成れの果て
つぼみつお
【社会人】スナックママ編1
出会い
第1話 狂った磁石
「貴女を家に連れてって、化粧して、髪もセットして、私のドレス着せて、飛びっきり可愛くしたい。」
テーブル越しに座るその女性(ヒト)は、汗をかいた私のグラスを手に取った。
「えっ、あっ、ありがとうございます?」
途端に、いいなぁだとか、ママの家なんてそうそう行けないぞ、キレイにしてもらえといった野次が飛び交う。
それもそうだ。その渦中にいるのは、辛うじて張りを保ったグレーのパンツスーツに、くたびれたVネックの黒ニット、社会人にあるまじきスッピンを黒ブチ眼鏡で誤魔化した、ボサボサな髪の私だ。
「そんなこと言わないの、この子素質はあるわ。ほら、可愛いもの。」
そう言うと、ママと呼ばれるその女性は立ち上がり、新たに水割りが入ったグラスを私のコースターに納めた。いつの間にか右肩に添えられた彼女の手から舞い上がる香水の匂いに、しばらく「そういうこと」とは無縁だった私は露骨に反応してしまう。平常心を保つべく、(さすがプロだなぁ、男性だけでなく女相手にもドキドキさせるとは。)なんてことを考えながら、吸いかけのタバコの火を揉み消した。
「可愛くした後は、その姿のまま、私のを舐めさせたい。」
唐突に耳元で囁かれた言葉に「へぁっ?」という情けない声が出てしまった。いくら騒がしいとは言えとんでもない聞き間違いだと、右上方のご尊顔を拝む。−–その瞬間、理解した。
この目は、本気だ。
今このテーブルにいる他の男性客には向けられない、奥底から静かに湧き上がる−–例えるなら「青いマグマ」、その視線に思わず黒目が右往左往してしまう。ママと目を合わせられないまま会話を続けた。
「初対面で。」
「初対面で。でもわかるの。」
「ははぁ、わかっちゃいますか。」
女性同士でそういう経験があると、なんとなくオーラで同類がわかる、なんて話を聞いたことがある。かく言う私もわかるし、わかられるタイプだ。それについては私自身オープンにしているので、あとは相手が好みのタイプかどうかである。
「それで、そういうの、嫌い?」
貴女みたいな大人のキレイなお姉様が、タイプです。
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