第15話 ゴールデン・レトリーバー1号2号

ここはペンションですか?といった外観の一軒家に着いたのは、17時40分だった。ショッピングモールからの距離はそう遠くなかったものの、土曜の夕方ということもあり、片側一車線の国道の流れが悪く、約束の時間を少々オーバーしてしまった。

車を降り、岡がチャイムを鳴らす。私はインターホンに向かって謝る先輩方を横目に、噂の外車を拝見すべく、高田と「この中かね。」と玄関に隣接したガレージの小窓を除くなどしていた。


「いらっしゃい。」

玄関の扉が開く。ゆったりとした紺のニットに、淡い水色のスキニーデニムのラフな装いながら、隠しきれないエレガンスを漂わせた谷藤が現れる。どうぞ、と中に入った一同は、思わずハモる。

「玄関、広っ。」

リビングに繋がっているだろうドアの曇りガラスには、左右にウロウロする複数の影が確認できる。私のテンションが上がったのは言うまでもない。

「4人とも、犬、大丈夫?アレだったらゲージに…。」

谷藤が言い終わらないうちに、大丈夫です、好きです、うちの実家で飼ってます、と被せる面々。


以降の詳細は割愛するが、最高に幸せです、疑ってごめんなさい谷藤さん、といった夜になった。


ポイントとしてはまず料理。

その場でチーズを削ってかけてくれた、生ハムの乗ったサラダに白身魚のカルパッチョ。お店ですか、美味しすぎるんですけど、と箸が止まらない。先輩方も、お店やったら良いのに、と興奮していた。「酒が止まらない。」とビールをものすごい勢いで消費する高田にられ、私もいつもより早いペースで酎ハイを飲んでしまう。熊澤はお茶だったが、岡と谷藤はゆっくりとワインを嗜んでいた。エレガントである。

そして、最も感動したのはローストポークだ。そもそもローストポークなんてホテルのバイキングでしか食べたことがない。え、これって家で作れるもの?こんなん実家で出て来たことないよ?とおかわりを取ると、岡が作れないことないけどね、難しいんだよと教えてくれた。高田と熊澤は、「ヤバッ」、「ウマッ」しか発していない。谷藤は良かったぁ、嬉しい、そんなに難しくないよ、と終始笑顔である。

その後も、素晴らしいとしか言いようのない、自家製のパンだとかティラミスだとかが出てきたが、料理小説ではないのでこの辺にしておきたい。


2つ目のポイントは、ワンちゃんたち。食事を終え、持参したチーズとサラミで談笑タイムとなったところで、岡と私が離席。フローリングに座るとレトリーバー1号が私に飛びかかって来た。そのまま押し倒される私。尻尾をブンブン振りながら、顔やら首やらを舐め回される。

「ひゃっ、くすぐったいよお。」

「ふぁっ?耳はダメぇ…。」

「んーっ、もおっ…。」

やられたい放題の私。岡を見ると、普通に座って2号にボールを投げている。この違いは何だ!と訴える私を、テーブルの面々がニコニコしながら見ている。

1号の舐め回し攻撃が終わったかと思えば、今度は股に顔を埋められる。

「ちょっ…何!?変なニオイするのかな、ちょっとー!」

手で押しのけようとしたものの、1号の顔はどんどん太腿に埋もれていった。

「何かちょっとエッチじゃないですか、この子ー!」

1号が谷藤によって抱えられて去っていった。


それ以降は入れ替わり立ち替わり1号2号を満喫し、穏やかで楽しい時間が流れた。


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