【17曲目】野に咲く花のように
<intro>
ノーマンは動ける村人の協力で
「ノーマンさん、あんたのおかげで助かった。誰も死なんかったのは不幸中の幸いだ。村民を代表して感謝する、ありがとう」
孫娘がいまだ危機的状況にあるのに、立派な村長だな。
「フィオのことなんですが」
「あれは自分の意志で人質になったんだ。村を助けてくれたあんたを責めることはできんよ・・・ただ」
「ただ?」
するとジョゼはノーマンの胸にすがるように掴みかかった。
「フィオを、孫娘をどうか無事に助けてくれ」
涙があふれかけているジョゼの目を見て、ノーマンは優しく微笑みかける。
「当たり前でしょ。なんかレオのせいで面倒なことになりそうですけど、必ず無事に送りとどけます」
そう言って、ジョゼの両肩をポンと軽くを叩いた。
「師匠ー」
「また一緒に
こいつもあの自称最強集団の連中と一緒で、事の重大さがわかってないな。いずれにしても、この
「ああ、じゃあとりあえずその猪しまえ」
「ピギーです」
「ピギー?」
「こいつの名前」
「なんでよ?」
「そう鳴いてたから」
あの鳴き声が『ピギー』に聞こえるんだ。ピギ夫だな。
二人は無事だった村の集会所を借りてレオの
「
「材料と作り方は村のみなさんに託したから大丈夫」
「そうですか。じゃあ早速」
「(はじめに新参者チェックしとくか)
「まずピギーなんですけど、たぶん
あの速度とステップはそれか。
「攻撃の
まあ体当たりと咬みつきと牙も妥当だね。
「それと」
「なに?」
「
「攻撃魔法の? ディオさんが使ってたやつ?」
「はい。それが、ガウとカークも
おいおいおい、いよいよ
「レオ、レベルは?」
「☆★★★です。レベルは変わらないけど、習熟度があがりました」
習熟度が上がるとできる事が増えるんだ。
「それと」
まだあんのかよ「なに?」
「じつは俺も
ノーマンは笑顔をひきつらせながら自分の考えを述べる。
「それは多分、
「やっぱり、そんな感じですよね」
両者はしばし沈黙する。
「まあとりあえず、今は明日の朝までに大将にする言い訳と事後対策だなあ」
レオは言い訳の意味がわからず不思議がる表情を見せたが、急に深刻な表情へと変わり沈黙した。
「ん?どした?」
「師匠・・・俺、フィオを絶対に助けたいです」
「うんうん。『助けたい』じゃなくて『助ける』だな」
「・・・俺にできることはありませんか?」
やっぱりレオもなんとなく責任は感じてんだな。迷惑最強集団と同類扱いしてすまん。
「そんじゃ、ちょっくら試したいことがあるんだが、付き合ってもらえるか?」
「
<side-A>
カトリヤ村の住民の
「重いなあ・・・責任」
ジョゼ宅のバルコニーに腰をかけて、のんびり煙草を吸っていたノーマンはうなだれた。
「ノーマンさん」
後ろから突然声をかけられたが、ジョゼの接近に気づいていたノーマンは驚くわけでもなくジョゼに現状を伝える。
「とりあえず、フィオを助ける算段はついたんですけどね。問題は僕が主に勝てるかどうかですね」
ジョゼは隣に座ると本音を語りはじめる。
「村長としてではなく、一人の
「はあ」
「フィオさえ無事なら、どうか村のことは気にしないでもらいたい」
大切な人と世界のどちらを救うかみたいな二者択一はよくある話だ。
ノーマンはヒョイと立ち上がり思いを語った。
「僕ね、故郷に嫁と娘がいるんです。娘にはまだ会ったことはないけど。でね、帰るまで絶対に死にたくないんすよ」
「ならば、なおさら村のことは・・・」
「でもね、大勢の人を見殺しにするような父親にはなりたくないんすよ。だから、明日は必ずフィオも村も守ります・・・で、ご相談なんですけど」
ノーマンはジョゼに内緒の交渉をもちかけた。
そのころレオは槍の練習をしていた。
「なあピギー」
「フギー(なに)?」
「俺は明日、お前の兄弟と戦うことになるかもしれない」
「フギー(ああ)」
「師匠はお前の親と戦うことになる」
「フギー(しってる)」
「お前は無理に付き合わなくていいからな」
「フギー(ばかだな)」
「え?」
「フギー(おれもいっしょにたたかうよ)」
「でも」
「フギーフギー(たすけたいひとがいるんだろ)?」
「・・・うん」
「フギーフギー(じゃあまずたすけようぜ)」
レオは号泣しながらピギーに抱き着いた。
日が沈んで間もないころノーマンはレオに声をかける。
「おい、そろそろ行くぞ」
「へ?早すぎませんか?」
「たくさん寄り道するぞ。付き合ってくれんだろ?」
「それはもちろんですけど、寄り道って?」
ノーマンは目的地のザナブ村があった場所ではなく、
「師匠はなにしてるんすか?」
「荒らされた農作物のみんながさ、元気になるように僕の歌を聞かせるんだ」
「師匠の歌にそんな力あるんすか?」
「さあね」
あるよ。今は確信している。
「寝なくていいんすか?」
「こんな状況で眠れるほうがどうかしてるよ」
「俺、寝たいっす」
それはお前が育ち盛りの子どもだからだよ。歳とると眠れなくなんだよ。
「じゃあ、ピギ夫だけ借りて置いてく」
「嘘うそウソです。ちゃんとついていきます」
まあ必要な労力ではあるから、来てもらわないと困るんだけどね。
夜明け前に目的地に到着したので、とりあえずレオは少しだけでも寝かせてやるか。
「レオ。ちゃんと起こしてやるから寝ろ」
「はい」
ノーマンの行動に付き合っていたことでそれなりに疲れていたらしく、レオはその場に崩れ落ちるように眠りについた。
「ピギ夫」
「フギー(はい)」
「お前も寝とけ・・・というか、何が起きても寝たふりしてくれ」
「フギー(わかった)」
「理由は聞かないのか?」
「フギーフギー(あんたはしんらいできる)」
ノーマンがレオの師匠であることを理解しているピギーは、ノーマンの指示に大人しく従い静かに目を閉じて眠りについた。
なんかもう普通に
ノーマンは8年前に主と
「♪~」
荒れた大地にノーマンの歌が広がっている中に、大地を揺るがす重たい足音が響き渡った。
いらっしゃいましたね、猪の大将と7匹の子豚。ん?なんか白雪姫と三匹の子豚が混じったみたいだな。
そして朝日が差し込んでくる。
「いい歌じゃないか」
「そりゃどうも」
「待たせたようだな。逃げずによく来た、ほめてやるよ」
「そりゃ、どうも。おほめいただいて光栄です。まあ、こっちも人質とられてますから、逃げるわけにはね・・・」
「で、オレの息子は?」
「そこで寝てますよ。病み上がりでだいぶお疲れらしいので、しばらく寝かせてやりたいんだけど、いかがっしょ?」
「ふっ、そのままでいい。ちゃんとケガの治療もしてあるようだな。感謝する」
「いえいえ、そういう約束だったので・・・で、うちのお嬢ちゃんは?」
「こっちも眠ってもらってる。無事だ」
「都合の良い話とは思うんですが・・・先に返しちゃもらえませんか?」
「なに?」
ジロリとノーマンをにらみつける。
「人質がそちらにいると、その・・・全力で戦いづらいので」
主はしばらくノーマンを注視した。
「はっはっはっ、それは違いない。我が子よ、返してやれ」
主から命令された
余裕だねえ。絶対に負けないと思ってんだろうな・・・とりあえず、
「あいつら巻き込みたくないんで、少し離れましょうか?」
「ああ、いいだろう」
心なしか気持ちが高ぶっている様子の主は、寝ている3人が見えなくなるところまで離れ戦場を定め、ノーマンと距離をおいて向かい合う。
「こっからは男と男のタイマンってことで」
ノーマンは主を見つめながら真剣な眼差しで口上を切った。
そこからしばしの沈黙があり、主は静かに答えた。
「オレは
戦場に乾いた風が吹くと、ノーマンは問答無用ですみやかに土下座する。
「大変申し訳ございませんでした。僕の
「はっはっはっ。お前はホントに面白いやつだな、ノーマン。気にするな、顔をあげろ」
そうだよなあ。思い込みは危険だ。
ノーマンが膝の汚れを払いながらばつわるそうに立ち上がると、主は前掻きで自分の士気テンションを高めながら鼻息を荒くした。
「ノーマンよ、遠慮するな・・・さあ、
それを受けてノーマンも2つの
「いつでもどうぞ」
ノーマンはニヤリと笑った。
<side-B>
攻撃は主からはじまった。巨体に似合わぬ
主は一瞬だけ意識と感覚が混濁したが、突き上げた左牙をそのまま振り下ろすようにして
「ちょこまかと色々とやるじゃないか」
「昨日の一撃はこたえたもんで」
主は右に反動をつけてノーマンまでの距離を一気につめながら牙で薙ぐように頭を大きく横に振る。ノーマンがあえて避けずに牙を両刀で受けその力を利用して後方上空に大きく跳ぶと、主は狙いすましたように
「やるじゃないか・・・どんなからくりだい?」
主もあまり驚かなかったのは、はなからノーマンの実力を軽視していなかったからだろう。
「火ってね、音で消えるんすよ。『
どんなに大量の
「ノーマン。お前はやっぱり面白いな」
「いやいや、まだまだ」
ノーマンはリズムをとるように軽くステップを踏むと、
俊敏さと手数にものをいわせたこの戦術はダメージはともかく、主を防戦一方に追い込むことには成功した。しかし、普通の斬撃を加えるだけでは主の分厚い皮膚を刃は貫通しない。
もはや、ひっかいてるだけだな・・・それなら。
普通の斬撃から
「ここまでやるとはね・・・だがこれくらいなら」
主が全身にフンっと力を込めると、出血がとまり傷口が塞がりはじめる。
うわっ、気合で塞がっちゃうのかよ。ならば、これならどうよ?
ノーマンは2つの刀身が平行になるように
どういうことだ。なぜ塞がらない?
徐々に蓄積するダメージに主は少し焦りはじめた。
「貴様、なにをしている」
「即興新技『
「ふっふっふ・・・謝るよノーマン。お前はわれの想定以上の戦士ようだな」
ただならぬ雰囲気を感じたノーマンは攻撃をいったんやめて、主から距離をとった。
「勘もいいんだな」
「ヤバい時には逃げるの一択」
「逃がさないよ」するどい眼光を放ち雄叫びをあげる。
すると主の巨体は無数の光になってはじけ散る。そして、そのはじけ散った光の粒が一箇所に集合してできた人間サイズの光の塊から声が聞こえる。
「すまなかったねノーマン、われは舐めていたようだ。お前は、久しぶりにこの体で戦うべき相手だ」
人型の
小さくなってんのに巨体の時よりも迫力増してるって『F様』かよ。確実にさっきより強くなっているのは流石にわかるって・・・しかし、中学時代のヤンキーの先輩のような雰囲気のお姉さま系の超絶美人だな。
「
冷たい目でノーマンを見つめると、ノーマンはおどけて見せた。
「本気になった女性は美しくなるんすね」
「ここまで名乗らなかった非礼を詫びる。わが名は『パイア』。魔王軍の将が一人、『
「パイアさんですか・・・お姉さまとお呼びしても?」
「ふっ、好きに呼ぶがいい。ノーマンよ・・・思う存分、
パイアが嬉々として
やれやれ、ベッドのお誘いなら蹂躙されてもいいんだけど。しかし、あの武器は『カタール』だっけか? 兜もモヒカンだし牙の2本ついてるし、まんまイノシシだな。これはもう二刀流同士の近接戦闘ってことだよね。
ノーマンはあきらめたように全身の力を抜いて、一度だけ深呼吸するとニヤリと笑った。
「んじゃ、
そして、鼻歌をはじめる。
「♪~」
パイアは
「鼻歌まじりとは、余裕だなノーマン」
余裕? 冗談じゃない。踏み込まれないように必死だっつうの。
「良く気付いたな、ノーマン。お前は後ろにも目があるのか?」
パイアが余裕の笑みを浮かべながら火柱からのぞき込むと、ノーマンは歌うのをやめて
そろそろ歌効果はいいかな。
「いやいや、攻撃が単調だったんで警戒しまくってただけっす。初見の攻撃魔法はおっかないっすね」
「初見?
ノーマンをグルリと囲むように複数の魔法陣が地面に描かれ、パイアが左手で合図するとその魔方陣たちから一斉に火柱が上がった。ノーマンは炎に囲まれながら、少し冷静に考える。
うーん、確かに火系魔法は対処はできるんだけど、くらえば熱いしダメージもあるんだよな・・・ここは一つ、ハッタリかまして相手の手札を1つ消しとくか。
ノーマンは
「お姉さま。さっきも言いましたが、僕は火系魔法の天敵なんすよ。茶番はやめませんか・・・(通るか?)」
「そう怒るな、ノーマン。われも全力で戦えるのが久しぶりでね、楽しませてもらっている・・・しかし、確かにわれらの戦いには必要ないかもな。もっと激しく打ち合おう」
言い終わるや否や
はい、ブラフとおりました。火系魔法はノーマークOKでえす。
ノーマンはニヤリと笑い、パイアの連撃を二刀でさばき続ける。
「反撃はしないのか?それとも手を抜いているのか?」
「いやいや、反撃する余裕がないだけですよ。お姉さま」
実際のところ、ノーマンが反撃に転じられないのには他にも理由があった。
「嬉しいぞノーマン。こんなに興奮したのは初めてだ」
はい、お姉さまの初体験いただきました。
「ノーマン。魔王軍に入らんか? お前ならすぐに
「それで、人間を殺しまくるんすか?」
「殺しまくるのではない・・・従わせるのだ」
「・・・僕は誰も従わせたくないし、誰にも従いたくないかな」
「ふふふ、ならばまず。
回転ノコギリのように激しい急回転で強襲してきたパイアの刃をノーマンが二刀で受け止めると、重なり合った4つの刃は両者の力でガチガチと音をたて膠着状態になる。
「ノーマン、
「僕もおなじ気持ちです・・・お姉さま。どうか、手打ちにはできませんかね?」
パイアは好敵手たるノーマンが自分の意のままにならないことを悟ると、少し悲しい表情を浮かべ様々な覚悟を決めた。
「残念だが、決着をつけねばならんようだな」
両者は距離を取り、構えなおす。
ああそうか、われって言ってたんだな。猪の時はオレはに聞こえてた。
パイアはノーマンの周りを走りまくり、砂埃を巻き起こして
(ノーマン、お前の視界は奪った。己の死すら気づかぬまま・・・逝くといい)
パイアは気配を消しながら両手のカタールに火の魔力を付与し、両手を組んで前方に突き出すと全身の魔力を両手に集める。
(これで終わりだノーマン。われの必殺技を受けるがよい)
集められた魔力が最大になり真っ赤に燃えた二つの刃が
そして、
「馬鹿な」
自分の必殺の一撃が通用しなかったことに驚く。
「お姉さまの熱い
ノーマンは改善した
後方に素早く下がって距離をとると、ノーマンは切ない表情でパイアに語りかける。
「お姉さま、次が最後です。今の一撃よりももっと本気で僕を殺しに来てください。僕もあなたを殺します」
そして、その言葉の意味を噛みしめると、二人はニヤリと笑う。
さとこ。パパはこれからヒトを殺します。
※【18曲目】は2022年7月5日に公開です。
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