【21曲目】父をもとめて
<intro>
平成30年9月1日土曜日
俺にとって父親との関係は、親子ではあるが家族ではない。父親との1番古い記憶は、幼稚園の運動会だっただろうか。息子の俺よりもはしゃぐ姿と、その時の恥ずかしさを今でも覚えている。ホテルマンという仕事柄か働く時間が不定期で、家で共に過ごした記憶は正直あまりない。俺が小学生になったあたりからは単身赴任が増えたらしく、父と母と俺の3人家族だったはずの我が家は、ほぼ母子家庭の状態だった・・・と思っていた。
俺が小学生になる前にすでに両親が離婚していた事実を知らされるのは高校二年の冬休み。年が明けてテレビを見ていた俺に母親は突然質問をした。
「わたしとパパ、離婚してたの知ってたっけ?」
「はあ?いつ?」
「アンタが小学生になる前」
「だってうちに帰ってきてたじゃん・・・たまに」
「それはアンタの様子見に来たのと、生活費を渡すためよ」
世間の皆が思うほどの驚きはなかったし、むしろとても腑に落ちた。そもそも父親とそれほど仲が良かったわけでもないし、生活の水準が変わらないならどちらでも良いと思っていた。
そして俺が19歳になると、親父は15歳年下の職場の部下だった女性と再婚し、結構な近所に暮らしていることを本人の口から伝えられた。というのも養育費をとりっぱぐれないようにと大学卒業までは親父に親権を押し付けるという、責任感だけは強かった親父の性格を逆手にとった母親の巧妙な嫌がらせを親父が受け入れたため、なんとなく俺と親父の親子関係は継続していたからだ。
俺が20歳になると親父の家庭に子供が生まれた。いわゆる腹違いの弟だったわけだが、年齢差もあるし生活も共にしていないので、兄弟であることは間違いないが家族だとは考えていなかった。
学生時代は年に何回かは小遣いをせびりに親父一家の家庭にも足を運んでいたし、社会人になって親権を外してからも年に一度は顔を出すようにはしていた。親父の嫁さんは俺に引け目でもあるかのように丁寧に接してくれるし、腹違いの弟も俺の来訪をわりと喜んでくれていた。
そして今、親父の事は嫌いではない。父親としては苦手な部類の人間だったし、はっきり言って反りが合わなかったのだが、親戚のおじさんだと思うとなかなか人間味のある面白い男だからだ。そんな親父が昨日珍しく電話をかけてきて会いに来いというので、一応手土産にケーキなんぞを買って親父の家にやってきた。
「今日は大事な話があるんだ」
「うん、なんかあった?」
「実は、肺ガンになって早ければあと半年で死ぬ」
親父の隣では嫁さんが目に涙をためてうつむいているが、俺は何を思えばいいのだろう。親父が俺より先に死ぬのは当たり前だし、70代前半はまだ早いと言っても俺が親父と同じ歳に死ねば辻褄は合うというものだ。
「そっか、そのお知らせ?」
「いや、俺が死んだら一応この家とか相続があるだろ。お前も相続権があるわけだし、色々とだな・・・」
「ああ、いらないいらない。放棄する」
「いいのか?」
「俺とオジサンは親子だけど、家族じゃないから。この家に住んでお墓の世話する人がまとめて相続したらいいよ」
親父の嫁さんからは深く感謝されたし、親父も喜んでくれた。親孝行のつもりはない。面倒を背負いたくないだけだ。
その後、早ければ半年と言っていた命のロウソクは、親父の根性と現代医療の力で4か月先まで更新された。そして翌年の6月9日に親父のロウソクの灯は消え、今は葬儀場で親父の遺体と対面している。嫁さんも義弟もその場に集まった親戚もみな泣いているが、俺は死ぬまでしっかり生きた親父を立派だと思ったし、この旅立ちに涙は不要だと思っていた。火葬が終わって骨を拾いながら人の形ではなくなった親父を見て、そこでやっと親父がこの世界からいなくなったことを実感した。
<side-A>
「師匠」
「おう?」
「リッチーはあの棒で色々と援護するつもりっす。だから、師匠も後ろで俺らの援護お願いします」
「おいおい、僕は仲間外れか?」
「嫌だな違いますよ、師匠と一緒にしないでください。俺らがこいつら倒したあとに誰がリッチーを倒すんすか? 師匠しかいないでしょ」
「おっ、おう」
なんかさらっと嫌味も言われたけど、とりあえず、もう
カークと
「つまり、あれね。
「そうなりそうですね。とりあえず、こいつさっきからずっと俺のことにらんでんすよ」
レオは
「そういう事らしいですけど、リッチーさん。どうしますか?」
リッチーは即答しないと格好がつかないと思ったのか慌てて考える。そして、先ほどのチーム・レオの傍若無人の戦闘を目にする限り、チームプレーをされて不利なのは自軍なのではないかとの懸念を払拭できないまま結論を出した。
「わが
「という事らしいけど、ホントに大丈夫なの?レオさん?」
「
やれやれ、まあお手並み拝見といきますか。
ゆるぎないレオの信念に押され、ノーマンはとぼとぼと後方に下がりギターを構えた。それに呼応するかのように
「じゃあいっちょはじめましょうか」
開き直ったノーマンがギターをかき鳴らすと、それが開始の号令となって5対5の戦闘がはじまり、そしてノーマンは歌いはじめる。
「♪~」
自分よりも速い敵と戦ったことのないガウは
仲間が防戦を強いられている中で唯一レオだけが積極的に攻勢にでていたが、レオの攻撃は
「レオーッ。まず謙虚になれ。僕はそんな戦い方教えてないぞ」
無我夢中で攻撃を繰り返しながらも、ノーマンの声はレオの耳にはしっかり届いていた。
多分、戦う前から
そっか、俺は急に強くなったもんだから調子乗ってたんだ。師匠は相手を圧倒しろなんていつも言ってなかった。そうだ。自分より強い相手と戦う方法を、最初からいつもちゃんと教えてくれてたじゃないか。
『お前らに必要なのは格下を圧倒・駆逐するノウハウじゃない。格上相手に死ななない戦い方なんだ』
(自分たちより格上相手との戦い)
『お前は攻撃しなくていいんだよ。だから相手の攻撃がとどかない、もしくは、相手が攻撃できない安全圏を作り出せれば、死ぬ確率はぐーんとに下がる』
(死なないためにできること)
『自分より格上と遭遇した時はどうやったら勝てるかなんて考えるなよ。どうやったら敵が得意技が出せないか。どうやったら敵が戦いにくいか。場合によっちゃ、どうやったら逃げられるか。そんな風に考えるんだ』
(敵が
『格上も格下も関係ない、すべての敵に対してこの姿勢をくずすな』
(姿勢・・・)
たった1週間前に言われたばかりの教えがノーマンの声とともに頭の中でよみがえり、それを咀嚼することでレオの中でなにかが覚醒する。
「俺はもう勝つためには戦わない。お前ら相手に絶対に死なない」
<side-B>
レオの覚醒と覚悟は
「口ほどにもないな。もう守るばかりで反撃する気力も失ったか」
リッチーは
うちの弟子ども、なめんなよ。
そして間奏を終えたノーマンの歌が再びはじまった。
「♪~」
主であるリッチーの油断が伝播したように、
「
すると4体の
「お前だけは絶対に俺が倒す・・・来いよ」と挑発をする。
攻撃してこないレオに
やがて、リッチーはマッチアップが不利になった事に気づくと、何とか初めの布陣に戻そうとするが
「お前さえ倒せば」
なりふり構わず自ら襲いかかろうと謁見台から飛び出すと、複数の攻撃魔法をレオに向かって発動させる。すると、ノーマンは
「話が違うだろ骸骨。終わるまで黙って見てろよ」
リッチーが怯んでいるのがわかると、ノーマンはチーム・レオの方に振り返る。
「お前ら、そろそろ終わらせちゃいな」
そう言って首を掻っ切るジェスチャーからのサムダウンでニヤリと笑った。
ノーマンの言葉で気合が入ったのか
「・・・馬鹿な」
ノーマンからの拘束が解けたリッチーは両膝から崩れ落ちかけるが、
「まだだあ」
素早く立ち上がり指揮棒を振るい支援魔法を放つと、先ほどノーマンから闘魂注入された
しまった間に合わない。なんてえぐい技なんだ。
ノーマンが祈る思いで戦況を見つめていると、レオは体をねじり反動をつけ
「ぶっとばす」
覚醒したレオの新しい
そして、レオはそのまま勢い良く地面を転がり仰向けに倒れ、首のなくなった
「レオ、大丈夫か?」
「師匠、俺たちやりました。今、すごく気持ちいいっす」力のない声で答える。
「うんうん、良かったな。これ飲みな」そう言って
そして、レオを地面に寝かせ
なるほどね。そういうことか。
ノーマンは横になっているレオを見つめながら、そのネームタグを自分のポケットに入れた。
「まだだ・・・貴様らは生きては帰さない」
リッチーは呪詛を唱えるように唸りながら、ゆっくりと立ち上がる。
ノーマンは慌ててレオに駆け寄り、両肩を持って揺らす。
「おい、レオ。お疲れのところ悪いが、まだ寝るな。あの骸骨まだなんかやる気みたいだ」
レオはまだ回復しきっていない体を起こし
「まさか人間の子どもにここまで追い込まれるとはな。いいだろう私の真の力を見せてやる」
そう言って謁見台に立っていた側近の
「なるほどね。パイアお姉さまは
ノーマンはレオに
「一応、みんな回復しときなさい」
レオは笑いながらノーマンに言う。
「ほらね。だから師匠を温存しといて正解だったでしょ」
「ご
そう言ってニヤリと笑うと、
しっかし、また
「全員でかかってきても良いのだぞ、ノーマン」
「そう?じゃあ僕の手に負えない時は、遠慮なくアイツらに手伝ってもらうよ」
「その強がり、いつまで続くかな?」
両手の攻撃魔法を囮にしたフェイクだ。多分、本命は
ノーマンは指の魔法を無視して
まったく手ごたえがないな。おそらく、骨の破片を魔力で繋げた
ノーマンが
「
レオは安心して城壁に寄りかかり壁に座り込む。
「師匠。あの
ノーマンはレオを守るように立ち上がり、
「いつから気づいてたの?」
「多分、今となっては戦う前から意識はしてたような気がします」
「そんで今になって確信したの?」
「
「言ってたね」
「そのあとなんか寂しいっていうか、やり遂げたっていうか・・・」
「燃え尽きた?」
「それそれ。ほんと師匠は俺の気持ちをうまく察してくれるっすね」
レオよ、日本には『燃え尽き症候群』というのがあるんだよ。
「そんで、俺。このまま師匠と旅を続けられるのかな?って」
「この短い時間でそこまで考えちゃったの?」
「
なるほどね。レオはやっぱり子どもなんだよな。
「レオ・・・この骸骨をやっつけたら、お別れしよう」
「えっ?」
「いやずっとってわけじゃない。少し休んでさ、しばらくして、お前がまた旅したいってなったら、そん時にまた合流しようよ。何年後でもいいし、別に来週からだってかまわないさ」
「師匠・・・」
「それに、頼みたいこともあるんだ。お前にしか頼めないことが」
「なんすか?」
「それも骸骨やっつけたら改めてね・・・そんでさ、
「
「そしたらさ。最後にみんなで一緒にアイツをやっつけようか?」
師匠と旅を続けたい思いと冷めかかった情熱のはざまで葛藤している自分の気持ちに、どこまでも寄り添いどこまでも甘やかしてくれるノーマンの優しさに涙がこぼれる。
「
「じゃあ準備しといて」
ノーマンはウインクしてから
親父の骨を見た時に親父の死を確信するのはよくわかる。レオの中では生きているって可能性もあったわけだし、ショックなのも当然だよ。今は休息が必要だろうよ。何年後かに俺がこの世界にまだいるってのは嫌だけどね。永遠の別れってわけでもないだろうが、せめて旅の思い出くらいはプレゼントしてやるのが師匠と呼んでくれた者に対する礼儀だな。
ニヤリと笑って、下拵えをはじめる。
※【22曲目】は2022年8月2日に公開です。
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