【20曲目】ホネホネ・ロック

<intro>

 伏魔殿パンデモニウムの入り口という砦の城門が、ようやく視界に入るところまで到達した頃には、すでに日は沈みかけ辺りは薄暗くなっており、夜の支配がはじまっていた。

 「師匠、いよいよですね。一気に突入しますか」

 なんでこの子はこんなに好戦的なのかね・・・さっきまでゲロ吐いてたくせに。

 「いや、ここはコー四郎にひと肌脱いでもらう」

 と言っても、脱皮しろということではない。

 「コーザ?」

 「ここの大将の不死魔将リッチーは、パイアとバジリスクが倒されたのをすでに知ってると思うんだ。だのに何もしてこないってことは、僕たちをおびき寄せて返り討ちにするために準備してるはずなんだよね」

 「押忍オス?」

 「パイアお姉さまとバジリスクの野郎の時は単騎戦タイマンだったから良かったんだけど、ここは間違いなく集団戦になるから相手の戦力は把握しとかなきゃ」

 「でも骸骨兵士スケルトンって強いんすか?蛇型魔獣サーペントの時みたいにやっつけちゃえば」

 「己惚うぬぼれなさんな」レオの頭を軽くチョップする。

 「いてっ」痛くはないが肩をすくめるレオ。

 「蛇型魔獣サーペントとは事情が違うよ。もし、骸骨兵士スケルトンたちが生前の技を使ってきたら?」

 「あっ、冒険者か」

 「たしかに個々の骸骨兵士スケルトンは強くないかもしれんけどさ、冒険者ってのは自分たちより強い敵をチームワークで倒すわけだろ?」

 「そうですね」

 「そりゃ、お前たち個々と単騎戦タイマンして勝てる冒険者なんて、そうはいないとは思うよ・・・もはや」

 「そうなんすか?」

 「だって自称最強チームの連中がピギ夫とらえるのに罠まで仕掛けてどんだけ苦労したと思う?」

 「ああ、そういえば」

 「とにかくだ、相手が強かろうと弱かろうと初めて対峙する相手に油断はナシだ。今回だけじゃなくて、これからもずっとだよ。忘れないでくれ」

 「押忍オス

 「まず、コー四郎はリサイズでどこまで小さくできる?」 

 「やってみます」

 レオが戦譜スコアを開いてコーザに体躯伸縮リサイズを使うと、コーザの体は光を放ち体長50cmほどのサイズまで縮めることができた。

 「うん、上出来。レオはコー四郎と意思伝達コンタクトできるんだろ?」

 「できます」

 「範囲はどこまでいける?」

 「うーん。わかんないっすけど、この山の中くらいなら余裕っす」

 「よし。とりあえず僕の隠音ミュートをかけてやるから音はしない。なるべく敵の目に触れないように、よろしく頼むぞコー四郎」

 ノーマンはコーザをひょいと持ち上げ腕に巻き付けた。

 「俺はなにすれば?」

 「レオはコーザから得た情報をまとめろ。そんでガウ太、カー助、ピギ夫は僕と一緒に陽動だ。できるだけコー四郎から注意をそらすぞ」

 従魔サーヴァントの3匹は黙ってうなずいた。

 「というかさ、ずっと気にはなってたんだけど、なんでみんな体のサイズがデカくないの?お前らホントはもっと馬鹿デカいだろ?」

 「それが、体が大きくなると魔力の消費が激しいらしくて。こんくらいが丁度いいみたいっす」

 「そういうもんなんだ。まあたしかにデカい奴って、体力の消耗しょうもうが激しいからな」

 「デカい状態で技能スキルや魔法を使うと一気に疲れるんですって。だから相手が小さい時はこっちの方がいいみたいっす」

 「うんうん、わかった。とりあえず陽動作戦だからそんなに破壊力はいらんか。そのまま僕についてきなさい」



<side-A>

 3匹を従えて伏魔殿パンデモニウムの入り口の前で、ノーマンは腕組みしたまま仁王立ちで不死魔将リッチーを挑発した。

 「おいおいおい骨野郎。おめえのとこのパイアとバジリスクは、ぶっ殺してやったぞ。あーん。骨カチカチいわせて震えてる音がここまで聞こえてんぞ。ビビッてねーで出てこいや骨。ボッキボキに砕いて粉々にしてやんよー」

 普段が比較的紳士的で温厚なノーマンの言動に、少し引き気味の3匹に向かってノーマンが指示をだす。

 (お前らもやんだよ、目一杯バカにしてやれ)

 3匹は顔を見合わせ意地悪い笑顔を浮かべると、一斉に吠えはじめた。

 「ウオン、ウオン、ウオン」

 「カー、カー、カー」

 「フギー、フギー、フギー」

 俺にはわからんが魔物モンスターには伝わる罵詈雑言なんだろうな。

 

 不死魔将リッチー伏魔殿パンデモニウムの王座で足をくみ、その光景を水晶玉に映して眺めていた。

 「ふん、下らん。なんのつもりだ? というよりなぜ魔獣モンスターが人間に同行している?」やれやれといった調子で嘲笑する。

 この時点で不死魔将リッチー魔獣モンスターのサイズ感を見て、ピギーがパイアの息子だとは気づいておらず、野生の猪型魔獣カリュドーンだと思い込んでいた。結果として、それが敵の戦力の過小評価につながってしまう。

 側近の骸骨兵士スケルトンはあたふたした様子で『どうしますか?』というようなジェスチャーを見せるが、不死魔将リッチーは手を払う仕草で『何もしなくていい』と伝えた。


 「乗ってこないな。っていうか聞こえてないのかな?言葉責めがダメなら実力行使だな」

 そして、ノーマンが3匹に新たな指令を出すと3匹はウンウンとうなずき横一列に並び、ノーマンの「撃て」の合図で一斉に各々の攻撃魔法を連続で城門に向けて放った。そして、ノーマンも追撃とばかりに鎌鼬かまいたちをバンバン放つ。このの破壊力は凄まじく、頑丈な門扉に亀裂が入りガタガタと音をたてはじめた。さすがに不死魔将リッチーも少し焦ったようで、側近の骸骨兵士スケルトンに迎撃の命令を下す。すると、砦の城壁に複数の骸骨兵士スケルトンが現れ、魔法と弓矢でノーマンたちへ攻撃を開始した。

 「やっとノって来たな。あそこに骸骨兵士スケルトンが現れるってことは、城壁の上部は中につながってるってことだな・・・多分。よし、頼んだぞコー四郎」

 ノーマンはコーザを蛇団子にして城壁の上部へトルネード投法で放り込んだ。こうして、伏魔殿パンデモニウムの内部に侵入した新参者のコーザは身を隠しながら、献身的に伏魔殿パンデモニウム内の戦力調査を開始するのである。


 ノーマンたちは攻撃対象を城門から骸骨兵士スケルトンに切り替え、あっさりと撃退したのち再び城門への攻撃を再開した。

 ゆるいな。骸骨兵士スケルトンって弱いの?いやいや、ここを任された骸骨兵士スケルトンの冒険者が弱いのか。骸骨兵士スケルトンはガウ太たちみたいな魔獣モンスターと違って、元の素材によって強さに個体差があるかもしれんな。

 その様子を観察していた不死魔将リッチーは側近の骸骨兵士スケルトンに先発隊の倍の増援を指示し、自らは満を持して伏魔殿パンデモニウムの中央にある大広場へと足早に向かった。


 今は小蛇こへびの姿で人間の手下と化しているコーザだが、元は魔王軍の将帥であるバジリスクの右腕であり幹部クラスの魔物モンスターだった。ゆえに、伏魔殿パンデモニウムの内部構造については一応の知識があり、最小化した体とノーマンに施された隠音ミュートの効果もあって、誰にも気づかれないまま順調に伏魔殿パンデモニウムの中枢へと進んでいく。そして、コーザは意地の悪いバジリスクの部下だったせいか上司の意図を読む癖があり、ノーマンが欲しい情報が伏魔殿パンデモニウムの内部構造ではなく戦力、すなわち骸骨兵士スケルトンの数であることもしっかり察していた。

 (城壁へ向かった約40体の骸骨兵士スケルトンは主力にあらず。おそらく伏魔殿パンデモニウムで巡回警備していた兵をすべてそちらに向かわせた模様。主力は中枢にある大広場に集められていると思われる。今よりそこに向かい戦力の確認をしてきます)

 「コーザ、ありがとう。あまり深入りしないでいいからね。ザックリわかれば師匠は大丈夫だから」

 (かしこまりました。では)

 意思伝達コンタクトが一旦途切れる。

 レオと友人のように接する古参の従魔サーヴァント3匹とは異なり、コーザは上官かあるいは主人とせっするようにレオを扱っていた。それはコーザにとってのレオとの従魔契約アグリーメントは、殺される寸前まで追い込まれた恐怖体験からの絶対服従であったからだ。そして、このコーザという従魔サーヴァントが、のちにレオとノーマンにとって貴重な存在になる。



<side-B>

 「レオ、コー四郎からの報告は?」

 「城内警備の骸骨兵士スケルトンが約40体がこっちに向かってます」

 さっきのレベルで40体なら楽勝だな。

 「でもそれは主力じゃなくて、主力は一箇所に集められているらしいです。コーザが今そこに向かってます」

 「そっか、そしたらあまり深入りさせるな。ザックリ数だけ確認したらすぐに収容ハウスで戻してくれ」

 「ちゃんと言ってありますよ、任せてください」

 師匠の考えていることを先回りして行動できたことに、レオは少し嬉しくなった。


 増援の骸骨兵士スケルトンが到着した時には城門はすでに破壊されていて、剣や斧で武装した近接戦闘型の骸骨兵士スケルトン約30体が壊れた城門から登場すると、遠距離攻撃の残りの約10体は城壁の上から先ほど同様に魔法と弓矢での攻撃を仕掛けてきた。ノーマンは城壁の敵をカークにまかせガウとピギーと共に約30体の骸骨兵士スケルトンを迎え撃つかたちで戦闘を開始する。

 先ほどの骸骨兵士スケルトンよりはレベルが高いようで、☆5の従魔サーヴァント3匹が簡単に勝たせてもらえていない様子を見てノーマンは考える。

 冒険者ギルド最強って言われてた連中が☆5だろ?ってことはレオの親父とフィオの親父が参加したマレディ山討伐の冒険者は強くてもせいぜい☆4くらいだったはずだ。三匹こいつら相手にこの戦いっぷりは☆4じゃ説明つかんぞ。俺はあまり差は感じないが、三匹こいつらは苦戦しているようだし、しかもこれが主力じゃないとなるとまずいかもな。

 ノーマンの不安を知ってか知らずか、3匹が口裏を合わせたように急に攻勢に転ずると形勢が一気に逆転して、ほどなくして約40体の骸骨兵士スケルトンはすべて駆逐された。

 「あれ?この子たちなんで急に優勢になったの?」

 そんな疑問を感じながらもノーマンは城壁に手を当て音感探知ソナー超音波検査エコーを使ってこの伏魔殿パンデモニウムの内部構造を調べる。

 うーん、構造は簡単だな。様式美っつーか、特に誰かの侵攻に備えた施設じゃあないね。って、そりゃそうだわな。油断とは思わんよ。標高4000m近いこの山頂に人間が攻め込んでくるとは普通は考えんだろうよ。攻め込んできたって大概は連中は高山病なり疲労なりで使い物にならんだろうし。戦略拠点ってよりも公園?って感じの印象かも。


 マレディ山の山頂に置かれたこの伏魔殿パンデモニウムは、直径約2km・高さ約40mの城壁に円形で囲まれている。城壁には東西南北の四方それぞれに門がありノーマンたちが破壊したのは南門である。城壁の内側には直径約1.5km・高さ約30mの城壁、そしてさらに内側には直径約1km・高さ約25mの城壁、さらにさらにその内側に直径約500m・高さ20mの城壁の4つの城壁が同心円状に層をなしている。そして、この伏魔殿パンデモニウムの中央が大広場になっており、今まさに骸骨兵士スケルトンの主力が集められていた。伏魔殿パンデモニウムとして大きな建造物が露出していないのは山頂の山の部分内に地下施設が潜り込んでいるからである。それでも一応のシンボルとして一番内側の北側の城壁には高さ約50mの塔が建っている。不死魔将リッチーの王座はその塔の天守閣にあるが、塔自体に特殊な機能はない。


 「レオ、コー四郎はどうなってる?」

 「中央の大広場に到着して骸骨兵士スケルトンの数を確認してます」

 (想像していたよりも数が多いです。たしかに人型の骸骨兵士スケルトンはザックリ見て1000体くらいですが、元が動物か魔獣モンスターと思われる獣型の骸骨兵士スケルトンが500体くらいいます。北の塔の謁見台にいるのはおそらく不死魔将リッチーと側近の骸骨兵士スケルトン一体。それと、広場に整列する骸骨兵士スケルトンよりあきらかに上位種の大き目の骸骨兵士スケルトンが5体、不死魔将リッチーの背後に控えています。それと・・・)

 コーザがレオに報告をしているその時、500m離れた謁見台から放たれた氷針ニードルがコーザを襲う。コーザは体が小さかったおかげで間一髪で氷針ニードルの直撃こそ回避したが、かすり傷を負ってしまった。

 「そこの蛇。お前は魔獣モンスターだな?何をしている?」

 不死魔将リッチーがコーザのいる方を指さすと1500の軍勢が一斉に振り返り、最後列の数体がコーザを見つけ襲ってくる。

 「収容ハウス

 遠く離れた南門でレオが慌ててコーザを収容すると、コーザを襲った骸骨兵士スケルトンは蛇が忽然と姿を消したことを不死魔将リッチー意思伝達コンタクトで伝える。

 「消えただと?いたのは間違いないようだな。何の魔法だ、忌々しい」

 不死魔将リッチーは敵の接近を確信し立ち上がる。

 「敵は南より現れる。それを半包囲するように城壁の上から魔法と弓矢で攻撃、広場には魔獣モンスター部隊を前列に置き、数で押しつぶせ」

 声なき声で骸骨兵士スケルトンたちがそれに応じた。


 「おかえり、コー四郎。でかした、俺の腕に絡まれ」

 そう指示されると収容ハウスから再び呼び出されたコーザがノーマンの腕に巻き付く。

 「ケガしてるな、治療しとこう」

 そういってノーマンが治療薬を施すと、コーザはペコリと頭を下げて謝意をあらわした。ノーマンはその仕草が可愛く思えたのか、コーザの頭をツンツンと撫でてやった。

 「師匠、どうします?」

 「へっ?行くよ」

 「そうじゃなくて、どう戦いますか」

 確かにさっきの戦いを見る限りじゃ、これまでみたいに楽勝というわけにはいかんかもな・・・。

 「自分に考えがあるんすけど」

 でたでた。またはじまった。今度は何を言い出すんだろう・・・コワいなあ、もう。

 「聞かせておくれ」

 「さっきの戦い見てて・・・師匠、やっぱり骸骨兵士スケルトンあんまり強くないっす。っていうか、弱いっすよ」

 そこからノーマンはレオの発言の理由と作戦概要を聞かされ、呆然としてしまった。

 だからこいつは・・・どう考えてもキャラなんだよ。だいたい『レオナルド』って名前も『レオ』って愛称も、両親を失った少年ってところも全部っぽいじゃん。ただな、俺だって絶対に脇役のままじゃ、終わんねえからな。

 

「ククク、どんな手を使ってパイアとバジリスクを倒したかは知らぬが、対人間の最強集団たるわが不死骨旅団ノスフェラトゥに敵うはずもない。そして、蹂躙されたお前たちもわが軍に加わることになるのだ」

 不死魔将リッチーは口に出してそうは言ったものの、心の中では少し別の感情も抱いていた。

 思えば戦闘自体久しぶりだな。魔王陛下が前回の戦争を停戦して以来、冒険者の亡骸を収集して地道に戦力を増強してきたものの、厳命によって人間への大規模な侵攻は禁止され専守防衛に徹してきた。かといってここまで攻め込んでくる敵もなく、私は退屈していたのかもしれない・・・柄にもなく興奮している。一方的な虐殺になるのは分かり切ったことだが、退屈よりも幾分かはましだな。

 自慢の軍勢を運用する機会に恵まれなかった不死魔将リッチーは、親に買ってもらった新品の運動靴を履いて初めて外出する少年のように気持ちを高揚させていた。そして敵が現れるのを待ちきれずにいる不死魔将リッチーがわざと開けておいた南門から、2人の人間と2体の魔獣モンスターが現れる。

  「よくぞここまでたどり着いたな、人間。我が名はリッチー。名を聞こう人間」

 こいつはバジリスクの馬鹿と違って、油断しないタイプの将軍だな。

 「僕はノーマン、こっちはレオナルド。短い間になるとは思いますがどうぞお見知りおきを」

 ノーマンは先ほどの下品な挑発を詫びはしないものの、あえて丁寧にあいさつしてみせた。

 「魔王軍の将帥2人を倒した強き者よ、我が軍門に下るなら命は助けてやるがどうだ」

 うわっ、冷静だし合理的だわ。こういうタイプと駆け引きしたくないんだよな。

 するとレオが突然ぶち切れたように挑発的な怒声をリッチーに浴びせる。

 「ごちゃごちゃうるせーぞ、この骸骨野郎。師匠がお前の下につくわけないだろ」

 そう言って全力の投擲ジャヴェリンをリッチーに向かって放った。すると、轟音をたてリッチーに襲いかかる槍を、後方に控えていた大型の骸骨兵士スケルトンの内の1体が円盾バックラーで払いのける。不死魔将リッチーは二人の人間の懐柔をすぐに諦め、むしろ望んでいたに心を躍らせながら無言で右手に持った指揮棒を振った。そして、それが戦闘開始の合図となり半包囲に陣を敷いた不死骨団ノスフェラトゥは、一斉にノーマンたちにむかって進軍をはじめる。

 「レオさん。もうお前の作戦通りにやるしかないからな」

 「押忍オス、大丈夫です。俺たちに任せてください」

 レオはピギーに乗って敵左翼、ガウは入り口で倒した骸骨兵士スケルトンが落とした大剣ブロードソードを左右に1本ずつくわえ敵右翼、コーザは体を最大に体躯伸縮リサイズして左側の城壁部隊、カークは上空から右側の城壁部隊に攻撃を開始した。そして、ノーマンはギター弾きながら歌でレオたちのフォローに回る。

 

 『あの程度なら、一体一体とまともに戦う必要はないっす。俺はピギーに乗って、刃幕シールドしながらピギーの猛進ラッシュで敵が集まってるところに突撃。ガウはこうやってこの剣を口にくわえて疾風ゲイルで敵陣の中を駆け抜ける。カークは城壁の外から右側の城壁兵を射程外から遠隔攻撃。コーザは左側の城壁を最大のサイズで前進すればいいっす。敵は数と連携で真面目に戦闘を仕掛けてくるしかないけど、それに付き合う必要はないっすよ。師匠は後ろで歌でもうたって、俺らの援護してください。一気に雑魚を蹴散らしてから、本当の主力メインと真面目に戦うってのはどうでしょう?』

 作戦を聞いた時は『究極の己惚うぬぼれ』だなんて思ったけど・・・なんでしょう?この見事なハマり方。こいつらホント恐ろしい連中チームだな・・・。

 作戦通りに骸骨兵士スケルトンの大軍がみるみる数を減らしていく様を眺めながら、ノーマンは改めてレオとその従魔サーヴァントの破壊力に呆れていた。


 『だって、さっき城壁の骸骨兵士スケルトン相手に、アイツら苦戦してたじゃん』

 『コーザが気づかれないための陽動って言ったの、師匠じゃないっすか』

 『苦戦してるだったってこと?』

 『だって、あっさりと倒したら陽動にも時間稼ぎにもならないでしょ?』

 『・・・』

 『みんな意思伝達コンタクトでつながってますから、コーザの得た情報は共有されてます。だから、情報が集まるまでは倒さないようにって』

 『そ、そ、そういうことね』

 だから突然、優勢になったんだ。

 

 決して骸骨兵士スケルトンが弱いわけではない。真面目に従魔サーヴァント一体 ごとに向かい合って戦闘すれば、いかにレオの従魔サーヴァントたちが強かろうと、討伐できないまでも抑えられない相手ではないはずだった。しかし、右の城壁では上空のカークに届かない攻撃をむなしく続ける骸骨兵士スケルトンを、黒羽嵐撃フェザートルネードが駆逐していく。左の城壁では最大のサイズになったコーザのただの直進が、その体積で骸骨兵士スケルトンを次々と城壁から押し出していく。レオ&ピギーの合体技『刃幕シールド猛進ラッシュ』はエネルギーの塊となって骸骨兵士スケルトンの集団を次々と粉砕し、大剣ブロードソードをくわえたガウの『翼刃ブレード疾風ゲイル』はすり抜けたすべての敵をぷたつに切り裂いていく。もはや蹂躙じゅうりんとしか呼べないチーム・レオの攻勢を歌でフォローしながら、ノーマンは哀れな不死魔将リッチーを観察していた。

 何が起きている。我が不死骨旅団ノスフェラトゥが、こんな馬鹿なことが。我が戦術は?我が戦略は?なぜバジリスクの配下だった奴が・・・パイヤの息子が、あちら側にいる?」

 想像だにしなかった展開に不死魔将リッチーはパニック状態になっていた。正気を失っていたといっても過言ではない。どんなに強い冒険者だったとしても人間が相手であれば数で押し切れると考えていたが、敵には魔獣モンスターがいた、しかも上位クラスの魔獣モンスターが4体。それがすべての計算を狂わせてしまったのだ。とどのつまり魔王軍というのは人間を倒すための軍隊であって、魔獣モンスターを倒すため軍隊ではない。不死骨旅団ノスフェラトゥの残数が500体を切ったあたりで我に返り冷静さを取り戻したリッチーは、指揮棒を振りながら骸骨兵士スケルトンを操作して必死に戦況を立て直そうとしたがもはや手遅れだった。

 同情するよリッチー閣下、人間の軍隊にあんなやつらいないもんな。あんたは間違っちゃいないし無能でもない。しっかり軍備を整え、ちゃんと立案し実行していた。立派な指揮官だし立派な将帥だよ。人間との戦争だったらアンタのカワイイ骸骨兵士スケルトンたちは間違いなく大活躍したことでしょう。

 謁見台で呆然とするリッチーを大広場の中央から観察していたノーマンは、敵ながらあまりに不憫なリッチーに同情と憐れみの眼差しを向けざるを得なかった。


 ほぼ壊滅状態の不死骨旅団ノスフェラトゥを見つめながら、リッチーは気持ちを切り替えた。

 軍勢はまた時間をかけて作り出せばいい。ただこいつらだけは絶対に生かしては帰さない。そうだ、こいつらを我が軍勢の手駒にしよう。そうすれば、新生・不死骨旅団ノスフェラトゥは魔王軍最強となるだろう。

 

 ・・・って思ってる雰囲気だな。

 ノーマンはリッチーを観察しながらそう思う。


 リッチーは自身のプライドを守るためか勝算があるのか、精一杯の虚勢を張って強者の側の態度を崩さないまま、謁見台からノーマンたちに余裕の拍手とともに語りかける。

 「やるじゃないか人間。ここまでとはね。これならあの成り上がりどもが倒されたのも道理」

 「成り上がり?」

 「パイアもバジリスクも魔物モンスターから成り上がって魔人マイトとなった者たちよ。しかし、我は違う。生まれついての魔人マイト・・・奴らとは違うのだよ」

 なるほど、魔獣モンスターから魔人マイトに昇格するのもいれば、根っからの魔人マイトもいるわけだな。

 「なあ、大将。骸骨兵士スケルトンたちは元冒険者なんだろ?レベルは元のまんまなのか?」

 「いや、我に従属することで生前よりも強化される」

 教えてくれるんだ、意外といい奴だな。でもそれなら確かに負けるとは思わんな。

 「だからノーマン。お前たちを殺し、今よりさらに強くなったお前たちを従え、我が不死骨旅団ノスフェラトゥを再興させてもらう」

 そう言ってリッチーが指揮棒で合図をすると、不死魔将リッチーの背後に控えていた5体の骸骨兵士スケルトンが広場に降り立った。

 「こ奴らは従属させた時、飛躍的にレベルが上がった骸骨兵士スケルトンの希少種『髑髏騎士スカルナイト』だ」

 「強いの?」

 「当然だ。わが最高傑作にして魔人マイト級の戦士たちよ」

 げっ、パイアやバジリスク級ってことか?あれ×《かける》5体はキビシーぞ。

 「師匠」

 少しだけ焦っているノーマンにレオが歩み寄り、不死骨旅団ノスフェラトゥを全滅させた従魔サーヴァントたちも集まってくる。

 「みんな、お疲れちゃん」

 「こいつらとらせてください」

 でたでた。また、はじまったよ。魔人マイト級だよ? マジ? いけんの? 今度こそ己惚うぬぼれじゃない?・・・チーム・レオと髑髏騎士スカル・ナイトの5対5の戦いか。

 「うんうん、もう好きにしたらいいよ」

 後始末はどうせ俺がやればいいんだろ。

 もう完全に少年漫画ノリになってしまった展開に呆れてい、少し投げやりになったノーマンはレオの提案を諦めたように受け入れた。


 さとこ。お前は、あんまり無茶しない子に育つといいな。

 


※【21曲目】は2022年7月26日に公開です。

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