【学生時代】バイト先のお姉様編1

レトリーバー3号

第10話 レッドアイ

「あなた、私に飼われない?」


私の右手を両手で握りながら、バイト先のパート社員、谷藤(タニフジ)は続ける。


「前から素敵だと思ってたの、あなたのこと。」



自分が複数のバイトを掛け持ちする貧乏学生をしていた頃、高級ブランドのバック、これまた高級そうな白いブラウス(たかが無地の白ブラウスでも安物ではないことが素人目にわかる)、そしてまた安物ではないであろうデニム、その出立ちで週に1、2回ほどシフトが被るのが谷藤だった。

個人的に気になり、社員に谷藤のことをヒアリングしてみると、「既婚者、子なし、一軒家住まい、RV車(外車)を所有、ゴールデンレトリーバー2頭を飼っている」ということが判明した。ただ、どの社員も、

「なぜそんなセレブが、うちのような立ち仕事のパートを?」

という質問には首を傾げるばかりだった。



話は変わり、とある秋の夜。

バイト先の会社は全国に拠点を有し、毎年2回は社員の一部が入れ替わるのが通例だった。その日は、私がバイトで入社して以来面倒を見てくれたとある社員の送別会で、正規・非正規の社員が会社近くの小洒落た居酒屋で一堂に会す日だった。


※これまでの話を読んだ方はおわかりかと思うが、私は年上の美人に弱い。その基礎を作ったのは確実にこのバイト先である。それらの話は追い追い触れていきたい※


その送別会に、私は学校の都合で遅れて参加した。店員に席まで案内されると、姉のように慕っていた社員の岡(オカ)が手招きをしてくれた。

「お疲れ様ー!何飲むー?あと、ご飯食べてないよね?これ、取っておいたから。」

目の前にドリンクメニューと、それまでのコース料理が取り分けられた皿が差し出された。

「岡さんは何飲んでるんですか?」

と尋ねると、「レッドアイ」だと言う。当時は酒を飲み慣れておらず、メニューに羅列されているカタカナのドリンクは9割がた未知の液体だったため、店員にレッドアイを注文し、岡の隣に落ち着いた。

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