第3話 「花葬壺」壺ヲ売ル店
「さて、なんか有力な情報が掴めればいいけど、、、」
俺達は再び車に乗り込み祖母が壺を買った骨董屋へ向かっていた。
あの後、祖母から話を聞いたのだが特に有力な情報は得られなかった。
そこで購入元に直接話を聞きに行く事にしたのだ。
「こればっかりは行ってみないとわからないね。でもお祖母さんも元気そうで良かったよ。」
そう。昨夜から祖母は体調を崩して寝込んでいたのだ、こちらも原因は壺から伸びていた手の影響だった。俺の隣に座っている少女の活躍により祖母も体調が回復に向かっている様であった。
「それについては本当に感謝している。ありがとうな。でも壺を置いて来て良かったのか?あの腕を切ったんだから骨董屋に返品しちまえばいいんじゃないのか?」
俺は思ったことを口にしたが少女は首を横に振る。
「あれは一時的に影響を断ち切っただけなんだ。一度憑いた因縁は簡単に消えないから、封印が解けてしまえばまた悪い影響を受けちゃうんだよ。だから壺の因果を調べて対処しないといけないんだ。」
なるほど、簡単には行かないらしい。
「しかもあの壺は相当危険なモノだよ。水が湧き出すみたいにどんどん悪意が溜まっていってる、原因をなんとかしなきゃ、、、」
そう言う少女の額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
「その原因がここでわかればいいな。」
そう言って俺は車を停めた。
その骨董屋は市内の山の麓にあり、大きな河沿いにポツンと建っていた。周囲に民家は無く河と田んぼに挟まれ、屋根の上には烏が数羽留まっている。入口の横に置かれた壺は傘立て代わりなのか数本の傘が無造作に入れられていた。
店の入口にキレイな盛り塩が置かれているのを見つけ、律儀に毎日手入れしているんだなと感心しながら店内に入る。
今は俺達の他に客は居ないようで、河の水音だけが響いている。
店内は薄暗く、時が止まったかのような雰囲気を醸し出している。掛け軸、着物、櫛、茶器、皿、人形そして壺、様々な物が所狭しと並べられている。
「いらっしゃい。好きに見てっておくれ。」
白髪を後ろで結ったいかにもクセ者っぽい老主人が店の奥から声をかけてくる。てっきり少女が話をすると思っていたが少女はまだ店の入口で傘入れの壺をしゃがみ込んで見ていた。
仕方が無いので俺が話を切り出した。
「数日前にここで売られた大きな壺について聞きたいことがあるのですが、少しお話よろしいでしょうか?」
俺の問いかけに老主人の目元が細くなる。
「話す事は何も無い。」
短くハッキリと答えてきた。
「わかってます。でも今はそんなこと言っている場合ではないんです。俺は壺を買った者の家族です。信じられないかもしれませんがあの壺は呪われている、なんとかしなきゃいけないんです!」
断られる事は予想していたが引き下がる訳にはいかない。俺は深々と頭を下げる。
「なんでもいいんです!あの壺について、何か知ってるなら教えて下さい!」
しかし老主人の反応は変わらない。
「教えてやれる事は何も無い。帰れ。」
まるで取り付く島もない。
老主人はシッシッと手を払いながら店の奥へ戻ろうと踵を返そうとしている。
「おじさん、知ってて売ったでしょ?」
いつの間にか俺の後ろに立っていた少女が言い放った一言に老主人がピクリとして動きを止めた。
「やっぱり知ってたんだ、、、壺に薄っすらついてる模様、あれは注連縄と御幣を表したものだよ。つまり元々良くないモノを封印する目的で作られたものだったんだよ。」
少女は続ける、その瞳がまたぼんやりと翡翠色に光って見えた。
「そして、外に置いてある傘立ての壺、台座と壺のサイズが合ってないよ。壺の外側に別の大きさの壺の跡が残ってた、まるで最近まで他の壺が乗っていたみたいに。あそこに例の壺が置いてあったんじゃない?」
老主人は無表情のまま黙っている。
「あの台座には強力な封印の処置がしてあった。こーゆー商売だから曰く付きの商品を扱うことも少なくない、そういったモノへの対策のひとつかと思ったけど、あれは素人が作れるようなレベルのモノじゃない。」
老主人はこちらを向きジロリと睨みつけてきた。
「証拠はあるのか?」
威圧感を込められた言葉にも少女は怯まなかった。
「じゃあ白井さんのとこから壺を持ってこようか?台座に乗せればピッタリ合うだろうね。台座には壺と同じ注連縄と御幣をあしらった模様が付いていたよ。サイズもデザインもバッチリだろうね、、、」
そこまで言って少女は入口の所まで歩いていく。
「根拠はまだあるよ。この盛り塩、そして店の外にある小さな鳥居。」
「それは単に魔除けにしているだけだ。」
老主人の顔に動揺が浮かぶ。
「そう、盛り塩は本来魔除けの結界だ。でもね、ここは骨董屋なんだ。」
俺は意味が解らない顔をしているのに気づいたのか少女がこちらを向いて
「多かれ少なかれモノには念が宿る、結界なんか張ってしまえば店の内部に溜まった念が出れなくなってしまう。だから外にある鳥居で河への霊道を作って念を流すようにしてあるんだ。なのにあの盛り塩で今ここ蓋がされているような状態なんだ。」
俺はまだ良くわからない。
「つまり霊道を塞いでまで店に入れたくないものがあったんだよ。例えば呪われた壺とかね。」
そう言って少女は台座の裏から何かを取り出す。
その手には何やら丸い板の様なものがあった。
それを見た老主人の表情が変わる。
威圧感は無くなり明らかな焦りが見えた。
「これには台座と同じ模様が描かれている、つまり、あの壺の蓋だよね。」
少女の顔が険しくなる。
「壺とあの台座と蓋は壺とセットで、つまり封印された状態で持ち込まれたんだ。でも売られたのは壺だけだった。どうしてかな?」
老主人は俯いたまま答えない。
「そしてどうして壺が売れたのに台座と蓋を店の外に保管してあったのかな?不自然なくらいにキレイな盛り塩の結界の外側に?」
「答えはこうだ。アナタは知っていたんだ、壺が良くないモノを封印してあることに、そして壺だけを売ったことで呪いが撒き散らされることも。そして恐れていた、呪いによって不幸がおきれば壺がこの店に戻ってくる事を。この街には骨董屋はここしか無いからね。だから蓋と台座を残していた。戻ってきたら再び売れるまで封印出来るように。でも蓋も台座も壺とセットであったものだったから店の中には入れたくなかった。だから店に結界を張ってその外側に置いた。」
「ちょっとまってくれ!」
俺は思わず口を挟んでしまった。
少女の言う事が正しいならそれはつまり、、、
俺の言いたい事を察したのか少女は頷く。
「そう、あの壺は呪いを振りまく為にこの店に悪意ある誰かの手によって持ち込まれたんだよ。そしてこの人は壺が良くないモノと知っていて協力させられていた。」
そこまで聞いた瞬間、俺は老主人の胸ぐらを掴んでいた。こいつのせいで家族が危険に晒されたのだ。
「まって!」
殴ろうとした所を少女が制する。
「恐らくだけどそのおじさんも無理矢理協力させられたんだと思うよ。」
少女にまっすぐ見つめられ、俺は拳を下げた。
「すまなかった、、、」
老主人がポツリと呟く。
俺はやりきれない気持ちを掴んだままの胸ぐらに込める。殴る気はもう無いが許せる気持ちにも当然なれなかった。
「じゃあ教えろよ!」
その壺をもってきやがったヤツのことを。
そう言いかけて、言葉が止まった。
背後から強烈な視線、そしておぞましい程の悪寒が走り抜ける。
視線の方、店の入口を見ると一羽の烏が佇んでいた。
続く。
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