【26曲目】新世界

<intro>

 「♪~」

 (おい、バルド。ノーマンの旦那は今、歌ってるだけなんだよな?)

 (ええ。やはりブルーノも気づきましたか)

 (私だって気づいたわよ、バカ兄弟。この歌からは魔力を感じる)

 (ですが、戦譜スコアも出していないし、魔法を使っているわけではないでしょう)

 (だからバカって言ってんの、みんなに効果エフェクトがかかっているの気づかないわけじゃないでしょ?)

 (戦譜スコアを出さずに魔法を使えるって、旦那は魔人マイトってことか?)

 (それなら私が気づきます。薬品や食料からだって効果エフェクトがかかることもありますし、今まで知らなかっただけでにもそんな力があるかもしれないじゃないですか)

 (そうね・・・それは認めるわ)

 ブルーノは演奏しているノーマンをジッと見つめる。

 (おい二人とも、今は旦那の歌を聞かないか?)

 (何よ、急に?)

 (旦那はたぶんお前のために歌ってるんだと思うんだ、マリカ)

 (はっ?なんでよ?)

 (お前、泣き止んだな)

 (あっ)

 (あの旦那は、優しい人なんだよ)

 (なによ、それ?)

 すると、エリーザが3人の間に割って入る。

 (三人とも静かにして。ノーマンさんに失礼でしょ)

 エリーザに叱られた3人はノーマンの方に向き直り、改めてノーマンの弾き語りに耳を傾けた。

 「♪~」

 エリーザは両手を合わせてうっとりとしながら、曲に合わせて体を左右に揺らす。

 (この歌って素敵だと思わない?マリカちゃん)

 (う、うん)

 なんだろう、さっきまで惨めな気持ちや怒りや悲しみで絡まってた感情が、髪をくしかしたみたいに軽やかになっていく。どんな効果エフェクトなのかわからないけど、こんな気分は多分初めてかもしれない・・・ノーマンか。

 自分を裏切った男のことなどすっかり忘れてしまったかのように、マリカの表情は笑顔へと変わっていく。そして、その場にいた客たちもそれぞれに抱えていた悩みや痛みが薄らいでいくのを感じながら、ノーマンの演奏に酔いしれていた。

 演奏が終わると観客が一斉にドッと沸く。

 「いいぞ、ノーマン」

 「もう1曲やってくれ」

 「あんたスゲーじゃねーか」

 いいねえ、この反応。これ味わっちゃうと止められないんだよな。やっぱり、戦ってる魔獣モンスター相手に歌うより、人間相手に歌う方が気分いいなあ。おや?

 マリカがうっすら微笑みを浮かべながらノーマンの方へ歩いていくと、それに気づいたノーマンはマリカの表情を見てつられたように微笑んだ。

 「悪夢からお目覚めかい?」

 「あんたの歌は目覚ましにはちょうど良かったわ。次はもっとノリのいい曲を聞かせてよ、ノーマン」

 ノーマンはピックを持った右手で自分の髪をクシャクシャとしてからニヤリと笑い、無言のままリクエスト通りのノリのいい曲をはじめた。



<side-A>

 ペシッ、ペシッ・・・カプッ。

 「痛っ」

 ベッドで熟睡してたノーマンのむき出しのスネに鋭い痛みが走ったのは、さんざん飲んで歌った翌朝のことだった。ポシェットの中に放置され存在を忘れられたと感じたコーザは、自身の存在を主張するとともに抗議の意味も込めてノーマンの寝こみを襲ったのだ。ほとんどダメージを受けず毒も効かないノーマンとはいえ、痛覚は普通にあるので痛いものは痛い。

 「コー四郎か・・・すまん。なんか話が目まぐるしく展開していったので、雑な扱いになってたな。ホント勘弁」

 「コー(たのみますよ)」

 ベッドの上で素直に土下座して謝るノーマンにコーザが空腹をアピールすると、ノーマンは大量にストックしてある毒蛇魔将バジリスクの肉を戦譜スコアから慌てて取り出しコーザに与えた。

 「サイズが小さい時は食料も少なくていいのかな?」

 相当空腹だったらしいコーザが夢中で肉に貪りつく姿を眺めながら、ノーマンは少し気分が悪くなる。

 二日酔いだわ・・・状態異常無効リジェクトは二日酔いには効かないのか? そろそろ自分の職能アビリティと向かい合わなくてはいけないのだろうけど・・・。

 「どうにも面倒くさい」

 切実な悩みではなかったが二日酔いでの頭を使うのがつらく、しばらく頭を抱え込んでいると、テーブルの上に置いてある紙切れが目にはいる。

 「あ、そうだ。冒険者ギルドの場所、エリーザが地図を書いてくれたんだった」

 テーブルに手を伸ばし地図を確認すると、そこに描かれた地図に愕然としつつ、思わず吹き出してしまった。

 「エリーザ画伯の画風はセンスがありすぎる・・・もはや、脱出ゲームの謎解きにしか見えないよ。気持ちだけは受け取っておきます、ありがとう」

 地図を丁寧にたたんで所持者アイテムへしまい、ついでに除去薬リムーバルの小瓶を取り出す。

 「試しに飲んでみるか」

 ノーマンは小瓶の蓋を開け一口飲んでみると、体が一瞬ブルっと震えて二日酔いの症状がとれた。

 「いいねえ」

 酒が抜けて食欲を取り戻したノーマンは、毒蛇魔将バジリスクの肉を一掴み分むしり取って簡単に朝食を済ませる。

 「からっ、さすが毒の大将の肉だねえ。とりあえず、お出かけの準備だけでもしとくかな」

 コーザを置いて部屋を出て1階の風呂場へと向かい、石鹸と水で全身をくまなく洗う。

 思えばベッドだけでなく、まともに風呂も入ってなかったな。ここからは本格的に人間との交流になるわけだし、やっぱり、面倒くさがらず戦譜スコアの中身も真面目にチェックすべきなんだろうなあ。についても魔獣モンスター相手なら何をしても構わないが、人間相手にいろいろ効果エフェクトが発生するのを放置するわけにはいかないし・・・でもなあ。

 「やっぱり面倒くさい」

 体をいて所持品アイテムから今日着る洋服を取り出す。

 街中は武器や防具を装備しながらウロチョロしてもいいみたいだけど、まあ使う用事もないだろうから革ジャンとデニムに手ぶらでいいか。

 部屋に戻るとコーザは満腹になったらしく、あくびをしながらベッドで丸まっていた。ノーマンは余った肉を所持品アイテムにしまい、コーザにたずねる。

 「なあ、コー四郎。今日は街に出るがお前も一緒にくるか?」

 「コー(いきます)」

 「わかった。そんでお前、体の柄とか変えられないの? まんま毒蛇だとまた表に出せんからさ」

 「コー(できます)」

 コーザは体の模様を毒々しい柄から鉄灰色の地味で目立たない柄へと変化させた。

 「おお、それならまあいいか。あんまり動くなよ」

 「コー(かしこまりました)」

 コー四郎は他の従魔サーヴァントと違い、レオや俺に対してやや堅苦しい態度だ。おそらく、仲間になった経緯がレオたちの一方的なによる、なかば強制的な服従だったからだろうな。もちろんレオにそんなつもりはないんだろうが、あの壮絶な拷問のような攻撃・・・被害者のコー四郎からしたら他の連中のようにお仲間気分にならないのもうなずける。そのレオの師匠である俺に対しても、しっかり敬意を持ってくれているあたり、野良のら出身の他の連中と違い、魔王軍という組織に所属していたせいなのか、知的レベルが高いように思える。

 コーザを左の二の腕に装飾品のように巻き付けると、コーザの頭をチョンチョンと指でなでた。店を出るとすでに早朝ではないらしく、市街地では住民が日常の生活を営んでいる。

 さてと、冒険者ギルドにはどうやって行こうか。人に聞けばいいんだろうが、それじゃ芸がないな。

 ノーマンは毎度おなじみ音感探知ソナーで昨晩聞いたブルーノの声を探すつもりだったが、まだ自身で認識していない特定集音ピック・アップを無意識に発動させてブルーノの居場所を簡単に見つける。

 この使は便利だわ。何かと使い道がたくさんあるかも知れないな。

 そんな事を考えながらブルーノがいる建物の前に到着すると、想像よりも立派な建築物だったので少し驚く。特に守衛がいるわけでもないので正面入り口から目立たぬようにして入っていくと、結構な数の冒険者がロビーのテーブル席で談笑したり掲示板に張り出された依頼状を眺めたりしていた。ノーマンは受付らしい窓口を見つけ、出来るだけ気配を殺しながらギルド内を奥に進んで行く。

 冒険者登録よりも先にブルに会う方が、いろいろこちらの事情を汲んでくれるかもしれないし、まずはブルだな。

 そう考えたノーマンは、笑顔でたたずむ受付嬢に話しかける。

 「ちょっと失礼」

 「はい」

 「ギルドマスターのブルーノに会いに来たんだけど」

 「どういったご用件ですか?」

 「ええっと・・・ノーマンが会いに来たって伝えてもらえるかな?」

 受付嬢は怪訝な顔をしながらノーマンの言った内容を繰り返して確認する。

 「ノーマンさんが会いに来たと伝えれば?」

 「うん、それで通じるはず」

 「・・・わかりました。少々お待ちください」

 そういって席をから立ちあがり奥の階段を上っていく。

 なんか怪しまれているな。まあ見慣れない余所者よそものだから仕方あるまい。

 受付のカウンターに肘をついて寄りかかりながら待っているところに、受付嬢が別の女性を連れて戻ってきた。

 「ノーマンさんですね。私はギルドマスター秘書のモニカと申します。ギルドマスターがお部屋に通すようにと」

 昨晩のマリカも美人だったが、受付のお姉ちゃんといいこのモニカといい、この街には美人が多いな。

 「そりゃ助かる」

 「ご案内します。こちらです」

 モニカが会話もろくにせず勝手に付いて来いと言わんばかりに不愛想にスタスタと歩いていくと、ノーマンは業務に戻る受付嬢に愛想を振りまきながらモニカの後についていく。

 ん?なんだろう、この既視感。

 「モニカさんは、僕と会ったことあるっけ?」

 ノーマンが不意に尋ねると、モニカは足を止めてクルっと振り返る。

 「ありません」

 「だよねえ。ごめんごめん、僕の思い違いだわ」

 会った事あるわけないか。というか、安っぽいナンパの手口のような質問をしてしまった。軽薄な男だと思われてしまったかもしれないな。

 ノーマンは少し反省と後悔をしながら、モニカのあとを黙ってついていった。

 3階の奥にある立派な扉の前に到着するとモニカがドアをノックする。

 「ギルドマスター。ノーマンさんをお連れしました」

 「おう、入ってくれ」

 二人が部屋に入室すると立派な机の奥の立派な椅子に偉そうにふんぞり返るブルーノがいた。

 「おう旦那、さっそく来たな。昨晩の演奏は中々良かったよ」

 「うん、ありがとう」

 「まあそこに掛けてくれ」

 そう言って応接セットにうながし向かい合って着席すると、モニカは軽く一礼して部屋を退室する。

 「ホントに偉いんだ」

 「まあな、冒険者登録は済んだか?」

 「まだだよ」

 「なんだよ、先に登録してから来たのかと思ったよ」

 「それなんだけど・・・まあその、いろいろ訳ありでね。相談があるんだが・・・」

 「歯切れが悪いな。訳ありってのはなんだ?」

 いわくありげな会話をしはじめるとドアがノックされる。

 「モニカです。お茶をお持ちしました」

 「入ってくれ」

 モニカがカートを押して入室しテーブルにお茶を並べると、ブルーノは退出しようとするモニカも同席させた。

 「まあとりあえず、通常の冒険者登録について説明してやってくれ」

 モニカは軽く咳ばらいをして、ノーマンに説明をはじめる。

 「オホン。まずは申請書類に名前と職業ジョブとレベルを記載していただき、戦譜スコアの内容と照合させていただきます。そこで、偽りや不正が発覚すれば登録できません」

 やっぱり戦譜スコアの内容は見られるのか。

 「照合するのは職業ジョブとレベル、それと称号タイトルだけの確認になります。職能アビリティ技能スキルなどの詳細までは情報開示を求めません」

 なるほど、それは冒険者への配慮というより、情報を抱えすぎても管理が面倒なんだろうな。

 「それで、次は?」

 「それだけです」

 「へっ?試験とか面接とかはないの?」

 「はい。戦譜スコア上の職業ジョブとレベルがわかれば十分ですので」

 「はっはっは、もっと根掘り葉掘り聞かれるとおもったか旦那」

 「うん、まあ」

 「別に試験なんぞしなくても☆の数でだいたいの強さはわかるからな。☆2以上あればこなせる依頼もたくさんある」

 だいぶザックリしてるんだな。

 モニカが続ける。

 「登録が完了しましたら、冒険者認識票とルールブックを渡します。これです」

 モニカはそう言って首からかけてあった自分の冒険者認識票とルールブックをノーマンに見せた。

 「まあ冒険者といっても、ギルドを通しての依頼を受ける以外、特権や免責があるわけではないからな。せいぜい、コレを見せて所持者ホルダーであることを証明するくらいのもんさ」

 ブルーノはそう言って首からかけた自分の冒険者認識票を、ノーマンの目の前でチラつかせて見せる。

 「あっ、やっぱりそれ冒険者のだったんだ」

 「?」

 ノーマンは戦譜スコアから大きな布袋を取り出しテーブルの横に置くと、袋の口を開いてブルーノに見せる。

 どうせいくつかの秘密はバラさねばならんようだし、このさい面倒ごとはギルドに押し付けてしまおう。

 ブルーノは袋をのぞきこんで中身を確認すると思わず驚きの声をあげた。

 「旦那・・・これって」

 「これって何年か前にマレディ山の討伐に参加した冒険者の所持品だと思うんだが。約千人分、一応、全部回収してきたよ」



<side-B>

 「ちょっと待ってくれ。いや、言ってる意味がわからない」

 そうとうに理解できないことらしく、ブルーノは袋の中身を見ながら頭をかかえていた。横にいたモニカにいたってはブルーノ以上に事態が呑み込めておらず、ポカーンと口をあけて放心状態になっている。ノーマンは二人の様子を見て事の重大さを改めて察すると、自分の職業ジョブとレベルを隠し通すことを諦めた。

 まあ、ブルーノは立場上秘密は守ってくれるだろうし、何より悪い人間ではないようだ。喋れるところまでは喋ってしまおう。

 「あのね、ブル君」

 「ああ、すまん。あまりに驚いていて・・・事情を聞かなきゃならんな」

 ブルーノは顔を両手でパシッと叩き気合を入れなおし、ギルドマスターとして真面目な表情に顔つきを変えた。ノーマンは一口お茶をすすってから、まずは、レウラ村の鴉型魔獣キルレイヴン襲撃の件とカトリヤ村の猪型魔獣カリュドーン及び大猪魔将パイア襲撃の件を諸々もろもろはぶいてザックリと伝えた。

 「ちょっと待ってくれ。じゃあ、マリウスの小隊パーティーはみんな死んじまったってことか?」

 「ああ、大猪魔将パイアに食われた。そもそもあの馬鹿どもが猪型魔獣カリュドーンを樹海の主と勘違いしたせいで、村に甚大な被害がでたんだ。自業自得だよ」

 「そうかあ・・・」軽い溜息をもらすブルーノ。

 「あれ? あんまりショックじゃない? 最強 小隊パーティーが抜けたら痛いんじゃないの? 冒険者ギルド」

 「ん?ああ、まあ人手不足だから痛いには痛いが、★5の冒険者は他にもたくさんいるしな」

 「えっそうなの? 勇者候補って聞いたけど」

 ブルーノは軽く笑いながらモニカに目配せをすると、なノーマンに説明をはじめた。

 「冒険者って連中は基本自己中だ。★5ともなれば単独行動を好む連中も多い」

 「まあ、単独ソロでできることが多いからね」

 「そんな連中が小隊パーティーを組む理由は、だいたい2つくらいなもんだ」

 「なるほど、『苦手な分野の補完』と『集団戦闘対策』ってところか・・・」

 ノーマンはブルーノが少し驚いているのを見て、自説が正しいことを理解するとさらに続ける。

 「いずれの理由にせよ、とりあえず必要な能力や条件がそろってさえいれば、お仲間が☆4か☆3程度でも問題ない。いや、むしろ自分が主導権を持って活動するにはお仲間は自分より下のレベルの方が都合がいいかな? まさに自己中、お山の大将ってやつだな」

 ブルーノとモニカはノーマンの理解力に驚きの表情を浮かべ顔を見合わせる。

 「ノーマン。お前理解が早いな」

 「うん、ありがとう。そんで?」

 「マリウスの小隊パーティーはマリウス含めて7人全員が★5だった」

 「そりゃ、お強いことで」

 「本来だったら主導権を握りたがる連中が、マリウスには付き従っていた」

 「なるほど。マリウスが勇者候補と言われるのは、そういう求心力というか統率力みたいなところが評価されてたわけね」

 「ああ、勇者は人を団結させる。カリスマってやつだな」

 「そかそか。でも、死んじゃったよ」

 「正直痛い。でもまあ、冒険者が死亡する案件はこの世界じゃよくある話だ。死んじまった冒険者のことよりも、これからの事を考えるのが俺の仕事だしな」

 モニカは少し切ない表情を浮かべうつむいた。

 「ドライだねえ」

 ノーマンが煙草に火をつけてポケットから携帯灰皿をだすと、ブルーノは両膝に両肘を乗せて少しうなだれながら会話を続ける。

 「で、カトリヤ村は今どうなってる? 駐在の冒険者もいないんだろ?」

 「ああ、それなら大丈夫。復興に向けてワイワイやってんじゃねえかな? ただ・・・」

 「ただ?」

 「マレディ樹海で鳴りを潜めていた強めの魔獣モンスターが動きはじめたみたいだよ・・・でも、僕の弟子が滞在してるから、村は安全だよ。あいつらはその強めの魔獣モンスターどもよりも強いから」

 ブルーノはその言葉に反応して何かを口にしかけて言葉を飲み込み、ギルドマスターとして冷静であることに務める。

 「信じられないことばかりだが、とりあえず話を続けてくれ」

 ノーマンはやれやれというポーズをすると大猪魔将パイアの討伐以降の話も進め、毒蛇魔将バジリスクを倒したところから約千体分の冒険者認識票を手に入れたところまでの一応の説明を終えた。

 「ノーマンさんの話をまとめると、

 ①レウラ村を襲撃した鴉型魔獣キルレイヴンを討伐。

 ②カトリヤ村を襲撃した猪型魔獣カリュドーンの群れを撤退させ、その後に魔王軍残党の大猪魔将パイアを討伐。

 ③マレディ山にいた魔王軍残党の毒蛇魔将バジリスクを討伐。

 ④ノーマンさんの弟子である少年とそのがマレディ山にいた元冒険者の骸骨兵士スケルトン約千体を討伐し、その後に不死魔将リッチーを討伐。

 ということでよろしいでしょうか?」

 「まあ、ザックリと言って、そんなとこかな」

 「・・・ありえません。そんなバカげた話」

 「なあ、旦那。法螺ほら話にしてはまあま面白い話だが、チョイと度が過ぎちゃいないか?」

 は?じゃあ、千人分の認識票はどう解釈できるんだ?・・・とはいえ、ヤッパリとんでもない事したんだろうな・・・俺

 「うーん、困ったなあ。僕としても在ったことを無いとは言えないしなあ」

 「旦那。古代種の鴉型魔獣キルレイヴンを倒すなんて、それこそマリウスの小隊パーティーにだって至難の業だし」

 へ? 古代種?

 「子どもが骸骨兵士スケルトン千体を倒しました、オッサンが3人の魔将サージェントを倒しました、って言われても、『それは凄かったですね、おめでとうございます』とはならんぞ」

 確かに、そういう言い方をされるとブルとモニカの意見はごもっともだ。仕方ない、もうひとつ情報解禁するか。

 「疑いはごもっとも・・・とりあえず、これ見てよ」

 ノーマンは戦譜スコアを出してレベルを見せる。

 「☆7?」モニカは腰砕けになってソファに体を沈め、逆にブルーノはソファから立ち上がった。

 「おい、旦那。まさか・・・勇者なのか?」

 「違う違う、これこれ」職業ジョブ欄を指さす。

 「吟遊詩人バード?・・・なんだ、これ?」

 「僕も知らん、気が付いたらなってた。知り合いの博識な爺さんはこの職業ジョブの事を消失ロスト職業ジョブって言ってた。ただ、この戦譜スコアの表示と千人分の認識票で僕の話がウソじゃないってことは証明できると思うんだが?」

 現実を突きつけられてなお納得のいかない様子でしかめ面をしているブルーノは、どうにか自分に折り合いをつけようと努力することにした。

 「いやあ、にわかには信じられないレベルの話ばかりなんだぜ、旦那。ただ、それなら確かに辻褄は合っているのは認めるよ」

 「そう言ってくれると助かる。ちなみに、カトリヤ村に置いてった僕の弟子ってのは☆6だ」

 「まじか? そしたら、その子の方が勇者なのか?」

 やっぱり、そうなっちゃいますよね・・・でも実際は、勇者というより魔王寄りなのよ。

 「勇者には覚醒してない。アホほど強いのは認めるけど、多分勇者には覚醒しないかなって思うよ」

 「何を根拠に?」

 「うーん、少なくとも現在の職業ジョブは勇者っぽくないから」

 「何の職業ジョブなんだ?」

 そうなるよねえ。俺自身の説明も難しいのに、レオの説明さらには従魔サーヴァント連中の説明も輪をかけて面倒くさい。

 「・・・それはまた後日、僕の件が片付いてから・・・」

 ブルーノは納得のいかない表情を浮かべたが、ハッと思い出したように、

 「ってことは、旦那がレウラ村からフィリトンまで一直線で2~3日でに来たってのは・・・」

 「ホントだよ・・・でだ、ここで相談なのだよ、ブル君」

 「なんだよ?」

 「僕の素性はあまりおおやけにしたくない。だから、この話はここだけってことにしてもらえんだろうか?」

 「どうして?」

 「うまく言えんのだが、あまり目立ちたくない」

 「いやいや、普通、冒険者なんてもんは自分が強いことを誇示して名声や財産を築いていくもんだろ」

 「僕は名声や財産はいらない。違う目的があるんだ」

 「なんだよ?」

 「生き延びたい」

 「?」

 「実は、僕はさ・・・違うから漂流してきただけなんだ。ホントは今すぐにでも自分の国に帰って、娘と嫁と3人で静かに暮らしたいんだよ」

 少しうつむいて寂しげな表情で語るノーマン。

 「違う国?」

 「そう。だからとにかく帰る方法を見つけたい。それまでに、この強さのせいで余計な責任を背負わされたり面倒なことに巻き込まれたくない・・・ダメかな?」

 プルプル震える切ない瞳で自分を見つめるノーマンに、ブルーノはNOとは言えなかった。そして、少しだけ考え込んで答える。

 「旦那・・・わかった。旦那のことは出来る限りおおやけにはしない」

 「ブッ、ブル君」

 「ただな、旦那。これだけ証拠を見せられても、やっぱり簡単には信じられない話ばかりなんだ」

 「うん、そりゃそうだ。すぐには無理そうだな」

 「だから、旦那の強さを見せちゃくれないか?」


 ノーマンとブルーノとモニカの3人は冒険者ギルドの4階にある集会室と呼ばれるホールに場所を移した。

 「ホントはギルドの裏に修練場があるんだがな、そこだと人目に付くからここでやろう。旦那、俺はこう見えて★6の重戦士ヘヴィウォリアーだ。旦那の話を信じるためには、まず俺をして負かして見せてくれ」

 こう見えてって、見たまんまじゃん。俺の目にどう見えてると思ってんだ?

 ブルーノが両手持ちの大剣を右肩口に構えるのを見て、ノーマンはも出さず無手で腕組みしたまま仁王立ちしてニヤリと笑う。

 「片刃の剣なんてカッコいいね」

 「ありがとよ、うちの家系は先祖代々片刃の剣士なんだ」

 「へえ、渋いじゃない」

 「武器は持たないのか?」

 「まずは様子見ってとこかな。別に舐めているわけではないので、気を悪くせんでくれ」

 「面白くはないが、了解した」

 「とりあえず・・・そっちのタイミングで、いつでもどうぞ」

 「余裕だな。じゃあ、まあ、遠慮なく」

 言った直後に加速アクセルを使って急接近したブルーノは、無駄のない動きでノーマンに連続で斬りかかる。しかし、ノーマンは腕組みしたまますべての攻撃を軽くかわし、隙をみてブルーノを蹴り倒す。

 「そんな、マスターの攻撃が・・・」唖然とするモニカ。


 ところで・・・ってどれくらい?


 さとこ。パパはこれから、おっかないオジサンをボコボコにしなきゃいけないようです。

 こんなパパを、嫌いにならないでね。

 




※【27曲目】は2022年9月13日に公開です。

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