【23曲目】じゃあね

<intro>

平成4年3月3日火曜日 大安


 市内では一応進学校と呼ばれていたうちの高校は、大学受験がはじまるとほぼほぼ自由登校になってしまうため、クラスメイトが全員で揃うことは卒業式までほぼない。

 3学期の序盤は大学入試、中盤には合格発表。そして終盤になると、複数の大学に合格した者は進学先の選択に迷い、浪人が決まった者は4月から通う予備校選びに悩む。遠く離れた大学に進学が決まった者は下宿先を探したり、自由登校なのをいいことに自動車免許を合宿で取るやつもいた。

 だので、卒業式というのは毎日一緒にいた級友たちとの別れの日というよりも、久しぶりにクラスメイトが一堂に会する同窓会のノリから朝がはじまる。

 しばらく会わなかったせいだろうか、今日でお別れと言われても免疫ができてしまっていて、いまいち実感がわいてこないのは俺だけではないだろう。それでも体育館への入場がはじまり着席すると泣き出す女子も幾人かいるもので、ああ素敵な高校生活を過ごしたのだろうなと羨ましく思ってしまう。

 自分自身を振り返ると何の思い出もない3年間というわけでもなかった。何気ない繰り返しの毎日も居心地がよかったし、文化祭や体育祭などの年中行事も積極的に参加した。友達にも恵まれた方だと思うし、結果フラれはしたものの恋心を抱いた女子生徒もちゃんといた。生徒会の副会長もつとめたりりと、それなりに青春を謳歌していたはずなのだが、その場で涙を流すほど感傷的になることはなかった。

 式典が終わると一度各自の教室に戻り担任からは各生徒にA4の茶封筒が渡された。中身を確認すると出席簿などに使われた名前の判子と一冊の小説が入っている。他の生徒の小説を確認してみると、どうやら担任は生徒にそれぞれに異なった小説を選んでくれたようだ。40人以上いるクラスの生徒をちゃんと理解していたかどうかはわからんが、少なくともひとまとめにはせず別のとして扱ってくれていたことに、その日はじめての感動を覚えた。

 担任が去り校舎を出ると、部活をやっていた連中はそれぞれ部活の後輩に囲まれ、卒業生と在校生でわちゃわちゃやっている。俺は生徒会室に立ち寄り、私物の忘れ物がないかをチェックしながら、母親から良く指摘される俺のについてふと考える。

 「3年間・・・多分、うまく騙せたはずだ」

 うっかり漏らした誰にも聞かれたくない独り言に自分自身で驚いていると、誰かが外から生徒会室の窓ガラスをノックした。高校に入学して初めてできた親友の司馬しばだ。自分を偽ることなく接することのできた数少ない存在であり、昼休みのキャッチボールの相棒。コイツと親友になってからは、キャッチボールのために学校に通っていたと言ったら大袈裟だが、あながち間違ってはいないかもしれない。

 「おい、野間。キャッチボールやろうぜ」

 「いいね。この敷地でやるのは、おそらく最後になるな」

 「まあな」

 最期まで学校に置いておいたミットとグローブと軟球を持って体育館の裏に行くと、俺たちはいつものようにキャッチボールをしながら他愛のない会話をはじめる。

 「しかし、俺たちはこの3年間で何球くらい投げたのかねえ?」

 「平日の昼休みが月に約20回、一日で50球を投げたとしてだいたい月に千球」

 「司馬と俺がキャッチボールをするようになったのは2年生の時からで、土日祝祭日と夏休み・冬休み・春休みと雨の日を抜いたら・・・」

 「まあ、だいたい2万球いかないくらいかね。1万5千は投げてるんじゃね?」

 「げっ、そうやって考えるとすげえな」

 「松田がいれば数えていたかもしれんな」

 「あはは、それあるかも」

 「今日は休みか?」

 「ほら、あいつ学校行事とか興味ないじゃん。それにアメリカの大学行く準備で忙しいみたいよ」

 「そうか。最後の挨拶くらいはしたかったな」

 「アメリカに発つ時にでも、空港で見送ってやればいいさ」

 いつも俺は投手気分で司馬のミットに投げ込んで、司馬は文句も言わず座ったまま黙って捕球し続けてくれた。そして、今日も司馬の座ったままの返球は、俺の全力のストレートより速くて重い。30分もしないうちにお互い気が済んだのか、どちらからともなくキャッチボールは終了する。司馬に貸したミットは卒業の記念に司馬にくれてやった。

 「じゃあ、またな」

 「おう。またな」

 事情は違えど、俺と司馬は誰とも深くかかわり合わないという生き方を選択していたが、おそらく松田もそうだったんだろう。

 皆がまだワイワイと盛り上がっているのを避けるように、誰にも見つからぬように校門を出て1人で駅へと向かう。下り線のホームに降りると電車を待つ間、カバンの中のCDプレイヤーから伸びたイヤホンを耳に付けた。

 こんな俺でも、少しくらい卒業気分を味わってもいいだろう?

 心の中でそうつぶやいて再生ボタンを押すと、小学生の時に流行したアイドルの卒業ソングがイヤホンから聞こえる。車窓から見慣れた景色が流れていく眺めながら、ため息を一つついて野間はニヤリと笑う。

 (大学つぎの4年間は、どうやって騙していこうかね) 


<side-A>

 しばらくしてレオの感情が落ち着いたところで、ノーマンが切り出した。

 「でな、レオ」

 「押忍オス

 「冒険者ギルドに登録した連中は、多分みんなこういうネームタグを持ってるわけだ」

 そう言って、レオの父親のネームタグをレオに渡す。

 「これって親父の・・・」

 ノーマンはひとつうなずいた。

 「これ、全部回収しよう」

 レオはノーマンが自分やフィオのような遺族のことを考えているのだと思い、そんな師匠を誇らしく感じ嬉しくなった。

 「もちろんです。みんなでやったらすぐ終わりますよ」

 「じゃあ、早速はじめるか」

 ノーマンは確信はないもののがして、大剣を使っていた髑髏騎士スカル・ナイトのネームタグを拾う。

 ・・・やっぱり、フィオの親父かよ。

 そのネームタグを使って金属の振動周波数を調べると、ノーマンはフィオの父親のネームタグをポケットに入れる。そして、超音波ソニックで大広場に転がるネームタグを共振させて位置をわかりやすくすると、チーム・レオと共に30分ほどかけて約1000体分のネームタグを一気に回収した。集めたネームタグをすべて大きな布袋に詰め込み戦譜スコアに収納すると、ノーマンはホッとしたのか煙草に火をつけレオにたずねた。

 「さて、レオ。お前にお願いがあると言ったのは覚えているかな?」

 「押忍オス

 「いくつかあるけど、いい?」

 「なんすか?水くさいなあ。いくつだっていいっすよ」

 「まず一つ目は、をフィオに渡してくれ」

 先程ポケットにしまったネームタグをレオに渡す。

 「これってもしかして、フィオのお父さん?」

 「大剣の髑髏騎士スカル・ナイトが持ってたやつだ」

 「えっ、じゃあコーザがとどめさしたヤツだ」

 「そそそ、まあ骨になってからだけど、最後はお前の親父と一緒の小隊パーティーだったわけだ」

 「なんか、俺とフィオって境遇といい色々と似すぎてません?」

 さすがにお前でもそう思うよな。

 「否定はしないけど、世界中を旅したら他にもたくさんいると思うよ」

 レオは『なるほど』という表情を浮かべる。

 「とりあえず、わかりました。最後に戦ったし、これは俺が渡すべきですね」

 「うん。そんで二つ目なんだけど・・・お前しばらくカトリヤ村の警護についてくれ」

 「えっ?だってそれは冒険者ギルドが・・・」

 「そうなんだけど、今いないだろ? 今、魔獣モンスターが森から出てきたらまた村や畑が荒らされちまう?」

 「でも、マレディ山と樹海を仕切ってた魔将サージェントは、もういないっすよ」

 「だよ」

 「だから?」

 「魔将サージェント3人が仕切ってたから魔獣モンスターどもは好きに暴れられなかったんだ。パイヤお姉さまだってあの馬鹿どもがピギ夫に酷い事しなけりゃ、襲って来ることはなかった」

 「なるほど」

 「それに、魔将サージェントほどじゃないが、結構強めの魔獣モンスター魔将サージェントが消えたのを察知したのか、さっそく活発になっているご様子だ」

 「なんでそんなのわかるんすか?」

 「音感探知ソナーでわかる」

 「便利な耳っすね。でも、わかりました。そういうことなら、しばらくカトリヤ村にいます」

 「まあ、あそこの住民のみなさんなら、お前さんのお仲間たちにビビることもないだろ・・・それでだ」

 「まだあるんすか?」

 「これはお願いではないんだがな、カトリヤ村に行く前に樹海でピギ夫の兄弟全員仲間にしていけ。従魔サーバントの枠だいぶ空いてるだろ?」

 「それは俺も考えてました。ピギーと兄弟が戦うところなんて見たくないっすから」

 「だな」

 まあ本音としては、あいつらがみんなパイヤお姉さまクラスに成長でもして、親の仇討かたきうちだと集団で襲って来ることを考えると正直ゾッとする。

 「俺からもお願い、いいっすか?」

 「なーに?」

 「コーザを連れて行ってください」

 「コー四郎?なんで? 仲間外れか? よくないぞ」

 「違いますよ。従魔サーヴァントの誰かが師匠と同行してれば、多分、師匠の居場所がわかるし、距離次第では連絡もできるかもしれないでしょ」

 ほう、魔獣操者モンスターテイマーとしてしっかり成長してるな。

 「そりゃ名案だな。で、なぜコー四郎?」

 「コーザが一番小さくなれるから。それに大猪や大狼を連れて街あるけないでしょ?」

 「カー助でもいいじゃん。飛べるし便利だ」

 「カークは小さくなっても魔獣モンスターにしか見えない大きさなんで。それに、多分、コーザは師匠と相性がいい」

 なんじゃそりゃ。でも魔獣モンスターを見る目はレオの方が確かではあるか。

 「まあいい、わかったよ。っていうか、ありがとうレオ」

 「何がっすか?」

 「つながり続けようとしてくれて」

 レオは少し照れたが、照れ隠しに語気を強める。

 「当然っす。この先、師匠に他の弟子が出来ても一番弟子は俺ですから。俺は一生師匠の弟子なんすから・・・ところで師匠」

 あたりをぐるっと見回したレオが心配そうにたずねる。

 「なーに?」

 「骸骨兵士スケルトンたちの装備品ってどうしましょう?」

 「やっぱり?これも回収したほうがいいよな?」

 「はい。っていうか、リッチーのアイテムとりました?」

 「ああ忘れてたわ。おいカー助、レオの投げた槍ごとリッチーのむくろを塔から引っこ抜いてきてくれ」

 「アー(りょうかい)」

 カークはリッチーのむくろを雑に掴み強引に塔から引き剥がすと、槍に串刺しにされたままの状態でノーマンの前に乱暴に放り投げた。

 いくら敵だからとはいえ、この扱いは可哀想すぎるだろ。

 そう思いながらもリッチーの胴を踏んずけて槍を強引に抜くと、レオに柄の方を差し出しながら槍を観察する。

 「これ多分、レオの親父さんが元々使ってたもんじゃなく、髑髏騎士スカル・ナイトになってからリッチーが与えた武器だな」

 「なんでわかるんすか?」

 「人間の作った雰囲気じゃねえ、ちょっと戦譜スコアに放り込んでみなよ」

 「押忍オス

 戦譜スコアを開き槍を取り込むと所持品アイテムの欄に『一角獣之槍ユニコーン・ランス』と表示された。

 「これって、一角獣ユニコーンの角で出来てるんすよね?多分」

 「だろうな。☆表示されないってことは魔物モンスター製品ってことだろうけど、親父さんの形見でもあるし、お前が使ったらいいよ」

 レオは一角獣之槍ユニコーン・ランスを取り出すと右手で掲げながらジッと眺めながら少し笑った。

 「そうっすね。俺この槍好きかもしれません」

 まあお前は魔獣モンスターの王だから、人間の装備品より魔物モンスター製品の方が相性いいのかもね。どんどん魔王化していくな・・・。

 「さーってと、リッチー君はどんなアイテムをくれるかな?」

 ノーマンが戦譜スコアを出してリッチーをアイテム化すると、所持品アイテムの欄には『冥府之法衣ダーク・ローブ』『屍揮棒ネクロ・タクト』『屍魂之指輪ネクロ・リング』『宝物庫の鍵』の4品が表示される。

 「これは全部リッチーが身に着けてたもんだな、多分」

 なるほど、パイアお姉様のように魔獣モンスターから魔人マイトになった連中は魔獣モンスターしかばね扱いになるが、はなから魔人マイトだった奴は装備品や持ち物がアイテムとして手に入るってことか。屍揮棒ネクロ・タクト屍魂之指輪ネクロ・リングはネーミングからしてついになってそうだな。で、宝物庫の鍵ねえ。

 「師匠。リッチーのアイテムは全部師匠が持って行ってください」

 「えっ?だってとどめをさしたのはレオだし、みんなで分けたほうが・・・」

 「いえ、一緒に倒したんす。それに、リッチーのアイテムは俺には不要なものばかりでしょ。俺は親父の槍とネームタグで充分です」

 ここは引かないだろうな。それに確かにこれから街に行く俺が持っていた方が、色々と調べられそうだしな。

 「うーん。じゃあとりあえず、僕がおくよ。高値で売れたらあとでお金あげるね」

 「あはは。じゃあ大金持ちになるかも」

 「そうだね。そしたら、さっさとみんなの装備品集めちまおう」

 装備品の回収は先程のネームタグ回収よりも簡単ですぐに終わってしまい、別れが近いことを思い出したレオは名残り惜しそうにノーマンにたずねる。

 「ねえ師匠。少し休んでいきませんか?」

 たしかにこいつらも疲れてるだろうし、俺もさすがに疲れてる。朝まではまだ時間があるし、最後のキャンプでもしようかね。

 「いいね。よし、夜明けまで一緒にいよう」

 「押忍オス

 レオは嬉しそうに悲しそうに答えた。



<side-B>

 「そっかあ、ここって高い山の頂上てっぺんなんだな。こんなすごい星空、僕の国でも見たことないよ」

 「俺もこんなに空が近いのは、はじめてっす。すごいっすね」

 魔獣モンスターの肉だらけの最期の晩餐を終えたノーマンとレオは、芝生に仰向けになって満天の星空を眺めていた。

 「師匠」

 「なんだい?」

 「俺、強くなりましたか?」

 「お前、☆6になってるだろ?」

 「えっ、なんでわかるんですか?」

 そりゃお前。魔人マイトクラス魔物モンスター単騎戦タイマンで倒せるなら、それくらい強いだろうよ。

 「やっぱりな。知ってるか? ディオさんから教えてもらったんだけど、☆5は一流冒険者レベルで、☆6は軍隊なら歴史に名を残す名将クラスで伝説級冒険者のレベルなんだってさ」

 「はい・・・ディオさんから聞きました」

 「つまり、お前がロカーナ王国の軍隊に入ったら、いきなり将軍様ってことだよ。しかも歴史に名を残すレベルの」

 「でも・・・」

 「実感がないんだろ?」

 「押忍オス・・・」

 だよなあ。身近な人間が☆7の俺で、他は自分より弱い魔獣モンスターばかりだもん。

 「大丈夫、お前は十分強くなったよ。☆の数だけじゃなくて、見てりゃわかる」

 「でも、俺には従魔サーヴァントがいて、あいつらがいたから・・・」

 「いやいやいや、お前単体でも十分強いって。っていうかお前の職業ジョブはなんだ?」

 「魔獣操者モンスターテイマーっす」

 「だろ? おそらく魔獣操者モンスターテイマーは戦闘に特化した職業ジョブではないはずなのに、お前めっちゃ強いもん。それに、魔術師メイジが魔法を使うように、お前は従魔サーヴァントを使っていいんだ。それもお前の力なんだよ。お前さ、冒険者1000体の骸骨兵士スケルトン軍団はさ、元の冒険者1000人より、強かったんだぞ・・・多分」

 「そうなんすか?」

 「だからそれを蹴散らしたチーム・レオは冒険者1000人より強くなきゃおかしいだろ」

 「理屈ではわかるんですけど・・・」

 「お前が強くなったと思ってなかったら、卒業なんかさせやせんよ」

 「卒業?」

 「そそそ。僕とお前はいったんお別れするけど、それはお前に休暇を与えるわけじゃあない。レオナルド君はノーマンから卒業するんだ」

 「じゃあ、師匠はもう師匠じゃないんですか?もう何も教えてくれないんですか?俺はまだ・・・」

 「落ち着け落ち着け。僕は死ぬまで、いや死んでもお前の師匠だし、わからない事や知りたい事があったらいつでも聞きにくればいいさ。これまでと違うのは、僕はもう道は示さないから、自分の目的地は自分で決めるんだ」

 「師匠は死なねえっす。なんか難しいことはわかんないけど、とにかく師匠が認めてくれたってことですよね?」

 「そそそ。卒業ってのは、認められた人間しかできないんだ」

 「みたいなもんですね」

 ん?

 「そういえば、この国には学校はないのか?お前行かなくていいのか?」

 「レウラ村に学校はないっす。フィリトンや王都にはありますけど」

 なるほど、一般教育の制度はまだ普及していないのか。まあ腕っぷしと魔法がものを言う科学が未発達な世界じゃ仕方ないか。

 「そうだ、じゃあレオには卒業証書の代わりに何かあげよう。何がいいかな?」

 「でも、俺は師匠に、もうたくさん色んなモノ貰ってるし・・・」

 「そう言うなって。それはそれ。卒業の記念ってのはそれらとは別の特別なもんなんだから」

 レオは少し考えて何かを思い付いたが、その思い付きを言いにくそうにしている。

 「なんでもいいから、言ってみなさい」

 ノーマンがそう言うと、レオは勇気を出して願いを口にだす。

 「名前。の名前をください」

 ん?名前?

 「お前、レオナルド・ペスカーラやめるの?」

 「違いますよ。これからは『レオナルド・・ペスカーラ』って名乗りたいんです」

 襲名かよ。歌舞伎や落語家じゃあるまいし・・・でもまあ、欲しいってんならくれてやるか。

 「いいよ。お前はたった今から『レオナルド・ノーマン・ペスカーラ』だ」

 「やったあ」

 「ついでに通り名もくれてやる。『』ってのはどうだ?」

 「いい。いいっす。すげーいいっす」レオの目が輝く。

 「『百獣王』レオナルド・ノーマン・ペスカーラ。最高の卒業証書っす」

 「喜んでくれて嬉しいよ」

 「師匠は自分の国では学校を卒業したんすか?」

 「そうだね。僕の国ではだいたい7歳から12歳までは小学校、13歳から15歳までは中学校って学校に強制的に入れられるんだ。そんで16歳から18歳は高等学校、これは半強制かな。そんで高等学校を卒業すると、大学校って学校に行くやつもいるし、専門学校ってとこに行くやつもいるし、働くやつもいる。僕は一応、小・中・高・大と4つの学校を卒業したよ」

 「すげえ」

 「いやいやいや、僕の国じゃあその道が一番何も考えなくていい道筋なんだよ。もらったのは紙切れ4枚だけで、なんの役にも立ちはしない」

 「つまんなかったんすか?」

 「いや、それなりに楽しんだよ。ただ、だった」

 なんだろう、学生時代の事を思い出すと暗い気持ちになってしまう。話題を変えよう。

 「僕の国では学校は4月からはじまって3月に終わるんだ」

 「えっ、なんか変ですね。やっぱり卒業の儀式みたいなのはあるんすか?」

 「あるある。みんなで歌うんだよ色々」

 「師匠みたいっすね。そうだ、卒業の歌を俺に聞かせてください」

 「うん、それは名案。ただ、今は6月だから少し季節外れの歌になるけどいい?」

 「気にしないっす」

 ノーマンは戦譜スコアからギターを取り出すと、どの卒業ソングを歌えばいいか考えた。

 レオとは明るくお別れしたいな。やっぱあれか。

 高校の卒業式の帰り道で聞いたあの曲に決めると、しばらく会えないチーム・レオのみんなのために本気で歌う。

 「♪~」


 思えばここまでたった数日の間とはいえ、ずいぶんと過酷なスケジュールだったもんな。でも、レオのおかげで独りぼっちじゃなかった。助けられたのは多分、俺の方なんだろうね。この歌で楽しい気分になって、どうか気持ちよく眠ってくれ。

 ノーマンがそう願ったことが歌の効果に作用したかどうかはこの時点ではわかっていなかったが、チーム・レオの面々は一人また一人と眠りに落ちていく。1曲歌い終えて皆が眠っているのを確認すると、ノーマンはその場にあぐらをかいて煙草に火をつけた。

 卒業式の後は一人ぼっちか・・・30年近くたっても俺は変わらんな。サトコ、お前と一緒に暮らせたら、俺はに幸せになれるよね。

 煙草をフィルターぎりぎりまで吸い終わると吸い殻を携帯灰皿に放り込み、チーム・レオを起こさぬように忍び足で探索へと向かった。


 「みんな、夜が明けるぞ」

 ノーマンが気持ちよさそうに眠っているチーム・レオの面々に最大出力の超音波ソニックで嫌がらせをすると、従魔サーバントたちは不快音波に悶絶したがレオは普通に目を覚ました。

 「おはようございます、師匠。もう朝っすか?」

 ノーマンはまだ暗い東の水平線を指さし、まだ寝足りなさそうに目をこするレオに声をかける。

 「ほら、見てごらん。朝日が昇るぞ」

 徐々に水平線に光が伸びて太陽が顔を出しはじめる。

 「うわー、すごいっすね。なんか、しっかり目が覚めました」

 ノーマンとレオと従魔サーバントたちが昇る太陽を並んで眺めていると、レオは正面を向いたままノーマンに対して言葉をかける。

 「師匠。俺もう泣きませんよ」

 「おう」

 「そろそろ行きます」

 「そうか」

 「コーザをよろしくお願いします」

 「おう・・・あっそうだ、これをジョゼさんに渡しといてくれ」

 正面を向いたまま右手をレオのいる方に突き出し、重量感のある布の袋をレオに渡す。

 「なんすか?」

 「カトリヤ村の復興資金と、蒸留酒グラッパの開発費用」

 村を思いやる優しい心と自分の欲望に素直な姿勢、そのどちらもがノーマンらしいと感じたレオは少し笑った。

 「このお使いも、カトリヤ村の安全も任せてください」

 「どちらもだから任せられるんだぞ。頼んだぞ

 互いに目を合わせニコリと笑う。

 「よーし、みんな行くぞ。まずはピギーの兄弟捕獲だっ」

 レオはガウの背に乗ると振り返ることなくマレディ山の南側を下っていく。ノーマンはみるみる小さくなっていくレオたちの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。


 「さあてと、こっちも行きますか。よろしくなコー四郎」

 「コー(はい)」

 ノーマンは小さなコーザを腕に巻き付けてから、回収した元冒険者スケルトンの盾を所持品アイテムから取り出すと、たっぷり助走をつけてマレディ山の北側の斜面に飛び降りた。空中で盾の上にあぐらをかくとそのまま斜面に着地し、盾をソリ替わりにして山の斜面を猛スピードで直滑降する。

 うひょー、楽チンだあ。走った方が早いけど、圧倒的に楽チン。

 瞬く間に麓に到着して惰性でそのままマレディ樹海(北側)に突入すると、全力で殺気キルフリーズを放ち、辺りに生息する魔物モンスターを金縛り状態にした。

 露払い(レオ)のいない今、お前ら雑魚にかまっている暇はない。昼までにはフィリトンについてやる。

 惰性がエネルギーを失いソリが止まると、盾を所持品アイテムに戻す。そこから本気の縮地フリートを使ってマレディ樹海を一気に駆け抜けると立ち止まって振り返る。

 こっちに来て、まだ2週間もたってないのに、濃厚だったな・・・。フィリトンに到着したら人間との交流が増えるだろうな。魔獣モンスターだったら切り捨てれば良いが、どう立ち振る舞えば良いのやら・・・。

 ここまでの道中を思い返しながら少し黄昏たそがれて煙草に火をつける。

 考えても仕方ないかあ・・・どの道、サトコに会うためにはフィリトンには行かねばならんし。フゥ、まだまだ先は長そうだな・・・。


 

※【24曲目】は2022年8月16日に公開です。

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