第2話 「花葬壺」腕ヲ伸バス壺
自宅へ向かう車中で俺は、疑問に思ったことを聞いてみた。
「そういえば、さっきチームって言ってたけど他のメンバーはこないのか?」
そう聞いた俺に少女は
「じゃあメンバー紹介するね」
と答える。
「まずはボク、祓い屋梅吉の弟子にして孫の雪花小華芽。オカメ君って呼んでね。」
わざとらしいウインクをしてくるのをとりあえずスルーするが、少女はかまわずVサインを作っている。
「二人目は店長の一色音さん、主に情報収集とか経理なんかをやってくれてるんだ。」
店の経営をしながらそんなことまでやってるのかと関心する。
少女は続けてVサインを三本指に変えながら話す。
「三人目はボクの兄弟子の夜波八葉(やなみはちよう)さん、武道の達人でもあってその辺の悪霊なら素手でボコボコにしちゃうくらい強いんだ。」
俺は素直に感想を述べる。
「え?その人来ないの?そっちに頼みたかった。」
すると頬を膨らませながら反論してくる。
「ボクだって大丈夫ですー!こう見えてスゴウデなんですー!」
そしてちょっと困った顔になり、
「それに八葉さんは今居ないんだ。天狗とタイマンしてくるーとか言ってどっかの山に行っちゃったからさ。」
どこまで本気かわからないが、なるほど変な人らしい。
そんな俺の不安を察したのか少女はフォローを入れてくる。
「退魔師としては一流なんだよ?ちょっと武闘派なだけで。」
武闘派な退魔師へのツッコミを我慢しつつ別の質問をしてみる。
「店長さんも霊が見えたりするのか?」
その質問に少女はケラケラと笑いながら答えた。
「音さんは霊感はまったく無いよ。除霊方法はびっくりする程ユートピアしか知らないって言ってたよ。」
吹き出してしまった。
まさかあの和服美人からそんなワードが飛び出すなんて。
気持ちを落ち着かせながら話を続ける。
「しかし実質アンタしか今除霊できる奴は居ないんだろ?大丈夫なのか?」
チラッと横目で見る。
少女は不敵に微笑んでいた。
「大丈夫だよ。それに、、、」
一度目を瞑りゆっくりと開いていく。
「一人じゃないからね。」
そう呟いた少女の瞳は、
翡翠色にうっすら光って見えた。
言葉の意味を聞きたかったがそのタイミングで
自宅に着いてしまったのでとりあえず車から降りることにした。
自宅の玄関の前まで来た所で少女が立ち止まる。
そこに先程までの笑顔は無く、引きつったような表情をしていた。
「これは、、、中々危ないねぇ」
玄関を開けて中へ入る。
件の壺は玄関前の廊下に置いたままになっているので目の前にある。
「白井さん!家族は何人いる!?」
唐突に少女が叫ぶ、その迫力に圧倒されながら
「5人だ、俺、ばーちゃん、父さん、母さん、妹で5人。」
すると少女は壺を睨みつけながら何やら呟く。
「やっぱりか。祓へ給え、清め給え、ると君お願いっ!」
するとどこからか突然風が吹き込みそれに乗るようにして白い霧のような物が壺を囲むようにぐるぐると回り始めた。霧は竜巻の様にしばらく壺の周りを取り囲むと今度は少女の足元に集まり出した。
風の勢いに思わず目を瞑る。
風が収まり目を開くと少女の足元にはいつの間にか白い犬が立っていた。こちらには目も向けず静かに壺の方を睨みつけている。
「いやー予想以上に危なそうでビックリしちゃったよ。ちょっと待っててね。」
そう言って少女は持参したリュックから何か玉の様な物を出し壺の周りに置き始めた。
良く見ると丸い石だった。
何やら黒い紐のような物が結びつけられている。
それを壺を囲む様に4つ置いたところで少女は
ふぅーっとひと息つくとこちらに向き直った。
「とりあえず応急処置はしたよ。腰の調子良くなってない?」
俺は少女の言葉にギクリとした。
「言ってなかったのになんでわかった?ってか何をしたんだ?その犬は?」
疑問しか出てこない。頭の理解が追いつかずパニックになりそうになる。
「えっとね。壺から手が5本伸びてたんだ。」
少女が言うには壺から何か白いものが5本伸びていた。そのうち一本が俺の腰のあたりを掴んでいたらしい。恐らく他の4本も他にの家族の元にいって悪い影響を与えてるんじゃないかと思い家族の人数を確認したとのこと。
「それで、ると君に腕を噛みちぎってもらって、簡易の結界で一時的に封印したんだ。」
さっきの丸い石は「止め石」といい、結界の役割を果たす物らしい。
実際に腰はここ数日ずっと痛かったが今は幾分マシになっている。
「それで、突然現れたその犬?は、なんなんだ?」
一番の疑問を投げかける。もちろん俺は犬を車に乗せた覚えは無いし、店でも犬の姿を見た覚えは無かった。
「この子はボクの相棒の、ると君だよ。とっても強いんだ。」
少女は笑顔で答えるが、俺は一歩下り身構える。
「アンタ、犬神使いなのか?」
ネットやマンガの知識くらいしか無いが犬神使いにあまりいいイメージが無い。
しかし少女は怒った顔をして反論した。
「違うよ!ると君は犬神じゃなくて神の眷属!由緒正しき山住神社の眷属なんだからね。」
山住神社と言うのは静岡県にある神社で狐祓いで有名な犬の神様を祀る神社らしい。
「元々はじーちゃんが使役してたんだけど、死んじゃってからボクの相棒になってくれたんだ。じーちゃんの霊力と融合してるから少しなら話すことも出来るし、見ての通り実体化も出来るんだよ。」
にわかには信じられない話だが、実際に目の前にいる以上信じない理由もない。
ここにきてようやく俺は、
「なんとかなるんじゃないか」
と思いはじめていた。
続く。
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