【17曲目】野に咲く花のように

<intro>

 ノーマンは動ける村人の協力で薬品ポーションを追加生産していた。軽傷とはいえ強力な魔獣モンスターの発する魔気オーラを浴びた可能性がある以上、通常の治療ではなく薬品ポーションによる対処が必要になるからだ。

 「ノーマンさん、あんたのおかげで助かった。誰も死なんかったのは不幸中の幸いだ。村民を代表して感謝する、ありがとう」

 孫娘がいまだ危機的状況にあるのに、立派な村長だな。

 「フィオのことなんですが」

 「あれは自分の意志で人質になったんだ。村を助けてくれたあんたを責めることはできんよ・・・ただ」

 「ただ?」

 するとジョゼはノーマンの胸にすがるように掴みかかった。

 「フィオを、孫娘をどうか無事に助けてくれ」

 涙があふれかけているジョゼの目を見て、ノーマンは優しく微笑みかける。

 「当たり前でしょ。なんかレオのせいで面倒なことになりそうですけど、必ず無事に送りとどけます」

 そう言って、ジョゼの両肩をポンと軽くを叩いた。

 「師匠ー」猪型魔獣カリュドーンにまたがったレオがやってくる。

 「また一緒に戦譜スコアチェックしてください」

 こいつもあの自称最強集団の連中と一緒で、事の重大さがわかってないな。いずれにしても、この猪型魔獣カリュドーンの情報は貴重なのは確かだ。

 「ああ、じゃあとりあえずその猪しまえ」

 「ピギーです」

 「ピギー?」

 「こいつの名前」

 「なんでよ?」

 「そう鳴いてたから」

 あの鳴き声が『ピギー』に聞こえるんだ。ピギ夫だな。

 二人は無事だった村の集会所を借りてレオの戦譜スコアチェックをはじめる。

 「薬品ポーションは大丈夫なんすか?」

 「材料と作り方は村のみなさんに託したから大丈夫」

 「そうですか。じゃあ早速」

 「(はじめに新参者チェックしとくか)従魔サーヴァントの能力かな」

 「まずピギーなんですけど、たぶん加速アクセルの上位の技能スキル猛進ラッシュってのがあります」

 あの速度とステップはそれか。

 「攻撃の技能スキル咬撃バイト体当タックル牙刺スピアです」

 まあ体当たりと咬みつきと牙も妥当だね。

 「それと」

 「なに?」

 「火弾バレットが使えるみたいです」

 「攻撃魔法の? ディオさんが使ってたやつ?」

 「はい。それが、ガウとカークも風刃エッジって魔法がつかえるようになったみたいで」

 おいおいおい、いよいよ魔物モンスターの本領発揮か。ん?まてよ。

 「レオ、レベルは?」

 「☆★★★です。レベルは変わらないけど、習熟度があがりました」

 習熟度が上がるとが増えるんだ。

 「それと」

 まだあんのかよ「なに?」

 「じつは俺も火弾バレット風刃エッジが使えるようになって」

 ノーマンは笑顔をひきつらせながら自分の考えを述べる。

 「それは多分、相乗効果シナジーの影響かもな。色んな属性タイプ従魔サーヴァントが増えたら、使える魔法も増えんじゃないかな」

 「やっぱり、そんな感じですよね」

 両者はしばし沈黙する。

 「まあとりあえず、今は明日の朝までに大将にする言い訳と事後対策だなあ」

 レオはの意味がわからず不思議がる表情を見せたが、急に深刻な表情へと変わり沈黙した。

 「ん?どした?」

 「師匠・・・俺、フィオを絶対に助けたいです」

 「うんうん。『助けたい』じゃなくて『助ける』だな」

 「・・・俺にできることはありませんか?」

 やっぱりレオもなんとなく責任は感じてんだな。迷惑最強集団と同類扱いしてすまん。

 「そんじゃ、ちょっくら試したいことがあるんだが、付き合ってもらえるか?」

 「押忍オス?」


<side-A>

 カトリヤ村の住民の精神ハートは思ったよりもタフで、荒らされた農園や建物についてはそれなりに傷ついているわけだが、すでに再興に向けて行動を開始している者が多い。薬品ポーションでケガ人もすべて回復した今となっては、ナザブ村の時のように人的な被害が出なかったことでむしろ祝福ムードですらある。ただ、村長の孫娘のフィオがいまだ敵の手中にある中、お祭りモードを自粛している雰囲気もたしかに感じる。ただし、明日あす俺が失敗したあかつきにはフィオはもちろんこの村の命運もつきることになる。

 「重いなあ・・・責任」

 ジョゼ宅のバルコニーに腰をかけて、のんびり煙草を吸っていたノーマンはうなだれた。

 「ノーマンさん」

 後ろから突然声をかけられたが、ジョゼの接近に気づいていたノーマンは驚くわけでもなくジョゼに現状を伝える。

 「とりあえず、フィオを助ける算段はついたんですけどね。問題は僕がに勝てるかどうかですね」

 ジョゼは隣に座ると本音を語りはじめる。

 「村長としてではなく、一人の身勝手みがってな老人の言葉として聞いてください」

 「はあ」

 「フィオさえ無事なら、どうか村のことは気にしないでもらいたい」

 大切な人と世界のどちらを救うかみたいな二者択一はよくある話だ。

 ノーマンはヒョイと立ち上がり思いを語った。

 「僕ね、故郷に嫁と娘がいるんです。娘にはまだ会ったことはないけど。でね、帰るまで絶対に死にたくないんすよ」

 「ならば、なおさら村のことは・・・」

 「でもね、大勢の人を見殺しにするような父親にはなりたくないんすよ。だから、明日は必ずフィオも村も守ります・・・で、ご相談なんですけど」

 ノーマンはジョゼに内緒の交渉をもちかけた。


 そのころレオは槍の練習をしていた。

 「なあピギー」

 「フギー(なに)?」

 「俺は明日、お前の兄弟と戦うことになるかもしれない」

 「フギー(ああ)」

 「師匠はお前の親と戦うことになる」

 「フギー(しってる)」

 「お前は無理に付き合わなくていいからな」

 「フギー(ばかだな)」

 「え?」

 「フギー(おれもいっしょにたたかうよ)」

 「でも」

 「フギーフギー(たすけたいひとがいるんだろ)?」

 「・・・うん」

 「フギーフギー(じゃあまずたすけようぜ)」

 レオは号泣しながらピギーに抱き着いた。


 日が沈んで間もないころノーマンはレオに声をかける。

 「おい、そろそろ行くぞ」

 「へ?早すぎませんか?」

 「たくさん寄り道するぞ。付き合ってくれんだろ?」

 「それはもちろんですけど、寄り道って?」

 

 ノーマンは目的地のザナブ村があった場所ではなく、猪型魔獣カリュドーンの群れに荒らされた土地をめぐって。その土地土地で歌をうたった。

 「師匠はなにしてるんすか?」

 「荒らされた農作物のみんながさ、元気になるように僕の歌を聞かせるんだ」

 「師匠の歌にそんな力あるんすか?」

 「さあね」

 あるよ。今は確信している。

 「寝なくていいんすか?」

 「こんな状況で眠れるほうがどうかしてるよ」

 「俺、寝たいっす」

 それはお前が育ち盛りの子どもだからだよ。歳とると眠れなくなんだよ。

 「じゃあ、ピギ夫だけ借りて置いてく」

 「嘘うそウソです。ちゃんとついていきます」

 まあ必要なではあるから、来てもらわないと困るんだけどね。


 夜明け前に目的地に到着したので、とりあえずレオは少しだけでも寝かせてやるか。

 「レオ。ちゃんと起こしてやるから寝ろ」

 「はい」

 ノーマンの行動に付き合っていたことでそれなりに疲れていたらしく、レオはその場に崩れ落ちるように眠りについた。

 「ピギ夫」

 「フギー(はい)」

 「お前も寝とけ・・・というか、何が起きても寝たふりしてくれ」

 「フギー(わかった)」

 「理由は聞かないのか?」

 「フギーフギー(あんたはしんらいできる)」

 ノーマンがレオの師匠であることを理解しているピギーは、ノーマンの指示に大人しく従い静かに目を閉じて眠りについた。

 なんかもう普通に魔獣こいつらと会話してるよな・・・俺。

 ノーマンは8年前に猪型魔獣カリュドーンが焼け野原にしたナザブ村の跡地を眺めながら、超音波ソニックを使った最大音量でギターを弾いて鎮魂歌レクイエムをうたう。

 「♪~」

 荒れた大地にノーマンの歌が広がっている中に、大地を揺るがす重たい足音が響き渡った。

 いらっしゃいましたね、猪の大将と7匹の子豚。ん?なんか白雪姫と三匹の子豚が混じったみたいだな。

 そして朝日が差し込んでくる。

 「いい歌じゃないか」

 「そりゃどうも」

 「待たせたようだな。逃げずによく来た、ほめてやるよ」

 「そりゃ、どうも。おほめいただいて光栄です。まあ、こっちも人質とられてますから、逃げるわけにはね・・・」

 「で、オレの息子は?」

 「そこで寝てますよ。病み上がりでだいぶお疲れらしいので、しばらく寝かせてやりたいんだけど、いかがっしょ?」

 「ふっ、そのままでいい。ちゃんとケガの治療もしてあるようだな。感謝する」

 「いえいえ、そういう約束だったので・・・で、うちのお嬢ちゃんは?」

 「こっちも眠ってもらってる。無事だ」

 猪型魔獣カリュドーンの背中で、眠っているというより気を失っている。

 「都合の良い話とは思うんですが・・・先に返しちゃもらえませんか?」

 「なに?」

 ジロリとノーマンをにらみつける。

 「人質がそちらにいると、その・・・全力で戦いづらいので」

 はしばらくノーマンを注視した。

 「はっはっはっ、それは違いない。我が子よ、返してやれ」

 から命令された猪型魔獣カリュドーンがポーンと放り投げたフィオを、ノーマンは優しく受け止めレオの隣に寝かせやった。

 余裕だねえ。絶対に負けないと思ってんだろうな・・・とりあえず、従魔契約アグリーメントの件はスルーできた。これは、かなり助かった。

 「あいつら巻き込みたくないんで、少し離れましょうか?」

 「ああ、いいだろう」

 心なしか気持ちが高ぶっている様子のは、寝ている3人が見えなくなるところまで離れ戦場を定め、ノーマンと距離をおいて向かい合う。

 「こっからは男と男のタイマンってことで」

 ノーマンはを見つめながら真剣な眼差しで口上を切った。

 そこからしばしの沈黙があり、は静かに答えた。

 「オレはオンナだぞ」

 戦場に乾いた風が吹くと、ノーマンは問答無用ですみやかに土下座する。

 「大変申し訳ございませんでした。僕の 故郷くにではその立派な牙はオスの持ち物でして、その逞しいお姿からついついオトコの方だと思ってしまいました。レディになんと失礼な・・・」

 「はっはっはっ。お前はホントに面白いやつだな、ノーマン。気にするな、顔をあげろ」

 そうだよなあ。思い込みは危険だ。

 ノーマンが膝の汚れを払いながらばつわるそうに立ち上がると、は前掻きで自分の士気を高めながら鼻息を荒くした。

 「ノーマンよ、遠慮するな・・・さあ、るぞ」

 それを受けてノーマンも2つの山刀マチェットを中段で構える。

 「いつでもどうぞ」

 ノーマンはニヤリと笑った。 

 

<side-B>

 攻撃はからはじまった。巨体に似合わぬ猛進ラッシュ巨岩兵士ストーン・ゴーレムパンチよりも速くノーマンを強襲する。昨日の攻撃とは反対にノーマンの右側から回り込み左牙でノーマンを突き上げようとした。ノーマンは昨日と同じく消撃アブソーブの構えを見せたが、ギリギリまで引き付けて縮地フリートで後方にかわしながら衝撃音波ソニック・ブームを放つ。

 は一瞬だけ意識と感覚が混濁したが、突き上げた左牙をそのまま振り下ろすようにして猛進ラッシュで距離を詰めた。ノーマンが振り下ろされた牙を回避すると牙はそのまま地面に叩きつけられ地割れが起きる。そして、右に大きくかわし距離をとったノーマンはの左目を狙って鎌鼬かまいたちを放つが閉じた瞼によって防がれた。

 「ちょこまかと色々とやるじゃないか」

 「昨日の一撃はこたえたもんで」

 は右に反動をつけてノーマンまでの距離を一気につめながら牙で薙ぐように頭を大きく横に振る。ノーマンがあえて避けずに牙を両刀で受けその力を利用して後方上空に大きく跳ぶと、は狙いすましたように火弾バレットを複数同時に放った。空中で回避できないノーマンは超音波ソニックの周波数を低周波に切り替え、それを付与した鎌鼬かまいたち火弾バレットを全弾撃墜する。そして、ノーマンが着地するとノーマンが身構える前に、すでに追撃の火弾バレットが大量に放たれていた。はノーマンに反撃の隙を与えないつもりだったが、ノーマンにとってそれらはすべて想定内であり、今度は衝撃音波ソニック・ブームに低周波を重ね大量の火弾バレットをすべてかき消した。

 「やるじゃないか・・・どんなからくりだい?」

 もあまり驚かなかったのは、はなからノーマンの実力を軽視していなかったからだろう。

 「火ってね、音で消えるんすよ。『音波消火エクスティングィッシュ』って新技でね。僕はたぶん火系魔法の天敵だと思う」

 どんなに大量の火弾バレットだろうが、狙うは一つだしね。

 「ノーマン。お前はやっぱり面白いな」

 「いやいや、まだまだ」

 ノーマンはリズムをとるように軽くステップを踏むと、速度スピードのギアを一気に上げて攻勢に出る。

 速度スピードが上なのも的が小さいのも俺のほうだからね、それを使わない手はない。兵法なんていいもんじゃない、ただただ動いて切り刻むだけだ。

 俊敏さと手数にものをいわせたこの戦術はダメージはともかく、を防戦一方に追い込むことには成功した。しかし、普通の斬撃を加えるだけではの分厚い皮膚を刃は貫通しない。

 もはや、ひっかいてるだけだな・・・それなら。

 普通の斬撃から超音波切断ソニックカッターに切り替えるとの分厚い皮膚を刃が軽く貫通し肉の部分に攻撃が到達する。そしてそれは単にダメージ量が増えるだけでなく、抵抗が弱くなったぶん斬撃におけるノーマンの筋肉の負担を軽減し、攻撃の速度スピードはさらに上がっていく。しかし、の出血量が増えダメージを徐々に蓄積させていっても、まだまだを追い込むにはいたらない。

 「ここまでやるとはね・・・だがこれくらいなら」

 が全身にフンっと力を込めると、出血がとまり傷口が塞がりはじめる。

 うわっ、気合で塞がっちゃうのかよ。ならば、これならどうよ?

 ノーマンは2つの刀身が平行になるように山刀マチェットを重ね斬撃を繰り出す。すると、その攻撃によりの分厚い皮膚がひも状にはがれ、の気合では塞がらない傷となった。そして、それを確認するとこれまでと同様に、とにかく速度スピードに任せての体を斬りまくり続ける。

 どういうことだ。なぜ塞がらない? 

 徐々に蓄積するダメージには少し焦りはじめた。

 「貴様、なにをしている」

 「即興新技『二枚刃剃刀ショーワノスケバン斬り』ってね、傷がふさがりにくい斬り方っす」

 「ふっふっふ・・・謝るよノーマン。お前はの想定以上の戦士ようだな」

 ただならぬ雰囲気を感じたノーマンは攻撃をいったんやめて、から距離をとった。

 「勘もいいんだな」

 「ヤバい時には逃げるの一択」

 「逃がさないよ」するどい眼光を放ち雄叫びをあげる。

 するとの巨体は無数の光になってはじけ散る。そして、そのはじけ散った光の粒が一箇所に集合してできた人間サイズの光の塊から声が聞こえる。

 「すまなかったねノーマン、は舐めていたようだ。お前は、久しぶりにこの体で戦うべき相手だ」

 人型の魔人マイトとなってが姿を見せると、ノーマンの肉体は継承を鳴らすかのように鳥肌を立てた。

 小さくなってんのに巨体の時よりも迫力増してるって『F様』かよ。確実にさっきより強くなっているのは流石にわかるって・・・しかし、中学時代のヤンキーの先輩のような雰囲気のお姉さま系の超絶美人だな。

 「われを本気にさせるとは、大したものだよノーマン」

 冷たい目でノーマンを見つめると、ノーマンはおどけて見せた。

 「本気になった女性は美しくなるんすね」

 「ここまで名乗らなかった非礼を詫びる。わが名は『パイア』。魔王軍の将が一人、『蹂躙じゅうりんのパイア』だ」

 「パイアさんですか・・・お姉さまとお呼びしても?」

 「ふっ、好きに呼ぶがいい。ノーマンよ・・・思う存分、ろう」

 パイアが嬉々として戦闘態勢ファイティングポーズをとると、両手に装備された手甲ガントレットから飛び出しナイフのようにやいばが飛び出る。

 やれやれ、ベッドのお誘いなら蹂躙されてもいいんだけど。しかし、あの武器は『カタール』だっけか? 兜もモヒカンだし牙の2本ついてるし、まんまイノシシだな。これはもう二刀流同士の近接戦闘ってことだよね。

 ノーマンはあきらめたように全身の力を抜いて、一度だけ深呼吸するとニヤリと笑った。

 「んじゃ、りますか。お姉さま」

 そして、鼻歌をはじめる。

 「♪~」

 パイアは猛進ラッシュで一気に距離を縮めると、そこからは決して大振りはせずに左で鋭いジャブを連射しながらさらにノーマンに詰め寄った。ノーマンはその一撃一撃を左右の山刀マチェットを器用に使い分け、迎撃カウンターを合わせながら詰められぬように後退する。

 「鼻歌まじりとは、余裕だなノーマン」

 余裕? 冗談じゃない。踏み込まれないように必死だっつうの。

 山刀マチェットとはいえ攻撃の間合いにはある程度の距離が必要で、パイアの間合いが山刀マチェットよりも近距離にあることは明白だった。ノーマンは反撃に転じるタイミングをはかる一方で、先ほど見た無詠唱での攻撃魔法にも警戒しなければならず、とにかく相手の一挙手一投足を注視することに集中させられた。そして、ノーマンの背後の地面に魔法陣が浮かぶ。音感探知ソナーでは感知できなかったものの魔力を肌で感づいたノーマンは、パイアの攻撃を利用して後方に大きく移動することで魔法陣の通過に成功した。するとその直後に通過した魔法陣から轟音とともに火柱が上がる。

 「良く気付いたな、ノーマン。お前は後ろにも目があるのか?」

 パイアが余裕の笑みを浮かべながら火柱からのぞき込むと、ノーマンは歌うのをやめて鎌鼬かまいたちで火柱を消し去る。

 そろそろはいいかな。

 「いやいや、攻撃が単調だったんで警戒しまくってただけっす。初見の攻撃魔法はおっかないっすね」

 「初見?火柱ピラーがかい? じゃぁこういうのはどうだ?」

 ノーマンをグルリと囲むように複数の魔法陣が地面に描かれ、パイアが左手で合図するとその魔方陣たちから一斉に火柱が上がった。ノーマンは炎に囲まれながら、少し冷静に考える。

 うーん、確かに火系魔法は対処はできるんだけど、くらえば熱いしダメージもあるんだよな・・・ここは一つ、ハッタリかまして相手の手札を1つ消しとくか。

 ノーマンは刃幕シールドを使って火柱を消し去ると、微笑みを消した冷たい顔でパイアをにらむ。

 「お姉さま。さっきも言いましたが、僕は火系魔法の天敵なんすよ。茶番はやめませんか・・・(通るか?)」

 「そう怒るな、ノーマン。われも全力で戦えるのが久しぶりでね、楽しませてもらっている・・・しかし、確かにわれらの戦いには必要ないかもな。もっと激しく打ち合おう」

 言い終わるや否や猛進ラッシュで突撃してくると、先ほどのジャブ攻撃のような慎重さとは真逆に大振りで強い攻撃を連続でしかけてきた。歓喜の表情を浮かべながら攻撃を繰り返すパイアを見て、ノーマンは確信した。

 はい、ブラフとおりました。火系魔法はノーマークOKでえす。

 ノーマンはニヤリと笑い、パイアの連撃を二刀でさばき続ける。

 「反撃はしないのか?それとも手を抜いているのか?」

 「いやいや、反撃する余裕がないだけですよ。お姉さま」

 実際のところ、ノーマンが反撃に転じられないのには他にも理由があった。魔人マイトだとわかっていても人間の、しかも美女の姿をしたパイアを斬りつけることに迷いがあったのだ。しかし、パイアはそんなノーマンの心境も知らず攻撃の速度スピードを上げノーマンを徐々に追い詰めていった。

 「嬉しいぞノーマン。こんなに興奮したのは初めてだ」

 はい、お姉さまの初体験いただきました。

 「ノーマン。魔王軍に入らんか? お前ならすぐにわれと同格の将軍になれるぞ」

 「それで、人間を殺しまくるんすか?」

 「殺しまくるのではない・・・従わせるのだ」

 「・・・僕は誰も従わせたくないし、誰にも従いたくないかな」

 「ふふふ、ならばまず。われに従わせてやろう」

 回転ノコギリのように激しい急回転で強襲してきたパイアの刃をノーマンが二刀で受け止めると、重なり合った4つの刃は両者の力でガチガチと音をたて膠着状態になる。

 「ノーマン、われはお前を殺したくない」

 「僕もおなじ気持ちです・・・お姉さま。どうか、手打ちにはできませんかね?」

 パイアは好敵手たるノーマンが自分の意のままにならないことを悟ると、少し悲しい表情を浮かべ様々な覚悟を決めた。

 「残念だが、決着をつけねばならんようだな」

 両者は距離を取り、構えなおす。

 ああそうか、って言ってたんだな。猪の時ははに聞こえてた。

 パイアはノーマンの周りを走りまくり、砂埃を巻き起こして煙幕スモークを発動させる。

 (ノーマン、お前の視界は奪った。己の死すら気づかぬまま・・・逝くといい)

 パイアは気配を消しながら両手のカタールに火の魔力を付与し、両手を組んで前方に突き出すと全身の魔力を両手に集める。

 (これで終わりだノーマン。われの必殺技を受けるがよい)

 集められた魔力が最大になり真っ赤に燃えた二つの刃が手甲ガントレットから高速で射出される。ノーマンはもともと視力にはあまり頼ってはおらず、音感探知ソナーでパイアの一連の動作を把握していたので回避は可能だった。しかし、何を思ったのかノーマンは回避を選択せず消撃アブソーブでパイアの必殺技を受け止めた。

 そして、煙幕スモークが解除される。

 「馬鹿な」

 自分の必殺の一撃が通用しなかったことに驚く。

 「お姉さまの熱い攻撃ハートはしっかり受け止めましたよ」

 ノーマンは改善した消撃アブソーブを試したかったのだ。

 後方に素早く下がって距離をとると、ノーマンは切ない表情でパイアに語りかける。

 「お姉さま、次が最後です。今の一撃よりももっと本気で僕を殺しに来てください。僕もあなたを

 そして、その言葉の意味を噛みしめると、二人はニヤリと笑う。


 さとこ。パパはこれからを殺します。



※【18曲目】は2022年7月5日に公開です。

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