第2話 水が如し水割り

ママからの思いがけないお誘いに、一度は本気なのではと思ったものの、いや待てよと考え直す。これはもしや試されてるのか?いや、普通、初対面の同性を誘惑したりするか?いや、でも相手はその道のプロだよな?いやでも…。脳内を駆け巡る「いやでも」を数回見送り、(酒の席だし乗っておこうか)と意を決したその時だった。


「おい、お前らぁ!女同士でイチャついてんじゃねーよ!こっちは放置かよ!」


取引先の社長、山中(ヤマナカ)の声が私を現実に引き戻した。


「ヤダ、山中さん、妬いちゃった?ごめんねぇ、私この子気に入っちゃって。」

「別に良いけどよぉ、2人でイチャつくなら俺も混ぜてくれよ、3Pだ3P!」

「ちょっとそれは私にはハードルが高いですね、修行してきますアハハ。」


場を上手く笑いで納められたことに安堵し、

「山中さんの隣、戻って下さい。…話の続きは、後で。」

そう耳元で囁くと、ママは私の耳たぶをキュッと摘んで席を立った。


やはり、彼女の方が一枚上手である。


ママが隣に戻ってきても、山中のベット談義は止まらなかった。幸いにも私を含むテーブルの面子はそういった類の話が好物で、皆のグラスがスイスイと空いていった。


せっせと水割りを作りながらママが言う。

「今更だけど、4人はどういうご関係?」

「めっちゃ今更じゃないですか!」

山中の隣に座っている、鷹取(タカトリ)がすかさずツッコミを入れる。


「こちらの南(ミナミ)さんがお世話になってるA社さんの常務で…。」

私の左隣の南がペコッと頭を下げる。

「南さんは前も来てくださってるわよね?」

鷹取が続ける。

「その隣の石橋(イシバシ)さんは南さんとこの社員さんで…。」

「あっ、今更ですがA社の石橋です。」

ママに名刺を差し出すと、へぇ〜、そうなんだ〜、と言いながらまじまじと観察される。

「で、僕がB社の鷹取です…ってママ僕に興味あります!?石橋さんの名刺に夢中じゃないですか!」


一同、ガハハと笑う。


「鷹取さん、すみません!名刺を出すタイミングが悪かったです!」

「すみませんねぇ、うちの若いのが躾がなってなくて。まぁまぁ飲んで。」

南のフォローが入った。


その後も、山中の下ネタに鷹取と私で声を揃えてツッコむなど笑いが絶えず、仕事が絡んでいる酒席ということもあり、そのまま当たり障りなく過ぎていくかと思われた。

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