第8話 午前2時
「もっと、する?」
自分の左腕に添えられた、ママの右手に目をやる。さっきまで2人の間にあった空間は、椅子を寄せてきた彼女によって無きものとなっていた。間髪入れずに続ける。
「して欲しかったら、左手貸して。」
ママは、なぜ私から遠い方の手なのかと言いたげな表情で、言う通りにする。私はさっきまで防壁の役目を果たしていたメガネを外し、差し出された左手を自分の両手で包んだ。
「ほら、これで向かい合えたでしょ?」
そう告げると、彼女の中で腑に落ちたことが見て取れた。
だが、それだけが目的ではない。
敢えてもう一つの目的には触れず、彼女の左手をなぞったり揉んだりする。
「手って、他人に触られるの気持ち良いよね。」
「そうね。」
「さっきママに触られたときも、気持ち良かった。」
彼女の手を取り、人差し指と中指の第2関節に自分の唇が触れるか触れないかの距離感で続ける。
「あとさ、私は利き手側じゃない方が感じるんだけど、ママはどう?」
憂いを帯びた瞳が ’yes’ と答える。
「良かった。」
親指と人差し指の間の水かきにキスを落とし、そのまま優しく上下の唇で包む。そっと舌先を動かすと、彼女から小さく吐息が漏れた。
「ふふっ、かわいいね。」
彼女から目は逸らさずに、脱力して柔らかくした舌で人差し指を舐め上げると、先程より大きく息を吐いた。
「すごい…指だけでこんなに…。」
その一声に気分を良くした私は、彼女の中指と薬指を口に含みながら言う。
「実はまだ利き手側じゃない理由があって。利き手をさ、こうやってしゃぶると、利き手側じゃない方の手で口元隠す人が多かったんだよね。そうやって堪えてるのもたまらなく愛おしいんだけど、今日は本能のままに漏れちゃう姿が見たくて。」
私の左腕を握る、彼女の利き手にグッと力が篭る。
ジュル、と音を立てながら彼女の指を解放し、おしぼりで自分の唾液を拭きながら尋ねた。
「足りた?」
ハァ、という吐息とともに、潤んだ瞳でこちらを見つめるママ。
「足りない、もっと。もっと欲しい。もっとしたい。」
彼女はそう言うと、私の左手の小指を口に含み、クチュ、チュポ、といらやしく上下に動かし始める。
「あぁ、ダメだママ…このシチュエーションはどう考えてもダメだ…。止まらなくなっちゃう…。」
カウンターの奥、バックヤードの入り口手前に置かれているデジタル時計を見た。
ちょうど、閉店から1時間を経過するところだった。
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