【18曲目】ブラック/ホワイト
<intro>
ノーマンとパイアは見つめ合い、お互いニヤリと笑う。
「いくよ」
「どうぞ・・・お姉さま」
勝負は一瞬の出来事だった。
しかし、そんな事は想定内のノーマンは
パイアの背後に降りて背中から斬りつけるのか、あるいは正面に降りてとどめを刺すのか、ノーマンは一瞬だけ迷ったがパイアの正面に降りる方を選択しバク転して着地する。
パイアは荒い呼吸でゆっくり顔を上げ、静かに近づいてくるノーマンの姿を視界にとらえた。
「お姉さま・・・これでいいんだよね?」
さみしそうな表情で尋ねるノーマンと目が合うと、パイアはニヤリと笑う。そして、ノーマンが二刀を上段からクロスして振り下ろすと、X
「ありがとよ、ノーマン。お前が背後から切ったら、死んで化けて出てやるつもりだったよ」
お姉さまの幽霊ならウェルカム・・・いや、
「僕には・・・あなたの命を奪う責任があるから。目を
この世界で僕は、この
パイアは声を絞り出す。
「虫のいい話かもしれんが・・・願いを聞いてくれるか?」
「なあに?」
「あの子らを・・・見逃してもらいたい」
あの子ら?ああ、遠巻きで見ている7体の
「あの子らが襲ってこなければ、僕からは仕掛けない・・・約束するよ」
その答えに安堵の表情を浮かべると、瀕死のパイアは残された最後の力を使って大声で叫ぶ。
「お前たち。この人間に今すぐ復讐しようなんて馬鹿なことは考えるんじゃないよ。コイツは強い。今のお前たちじゃ返り討ちにあうだけだ。
おいおいおい、将来的には
ノーマンの危惧をよそに7体の
「もうすぐ元の姿に戻る・・・この姿は見納めだよ」
「そりゃ残念」
「最後の
ノーマンは片膝をついて両手で手を握る。
「光栄だよ・・・お姉さま」
「面白かったよ・・・」
パイアが最後にそう言って目を閉じると、光を放っていたパイアの体は巨大な猪の姿に戻っていく。そして、ノーマンは巨大な猪が復元されるまで、その光景を何も言わずにただ眺めていた。しばらくして復元が終わると、ノーマンは先ほどまで美女だった巨大な猪の亡骸に寄りかかり、ズルズルっと滑りながら地面に腰を下ろし煙草に火をつける。この時、激しい戦闘があったにも関わらずその場から逃げ出すことなく、一部始終を見ていた小鳥が北東の方角に飛び去って行った。ノーマンはその小鳥をぼんやり見つめながら
「しんどかった・・・」
<side-A>
ナザブ村の跡地に向かう道中、レオはノーマンから密命を受けていた。
「いいかい、フィオは先に取り返す。主が僕との戦闘に夢中になっている間に、ガウ太とカー助とお前でフィオをカトリヤ村まで運んでくれ」
「ピギーはどうしますか?」
「ピギ夫は念のため残しておいてほしい」
「
ズルってお前、責任の一旦はお前にもあるんだぞ。
「僕が足止めするから大丈夫。というか、ちゃんと倒すから」
「そうですよね。フィオを村に運んだら、ちゃんと戻ってきます」
「うんうん、そうだね。ジョゼさんにもよろしく言っといてくれ」
「
レオが仮眠から目を覚ますと、目の前ではピギーとフィオが眠っていた。その場には自分たち以外の誰もおらず遠くの方で戦闘がはじまっている様子だったので、チャンスとばかりにガウとカークを呼び出す。ピギーを起こしその場に待機することと、ノーマンの言うことを聞くことを命じ、フィオは起こさないままカトリヤ村に向かった。
やっぱり師匠の歌ってすごいんだな。
そんなことを考えているうちに思ったより早くカトリヤ村に到着すると、村長でありフィオの祖父であるジョゼがレオたちを出向かえた。
「レオ君。フィオは?」
「寝てるだけ・・・みたいです。起こしてあげてください」
「フィオ、フィオ」
「お爺ちゃん?おはよ・・・っていうかここはカトリヤ村?なにがあったの?」
「レオ君が連れてきてくれたんだよ」
「レオ・・・主たちはどうなったの?・・・ノーマンさんは?」
「今、師匠が主と戦闘中だよ」
実際のところ、この時点ですでに戦闘は終了していたが、当然それを知る術はなかった。
「レオ、あなたたちって何者なの?」
レオは答えが見つからなかったので、笑顔でごまかした。
「俺、もう行かなきゃ。フィオ、ジョゼさん。師匠は絶対に負けないから、この村はもう大丈夫だよ。それと、北側の農園ね多分使えるようになるはずだから調べてみて」
「レオ、わたしは冒険者は嫌い。でもあなたたちは嫌いじゃないよ」
レオはニコリと笑う。
「フィオ、ありがとう。また来るよ、じゃあね」
そう言い残すと返事を待たずレオたちは村を後にした。レオにとっては村のことより、ノーマンの戦闘の行方の方が気がかりなのだ。フィオを運んだ時には気を使って速度を落としていたが、帰り道は容赦なくガウの
何かを察知したピギーが先ほどまでノーマンと母親が死闘を繰り広げた場所にむかうと、母親の亡骸のとなりで少し困惑した表情を浮かべたノーマンが煙草を吸っていた。
「フギー(はやかったね)」
「おうピギ夫・・・見ての通りだ。お母さん強かったぞ」
「フギー(しってる)」
「なんか・・・すまない」
ノーマンは思わず頭を下げる。
「フギー(あんたのほうがつよかった)、フギー(それだけだ)」
ハードボイルドだなあ、ピギ夫。あるいは
ピギーのドライさに感心しているとレオたちが戻ってきた。
「師匠、勝ったんですね。さすが師匠っす」
笑顔で駆け寄ってくるレオ。
「おかえり。ご苦労さんだったね」
「フィオがありがとうって言ってましたよ。あと、俺らのことは嫌いじゃないって」
「そかそか、それは良かった」
「あと、主たちに荒らされた農園、作物が芽吹いてました。やっぱり師匠の歌の効果ですか?」
「まあ多分ね。そういうのが
「多分って。師匠もたまにはちゃんと
なんか急に口うるさくなってきたな。
「で、ピギーと何してるんですか。主のアイテム化は?」
「あっ、それそれ。ピギ夫のお母さんアイテム化できないのよ。ピギ夫なんか知ってる」
「フギー・・・(たぶん・・・)」
ピギ夫の説明によれば、
「じゃあこの亡骸どうすればいいのよ?」
「アイテム化じゃなくて、
「レオ、お前・・・頭いいね。それやってみよう」
ノーマンは
「おー、レオのお手柄だ」
そう言ってレオの頭をワシャワシャすると、少し照れながらレオが尋ねる。
「なんて記載されるんすかね?」
「うん、見てみよ」
・
・
・
・
あらーちゃんと分別してくれるのね。
「ねえ師匠、ピギーがお母さんの肉を食べたいって」
「えっ、どういうこと?」
「
レオは困惑した表情を浮かべ伝える。
「ああ。あるね、あるある。そういうの人間でも」
「えっ、人間も?」
「僕のいたところで大昔にさ、死んじまった親とか長老とか英雄の肉や骨を食べて、知識や魂を自分の体に取り込む・・・みたいな慣習がある種族がいたらしい」
「フギー(そうそう)」
「なるほどねえ。じゃあちょうど腹もへったし、みんなで供養がてらピギ夫のお母さんの魂を取り込みますか」
「・・・
ノーマンとレオは大量にある
「師匠。戦う時に歌うのって、やっぱり何か意味あるんですか?」
「あると思う。具体的なのは
「じゃあパイアさんとの戦いでも?」
「途中でやめちゃったけど、効果はあったと思う」
「師匠の歌って・・・ズルっすね」
「なんでだよ?」
「だってそれってほぼほぼ
「そういえばそうだな・・・」
もしかすると案外、
「でも、歌なしでも師匠が勝ってましたよ」
「あんまり買いかぶるなよ」
肉を切り分けるだけの食事の準備が整うと、ノーマンは皆に合掌をさせパイアへの感謝とパイアの冥福を祈り食事をはじめた。
「うまいっ」レオのテンションが上がる。
おいおい、不謹慎じゃないかな。一応、ピギ夫の母親だぞ。
「フギー(うまい)」
「カー(なにこれ)」
「ウオン(さいこう)」
まあお前らがそれでいいならいいんだけど・・・うん、たしかに美味い。というより食べたそばから力がみなぎる。
<side-B>
「師匠、大変です」慌てるレオ。
「どした?」慌てないノーマン。
「
しまった、肉食う前にチェックしとくべきだった。肉の効果か戦闘の結果かデータを取り損ねた。
「全員?」
「全員」
「これってディオさんが言ってた
それがあったか。俺はこの2日間で
「なんか
「ガウの
「あとは?」
「みんな毒に少し耐性がついたみたいです」
「お前も?」
「俺もです」
言葉を軽く見失った。
「☆5って、あの最強チームと同じってことですよね?」
「まあ彼らは★5だったらしいから、実質まだ彼らの域には達していないけど」
「そっかあ・・・」
「いやそれでも、お前一週間で一気にここまで来たんだから恐ろしい成長だよ」
「師匠のおかげっすね」
違うよなあ多分。こいつ実はやっぱり勇者候補なんじゃね? 人生を自分を主人公にした物語のようなものだとするなら、明らかにこいつの方が主人公っぽいんだよな。実は俺はこいつの
「まあとにかくこれなら・・・」
「マレディ樹海ですね」
台詞まで取られた。
「う・・・うん。いく?」
「
ピギ夫の話では、樹海中央にそびえ立つマレディ山は山そのものが魔王軍の砦・
1人は下層の番人『
ピギ夫の偏見に満ちた感想は間違いなくお姉さまの影響だろうな。あの人は豪快で筋が通っていて堂々としていて、変な話『正義の味方』みたいな人だったもんな。この2人の
とにもかくにも、おそらくお姉さまの巨体が木々を踏み倒して作ったであろう獣道を辿っていくと、マレディ山の中腹に入り口っぽいのがあるのは見えてきた。というか、ここまで
「レオ、ピギ夫は隠そう」
「
「入口付近は蛇がたくさん出てくるらしいけど、毒蛇だよね?」
「フギー(ああ)」
「まあ、おまえら毒耐性あるから大丈夫か」
「はい、師匠と俺らなら大丈夫です」自分の胸を叩く。
「ずいぶん自信あるんだな」
「って、ピギーが言ってますから」
「あっそういうことね、じゃあ少しハードル上げるね。俺は見物してるよ」
「試練っすね」
なんで嬉しそうなんだよ。
レオがピギーを
「歌でフォローしてくれるんですか?」
「暇つぶしだよ。やばかったら助けるから安心してのびのび戦ってらっしゃい」
「
「♪~」
ノーマンの歌におびき出されたように
「誰が一番多く倒したか、競争しようぜ」
レオが楽しそうに提案すると、
「ウオン(いいよ)」「カー(もちろん)」
と、2匹の
「じゃあ、よーい、ドン」
3人はバラバラに散って、それぞれの戦いをはじめる。
こいつら己惚れすぎじゃない?まったく・・・。
ノーマンは慌ててギターをしまい
コイツら・・・もうおっかないよ。ガウ太もカー助も殺したそばから食ってるし。
戦っているというよりも駆除しているという方がしっくりくる戦況に、ノーマンは軽く引いた。というのもノーマンの見立てでは『
考えてみればこのマッチメイクは、ハナから相手にとって圧倒的に不利だった。そもそも
襲撃してくる
「レオ、油断するな。デカいのがくるぞ」
「
レオが感覚を研ぎ澄まし大きな気配を感じ取り槍を構え襲撃に備えると、ガウとカークもレオを守るようにレオの前方に陣を敷く。おそらく駆逐された
そして、
そして、レオはすかさずその長い階段を駆け上がり喉元に槍を刺すと、そのまま重力に任せて落下をしながら
ノーマンは戦闘態勢をとったままあんぐりと口を開けながら、その残酷な光景をただ見ていることしかできなかった。
なんだよこれ。連携がえぐすぎるだろ。
するとレオは素早く頭部に近づいて
まさか、アイツもしかしてヤル気?
レオは
「俺の仲間になるなら助けてあげる」
レオと
「ゴォー」
最後の力を振り絞った力無い呼気で
レオはノーマンの方にクルっと振り返り笑顔で手をふる。
「師匠。仲間が増えました」
ノーマンは呆れたように
「名前は?」
「『コーザ』っす」
「やっぱ鳴き声?」
「はい」
「あのー、レオさん。なんでこの子と
「え?強かったから」
ボコボコにしといてよく言うわ。
「でも君らの圧勝だよね?」
「嫌だなあ、師匠。3対1だったから勝ったんすよ。1対1ならガウやカークと同じくらい強いっすよ」
「あはは、なるほどね。あの連携は最初から決めてたの?」
「違うっすよ。なんか、俺が思ったようにガウとカークが動いてくれたり、ガウとカークがこうしたいってのがわかったりしたんです」
「
「そうなんすかね」
レオは特に興味も示さず、あっけらかんと簡単に言う。
「う、うん。多分そうだと思うよ」
「師匠。俺・・・なんか、もっと強い仲間をたくさん集めて、リオウ山脈の
「そ・・・それはお前の好きなようにしたらいいよ。ははは」
「ははは」
今、確信した。こいつは勇者候補なんかじゃない。強い
ノーマンは新たに誕生した悩みの種を抱えつつ、マレディ山中腹にある
※【19曲目】は2022年7月12日に公開です。
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