第4話 「花葬壺」少女ノ能力
ギェァァァァァァ!
けたたましい烏の鳴き声が聞こえたかと思うと突風の様なものが店内へ吹き込んできたと同時にゾクリと悪寒が再び全身を駆け抜けていった。
今のはこいつか?
そう考えている俺に少女の警告が飛ぶ。
「白井さん!手を離して!」
そう言われて老主人に向き直った途端に硬直した。咄嗟に掴んでいた胸ぐらを離すことはできたがその場にへたり込んでしまう。
だらりと両腕を下げた老主人の口からは、
烏が生えていた。
白目を剝き涙を流す眼窩の下から生えた烏は血と涎に塗れその羽毛をヌラヌラと照りつかせている。
その口から生えた烏が先程の烏と同様にけたたましい鳴き声を響かせ始める。
鳴き声に呼応するかの様に店内のあちこちから黒いモヤのようなモノが湧き出し周囲に漂い始める。
「ここはボクに任せて逃げて!」
少女が俺の腕を掴み、立ち上がらせると店の外へと突き飛ばした。黒いモヤが少女を包みこむ。
「あぶないっ!」
慌てて店内に戻ろうとするが少女は手をこちらに向けてそれを制した。
「ると君!彼を守護して!」
モヤを切り裂き現れた白い犬が俺の背後にいた烏に噛みつこうとする。
烏は寸前でひらりと空に舞い上がり店の屋根の上に一度降り立つと、何処かへ飛んでいってしまった。
店内に視線を戻す、モヤは一層濃くなっており、蠢くモヤが所々で苦悶の表情を浮かべる顔の様になっては消えている。
そんな異様な状況の中で少女は立っていた。
何やら胸の前で印の様なものを組み目を瞑る。
「現世に迷えし魂よ、ボクが浄化してあげる!」
そう高らかに叫び、目を見開いた。
その瞬間、彼女から確かにまばゆい光が溢れ出すのを見た。光はモヤを貫き輝きを増す。
視界が白く染まり目を開けていられなくなる。
光が収まり俺が目を開けると、黒いモヤは無くなっていた。
恐る恐る店内に戻る。
入口の所で足元を見ると盛り塩は黒い泥の様に溶けていた。
老主人は倒れて床に転がっている、その口に烏の姿はもう無い。ピクリとも動かないが生きてはいるみたいで気絶しているだけの様だ。
「なんだったんだ、、、」
そこまで確認したところで膝から力が抜けヘナヘナと座り込んでしまった。
「大丈夫?」
少女が駆け寄ってきて手を差し伸べてくれる。
「あ、ああ、、、何がどうなってるんだ?」
あたりに嫌な雰囲気は無くなっているが先程の地獄に落とされたような絶望感を思い出すとまた背筋に悪寒が走る。
「わからない。店内にいくつか悪い気を持ったモノがあったんだけど、その悪い気が一気に膨張したみたいだった。」
少女によると確かに悪い曰くのあるモノや呪いの品の様なモノはある。だが周囲や持ち主に被害を与える様な強力なモノは殆ど無い。また特定の条件が揃わなければ発動しないモノも多く、適切に管理されていれば基本的に無害なモノがほとんどらしい。
店内にもいくつかそういったモノがあることは認識していたが有害だと判断できそうなものはほとんど無かったのでスルーしていた。
しかし、あの烏の鳴き声に反応する様に悪い気が膨れ上がり害意を撒き散らしていた、との事だった。
「それでボクの力でなんとか浄化したんだけど、あの烏の正体とかまではわからなかったよ。」
さらっと言ったがあんなのを浄化出来るってすごいんじゃないか、、、?
そんなことを思うがツッコむ気力はすでに無かった。
その後は救急車を呼び老主人を搬送してもらい、俺たちは蓋と台座を持って店を去った。
勝手に持っていっていいのかと一瞬考えたが元はセットだったのだし問題無いと判断した。
老主人は俺たちが店を訪れた時には倒れていたことにして誤魔化したが、色々やっているウチにあたりはとっぷりと暗くなってしまっていた。
今日はとりあえず解散となり少女を【雪の雫】へ送り、俺も帰路へついた。
少女は蓋と台座を調べてちゃんとした封印や浄化の方法を探ってみるらしい。そして可能であれば明日にでも封印を施しに、難しくても今より強力な封印を施して壺は回収しにウチを訪れる事を約束してくれた。
そしてあの店に壺を持ち込んだ人物と謎の烏についてだが、これに関しては少し揉めた。
まずあの烏だが、少女によるとおそらく壺を持ち込んだ人物による口止めの目的で送り込まれた使い魔の様な存在ではないかと言うことだった。タイミングが狙ったものなのかまでは断言出来ないがこれ以上探ると俺も狙われる可能性があるので壺を持ち込んだ人物について探るのは自分の方でやるから俺はこれ以上は首を突っ込むなと言われてしまった。
俺はもちろんそいつも見つけ出して落とし前をつけさせたかったのだが。
「そこまでは依頼の範ちゅうじゃない、もしも狙われた場合に守り切れるかわからない。」
と言われて引き下がるしかなかった。
たしかに俺にはあんなモノから自分を守る力は無い。そんな無力さを感じながら自宅に帰ってきた。
玄関に入って壺を見る。「止め石」で一時的に封印された壺はなんともない唯の壺に見える。だがいつまたぼんやりと光出して腕を伸ばしてくるかと思うと身震いする。脳内に数日前に見た花を枯らす数多の腕が生えた壺の光景が恐怖と共に蘇る。
やはり早く無くなってしまえばいいと思う。
何にせよ今夜を乗り切ればいつもの日常に戻れるのだ。
ふと、思い出した壺の光景の中に違和感の様なモノを感じた。
何かおかしい気がする。
しかし、その時は違和感の正体はわからなかった為にスルーする事にした。色々な事がありすぎて疲れて果ててしまい今日はもう壺の事は考えたくない。
祖母には現状を軽く説明して俺は眠りについた。
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます