【16曲目】Doing All Right
<intro>
『紅蓮のマリウス』の通り名を持つ☆5の
マリウスが12歳の時にニコラスは冒険者ギルドの依頼でナザブ村の防衛任務につき、それ以来離れて暮らす日々が続いていく。そんな中、マリウスは15歳で
マリウスが17歳の年、冒険者ギルドに不幸なニュースが入る。
「冒険者ニコラスが防衛任務を放棄して逃走」
「ナザブ村が
ナザブ村の生存者からの証言により悲しい事実として伝えられたが、マリウスには到底受け入れられない事件であった。
それからマリウスは必死になってニコラスの行方を捜索した。兄に会ってその時に何があったのかを兄の口から聞くために。ほどなくしてニコラスと再会を果たすが、その時にはすでにニコラスはすっかり変わり果てた姿になっていた。伸びきった髪、やつれた顔、うつろな目、荒れた肌、ボロ布のような服、放つ悪臭、ずっと憧れていた優しい面影はもうそこにはなかった。人目を避けるように身を
心が病んでその時の事情をうまく説明できない兄から得た情報は、
しかしマリウスは兄に失望しなかった。☆1の冒険者で編制された弱小
そこからのマリウスはの活動は、憧れの兄に逃走を選択させるほどの強敵である
絶対的な防御力を誇る大楯の
7年かけてギルド最強の
そして、この兄への偏愛が、勇者候補とまで言われた冒険者マリウスの運命を大きく変えてしまうことを誰も知らない。
<side-A>
「いやー、うちの宿屋にこんなビッグな来客がくるとはね」
「なにしに来たんだ?今朝早く出て行ったけど」
「酒じゃないですか?うちの村にはそれくらいしかないし」
「でも、あの人たちならどの国に行ったって最高の酒が飲めるだろうよ」
「ですよねー」
宿屋で不毛な会話が交わされいた頃、客人と朝食中のジョゼの元に馬に乗った村人がやってきた。
「ジョゼ村長、大変なことになりました」顔面蒼白である。
「どうした?」
「緊急事態です。すぐに来てください」
ただならぬ危険を感じたジョゼは急いで家を出る。
っていうか、ジョゼさんって村長なの?というか何が起きた?
ノーマンはレオを連れて人目につかぬように現場へ急ぐ。ジョゼよりも先に到着したノーマンたちは木の上から見物をきめこむ。すると、この大型の
「かつて、ナザブ村を壊滅に追い込んだ凶悪なマレディ樹海の主・
(師匠、あれがフィオのお母さんたちを殺したっていう主ってことですか?)
(うーんどうなんだろう。確かに魔獣としては大型ではあるけど、羽広げたカー助の方が大きく見えるよな?)
(ですよね。昨日のゴーレムたちの方が迫力あったっすよ)
そこへジョゼが現れ、駐在の冒険者に事情を説明するように求める。
「これはどういうことだ?」
「それがですね、村長。こちらは冒険者ギルドでも最強と名高い
「あなたが村長ですね。8年前にナザブ村を滅ぼした凶悪な
少し誇らしげに語るマリウスを見て、ワナワナと怒りに体を震わせるジョゼ。
「あんたは何を言っているんだ。たしかにこれもいたが、これは主なんかじゃない。ふざけるのもたいがいにしろ」
マリウスは感謝でもされると思っていたのか、あっけにとられた。
「どういうことです?」
「あんたたちは大変なことをしてくれたな」怒りから絶望へと変わる。
「もう駄目だ、奴が来る」
ジョゼはそう言って深くうなだれたが、すぐに強い気持ちを取り戻す。
しかし、村長としての責務は果たさねば。
「村人全員に伝達だ。今すぐ南へ逃げろ」
「なんなんだよまったく」
「せっかく捕まえてやったってのに」
「もっと感謝されると思ったわ」
マリウスたちには事の重大さがまったくわかっていなかった。
(やっぱり間違いだったみたいっすね)
(すね。っていうか、北からとんでもないのが近づいてきてるんだけど)
(ジョゼさんの言ってた奴ですね多分)
(主だな。とりあえずお前下いって、あの間抜けな冒険者連中に大声で『北から
(俺らは行かなくていいんですか?)
(まだいい。自分で蒔いた種だからな、尻ぬぐいは自分たちにやらせとけ。最強ってのを見せてもらおうじゃないか。それに・・・)
(それに?)
(フィオが来た)
(まじっすか?)
(だからとりあえずは様子をみよう)
(
レオは木を降りて善意の第三者を装い皆に聞こえるように大声で叫ぶ。
「北から
冒険者さまって、小馬鹿にした感じがいいじゃない。
「なんだと?」
マリウスたちに冒険者のスイッチが入る。
「みんな、とにかく今はこの村を守る。いいな」
『わかった』
マリウスと仲間たちは武器を構え、掛け声を上げる。
『すべては正義の名のもとにっ!』
なんじゃそりゃ。こいつらはおそらく自分のやってることは全部正しいって思うタイプの連中だな。俺とは合わんわ。
せせら笑うように呆れたノーマンはばれないように後をつけた。
「レオ、何があったの?え、これって
少し遅れて現場にあらわれたフィオにはまだ状況が理解できていない。
「フィオ。勘違いした冒険者がさ、捕獲したらしい。ひでえよな」
「フィオ」
「お爺ちゃん」
「ここは危ない、すぐに逃げるんだ」
「お爺ちゃんはどうするの?」
「わたしは村長として一人でも多くの村民を。レオ君、フィオを頼む」
そう言って、ジョゼは走り出した。しかし、それを放っておくフィオではなく、ジョゼを追って走り出す。
そりゃそうだろ、俺だって爺ちゃんが危なかったら放ってはおかないっての。
レオは迷うことなく二人に付いていった。
「おいおい、
「ホントに主じゃなかったの?」
「とにかく、一体ずつでも倒すしかない」
「
「それでもやるんだ」
ちーがーうーだーろー、違うだろー。倒すんじゃねえよ。村民ファーストだろ。
それでも、この最強チームは
そんな攻防を繰り返すが結局
そろそろ出番かな? とノーマンが考えたとき、
えーーー、デカすぎるだろ。正面から見たら
まるで動く山のような威圧感にさすがの最強チームにも動揺を隠せず、それぞれの肉体は心よりも早く反応した。あるものは本能的に離脱を試み、あるものは硬直したまま震えて声もでない。恐怖のあまり失禁した仲間の姿を見て、震えの止まらないマリウスから声が漏れる。
「ぼくたちは、大きな間違いを犯した。こいつが主だったんだ」
だが、時すでに遅し。真実を悟ったマリウスとその仲間たちは、すでに数体の
「人間ども・・・皆殺しだ」
マリウスはもはや声にならない声でつぶやいた。
(兄さん、先生・・・ごめんなさい)
かくして冒険者ギルドが誇る最強チームはマレディ樹海の主の餌となり、その華々くも短い人生を終えたのだ。
<side-B>
こいつはマジでヤバいぞ。
ノーマンはレオとの合流を目指し全速力で村に戻る。
一方その頃、レオは無謀な二人を必死に説得していた。
「ジョゼさん、村民への周知は俺がしますから。とにかく、フィオと逃げてください」
「子どもにそんなことは任せられない。レオ君、お願いだからフィオを頼む」
「わたしはたった一人の家族を見捨てるわけにはいかないの」
そんなやり取りの中、
「レオ?」
「フィオ・・・ごめん。俺、
「やんのかよ、猪。お前なんて怖くないぞ」
おそらく格上の相手に対しても、一歩も退かないレオの気迫が
「よーし、良くやった我が弟子」
そう言って
「師匠」
涙を浮かべながら師匠の登場に安堵するレオに微笑みかけると、ノーマンはその場にいる面子に今すべきことを伝える。
「ガウ太とカー助は火災の鎮火だ。そんで怪我人と村人の回収はレオ、お前に任せる。フィオとジョゼさんは・・・とにかく逃げろ」
「ガウ太、カー助。お前らの
「ウオン(まかせて)」
「カー(りょうかい)」
「レオ、こいつを持っていけ。使い方はわかるな?」
「
ノーマンが手持ちの回復薬・治療薬・解毒薬をすべてレオに手渡すと、フィオはその手際の良さになぜか苛立ちを隠せずにいた。
「あんたなんなの?」
「すまんフィオ、とにかく生き伸びてくれ。言い訳も後でたんまりするし、罵詈雑言をいくら浴びせてくれてもいいから・・・とにかく生き延びてくれ」
ノーマンの気迫のこもった真剣な表情に圧倒され、フィオは黙ってうなずく。
「師匠は?」
「僕はあの大将と話しをつけてくる」
レオは師匠の無事を祈る気持ちと絶大な信頼を込めて言った。
「
大型の
「オレの息子はどこだ? 人間ども絶対に許さんぞ。焼き殺してやる」
ゆっくり前進しながら指示をだす。
「息子たちよ、人間を駆逐せよ。腹が減っているなら食らえばいい」
フィオが
「ごめんね。アイツらが余計なことしなければ無事だったんだよね」
涙を流しながら近づくフィオ。とその時。
「オレの息子に何をする気だ、人間。許さんぞ」
捕らわれた
「止まれー」ノーマンの放った『
お前ら(ガウ太&カー助)は止まらんでいい。
そして続けて歌をうたう。
「♪~」
主はわずかではあるが自分を含め
「何をした人間。いや、貴様何者だ」
主は前掻きで下がりかけた士気を自ら奮い立たせると、まさに猪突猛進でノーマンを襲いかかる。ノーマンは冷静にギターを
「死ね、人間」
チッ、まだ未完成だな・・・ダメージが想像以上だ。でも、即死するほどじゃない。
そしてニヤリと笑う。
二人は右牙と
「わが渾身の一撃を受け止めるとは、やるな人間」
ああ、コイツは格下にも手抜きしないタイプだな。
「あのね、お話があるんだけど」
「はなし?」
「まず、ちゃんと謝罪する。申し訳なかった」
「?」
「馬鹿な連中が勘違いとはいえ、あんたの大事な坊ちゃんを、卑怯な手を使って傷つけ拉致した。あんたが怒るのも当然だ。馬鹿どもに変わって正式に
「それがわかっているなら、やった連中を差し出せ」
「そうしたいのは山々なんだが・・・さっきあんたが食っちまった」
「あいつらか」
「ってことで制裁も済んだわけだし、この辺で手打ちにしちゃもらえんだろうか?」
「人間どもは前にも同じような罪を犯した。二度目はない」
「そこをなんとか。あんたの一撃を受けた僕に免じて」
この主さんは、俺が引けば押すし押すと引くし、絶妙に意地悪してくるな。
この人間は、離れようとしても進もうとしても、自由にさせてはくれんな。
『力を測っているのか?』二人は同じようなことを考えていた。
「だめだ。村人を皆殺しにして息子は連れてかえる」
チッ、意固地だな。仕方ない。
「それなんだけど。馬鹿で卑怯な連中がおかしな
「なんだと?」
「坊ちゃんもだいぶ流血してるみたいで、かなり憔悴している。このまま無理やり連れて帰ると多分途中で死んじゃうかな、と(ウソだけど)」
「ならばすぐに拘束をいますぐ解け」
「そうできれば良いんだけど、なんせ魔法を仕掛けた張本人じゃないと難しいみたいでね(ウソだけど)」
「解けないのか?」
おっ、親の部分が出てきたな。あと一押し。
「いや、僕に一晩くれ。必ず安全に拘束を解いて怪我も治して万全の状態で引き渡す」
「人間を信じろと?」
「人間は信じられなくても、僕はどうだい? 明朝には大将が焼け野原にした村のあった場所に必ずとどける」
主はノーマンの目をじっと見つめながら少し考える。
「ではあの小娘をよこせ」
「?」
「オレの息子のそばにいるあの娘だ」
フィオ?まずいな。
「いいわよ」フィオが立ち上がる。
へ?
「ノーマンさん。ちゃんとあの子を助けてあげて。それでちゃんと親御さんに返すべきだわ」
もはやどっちが悪者なのか、わかんなくなってきた。
「もちろん」
「お前の名はノーマンというのか?」
「ああ」
「ならばノーマン、明朝オレの息子を無事に連れて来い。そこで人質交換だ」
フィオには申し訳ないが、飲むしかないか。
「わかった」
「それで、そのあとはオレと一騎打ちをしろ」
へ?どゆこと?
「オレは誰にも邪魔されず、お前と戦ってみたい」
これも飲むしかないよね・・・。
「僕が勝っても負けても、それで手打ちってことにしてもらえるなら」
「勝てると思っているのか?」
「負けるつもりではやらない」
目を合わせたまま二人はニヤリと笑う。
お互い呼吸を合わせたように牙と
「ふう、ブラフが通用してよかった」
その場に座り込み、口に溜まった血をペッと吐いた。薬品はすべてレオに渡してしまったので、虎の子の
「まずは人質に死なれたら目も当てられない」
ノーマンは捕らえられた血だらけの
治療・回復したとたんに暴れたりせんかね?こういうのはやっぱり
「村の被害状況は?」
「農園はだいぶやられたみたいです。ガウとカークが確認中だけど、たぶん誰も死んでないと思います。あっ、薬は村の人に任せました」
「うん、ありがと。お疲れ様だったね」
とにかく、村人に死者がでなかったのはなによりだ。ってことは、死んだのは最強の冒険者たちと駐在の冒険者だけだな。
「ときにレオくん」
「なんすか?」
「フィオが連れていかれた」
「なんですって?すぐに助けに行かなきゃ」
「いやいや、明朝このお坊ちゃんと交換する」
「でも」
「大丈夫。こちらが約束を守ればあの大将はフィオにはなんもせんよ。そんなことよりもだ、その交換相手の坊ちゃんなんだが、回復させて大丈夫かな?」
レオは少し不満げな表情を浮かべながら
「ひでえ怪我だな。あいつらお前を罠に誘導して捕らえたんだろう?」
弱い呼吸の
「ごめんな。あんな連中のどこが最強だってんだよ。すぐに怪我なおしてやるから暴れるなよ。かならず助けてやるからな」
なんか胸騒ぎがするな。
ノーマンは弟子を見つめながら胸がざわつくのを感じる。
ノーマンがレオと丁寧に拘束を解いて
「だめだよ無茶すんなって、いますぐ治療してやるから」
「フギー」
力ない声で鳴く
「なんか言いたげだな」
「『ありがとう』って言ってますよ」
あれあれ、レオ博士・・・まさかの?
レオと
「俺と一緒に来るか?」
「フギー」
次の瞬間、二つの魔法陣が光の線でつながる。そして4tトラックほどのサイズだった
「師匠」満面の笑みで振り返り、無邪気に喜ぶレオ。
ああ、交換しなきゃならん人質を、こっちの仲間にしちまいやがった。
明日はフィオをどうやって助けたらいいんだろう。
まあ、どうにかなるか。
※【17曲目】は2022年6月28日に公開です。
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