クソデカこっくりさん

劉度

スペースコクリ

 キツネにつつまれる、って言葉あるだろ。

 ……何、キツネにつままれる? え、そうなの?

 まいったな……どうしようこの話。いや、怪談なんだけどさ。オチが……。

 聞きたい? そう……んじゃあ、話すぞ。


 夏の話だ。北海道に旅行に行って、趣味のバイクでツーリングやってた。

 最近の北海道は夏も暑いんだけど、あの年は過ごしやすかったな。ちょっと暑いけどカラッとしてて、バイクに乗ると丁度いいっていう、絶好のツーリング日和だった。


 事件が起こったのは2日目だ。ツーリングは順調だった。いや、順調すぎた。予定よりもめちゃくちゃ早くホテルに着いちまいそうになった。早めにチェックインしてホテルでだらだらしててもいいんだけど、せっかく北海道に来たんだし、もったいない。

 そういう訳で、ちょっと寄り道することにした。通り道に自然公園があったから、そこでウロウロすることにしたんだ。キツネとかに会えるかなーって思ったんだ。

 しばらく歩いていると、何だかガヤガヤと賑やかになってきた。何やってんだ、と思って見てみると、自然公園を抜けた先に学校があった。で、そこに人が集まってたんだ。

 正門の前には看板が出てて、『夏祭り』って書かれてた。せっかくなんで、ちょっと寄ってみることにした。

 文化祭みたいな感じで、子供が屋台をやってるんだ。あと校庭でビンゴ大会やってたり、ヨーヨーすくいとかもあったな。


 で、しばらく楽しんでたら、体育館で何かあるらしくて、俺もそっちに行ってみた。中に入ると係の人からレーザーポインターを渡された。スイッチを押すと光がビーって出るやつね。

 しばらくするとスピーカーから司会の先生の声が聞こえてきた。


《はじめの言葉》


 本格的だなあ。

 それで壇上に先生が上がってきて、挨拶したんだ。


「これより、第86回クソデカこっくりさんを始めます」


 なんじゃそりゃ、って思ってる間に式が進む。


《校歌斉唱》


 今度はピアノの伴奏で歌い始めた。どんな歌かは……いや、みんな「フンフンフフーン」って感じで歌ってたから、わからないんだこれが。


《答辞》


 卒業式か? って思ったけど、席は分かれてないんだよな別に。


《皆様、こっくりさんおめでとうとざいます。この素晴らしき日々に、新たな若者たちが巣立つことを、心より幸せに思います。華陽山村長、たまも》


 大体そんな感じで、2,3通読み上げられた。他にも電報が来てたとかなんとか言ってたな。で、次に進んだ。


《校長先生のお話》


 卒業式か???

 話は……いや、飽きてスマホいじってたから覚えてねえや。大したことは言ってなかったと思う。気付いたら終わってた。


《それではこれより、クソデカこっくりさんを始めます。皆様、レーザーポインターを前方のスクリーンに向けてください》


 司会がそう言ったから、俺は入る時にもらったレーザーポインターを、いつの間にか降りてきてたスクリーンに向けた。

 スクリーンには、あいうえおの50文字と0から9の数字、その上に『はい』と『いいえ』と鳥居が書いてある、変な表が映し出されていた。


《レーザーポインターを上の鳥居に向けてください》


 司会がそう言うと、レーザーポインターが鳥居に集まった。でも、いくつかのポインターは他の所に当たってた。


《レーザーポインターを上の鳥居に向けてください》


 すると、他のポインターも鳥居に集まってきた。でも1個だけふざけてあいうえお表の辺りをグルグル回してる奴がいた。


《鳥居に向けてください!》


 司会がちょっと強い感じで言うと、やっとポインターが鳥居に集まった。

 1人だけふざけるやつ、いるんだなー、こういうとこでも。


《では皆様、合図をしたら『こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、おいでください』とご唱和をお願いいたします》


 "さん"じゃないんだ……宇宙大将軍までランクアップしてるんだ……。っていうか、宇宙大将軍って何だよ。

 それこそ狐につつまれた……じゃなくて、つままれた顔になったけど、周りの人たちは大真面目に頷いていた。やるのか……。


《では、ご唱和ください。3,2,1》

「「「こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、おいでください」」」


 皆でそう言った。俺も……まあ、周りに合わせて小声で言ってたよ。

 それで何度も言ってたらさ、ポインターがスーっと動き始めたの。ビックリしたよ。俺の腕も勝手に動いてるの。

 ポインターは「はい」の所に止まった。おおーっ、って思ったよ。こんなんでもこっくりさんになるのか、って。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、明日の天気は何ですか》


 今度はポインターが下のあいうえお表に移動して、「は」「れ」と指した。天気予報も晴れだったしな。間違いない。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、隠された上履きはどこにありますか》


 いじめか? と思ったら、「い」「え」と出た。さては上履きを洗ったまま家に忘れてきたな?


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、鎌倉幕府が開かれたのはいつですか》


 誰だよ歴史の問題混ぜたの。

 こっくり宇宙大将軍はしばらく迷った後「1」「1」「8」「5」と出た。最新の学説を取り入れている……!


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、来年の景気を教えてください》


 急にスケールがクソデカになった。

 こっくり宇宙大将軍は、「よ」「く」「な」「い」と答えた。経済にも対応してんのか……。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、買っといた方がいい株の銘柄を教えてください》


 一儲けしようとしてる奴がいるな?

 答えは「く」「す」「り」だった。まだまだコロナ禍は収まらないってことなんだろうな……。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、アンドロメダ銀河連邦の次回大統領の名前を教えてください》


 更にスケールがクソデカになった。大丈夫なのか? こっくりさんに宇宙人の事なんてわかるのか?

 ところが答えはすんなり出た。「あ」「ど」「ま」「い」「や」「ぁ」「そ」「ん」だそうだ。


「すげえ……」

「流石宇宙大将軍だ……」


 宇宙大将軍ってそういう意味だったの……?

 戸惑っていると、次の質問が出た。今度の質問は今までのクソデカスケールから急に縮んで、しかし非常に重大な質問だった。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、みよちゃんの好きな人は誰ですか?》

「ちょっと!?」

「やめろぉっ!」


 何人かが悲鳴を上げた。さては学校のアイドルか?

 皆が固唾を飲んで見守る中、こっくり宇宙大将軍は「さ」「と」「う」と答えた。観客席から悲鳴と嘆き、それに戸惑いが聞こえてきた。


「あああああっ!?」

「佐藤かよォ!?」

「待って、どの佐藤だ!? A組?」

「俺か?」

《静かにしてください!》

「お前高村だろ!? 一文字も合ってねえよ!」

「百合かもしれない」

「いや、『う』じゃなくて『し』の間違いかもしれないだろ!?」

「ちくわ大将軍」

《静かにしてください!》

「んなわけねーだろバーカ!」

「誰だ今の」


 大惨事だよ。ポインターもブレッブレだった。

 まあ、そんな感じで、色んな質問が出てたな。大事件は宇宙大統領とみよちゃんの好きな人ぐらいで、あとは当たり障りのない質問ばっかりだった。


《こっくり宇宙大将軍、こっくり宇宙大将軍、ありがとうございました。お帰りください》


 最後に司会がそう言うと、ポインターが「はい」の所に行って、鳥居に戻って、それで腕から力が抜けた。


《おわりの言葉》


 そこまでやるんだ。


「これにて、第86回クソデカこっくりさんを終わります」


 壇上の先生が礼をした。


 そうしたら、ハッと目が醒めた。

 ……寝てたんだよ。山の麓で。体育館も、学校も、レーザーポインターもなかった。そもそも自然公園すらなかった。

 だけどそれだけじゃなくてな、何かこう、体がもこもこしてた。

 何かと思ったら、キツネが何匹も俺の上に乗っかってた。そう、キツネにつつまれてたんだよ。


「うおお……?」


 感動したかって? いや、正直……。寝起きで何が何だかだし、近くで見ると、獣だっ、って感じだし、あと野生動物だから臭いし……。

 キツネたちは俺が起きると、ババッて散らばって逃げていった。

 何だったんだろう、って首を傾げてたら、後ろから声をかけられた。


「ありゃ、ありゃありゃお兄さん。どうしたんだいこんなところで? キツネの毛まみれだよ?」


 振り返ると、山菜採りのおばあさんがいた。


「いや……自然公園の先の学校にいたはずなんですけど……」

「公園? 学校? そんなもんここにはないよ。キツネにでも化かされてたのかい? 病院行った方がいいよ」


 その一言で、ようやく何が起きたかわかったよ。


 俺はキツネにつつまれてたんだ。

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クソデカこっくりさん 劉度 @ryudo

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