【14曲目】大きな古時計

<intro>

 約20年前にはじまった魔王軍侵攻の前夜、魔王はレウラ半島に勇者が出現することを預言した。

 有史以来、魔王の脅威であり天敵でもある勇者を早い段階で排除することを目論んだ魔王は、侵攻に先んじてこの伏魔殿パンデモニウムの準備をはじめる。

 『早い段階で勇者を発見し排除する』事を目的としたこの計画は、はじめのうちは順調に進んでいた。しかし、魔王軍の一部の魔物モンスターの暴走により、人間との戦いが予定よりも前倒しではじまり、戦火はまたたくまに広がってしまった。

 本来であればじゅうぶんに戦力を整え、圧倒的な力を人間に見せつけるはずであったが、は人間に激しい抵抗の余地を与えてしまう。

 これにより戦略の大幅な変更を余儀なくされた魔王は、魔王軍の戦力増強と再編のため、やむを得ず計画の規模縮小に舵を切る。

 伏魔殿パンデモニウムを前線基地としてのから無人の予備施設へ格下げし、『勇者察知』の範囲をレウラ半島全体からリオウ山脈一帯に縮小し、『勇者排除』のための戦力は、『対勇者特別選抜精鋭部隊の創設』から巨岩兵士ゴーレム9体の配備に変更にした。

 「思考能力のないには複雑な命令は与えられない」

 魔王は出来るだけ簡単シンプルで、できるだけ少ない命令を術式にして残すことを心掛けた。

 伏魔殿パンデモニウムには『リオウ山脈内の☆7以上の波動オーラの観測』『☆7以上の波動オーラを発見したとき、すみやかに巨岩兵士ゴーレムに対し『強き者』の出現と『強き者』の情報を伝達』『格納庫の開放』の3つの命令だけ、そして巨岩兵士ゴーレムたちには『あらゆる敵の排除』『の優先的排除』の2つの命令だけを術式にして与えた。

 こうしてこの伏魔殿パンデモニウムは事実上、魔王以外誰も知らない無人のトラップとして完成した。

 実際、勇者が覚醒後にリオウ山脈に訪れていたなら、このトラップが発動して魔王の目論見通り勇者が排除される可能性は高かった。しかし勇者クリストフは覚醒後、レウラ村から街道を使ってのんびりと道中の魔獣モンスターを倒しながらフィリトンまで到達してしまい、リオウ山脈に立ち入ることなく旅を進めてしまう。

 またそのころになると統制を欠いた人間の抵抗勢力が共闘体制をとり勇者たちを支援する動きが活発にり、抵抗勢力の中に『魔王討伐』の気運がいっそう高まっていった。

 この時点で、すでに布石としての価値を失っていた伏魔殿パンデモニウムと9体の巨岩兵士ストーンゴーレムの記憶は魔王の記憶の片隅においやられてしまっていて、魔王の知恵と情熱は完全に勇者打倒にどんどん集中していってしまう。

 その後、魔王と勇者の直接対決ののちに魔王軍が撤退をはじめ、この戦争が一応の終結を迎えそこから約15年の時がたったのだが、無人のトラップから無人のトラップになったこの施設は主を失った今も稼働している。

 魔王に登録された簡単シンプルな命令を約20年の間一瞬たりとも休むことなく守り続けている伏魔殿パンデモニウムは勇者の波動オーラを探し続け、同じく巨岩兵士ストーンゴーレム発見の知らせを待ち続けていた。



<side-A> 

 そしてある晩、は突如としてやってきた。リオウ山脈でノーマンが解放したとてつもない殺気は山脈中を駆け巡り『伏魔殿パンデモニウム』の観測網に捕捉され、そしてそれは☆7相当の人間が放ったの波動オーラとして認識された。認識された情報は速やかに巨岩兵士ストーンゴーレムに伝達される。

 「が現れた」

 伏魔殿パンデモニウムからすみやかに発せられたその警告アラートによって9体の巨岩兵士ストーンゴーレムは同時に起動する。そしての容姿と位置情報が起動と同時に巨岩兵士ストーンゴーレムに送信される。格納庫から地上につながる固く閉ざされた重たい扉が開放されると、巨岩兵士ストーンゴーレムたちはノーマンを標的にさだめて行動を開始した。

 巨岩兵士ゴーレムたちが地上に姿を現した時にはすでに夜が明けていた。警告アラートを受けてから半日以上かかったのは、地底深くに潜む伏魔殿パンデモニウムから地上までの距離が長かったことと、修繕メンテ不足による巨岩兵士ゴーレムの経年劣化が影響していた。

 9体の巨岩兵士ストーンゴーレムは標的の位置を把握すると縦に連なり行軍を開始した。本来であれば魔獣モンスターは敵として認識されないため攻撃の対象にはならない。しかし先頭の巨岩兵士ストーンゴーレムが捕捉した鴉型魔獣キルレイヴンには人間が搭乗していたため、運悪く敵として認識されてしまう。魔王に命じられた『敵の排除』を忠実に実行する巨岩兵士ストーン・ゴーレムは、投石による攻撃行動を開始した。直撃こそしなかったものの敵にダメージを与えた巨岩兵士ストーン・ゴーレムがレオたちを追撃しなかったのは、反撃の体勢をとらないまま戦線を離脱したよりも『の優先的排除』の方が上位の命令だったからである。そして巨岩兵士ストーン・ゴーレムによる行軍はノーマンに向けて再開された。


 「バカでかい人型の敵が9体、こちらに接近してるのはわかってる。ただそれが、巨人ジャイアントなのか巨大人形ゴーレムなのかがよくわからない、というかどちらもまだ実物を見たことがないので判断しようがない」

 ノーマンはそう嘆きながら戦いの準備をしていた。

 「もし巨人ジャイアントであれば勝算は高い。どんなにサイズが大きくても構造上は人間と大差がないだろうから、弱点も急所もおおよそ目星がつく。改良した衝撃音波ソニックブームで知覚をくるわせてもいいし、超音波ソニックで耳を潰すことも、鎌鼬かまいたちで目を潰すことも可能だろう。刃幕シールドで皮膚をズタズタにするのも簡単だろう。とにかくスピードで勝る分、やりたい放題にできる」

 かつて鴉型魔獣キルレイヴンの巣があった大木の切り株を一つずつ山頂に並べていく。

 「だけど巨大人形ゴーレムだった場合は問題が多い。まず材質はなんでできているのか?どんな攻撃を仕掛けてくるのか?思考能力はあるのか?動力は?どうやってダメージを与えるのか?魔法攻撃はあるのか?何がどうなったら倒したことになるのか?さっぱりわからない。こっちの場合は戦いながら探っていかねばならないから、ちと骨が折れる」

 音感探知ソナーで相手の行動をこまめに確認しながら、ノーマンは煙草にターボライターで火をつける。

 「ああ面倒だ。面倒な敵は逃げてしまえばいいと考えていたが、それが出来ないところが一番やっかいだ。なんで俺を追ってくるのかもだいたい想像がつく。どうせ、勇者かなんかがテリトリーに踏み入れたら自動で攻撃の命令が発動するみたいな感じなんだろうさ、ってことはやっぱり巨大人形ゴーレムか。しかし勇者と吟遊詩人バード間違えるかね?ん、ってことは職業ジョブで判別したわけではないってことだな。分析力とかこの行軍パターンとかさっきの投石とかから考えると、そんなに複雑な命令コマンド入力インプットされてる感じではないのかも」

 そして目視できる位置まで接近した敵を見てうなだれる。

「やっぱ巨大人形ゴーレムじゃん、やっぱり嫌な方が来るんじゃん。まあ俺自身弱いモノいじめに慣れている感があるのは事実だし、複雑な攻撃もなさそうだから、試し試しやりますか」

 9つ並んだ切り株の一つは可燃性の高いミューカスクロウラーの粘液につけておいたもので煙草の火を引火させると激しく燃え上がった。山を登ってくる巨岩兵士ストーン・ゴーレムの先頭めがけてこの燃えさかる切り株を蹴飛ばすと、巨岩兵士ストーン・ゴーレムはそれを胸と両手でしっかり捕獲キャッチして逆にノーマンに向かい投げ返した。ノーマンは想定内とばかりに鎌鼬かまいたちでそれを粉砕する。

 「やれやれ、じゃあお次は」ノーマンは二つ目の切り株を巨岩兵士ストーン・ゴーレムめがけて再び蹴り飛ばす。今度の切り株はブラッドスカーの毒棘から抽出した大量の毒液につけておいた切り株で、これも初弾どうよう投げ返されてしまうが、同じように鎌鼬かまいたちで粉砕した。

 「これならどうだ?」2つの山刀マチェットを左右に開くように縮地フリートで下がって繰り出す衝撃音波ソニックブームをぶつけてみると巨岩兵士ストーン・ゴーレムの足が止まる。続けて超音波ソニックを鳴らして様子を見るがあまり変化はなく、巨岩兵士ストーン・ゴーレムは直列をやめて並列に陣形を整えはじめる。

 「この距離感でとりあえず試せることは全部やったかな」そう言って音感探知ソナーを使いながら巨岩兵士ストーン・ゴーレムを観察する。

 物理的な防御力は相当高い。熱膨張で岩を割るにはあの火力じゃ足りないし、毒も岩に効くタイプではなかったみたいだな。攻撃力はどうなんだろう?

 ノーマンは並列の陣形が完成する前に次の行動に移る。

 「足を止めて陣を整えるなんて投石する気満々だからなあ、とりあえず1対1の時間が欲しい」

 ノーマンは思いついたように縮地フリートで先頭の巨岩兵士ゴーレムをすり抜けて、自分の山刀マチェット超音波ソニックを浴びせた。

 「よく漫画やアニメで出てくる振動剣を即興でやってみたけど、どうだろう?」

 即興の新技『超音波切断ソニックカッター』を地面に放つと地表が崩壊し、先頭の巨岩兵士ゴーレムを残し他の8体は足場を失い山を転げ落ちていく。

 「これは成功だな」

 ところが、残された1体の巨岩兵士ストーン・ゴーレムはノーマンの予想を超える速さで振り返りの左手で無防備なノーマンを鷲掴みにした。

 「何?しくったか?行軍速度にくらべて攻撃速度が圧倒的に速い」

 巨岩兵士ストーン・ゴーレムは右の拳を、鷲掴みにしたノーマンの頭部めがけて振り下ろす。

 「やばい、こんなの食らったら首がもげる」必死になって首をすくめてできる限りの防御を試みる。

 すると、巨岩兵士ストーン・ゴーレムの右膝が何かの衝撃でカクンと曲がり、バランスを崩し不意に開いた左手から間一髪でノーマンが解放される。

 「ウオン」

 「ガウ太!」

 


<side-B>

 ☆7の勇者を排除するために作られた巨岩兵士ストーン・ゴーレムは強い。攻撃力・防御力・運動性・耐久性どれをとっても全魔獣モンスター中でも上位に位置する。ただどれだけ強かろうと、相手よりも格上だったとしても、不意に食らう膝カックンには抗えない。ノーマンとガウは、倒れた巨岩兵士ストーン・ゴーレムから距離をおいた。


 「レオとカー助は無事か?」

 「ウオン(うん)。ウオン(ふたりけが)。ウオン(うごけない)」

 ノーマンは回復薬と治療薬をガウに渡す。

 「薬品ポーションだ。二人を頼む」

 「ウオン(わかった)」素早くその場を離れる。

 

 「とりあえず心配事が一つ減ったな。しかしこのスピードはやっかいだ。っていうか、一度攻撃を食らってみようかしら?」

 危険な好奇心が突然生まれたノーマンは立ち上がった巨岩兵士ストーン・ゴーレムを坂の上から仁王立ちで見下ろした。それが視界に入ると巨岩兵士ストーン・ゴーレムは即座に接近し全力でノーマンを右拳で殴りつける。そして殴られたノーマンは後方に大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられそうになったすんでのところで回転して受け身をとった。

 「これはヤバい。とにかく痛い。全身骨折レベル。電車の追突事故だな」天を仰ぎながら超薬U.Pを口にする。

 回復を確認してすぐさま戦線に復帰すると、巨岩兵士ストーン・ゴーレムの左フックが襲ってきた。そして、それを迎撃カウンターで防いでみたものの、巨岩兵士ストーン・ゴーレムの左拳にダメージを与えた手ごたえはなく、逆にノーマンの右手がしびれる。

 「痛みを感じる分、俺が不利かもしれないな。これならどうだ?」

 相手の懐に入り先ほど覚えた超音波切断ソニックカッターを胸部に叩きつけるが、これもダメージを与えた手ごたえがない。

 「うん知ってる。元の世界で買おうと思った『超音波カッター』の説明文にガラス・鉱物・金属には適さないって書いてあったもん」

 その後も巨岩兵士ストーン・ゴーレムの繰り出す左右の拳による連打をノーマンは反撃の決め手を欠いたまま迎撃カウンターでひたすらしのいだ。剣聖の教え通りをとっている分だけわずかにダメージは少ない。転げ落ちた8体がじわじわと接近してくるのを音感探知ソナーで感じながら防戦一方の展開に少し焦りを感じはじめる。するとその時、上空に旋回する大きな影が視界に入る。

 「カー助?」

 今でこそ人間の少年の従魔サーヴァントとなってはいるが、かつてはラーガ森林の主として君臨していた魔獣モンスターであり、不意打ちとはいえたかが投石ごときで不甲斐ない姿をさらしたことは彼の自尊心プライドを激しく傷つけたのだ。

 カークは両翼から強力な竜巻をおこすとその竜巻と羽の散弾攻撃を重ねて巨岩兵士ストーン・ゴーレムに放った。竜巻は巨岩兵士ストーン・ゴーレムを巻きこみ無数の黒い羽が刃となって襲うが、巨岩兵士ストーン・ゴーレムは両腕を振り回し竜巻を打ち消してしまう。そして、足元の岩石を拾い投石の動きを見せた時、ノーマンはとっさに岩石にむかって鎌鼬かまいたちを放つと、その岩石は粉々に砕け散った。

 あれ? 弾くだけのつもりだったけど割れちゃった。まあいい。

 「カー助、離れろ」

 相手の注意を自分に引き付けるためにノーマンは切り株を一つ巨岩兵士ストーン・ゴーレムめがけて蹴り飛ばす。巨岩兵士ストーン・ゴーレムはそれを片手で弾き落とすとノーマンに向かって突進してきた。そして、再び両拳の連打がはじまるとノーマンは再び防戦一方になってしまったが、巨岩兵士ストーン・ゴーレムの攻撃を防ぎながらあることに気づく。

 あれ、カー助の羽が所々に刺さってるな。天然の岩石だったらヒビやら脆い箇所くらいあるか。墓石も風化から劣化するって聞いたことあるしな。待てよ、俺さっき岩石を鎌鼬かまいたちで粉砕したよな?うまいこと脆い箇所にあたったのか?

 先入観を捨てよう、まず鎌鼬かまいたちでも岩石は割れる。岩石内部の脆い部分がわかれば、そこを外側のヒビから攻めるのはどうだろう?そういえば岩石内部の様子を探る超音波探傷器ってあるよな・・・なるほど。

 ノーマンはニヤリと笑った。

 巨岩兵士ストーン・ゴーレムの背後に回りカークの羽を見つけると、背中に飛びつきその羽が刺さった箇所に手の平を当てる。そして巨岩兵士ストーン・ゴーレムの体内に超音波ソニックを流して音感探知ソナーで音を拾った。

 こんな使い道もあるんだね。ちゃんの大きなお腹の中にいたのカワイイ顔を、産婦人科で拝見いたしましたよ。これが『超音波検査』だ。

 超音波検査エコーで得た情報が、ノーマンの脳で視覚情報として再構築される。巨岩兵士ストーン・ゴーレムの脆い箇所が手に取るようにわかるだけでなく、おそらくこの巨体の動力源と思われる『コア』らしき塊がある位置もノーマンははっきりと認識できた。

 巨岩兵士ストーン・ゴーレムは背中に張り付いたノーマンを振り落とそうと必死にもがいていたが、もはや手遅れだった。巨岩兵士ストーン・ゴーレムの内部構造を把握したノーマンは、すでに岩石の砕き方を理解している。先ほどまでの防戦一方だったノーマンはのではなくだけであり、さえあれば防戦に徹する道理はないのだ。

 ノーマンは巨岩兵士ストーン・ゴーレムから離れ衝撃音波ソニックブームの共鳴振動で敵の動きを止めると、脆い箇所すべてに無数の鎌鼬かまいたちを放り込む。するとと音を鳴らしながら巨岩兵士ストーン・ゴーレムの全身に亀裂が入る。そして一番大きな亀裂に飛び蹴りで衝撃を与え巨岩兵士ストーン・ゴーレムを粉砕すると、むき出しになった赤く光るコアを叩き割った。

 上空高くに退避中のカークを超音波ソニックで呼び、指示をだす。

「カー助。さっきの羽の竜巻、残りの8体にもバンバンぶつけろ」

「カー(りょうかい)」

 山を登ってくる巨岩兵士ストーン・ゴーレムに容赦なく襲いかかる黒い羽の竜巻は、20年間の待機による魔力の減退と風化による劣化が顕著に出ている部位を露わにしていく。そして、ノーマンは残り8体の巨岩兵士ストーン・ゴーレムも1体目と同様の手順で、1体1体丁寧に駆逐していったのだった。


 すべての巨岩兵士ストーン・ゴーレムが岩石に戻って、珍しく疲弊しきったノーマンにレオが駆け寄る。

 「師匠。バケモンでしたね」

 「どっちが?」

 「どっちが?って?」

 「どでかいバケモンみたいな連中の方か、それを倒した僕かだよ」

 「どっちもですよ。でもね師匠、師匠がバケモンじゃなきゃ弟子になった意味がないです」

 こいつは大物だよ。あきれながら、ノーマンは回復薬を一口飲んだ。

 「これからどうしますか?」

 「とりあえず、こいつらが出て来た場所に行ってみようかな」

 「アイテムの回収は?」

 「するよ、こんなに疲れたのにただ働きは性に合わない」

 「じゃぁ、さっさと回収しちゃってくださいよ。自分が倒したわけじゃないんで」

 「なに?そのツンデレ。あとで分配すればいいじゃん」

 「嫌ですよ。俺ほとんどなんもしてないし」

 「いやいや、カー助とガウ太の成果はお前のもんだろ?」

 「俺はそう思ってませんから」

 こいつ面倒くさいな。

 「じゃあ、アイテムはいただくから弟子として手伝え」

 「チッ、はいはい」

 態度悪っ。戦闘に参加・貢献できなかったのが相当に悔しいんだな。

 ノーマンたちは『魔鉱』と『魔晶石』という使い道のわからないアイテムを大量に回収すると、巨岩兵士ストーン・ゴーレムたちの来た道をたどっていく。そして地下へと続く広い回廊を下り無人の伏魔殿パンデモニウムの格納庫の扉を見つけた。

 「これって魔王軍の砦かなんかですかね?」

 「俺が知るわけあるまい。ただ、魔物モンスターの気配は感じないな」

 巨岩兵士ストーン・ゴーレムが20年待機した格納庫の扉から伏魔殿パンデモニウムの内部へ侵入する。円柱の形をした建造物の内側をはうように螺旋状に敷かれた階段をただただ上り進むと、この建造物内で唯一のあった部屋に辿り着いた。鍵のかかった扉を叩き壊し部屋の中に入ると中心には祭壇のような卓に巨大な魔晶石が固定されている。不用意に触るのは危険なのはわかりつつ、魔晶石に触れて確かめる。

 巨岩兵士ストーン・ゴーレムコアになってたのと同じものだな。

 「これはもう役割を終えているね、魔力が活動していない」

 「役割?」

 「おそらくこのデカい石が俺を見つけて、それを巨岩兵士ストーン・ゴーレムに知らせたんだと思う。この石っていうかこの建物の役割はそんなとこだろ」

 「それだけですか?」

 「うんそれだけ。誰かがいた気配もないし使っていた形跡もない」

 「どうします、壊しますか?」

 「このデカい魔晶石は回収するけど、建物は放っておこう。そうだなあ、人が立ち入るような場所でもないし、入口の扉をしっかり閉じておけば魔獣モンスターが侵入することもないだろうから、レオの秘密基地にでもしたらいいよ」

 「秘密基地」レオの口元が緩む。

 少し機嫌が直ったな。やっぱり子どもだ。

 「巨岩兵士ストーン・ゴーレム退治で疲れたから、日が高いうちにさっさと山脈を抜けよう」

 「いよいよカトリヤ村ですね」

 「嬉しそうだね、レオ」

 「俺、レウラ村以外知らないから楽しみなんです」

 「僕も楽しみだよ」

 「お酒がでしょ?」

 「うるさいな」

 ノーマンは煙草に火をつけ、格納庫の巨岩兵士ストーン・ゴーレムが立っていたであろう壁を見つめ、ほんの少しだけ感傷にひたる。

 どんな理由で何の目的で、どんな風に作られて、どれくらいの時間待ってたんだろうな。大変お待たせいたしました・・・お役目ご苦労様でした。

 格納庫の扉をしっかり閉めて、伏魔殿パンデモニウムをあとにしたノーマン一行は、適度に魔獣モンスターを狩りながら山脈突破を目指した。ノーマンはこの時点ではリオウ山脈の魔獣モンスターのレベルを低く見積もっていて、魔獣モンスター狩りはすべてレオたちに任せることにしていた。しかし、リオウ山脈に生息する☆4の魔獣モンスターたちはこれまでの魔獣モンスターよりも強く、レオたちは予想外の苦戦を強いられることになる。

 同じ☆4でも上位と下位で強さにかなり差があるな。☆5寄りの☆4と☆3寄りの☆4って感じか。☆の色の事も考えるとこれから先、☆の数だけで判断するのはやっぱり危険かもしれないね。

 ノーマンはそんなことを考えながらレオたちの苦戦を悠長に見物していた。いざとなったら、自分がフォローすればいいくらいに考えているのだ。そして、そんなノーマンの期待通りレオたちは次々と魔獣モンスターを撃破していく。

 「よし、あの山越えたら山脈脱出だ」

 「ずいぶんと時間がかかりましたね」

 「予想より敵が強かったからね」

 「師匠の手を借りずに倒せましたよ」

 「えらいえらい。もう狩りはいいから一気に行くよ」

 「押忍オス



※【15曲目】は2022年6月14日に公開です。

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