【28曲目】ハートのエースが出てこない
<intro>
平成11年10月9日土曜日
「ひまだねえ、今日。お店大丈夫?」
野間はコーストのカウンターに頬杖をついて、煙草を
「まあ浅い時間はこんなもんだよ」
「だって週末だよ? 客が俺一人だけってある?」
「あるよ。あのな、こういう店はみんな、仕事帰りとか2軒目以降に使うんだよ。お前みたいに休日に1軒目から来る方が珍しいんだよ」
「へえ、そういうもんなんだ・・・迷惑?」
「いや、退屈しなくていい」
「でしょ?」
野間はショットグラスのウイスキーをクイっと飲み干すと、空いたグラスを突きつけ森部におかわりを要求した。森部はジェームソンのキャップを開けて、突きつけられたグラスに注ぎながら野間に尋ねた。
「時親さんはさ、彼女とか作んないの?」
「作んないんじゃなくて、出来ないの」
「好きな人は?」
「今はいない。出会いを求めて毎夜毎夜この店に来るが、今日も今日とて一人ぼっち」
「もっと遅い深夜の時間帯に来なよ。そしたらキャバ嬢の
「それはもはや深夜ではなく早朝だろ? だいたい、彼女らが俺にホレるわけないだろうよ。なにより、せっかく仕事終わりで飲みに来たのに俺の相手させたら悪いだろ」
「時親さんは優しいよね、そういうところ。この優しさが女どもにはわからないのかね?」
「まあ、背が高いわけでもないし顔がカッコいいわけでもないから、引きが弱いんだろうね・・・第一印象の」
「出た、諦めという名の自己分析。時親さん、そういう卑屈なの止めたほうがいいよ。そういうネガティブ感って女子嫌うから」
「勉強になります」
「時親さんは頭イイんだから、もっと女心をさ・・・」
「女心を?」
「うーん、いや、俺なんかよりもたくさん女の本音知ってるよね・・・お前?」
「そうなんだよねえ。数も質も相当聴いては来たんだけど・・・まあ、その経験は彼女が出来てから活きるんだと思うよ」
「なるほど、じゃあ早く彼女作らないと」
「だから作らないんじゃなくて、出来ないんだよ」
「あっ、ふりだしに戻った」
会話がループしかけたことに気づいて二人がカウンターを叩きながら大笑いしていると、店の扉が音をたててゆっくり開いた。森部が姿勢を正し接客モードに切り替えると、野間は2本目の煙草に火をつける。開いた扉から店内をのぞきこむように恐る恐る上半身だけ入店させる女性と目が合うと、森部は本日2人目のお客様に声をかけて店内に迎え入れる。
「いらっしゃいませ。何名様?」
声をかけられて多少は安堵した様子の若い女性は、相変わらず上半身だけ入店させたまま森部の問いに答えた。
「1人だけですけど、いいですか?」
「もちろん。カウンターとテーブルあるけど?」
その質問を聞いてやっと全身を入店させると森部に聞き返す。
「あのー、このお店に占い師さんがいるって聞いたんですけど、店長さんがやるんですか?」
森部は野間をチラッと見てから質問に答えた。
「俺はやんないよ。でも、お客さんラッキー。ちょうど今日いるんすよ、ここに」
森部がお客さんに向けて野間を指さすと、野間はやれやれといった表情で椅子をくるっと反転させる。
(ほら、女心の勉強のお時間だよ)
(はいはい、いつかできる彼女のために頑張りましょうかね)
「いらっしゃいませお嬢さん。タロット占いですけど、よろしいですか?」
<side-A>
図書室の入り口はギルドマスターの執務室内にあり、マリカ以外の者が立ち入りできないように鍵がかかっていた。
結局またここに戻ってきたな。
「なんでこんなに厳重なの?」
「そりゃ、あたしのコレクションルームだからね」
「つまりここにある資料はマリカの私物ってこと?」
「そうよ」
マリカはあっけらかんと言い放つ。
特別室といい図書室といい、もはやギルドを私物化しとるな。
鍵を開けマリカが先に図書室に入ると、中からガタンとなにかが崩れる音がしたのでノーマンは慌てて入室した。
「大丈夫か?って、なんじゃこりゃあ」
本がきちんとジャンル分けされた学校の図書室を想像していたノーマンの目の前には、縦積みされた本がまるで廃墟ビル群のように立ち並び、ゴーストタウンのような景色が広がっている。
こんな古本屋が近所にあったよ・・・。
ノーマンが呆れるのをよそに、マリカは崩れた本をこりもせず縦積みしながら尋ねた。
「それで、何を調べたいんだっけ?」
「えっと、まずは
マリカは一瞬きょとんとしたが、ノーマンの表情を見てある事に気づく。
「ノーマン。あんた、自分の
へっ?なんでわかるの?
「うん。どして?」
マリカはやれやれという表情を浮かべながら溜息をつくと、両手を腰に添えて馬鹿にするように言った。
「あのね、
「えっと・・・なんか自分の能力を知ってしまうと、それに甘えて緊張感がなくなりそうで・・・」
「ああ、そうだそうだ。
「いやそういうわけでは・・・」
さすがに
するとマリカはノーマンを指さし、強めの口調で命令した。
「まあいいわ。明日までに一人で
「ん?」
「多分、あんたが
「あったら?」
「そん時は言いなよ。知ってることなら教えるし、知らないことなら調べるのを手伝ってやるよ」
こいつは天然のツンデレだな。厳しいのか優しいのか・・・。
「了解しました」
そう言って敬礼したノーマンを見て、マリカは言い方がきつかったかもと反省した。
「じゃあ、
「そしたら、
「
「でも、
「ええ、もちろん。でも、
そりゃまあ、一般的な職業と
「マリカ先生、質問があります」
元気よく右手をあげる。
「なによ?」
「あのね、
「
「そうそう、それそれ」
「
「でも、童話には登場するんでしょ?」
「ええ、いくつかの物語で描かれているわ。それがどうしたの?」
「これはマジで内緒でお願いしたいんだけど・・・」
「だから、なによ?」
「実はカトリヤ村に滞在中の僕の弟子が、
「えっ、
マリカは少しだけ驚きの表情を浮かべたが、この事実もわりと冷静に受け止めた。
「うん、いる」
マリカが何かを思い出そうと少し考え込むと、ニヤリと笑いながらノーマンも考え事をはじめる。そして、その場がしばらく沈黙状態に陥いると、マリカがパチンと手を叩き先に沈黙を破る。
「あたしが資料や文献で見たことのある
マリカは知りうる限りの
「あのさ、童話には登場する
このノーマンの仮説にマリカは不意を突かれた。
そっか、あたしなんで・・・いや、これまでいた多くの研究者たちもこの発想がなかったんだろ? たしかにその可能性は高い。
「ノーマン。あんた凄いよ」
「そう?」
「ええ、なんでそんな事に思いつかなかったんだろ・・・」
そんなの決まってるだろ。
「そりゃ、
今のところ、童話と
「まあ、そっか。そうよね」
「とにかくだ、冒険者の
そして、マリカは少し考えてからノーマンに提案した。
「ねえ、ノーマン。この件は一旦あたしに預けてもらえない?」
「ん?どうゆうこと」
「この図書室には古い童話や民話が書かれた資料や文献が結構あるんだけど、多分あんたじゃ見つけられないと思うの」
「そういうのジャンル分けとかしてないの?」
「ない。というか、あたしの頭の中では整理ついてる」
そう言って自分の頭を指でツンツンする。
ああ、そういうタイプの人ね。はたから見たら散らかってても、本人はちゃんとどこに何があるかわかってるやつだ。わかるわかる。俺もそうだった。
「だから、心当たりを片っ端から調べてまとめてみるわ」
「んー、じゃあお任せしても?」
「ええ、これから早速とりかかるわ。夜にバルドの店で会いましょう」
えっ、今夜も来るの? こいつ、
「う、うん。僕の住処だから、そりゃまあ来たら会うことにはなるけど・・・」
「これとは別件で、あんたにはちょっと相談があったし、ちょうど良かったわ」
「相談?」
「うん、まあそれは夜に改めて。さあさあ、二日酔いも治ったし、面白くなってきた」
知的好奇心の強いマリカがテンションを上げて早速作業にはいると、やることのないノーマンはその場に居場所を失ってしまった。
「じゃあ・・・僕、帰るね。あと、よろしく」
「後でねえ」
ノーマンは図書室を後ろ歩きで退室しようとしたが、どうしても気になる事があって立ち止まる。
「ねえ、マリカ」
マリカは作業を止めずに背を向けたまま応答する。
「なに?」
「ちなみに
「うん」
「童話の中じゃ、どういう風に描かれてるの?」
「うーん、色んな童話に出てくるんだけどお」
「うん」
「それぞれ描かれ方は違うんだけどね」
「うん」
「なんとなく、あたしの中で共通して感じるのは」
「うん」
「『人間と
「・・・なるほどね。ありがと。じゃあ童話探しがんばってね」
「はあい」
静かに退室してドアを閉めると、執務室から職人ギルドを出るまでの道中、ノーマンの胸はざわついていた。
『人間と
ん、待てよ。そもそも、この世界における勇者の定義と、俺の思い込んでる勇者像ってものに、微妙な違いがあるのかもしれないな。
たとえば、この世界において勇者が・・・そう、『魔王を狩る者』としての役割りなのだとしたら、魔王を狩ったあとに世界が平和になろうとどうなろうと、
そんなこと考えても仕方あるまい。いかんいかん、こちらの世界に来て2週間ほどだが、すっかりこちらの事情に興味津々ではないか。
とにかく、俺は自分が死なないために出来ることをするんだ。余計な事に首を突っ込むな。生きて元の世界に帰還して、嫁と娘と平和に暮らすんだ。それが最優先だ。
ノーマンは大きな深呼吸を1回だけして気持ちを落ち着けると、煙草を取り出し火をつけた。
とりあえず、
吸っている煙草に目が留まる。
そうだ、定住先も決まったわけだし、そろそろ、煙草作りでもはじめるかな。
職人ギルドの敷地から出たノーマンは、振り返り職人ギルドを見つめながら少し考えた。
マリカの相談ってなんだろう? 面倒くさい話じゃないといいな。っていうか、さっきマリカがなんかとてつもなく重要なことを言っていたような・・・。
大きく煙を吐き出す。
「まいっか、夜に会ったら思い出すだろう・・・しかし、お前全然気づかれないね? なんか
ノーマンが左腕に巻き付けたコーザに話しかけると、コーザは顔だけ動かしてノーマンに答えた。
「コー(つかってます)」
「へえ、なんて
「コー(『
「いつ覚えたの?」
「コー(きのうです)」
なるほど、レオのやつ地味に習熟度あげて★増やしてんな。
「人間と
<side-B>
タバコの葉をまず乾燥させる場所が欲しいな。乾燥させたあとに蒸らしてから、葉肉と葉脈を分ける屋内の作業場も必要だ。
そのあとで貯蔵・熟成する湿度管理できる倉庫も
仕上げに紙に巻く工程とフィルターについては、最悪省略しても構わない。とにかく、吸えるところまで持っていくには、まず場所作りからはじめなくてはならないな。
「マレディ山かリオウ山脈の
「いやダメだ。リオウ山脈のはレオに譲ったし、どちらもまめに手入れするには遠すぎる」
「フィリトンの外の農家さんたちに協力を仰ぐか?」
「それもダメだ。これは俺だけが吸う用の煙草だから、外部の者に知られて欲しがられても困るし」
「広くて、秘匿性が高く、ここから近い場所か・・・やっぱり、マリカに頼んで職人ギルドの倉庫の一角に、マリカの特別室みたいなやつ作ってもらうかな」
ノーマンは自室のベッドに横たわりながら、肉を貪るコーザに話しかける
「そういえば、
「でもなあ、すぐに終わる作業だとは到底思えないし、宿題の途中でマリカが来たら中断になるし・・・」
「後ろに約束がある状態で、時間の読めない作業するの、嫌なんだよなあ」
―1階・店舗―
「ねえ、バルド。ノーマンさんは誰と話してるのかしら?」
「独り言じゃないかな? ノーマンさん以外の人の気配もしないし」
時折り聞こえてくるノーマンの大きな独り言は、開店準備中のエリーザを少し不安にさせたが、バルドはそれほど気にはしていなかった。
「独り言ってあんなに普通に大きな声でしゃべるものなの?」
夫のバルドが普段おとなしいせいなのか、エリーザは気になって仕方ない。それに気づいたバルドはもっともらしい理由で、エリーザを不安を取り除こうと試みる。
「ははは、それは人それぞれだよ。多分、昼から飲んで楽しい気分なのか、歌の練習でもしているんじゃないかな?」
すると、エリーザは納得したようにニコリと笑った。
「そうね。あのね、ほらノーマンさんって、奥様と娘さんと離れて暮らしているでしょ? それで寂しさのあまりに精神的に大丈夫かな?なんて気にかけるようにしているの。でも、お酒にしろお歌にしろ、楽しんでくれているなら良かったわ」
バルドはエリーザの優しさに惚れ直したが、表情には出さずに黙って開店準備を続ける。
―2階・ノーマン寝室―
エリーザは優しいねえ・・・っていうか、人の話題でイチャイチャしてんじゃねえよ・・・40過ぎのオッサンがラブラブかよ。
盗み聞きをしたわけではないが2人の会話を
「おい、コー四郎。僕は寝るから、マリカが来たら起こしてくれ・・・噛みつくのは無しだぞ」
独り言で心配されないように最小音量でコーザに命令すると、コーザもそれに付き合って小さな声で返答した。
「コー(りょうかいです)コー(おやすみなさい)」
ドンドンドン
「ねえ、ノーマン。いるんでしょ?」
ん、うるさいな。人が気持ちよく寝てるというのに・・・ん? コー四郎くん?
ノーマンはベッドに横たわったまま、寝ぼけ
人が来たから隠れてんのか。俺を起こすよりも、そっちを優先したんだ。まあ、正解かもな。
ドンドンドン
「ノーマン。入るわよ」
マリカがドアを叩く音が強くなってきたのを感じ、少し怖くなってノーマンはベッドから起き上がった。
「入らなくていい。すぐに行くから、下で待っててくれ」
「もう。いるなら、すぐに返事くらいしなさいよ。まったく・・・」
マリカがブチブチ言いながら階段を下りると、少し遅れてノーマンも1階の酒場に姿を現す。
「いらっしゃい、ノーマンさん」
エリーザはお客様扱いでノーマンを迎えたが、カウンター席にマリカの姿はなかった。
「あれ? マリカは?」
「マリカちゃんなら、あそこよ」
エリーザの指さす方に顔を向けると、カウンターから一番遠いテーブル席でマリカが手を振っている。
なんで、わざわざ? ああ、バルドとエリーザに内緒の話があるのか・・・多分、バルドには筒抜けだろうけど。
「おっす、昼間はいろいろ御指南いただきありがとな。で、例の件はまとまったかい?」
「それがね、いろんな童話を改めて読み返してみると、
「ほう。でも、
「うん、それが・・・」
なんか、奥歯に物が挟まったような様子だな。
「それが?」
「あのね・・・もう少し時間もらっていい?」
「何か気になることでも?」
「・・・量が多すぎる」
「は?」
「調べてみたら、
ってことは、途中経過の報告に来たのか? いや、ははーん。こいつの本命は相談の方で、
「うん、わかった。そしたら、その話はまた明日にでも改めてギルドに行くよ」
俺の方も要望を伝えなくてはならんからな。
「じゃあ、こっからは、相談ってやつを伺おうかな」
相談について切り出しにくかったのか、マリカの顔から笑みがこぼれた。
「いいの?」
「いいよ」
「バルドやエリーザには聞かれたくない話なんだろ?」
「あんたって、鋭いよね」
「で、なんだよ?」
「あのね・・・」
「うん」
「うんと・・・」
なんだよ、こっちの話も奥歯に物が挟まってんのかよ。
ノーマンの困った雰囲気を察したのか、マリカが意を決して切り出す。
「ノーマンって妻子持ちじゃない? どうしたら、結婚できるの?」
「はあ? そんなの、オッサンの僕じゃなくて歳の近いエリーザにでも聞けばよかろうに」
「いやよ」
「なんで?」
「恥ずかしいじゃない」
恥ずかしい? 男に振られて荒れてたのは恥ずかしくなかったのか?
「あたしはさ、こう見えてギルドマスターなわけよ。それが、なんか、婚期を焦ってるみたいに思われたくないわけ」
うん。お前に近しい奴らはみんな知ってるけどな・・・まあ、改めて相談するとなると、恥ずかしいってのも一理あるか。
「僕はいいのか?」
「あんたは、悪い意味じゃなく
「あはは、そかそか・・・結婚ねえ」
そうは言われても、俺自身かなりの晩婚だし、できちゃった結婚だったからなあ。こういう時はアレだな。
「なあ、マリカ。占ってやろうか?」
「え? そんなの出来るの?」
「ああ。クロノス先生って言ったら、地元じゃ結構評判よかったんだぞ」
「へえ。あんた、いろいろ出来るのね」
「よく言われる」
ノーマンは
「そのカードで占うの?」
「ああ、タロット占いっていうんだ。マリカ、差し支えなければお前のフルネームと生年月日を教えてくれ」
ノーマンは卓上に伏せた22枚の大アルカナを時計回りにシャッフルしはじめた。
「えっ、ああ。マリカ・コベイア、大陸歴1991年10月21日・・・よ」
「サンキュー」
ちょっとは演出を足してみるか。
「
マリカが真剣な表情でゴクッと音を立てて
上から6枚を伏せたまま端に置いて、7枚目をめくって右下に置く。
次から6枚をまた伏せたまま端の山に置くと、7枚目をめくって左下に置く。
さらに次から6枚をまた伏せたまま山に置き、7枚目をめくり真ん中の上に置き3枚の
そして、最後に残った1枚をめくり三角形の左上に置くと、ノーマンは丁寧にそえぞれの配置の意味を説明した。
右下の1枚目を指さし「過去、『戦車』の逆位置」、左下の2枚目を指さし「現在、『死』の正位置」、頂点の3枚目を指さし「未来、『悪魔』の正位置」、左上の4枚目を指さし「助言、『節制』の正位置」。
卓上に釘付けになったマリカの目線は、4枚の
「で、なんて出てるの?」
「1つづつ説明するよ」
「えぇ、お願いするわ」
ノーマンは過去の位置にある戦車の
「まずは過去。これは『戦車』って
マリカは痛いところを突かれたように押し黙る。
「過去の
マリカの眉間に
「そんで、次に現在。これは『死』って
マリカの表情が険しくなる。
「そんで、これが未来の『悪魔』。『誘惑と堕落』の
そして、とうとう堪忍袋の緒が切れる。
「なによそれ」
マリカがテーブルを両手で激しく叩きつけ怒りの声をあげると、ノーマンは動じずに話をつづけた。
「お前、自分を何点の女だと思ってる?」
「?」
「もし、お前が自分自身を50点だと思ってるなら、50点の男としか釣り合わない。もし、理想通りの100点の男と付き合いたいなら、まず、自分が100点の女にならなきゃダメだ」
そこまで話したところでマリカは立ち上がり、左手でノーマンの胸倉をつかみあげる。
「なんでアンタにそこまで言われなきゃいけないのよ?」
「いやいや、助言のカードがそういう意味なんだよ。『節制』・・・大きな希望を手に入れるためには、日々の
ノーマンは胸倉をつかまれていることも気にせず、ヘラヘラしながら平然とマリカに伝えた。
マリカはワナワナと震えながら怒りが収まらず乱暴にノーマンを突き放すと、銅貨を5枚テーブルに叩きつけエライ剣幕で出口へと向かう。
「おーい、帰るのか?また明日よろしくね」
ノーマンがあっけらかんとマリカに声をかけると、マリカは振り返りノーマンに向かって叫んだ。
「知らないわよ、アンタなんか。顔も見たくないから、会いになんか来ないで」
「マリカちゃん、どうしたの?」
ただならぬ状況にエリーザがマリカに声をかけると、マリカはフンっと
「マリカ。悪魔にゃ気を付けろよ」
「うるさい。バーカ。死ね」
マリカが捨て台詞を吐いてドアをバンっと乱暴に閉めて店を出ると、エリーザは残されたノーマンに駆け寄り尋ねる。
「何があったの? ノーマンさん」
「いやあ、サービスしたつもりが、怒らせちゃった。てへっ」
おどけて見せるノーマンを見て、カウンター越しのバルドが小声でつぶやいた。
(やっちゃいましたね)
ノーマンは
(明日には向こうから謝りに来るさ)
バルドはクスっと笑い、酒を造りながらつぶやいた。
(自信があるんですね)
ノーマンはニヤリと笑った。
(俺の占いは当たるから)
※【29曲目】は2022年9月27日に公開です。
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