第12話 エレガンス懇願す

送別会も二次会となり、我々はとあるバーにいた。

私の隣には、あのハマちゃんがいる。完全に沈黙し、本当に「ただいるだけ」になってしまっており、大変気の毒である。


もう一方の隣には、一次会に引き続き谷藤がいた。席も広くなったことで、改めて彼女を観察してみる。手入れの行き届いたロングヘアー、メタルフレームのメガネ、そのレンズにつきそうな長いまつ毛、スッと通った鼻筋、薄いながらも色気のある唇、シャープなフェイスライン。ハイネックの黒いセーターに、スキニーデニム、そしてまた高級ブランドと思われるハイヒール。華奢なピンクゴールドの時計がチラ見えする手元には、相変わらずの赤ワイン。

「谷藤さんって、クイーン・オブ・エレガントって感じですね。」

えぇ、そんなことないよ、と笑う谷藤。タバコに火をつけ、煙を燻らせながら熱弁する。

「うーん、エレガントじゃなくて、エレガンスかなぁ?いずれにせよ、優雅、優美、淑女、そんな感じです。」

すると谷藤は、照れているのか、それとも何かマズイことを言ってしまったのか、沈黙してしまった。悪いことは言ってないはずと、ラムコークを流して彼女のリアクションを待った。

すると数刻の後、

「石橋さんみたいな人にそんなこと言われるなんて…。」

と、口元を両手で隠してしまった。

あぁこれはマズイ、謝らなければ、でも何を?どうしよう、と逡巡を巡らせていると、

「あの、変なこと言ってたら申し訳ないんだけど…実は前々から、石橋さんのオーラ、凄いなって思ってて…。」

思いもよらぬ展開になった。


「オーラって、あのオーラですか?気、みたいな。」

「そうそう。」

「谷藤さん、人のオーラ見えるんですか?」

申し訳なさそうな顔でこちらを窺う。

「見えるってわけじゃないんだけど…でも何て言うか、石橋さんは、普通の人と違うんだって感じるよのね。だから前々から、もっと石橋さんのこと知りたい、できれば仲良くなりたいって思ってたの。だから、その、そんな石橋さんに褒めてもらって、嬉しいのと驚きで…。」

谷藤はそう捲し立てると、上目遣いでこちらを見た。


「えっと、むしろ嬉しいです、ありがとうございます。自分ではただのイモ学生だと思ってました。」

サラッと笑って話題を変えたかった。彼女の中で、特別な存在として評価されていることは、悪い気はしなかったものの、彼女の言葉にあった、「私のことを知りたい」、「私と仲良くなりたい」と言う部分はスルーした。正直、少し怖かったのである。

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