【18曲目】ブラック/ホワイト

<intro>

 ノーマンとパイアは見つめ合い、お互いニヤリと笑う。

 「いくよ」

 「どうぞ・・・お姉さま」

 勝負は一瞬の出来事だった。猛進ラッシュで迫ったパイアは両手のカタールの刃を伸ばし、左右からハサミのようにノーマンを狩り取ろうとする。もし、ノーマンが山刀マチェットで受けたとしても、上に飛んで回避したとしても、後ろに下がって回避したとしても、パイアは切り札にとっておいた兜の牙でノーマンの心臓を貫くつもりでいた。

 しかし、そんな事は想定内のノーマンは山刀マチェットを逆手に構え、パイアの攻撃で受けた衝撃をそのまま回転運動に変えて、パイアの両肩を両足で強く踏みつける。すると、パイアの両鎖骨は折れ腕はダラリと下がり、踏みつけられた衝撃を支えきれず地面に両膝をついてしまった。

 パイアの背後に降りて背中から斬りつけるのか、あるいは正面に降りてとどめを刺すのか、ノーマンは一瞬だけ迷ったがパイアの正面に降りる方を選択しバク転して着地する。

 パイアは荒い呼吸でゆっくり顔を上げ、静かに近づいてくるノーマンの姿を視界にとらえた。

 「お姉さま・・・これでいいんだよね?」

 さみしそうな表情で尋ねるノーマンと目が合うと、パイアはニヤリと笑う。そして、ノーマンが二刀を上段からクロスして振り下ろすと、X文字もんじに斬りつけられたパイアはそのまま前方に倒れこんだ。まだ息のあるパイアは残りの力を振り絞り、ゆっくりと寝返りをうって仰向けになる。

 「ありがとよ、ノーマン。お前が背後から切ったら、死んで化けて出てやるつもりだったよ」

 お姉さまの幽霊ならウェルカム・・・いや、魔将サージェントの亡霊なんてもはや呪いに近いかもな。

 「僕には・・・あなたの命を奪う責任があるから。目をそむけちゃ、ダメかな?ってね」

 この世界で僕は、このクロスからは逃げてはいけない。

 パイアは声を絞り出す。

 「虫のいい話かもしれんが・・・願いを聞いてくれるか?」

 「なあに?」

 「あの子らを・・・見逃してもらいたい」

 あの子ら?ああ、遠巻きで見ている7体の猪型魔獣カリュドーンたちの事か。

 「あの子らが襲ってこなければ、僕からは仕掛けない・・・約束するよ」

 その答えに安堵の表情を浮かべると、瀕死のパイアは残された最後の力を使って大声で叫ぶ。

 「お前たち。この人間に復讐しようなんて馬鹿なことは考えるんじゃないよ。コイツは強い。今のお前たちじゃ返り討ちにあうだけだ。仇討かたきうちはしっかり鍛えて、もっと強くなってからだよ・・・行きな」

 おいおいおい、将来的には復讐リベンジさせる気かよ。あの猪型魔獣カリュドーン7体がみんなお姉さま並みに成長して、まとめて襲ってきたら・・・想像するだけでゾッとするわ。

 ノーマンの危惧をよそに7体の猪型魔獣カリュドーンは、マレディ樹海の方へと消えていく。すると、パイアの体がうっすらと光りはじめ、ノーマンの方へ視線を向けた。

 「もうすぐ元の姿に戻る・・・この姿は見納めだよ」

 「そりゃ残念」

 「最後のおとこが・・・あんたで良かった」

 ノーマンは片膝をついて両手で手を握る。

 「光栄だよ・・・お姉さま」

 「面白かったよ・・・」

 パイアが最後にそう言って目を閉じると、光を放っていたパイアの体は巨大な猪の姿に戻っていく。そして、ノーマンは巨大な猪が復元されるまで、その光景を何も言わずにただ眺めていた。しばらくして復元が終わると、ノーマンは先ほどまで美女だった巨大な猪の亡骸に寄りかかり、ズルズルっと滑りながら地面に腰を下ろし煙草に火をつける。この時、激しい戦闘があったにも関わらずその場から逃げ出すことなく、一部始終を見ていた小鳥が北東の方角に飛び去って行った。ノーマンはその小鳥をぼんやり見つめながら溜息ためいき交じりに煙を吐き出すと、一気に疲労感に襲われついつい本音がこぼれる。

 「しんどかった・・・」

 

<side-A>

 ナザブ村の跡地に向かう道中、レオはノーマンから密命を受けていた。

 「いいかい、フィオは先に取り返す。が僕との戦闘に夢中になっている間に、ガウ太とカー助とお前でフィオをカトリヤ村まで運んでくれ」

 「ピギーはどうしますか?」

 「ピギ夫は念のため残しておいてほしい」

 「押忍オス。でも、もしが師匠のに気づいたらカトリヤ村に攻め込んできませんか?」

 ってお前、責任の一旦はお前にもあるんだぞ。

 「僕が足止めするから大丈夫。というか、ちゃんと倒すから」

 「そうですよね。フィオを村に運んだら、ちゃんと戻ってきます」

 「うんうん、そうだね。ジョゼさんにもよろしく言っといてくれ」

 「押忍オス

 レオが仮眠から目を覚ますと、目の前ではピギーとフィオが眠っていた。その場には自分たち以外の誰もおらず遠くの方で戦闘がはじまっている様子だったので、チャンスとばかりにガウとカークを呼び出す。ピギーを起こしその場に待機することと、ノーマンの言うことを聞くことを命じ、フィオは起こさないままカトリヤ村に向かった。

 魔物モンスターに荒らされた土地は魔物モンスターの発する魔気オーラの影響で土壌が汚染される。魔物モンスターのレベルにもよるが、猪型魔獣カリュドーンに荒らされた農園はもはや絶望的な汚染にさらされるといっても過言ではなかった。しかし、今回の事で甚大な被害にあったはずの農園はすでに農作物が芽吹いており、レオは土壌が回復している様子を確認しながら走る。

 やっぱり師匠の歌ってすごいんだな。

 そんなことを考えているうちに思ったより早くカトリヤ村に到着すると、村長でありフィオの祖父であるジョゼがレオたちを出向かえた。

 「レオ君。フィオは?」

 「寝てるだけ・・・みたいです。起こしてあげてください」

 「フィオ、フィオ」

 「お爺ちゃん?おはよ・・・っていうかここはカトリヤ村?なにがあったの?」

 「レオ君が連れてきてくれたんだよ」

 「レオ・・・たちはどうなったの?・・・ノーマンさんは?」

 「今、師匠がと戦闘中だよ」

 実際のところ、この時点ですでに戦闘は終了していたが、当然それを知る術はなかった。

 「レオ、あなたたちって何者なの?」

 レオは答えが見つからなかったので、笑顔でごまかした。

 「俺、もう行かなきゃ。フィオ、ジョゼさん。師匠は絶対に負けないから、この村はもう大丈夫だよ。それと、北側の農園ね多分使えるようになるはずだから調べてみて」

 「レオ、わたしは冒険者は嫌い。でもあなたたちは嫌いじゃないよ」

 レオはニコリと笑う。

 「フィオ、ありがとう。また来るよ、じゃあね」

 そう言い残すと返事を待たずレオたちは村を後にした。レオにとっては村のことより、ノーマンの戦闘の行方の方が気がかりなのだ。フィオを運んだ時には気を使って速度を落としていたが、帰り道は容赦なくガウの疾風ゲイルで大地を駆け抜ける。

 

 何かを察知したピギーが先ほどまでノーマンと母親が死闘を繰り広げた場所にむかうと、母親の亡骸のとなりで少し困惑した表情を浮かべたノーマンが煙草を吸っていた。

 「フギー(はやかったね)」

 「おうピギ夫・・・見ての通りだ。お母さん強かったぞ」

 「フギー(しってる)」

 「なんか・・・すまない」

 ノーマンは思わず頭を下げる。

 「フギー(あんたのほうがつよかった)、フギー(それだけだ)」

 ハードボイルドだなあ、ピギ夫。あるいは魔獣モンスターの間では弱肉強食が常識なのかな?

 ピギーのドライさに感心しているとレオたちが戻ってきた。

 「師匠、勝ったんですね。さすが師匠っす」

 笑顔で駆け寄ってくるレオ。

 「おかえり。ご苦労さんだったね」

 「フィオがありがとうって言ってましたよ。あと、俺らのことは嫌いじゃないって」

 「そかそか、それは良かった」

 「あと、たちに荒らされた農園、作物が芽吹いてました。やっぱり師匠の歌の効果ですか?」

 「まあね。そういうのが吟遊詩人バードの役割なのかもね」

 「って。師匠もたまにはちゃんと戦譜スコアで自分の能力を把握した方がいいっすよ」

 なんか急に口うるさくなってきたな。

 「で、ピギーと何してるんですか。のアイテム化は?」

 「あっ、それそれ。ピギ夫のお母さんアイテム化できないのよ。ピギ夫なんか知ってる」

 「フギー・・・(たぶん・・・)」

 ピギ夫の説明によれば、魔人マイトクラスの魔物モンスターはアイテム化できないとのこと。魔人マイト状態で使っていた装備品はすべて魔獣モンスターの肉体が変化したものらしく、死んでしまうと魔獣モンスターの肉体に戻るらしい。

 「じゃあこの亡骸どうすればいいのよ?」

 「アイテム化じゃなくて、魔獣モンスターの死体として所持品アイテム欄に入れらんないんすかね?」

 「レオ、お前・・・頭いいね。それやってみよう」

 ノーマンは戦譜スコアを構えアイテム化ではなくこの亡骸そのものの収納を試みる。するとあっさりと亡骸は光になって戦譜スコアに消えた。

 「おー、レオのお手柄だ」

 そう言ってレオの頭をワシャワシャすると、少し照れながらレオが尋ねる。

 「なんて記載されるんすかね?」

 「うん、見てみよ」

 ・大猪魔将パイアの肉

 ・大猪魔将パイアの骨

 ・大猪魔将パイアの毛皮

 ・大猪魔将パイアの臓物

 あらーちゃんと分別してくれるのね。戦譜スコアってばホント便利。肉は食料、骨と毛皮は装備品の材料で臓物って食料?薬品?まあフィリトンついたら何かわかるか。

 「ねえ師匠、ピギーがお母さんの肉を食べたいって」

 「えっ、どういうこと?」

 「魔獣モンスターは自分より強い親が死ぬと、その肉を食べるみたいで」

 レオは困惑した表情を浮かべ伝える。

 「ああ。あるね、あるある。そういうの人間でも」

 「えっ、人間も?」

 「僕のいたところで大昔にさ、死んじまった親とか長老とか英雄の肉や骨を食べて、知識や魂を自分の体に取り込む・・・みたいな慣習がある種族がいたらしい」

 「フギー(そうそう)」

 「なるほどねえ。じゃあちょうど腹もへったし、みんなで供養がてらピギ夫のお母さんの魂を取り込みますか」

 「・・・押忍オス


 ノーマンとレオは大量にある大猪魔将パイアの肉を、必要なだけ切り分け食事の準備をする。

 「師匠。戦う時に歌うのって、やっぱり何か意味あるんですか?」

 「あると思う。具体的なのは戦譜スコアをチェックしてないから知らんけど、相手を弱らせる効果とか、相手の士気を下げる効果とか、あと自分や味方の能力を強化する効果とか、あっ作業の成功率を上げる効果とか、色々影響していると感じる」

 「じゃあパイアさんとの戦いでも?」

 「途中でやめちゃったけど、効果はあったと思う」

 「師匠の歌って・・・ズルっすね」

 「なんでだよ?」

 「だってそれってほぼほぼ補助サポート魔法マジックじゃないっすか。魔法マジック戦譜スコアを開けながらじゃなきゃ使えないってディオさんが言ってました。」

 「そういえばそうだな・・・」

 もしかすると案外、魔法マジック戦譜スコアなしで使えるんじゃね?そもそも魔物モンスターなんて戦譜スコアナシの無詠唱で使ってるよな。

 「でも、歌なしでも師匠が勝ってましたよ」

 「あんまり買いかぶるなよ」

 肉を切り分けるだけの食事の準備が整うと、ノーマンは皆に合掌をさせパイアへの感謝とパイアの冥福を祈り食事をはじめた。

 「うまいっ」レオのテンションが上がる。

 おいおい、不謹慎じゃないかな。一応、ピギ夫の母親だぞ。

 「フギー(うまい)」

 「カー(なにこれ)」

 「ウオン(さいこう)」

 まあお前らがそれでいいならいいんだけど・・・うん、たしかに美味い。というより食べたそばから力がみなぎる。魔人マイトクラスの肉ってステータスアップ効果みたいなのがあるのか?食べ終えたらコイツらのチェックしてみよう。



<side-B>

 「師匠、大変です」慌てるレオ。

 「どした?」慌てないノーマン。

 「戦譜スコアチェックしたら、☆5になってました」

 しまった、肉食う前にチェックしとくべきだった。肉の効果か戦闘の結果かデータを取り損ねた。

 「全員?」

 「全員」

 「これってディオさんが言ってた小隊パーティー効果ですかね」

 それがあったか。俺はこの2日間で巨岩兵士ストーン・ゴーレム9体と魔人マイト級の将軍さまを倒しているわけで、小隊パーティー扱いのこの子たちにも経験値が加算される可能性は否めない。

 「なんか技能スキルとか増えたの?」

 「ガウの疾風ゲイルとピギーの猛進ラッシュが」

 「あとは?」

 「みんな毒に少し耐性がついたみたいです」

 「お前も?」

 「俺もです」

 言葉を軽く見失った。疾風ゲイル猛進ラッシュと毒耐性?まあ毒性の強い魔獣モンスターの肉ばっか食ってれば、いずれは耐性がつくとは思っていたけど、いちいち成長が早いんだよ。

 「☆5って、あの最強チームと同じってことですよね?」

 「まあ彼らは★5だったらしいから、実質まだ彼らの域には達していないけど」

 「そっかあ・・・」

 「いやそれでも、お前一週間で一気にここまで来たんだから恐ろしい成長だよ」

 「師匠のおかげっすね」

 違うよなあ多分。こいつ実はやっぱり勇者候補なんじゃね? を自分を主人公にしたのようなものだとするなら、明らかにこいつの方が主人公っぽいんだよな。実は俺はこいつの師匠役わきやくとしてこっちに召喚されたんじゃないかとさえ感じる。

 「まあとにかくこれなら・・・」

 「マレディ樹海ですね」

 台詞まで取られた。

 「う・・・うん。いく?」

 「押忍オス」レオの目は輝いていた。

 

 ピギ夫の話では、樹海中央にそびえ立つマレディ山は山そのものが魔王軍の砦・伏魔殿パンデモニウムとなっているらしく、そこにはパイアお姉さまと同格の魔将サージェントが2人いるとのこと。伏魔殿パンデモニウムの内部構造についてはよく知らないらしいが、その2人についてはピギ夫もあまり良い印象がないらしい。

 1人は下層の番人『毒蛇魔将バジリスク』という大蛇の魔物モンスターで、ピギ夫 いわく卑怯・狡猾・残忍を絵にかいたようなずる賢い男らしく、伏魔殿パンデモニウムの入り口付近はこいつの手下の『蛇型魔獣サーペント』であふれかえっているそうだ。そしてもう1人は上層の支配者『不死魔将リッチー』という骸骨の魔導士で、こちらもピギ夫 いわく傲慢で高圧的でとにかく鼻につく男らしく、マレディ樹海に踏み込んだ冒険者のほとんどは骸骨兵士スケルトンにされて彼の配下に成り下がっているとのこと。冒険者ギルドが人手不足になるほど討伐隊を送ってるってことは、結構な軍勢になってるんじゃなかろうか。

 ピギ夫の偏見に満ちた感想は間違いなくお姉さまの影響だろうな。あの人は豪快で筋が通っていて堂々としていて、変な話『正義の味方』みたいな人だったもんな。この2人の魔将サージェントとは価値観が合わなかったに違いない。

 とにもかくにも、おそらくお姉さまの巨体が木々を踏み倒して作ったであろう獣道を辿っていくと、マレディ山の中腹に入り口っぽいのがあるのは見えてきた。というか、ここまで魔獣モンスターが出てこなかったんだが、ピギ夫が同行していたからだろうか?いずれにしてもここからはピギ夫は隠しておいたほうが良いかもな。

 「レオ、ピギ夫は隠そう」

 「押忍オス、俺もちょうど同じこと考えてました」

 「入口付近は蛇がたくさん出てくるらしいけど、毒蛇だよね?」

 「フギー(ああ)」

 「まあ、おまえら毒耐性あるから大丈夫か」

 「はい、師匠と俺らなら大丈夫です」自分の胸を叩く。

 「ずいぶん自信あるんだな」

 「って、ピギーが言ってますから」

 「あっそういうことね、じゃあ少しハードル上げるね。俺は見物してるよ」

 「試練っすね」

 なんで嬉しそうなんだよ。

 レオがピギーを収容ハウスして槍で素振りをはじめると、ガウとカークもそれぞれの方法でテンションをあげる動作をはじめる。ノーマンはそれを見てを山刀マチェットをしまいギターを出した。

 「歌でフォローしてくれるんですか?」

 「暇つぶしだよ。やばかったら助けるから安心してのびのび戦ってらっしゃい」

 「押忍オス

 闘志やるき満々で1人と2匹が危険な領域エリアにずかずかと無造作に進んでいくと、彼らを鼓舞するかのように歌いながらノーマンは木の上から高みの見物としゃれこむ。

 「♪~」

 己惚うぬぼれて痛い目を見るのも大切な勉強だ。


 ノーマンの歌におびき出されたように蛇型魔獣サーペントが大挙して押し寄せるが、ガウが咆哮ハウルで威嚇すると一瞬動きをとめた。接近を警戒しているのか一定の距離を保ちながらレオたちの周囲を取り囲むような動きに変わると、ガウとカークは包囲網の一点に容赦なく風刃エッジの集中砲火を浴びせる。そもそも空を飛べる2匹にとって地上での包囲など無視しても良かったのだが、囲まれていることに不快感を感じているようだった。

 「誰が一番多く倒したか、競争しようぜ」

 レオが楽しそうに提案すると、

 「ウオン(いいよ)」「カー(もちろん)」

 と、2匹の従魔サーヴァントはそれにのっかった。

 「じゃあ、よーい、ドン」

 3はバラバラに散って、それぞれの戦いをはじめる。

 こいつら己惚れすぎじゃない?まったく・・・。

 ノーマンは慌ててギターをしまい山刀マチェットを握り助っ人の準備をしたが、想定外の強さを見せたは、蛇型魔獣サーペントの屍の山を瞬く間に築いていった。

 コイツら・・・もうおっかないよ。ガウ太もカー助も殺したそばから食ってるし。

 戦っているというよりも駆除しているという方がしっくりくる戦況に、ノーマンは軽く引いた。というのもノーマンの見立てでは『魔将サージェント』の直属の手下はピギーの並みの強さで、ガウやカークとタイマンで互角と見積もっていたのだが、あまりにも攻撃力というよりも戦闘の速度スピードに差がありすぎた。蛇型魔獣サーペントが遅いというよりこの3体が速すぎるのである。

 考えてみればこのマッチメイクは、ハナから相手にとって圧倒的に不利だった。そもそも蛇型魔獣サーペント武器うりは『絞める』と『毒』なわけで、レオたちに絞める隙を与えない速度スピードと毒耐性がある時点で、詰んでいるのは明らかに蛇型魔獣サーペントたちのほうなんだよね。まさに天敵みたいな連中に一方的に蹂躙され続ける蛇型魔獣サーペント君たちには同情するよ。

 襲撃してくる蛇型魔獣サーペントを駆逐しまくり、レオすらも生肉を頬張りはじめると、ノーマンは大型の蛇型魔獣サーペントが近づいてくる気配を察知した。

 「レオ、油断するな。デカいのがくるぞ」

 「押忍オス

 レオが感覚を研ぎ澄まし大きな気配を感じ取り槍を構え襲撃に備えると、ガウとカークもレオを守るようにレオの前方に陣を敷く。おそらく駆逐された蛇型魔獣サーペントたちの筆頭格であるその大型の蛇型魔獣サーペントがレオたちに接近すると、ガウとカークは先手を取らんと速攻で襲いかかるが弾き跳ばされてしまった。ノーマンもさすがに危険を感じ再び戦闘態勢をとるが、レオに向かって突進する大型の蛇型魔獣サーペントの頭部をレオはいとも簡単に制圧ホールドで地面に押し付ける。

 そして、猛進ラッシュ刃幕シールドの合わせ技でその大型の蛇型魔獣サーペントを切り刻んでいくと、蛇型魔獣サーペントは痛みでり頭を高く上空へとあげて回避を試みた。すると、上空から迫ってきたカークが爪撃クロウで左目を潰しそのまま頭部を鷲掴みにし、続けてガウが咬撃バイトで首を捕らえ、そのまま飛翔フライ風踏エアステップ蛇型魔獣サーペントの長い体は上空に引き伸ばされてしまう。

 蛇型魔獣サーペントは体をくねらせ抵抗しようと試みたが、尾の先端はすでにレオの槍によって地面に釘付けにされていたので、蛇型魔獣サーペントの長い体は一瞬のうちにまるで空へ向かう階段のように傾斜しながらまっすぐ伸びきってしまった。

 そして、レオはすかさずその長い階段を駆け上がり喉元に槍を刺すと、そのまま重力に任せて落下をしながら蛇型魔獣サーペントの腹を掻っ捌いてしまう。蛇型魔獣サーペントが断末魔の声を上げることもできずゴォーっという激しい呼気を鳴らしながら悶絶すると、ガウとカークは捕らえていた頭部を無情になまでに地面に叩きつけた。

 ノーマンは戦闘態勢をとったままあんぐりと口を開けながら、その残酷な光景をただ見ていることしかできなかった。

 なんだよこれ。連携がえぐすぎるだろ。

 するとレオは素早く頭部に近づいて薬品ポーションを口に含み、プロレスの毒霧のように蛇型魔獣サーペントの左目に吹き付ける。蛇型魔獣サーペントは左目が回復しうっすらと意識は戻ったが、腹部の激痛をかかえた瀕死の肉体にはもはや戦う気力は残されていない。もし言葉が喋れたなら「早くとどめを刺してくれ」と言わんばかりに、目の前の少年を怯えた瞳で見つめていた。

 まさか、アイツもしかしてヤル気?

 レオは蛇型魔獣サーペントの鼻の辺りに右手を置くと、ニッコリ笑って問いかける。

 「俺の仲間になるなら助けてあげる」

 レオと蛇型魔獣サーペントのおでこに魔法陣が浮かび上がる。

 「ゴォー」

 最後の力を振り絞った力無い呼気で蛇型魔獣サーペントが意思表示をすると、二つの魔法陣が光でつながった。そして蛇型魔獣サーペントの体は光をまとうと大幅に縮んでアナコンダほどのサイズに変化する。

 レオはノーマンの方にクルっと振り返り笑顔で手をふる。

 「師匠。仲間が増えました」

 ノーマンは呆れたように縮地フリートで移動しレオの隣に立つ。

 「名前は?」

 「『コーザ』っす」

 「やっぱ鳴き声?」

 「はい」

 「あのー、レオさん。なんでこの子と従魔契約アグリーメントしたの?」

 「え?強かったから」

 ボコボコにしといてよく言うわ。

 「でも君らの圧勝だよね?」

 「嫌だなあ、師匠。3対1だったから勝ったんすよ。1対1ならガウやカークと同じくらい強いっすよ」

 「あはは、なるほどね。あの連携は最初から決めてたの?」

 「違うっすよ。なんか、俺が思ったようにガウとカークが動いてくれたり、ガウとカークがこうしたいってのがわかったりしたんです」

 「職能アビリティにあった、意思伝達コンタクトってやつの影響か?」

 「そうなんすかね」

 レオは特に興味も示さず、あっけらかんと簡単に言う。

 「う、うん。多分そうだと思うよ」

 「師匠。俺・・・なんか、もっと強い仲間をたくさん集めて、リオウ山脈の秘密基地パンデモニウムで過ごせたらいいなって思うっす」

 「そ・・・それはお前の好きなようにしたらいいよ。ははは」

 「ははは」

 今、確信した。こいつは勇者候補なんかじゃない。強い魔獣モンスターの総大将・・・魔王に一番近い男に違いない。このまま育てて良いものか・・・。

 ノーマンは新たに誕生した悩みの種を抱えつつ、マレディ山中腹にある伏魔殿パンデモニウムの大きな門を見上げた。

 


※【19曲目】は2022年7月12日に公開です。

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