第13話 いざ行かん
送別会から数週間が経った、ある日のバイトの昼休み。
社員の高田(タカダ)と喫煙所で一服していた時のことだった。
「来週の土曜日さ、オカちゃんとクマと谷藤さんち行くんだけど、イッシーも一緒にどう?」
オカちゃん、というのは以前から登場している岡のことで、クマというのは同じく社員の熊澤(クマザワ)を指している。
「谷藤さんちに何しに行くんですか?」
送別会での「オーラが云々」発言以降、表面上は彼女と当たり障りなく接していたが、心のどこかでは一線を引いていた。
「谷藤さんね、料理が趣味なんだって。でもほら、旦那さん単身赴任してるじゃない。披露する場が欲しかったみたいだよ?」
谷藤の夫は商社勤務、というところまでは知っていたが、単身赴任というのは初耳だった。
料理かぁ、かなり心惹かれるなぁ。でもなぁ、と悩んでいると、
「あと、谷藤さんちのワンちゃんたちと戯れに。」
「あー、写真見たことあります!レトリーバーでしたっけ?」
犬好きの自分としては、かなり心惹かれる状況だ。もちろん普段の学生生活では、犬と触れ合う機会はない。
人様に披露するレベルの料理、レトリーバー2頭への興味、そして日頃良くしてくれている3人の社員がいるという安心感で、結局同行することにした。
「じゃ、多分クマちゃんになると思うけど迎えに行くから、時間決まったら連絡するわー。あ、あと谷藤さんち行く前に皆で差し入れ買ってくからね。」
「迎えに来てくれるんですか?やったー!お願いします!」
元々単純な性格ゆえ、どこ行くんだろ、ちょっとしたドライブだ、わーい!などと、さっきまでの不安を忘れてはしゃぐ私だった。
【着いたよー】
メールを受け取り玄関を出ると、白い軽自動車がハザードをつけて停まっていた。車内からは、男性アイドルグループと思しき音楽が漏れ聞こえ、後部座席の岡がこちらに手を振っていた。何とも楽しい雰囲気である。
「おはよーございますー、お願いしますー。」
岡の隣に乗り込むと、私服姿の3人が「おはよー。」とテンション高めで挨拶してくれた。
「これからどこ行くんですか?」
と尋ねると、隣町の大型ショッピングモールだと言う。差し入れ買うだけなのに…?と訝しく思ったが、大人しく流れに身を委ねることにした。
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