キッチンでは、谷藤と岡があーだこーだ言いながらローストポークに挑んでいる。エレガンスとキュートの共演か、いい光景だなと1号2号を撫でながら眺める。
ローストポークはこの前と変わらぬ美味しさで、岡さん、これ出したら彼氏惚れ直しますよ、ローストポーク屋さん開きましょう、などと大いに盛り上がった。そして、盛り上がったのは、私が初めてのワインに挑戦したせいもあったかもしれない。意外と飲めて、大人の仲間入りをしたような気分になった。
ただ、私にはまだ早過ぎたのかもしれない。
頭が地面にめり込むような感覚で目を覚ますと、真っ暗な部屋にいた。布団が掛けられており、ベッドの中であろうことを察する。途中からの記憶がない。何とかして断片を回収しようと寝返りを打った時、自分の隣で人が寝ていることに気が付く。
岡さんか?谷藤さんか?どっちでもいいや、とにかく眠ろう。
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