【13曲目】Welcome To The Jungle

<intro>

 ノーマンたちが南の森だ北の森林だと呼んでいたエリアは、地図上ではまとめて『ラーガ森林』と記載されていた。そのラーガ森林を抜けてさらに北に進むと、ラーガ森林の倍近い面積の『リオウ山脈』が広がっている。そして、ラーガ森林とリオウ山脈の2つの魔獣生息地でレウラ半島の面積の7割ほどが占められている。

 リオウ山脈をさらに北に抜けると『パマル』という広大な農村地帯があり、その北側にそびえる『マレディ山』を越えた先に『城郭都市フィリトン』が存在する。

 半島の西側にはレウラ村とフィリトンをむすぶ『レウラ街道』があり、人々が安全に移動するためにはその街道を使って魔獣の生息エリアを大きく迂回しなければならない。


**********************************


 レウラ村からフィリトンまでは街道を使った馬車の移動で2週間から20日間かかる。しかし長距離の移動になるため馬を休ませる必要がある。中間地点にあるパマルで一番大きな『カトリヤ村』に1~2日滞在し旅の行程を前半と後半に分けるのがオーソドックスな旅のスタイルだ。

 カトリヤ村では主にオリーブと葡萄が栽培されており、それぞれオリーブ油とワインに加工されてから出荷される。特に葡萄は複数のワイナリーが直接、栽培・収穫・加工を手掛けており村の特産品として『ロカーナ王国』国内でも評判が高い。

 村内には旅人や行商人のための宿泊施設や土産物屋もあって、宿泊客の中にはカトリヤ産ワインのためだけにやってくる者も少なからずいる。


 「師匠。水とこけの収集、完了しました」

 「うむ、ご苦労」

 「なに読んでるんですか?」

 「なんかね、パウロが地図と一緒にガイドブックみたいなのくれたんだ。これから向かうカトリヤ村の事が書いてあったから」

 「へえ。っていうか森の中にこんなところあったんですね」

 ノーマンたちはウルズの泉に来ていた。

 「ここは魔獣モンスターも入ってこないから休憩所にはもってこいなんだよ」

 「この水とこけって特別なんですか?」

 「薬品ポーションの材料にちょうどいいんだ」

 「だから空き瓶を大量に買いこんだんですね」

 「そういうこと」

 「でも50本分ずつでいいんですか?空き瓶まだ100本残ってますけど」

 「いいのだよ。だってこれから行くカトリヤ村はワインが特産品なんだよ」

 「ワインなんてディオさんとこでもレウラ村でも飲んでたじゃないですか」

 呆れたように言うレオにノーマンはニヤリと笑って言い返した。

 「確信はないんだけどね・・・もっと凄いのがある予感がするんだ」



<side-A>

 ショートカットしても遠いな。地図を見ると改めて思う。ただリオウ山脈には興味がある。山というのは鉱物資源の宝庫だし、新しい魔獣モンスターからのアイテムも期待できる。

 「ねえ師匠」

 「カークに乗って行ったらすぐに着くと思うんですけど」

 ノーマンが愚かな提案をしたレオの頭をやさしくチョップすると、レオは反射的に肩をすくめた。

 「それじゃお前の修行にならんだろ。ガウ太とカー助は収容ハウスしなさい」

 「押忍オス」友だちを渋々と戦譜スコアにしまう。

 「よし、じゃああの一番高い山までかけっこな。行くぞ」

 「押忍オス

 

 ガウの疾風ゲイルほどではないが加速アクセルも結構速いんだな。

 後方のレオの速度を気遣いながら枝から枝へと渡って進む。魔獣モンスターが前方に出現してもスピードは落とさずにすり抜けざまに倒して進む。ラーガ森林を一気に駆け抜けリオウ山脈に入ったところで空気感が変わる。

 「ストップだレオ」足を止め左手でレオを制止する。

 「どうしたんすか?」

 音感探知ソナーで周辺を探る。

 「強そうな連中が前方に群れをなしてる。ゴブリンの団体っぽいけど、サイズが倍近いのもいるみたいだ」

 ホブゴブリンとかオークとかいう感じか?いずれにせよ敵の正体がわからないまま、しかも集団ってのは少し怖いな。

 「師匠」前方をにらみつけながら、勇ましい声でレオが呼ぶ。

 「なに?」

 「行きましょう」

 「うーん・・・でも、結構な数がいるんだよなあ」

 「師匠は俺の心配してるんですよね?だって、師匠一人なら問題ないはずです」

 まあ、実際そうなんだけど・・・うん、ここは慎重さの大切さを説いておこう。

 「いやそうでもないさ。どんな能力かわからない敵は僕でも怖いよ」

 「そしたら俺が一人で行くんで、敵がどんな能力か観察しててください」

 鴉型魔獣キルレイヴン倒したからなのか、☆4になったからなのか、随分とたくましく成長なされて。まあ、いざって時はレオを拾って離脱すればいいか。

 「よしわかった。いいか、ヤバいと感じたら全力で逃げろ」

 「押忍オス

 レオの視線は前方を見たままでノーマンの方を見向きもしない。

 気合入ってるねえ、さてどんな戦いっぷりを見せてくれるのやら。


 スピードを活かして一気に駆け込んでヒット&ウェイで一体ずつ倒していく。ノーマンはそんな予想をしながら戦況を見守るつもりでいたが、レオの大胆な行動はノーマンの想像の斜め上だった。

 レオが敵に向かい悠然と接近すると、敵の1体がレオの存在に気づく。雄たけびを上げながら突進してきた敵を確認して、レオは軽く腰を落として姿勢よく槍を構えた。先制攻撃してきた敵の片手斧アックスめがけて迎撃カウンターを放ち片手斧アックスを弾き飛ばすと、瞬時に接近して押出プッシュバックで敵を弾き飛ばし制圧ホールドでとどめを刺す。

 おいおいおい、達人かよ。

 その戦闘に気づいた敵の仲間たちが一気に襲いかかってくると、刃幕シールドで牽制しながら加速アクセルで一気に後退して距離をとる。そして、また軽く腰を落として姿勢を正し槍を構えたレオに隙はなく、敵とレオの間に置かれた槍の穂先が相手の追撃を見事に阻んでいた。

 ノーマンは後方のゴブリンが魔法攻撃のモーションに入っているのに気づき鎌鼬かまいたちを放とうと構えるが、それよりも早くレオは投擲ジャヴェリンでそのゴブリンを射止め、素早く戦譜スコアから次の槍を取り出し構える。

 えっ、こんなに強いのレオナルドさんって。

 一連の動作で動揺した敵はしびれをきらして強引に攻勢に転じるが、レオは焦ることなく敵の攻撃を一つ一つ丁寧にさばいていく。そして、レオはさらに迎撃カウンター押出プッシュバック制圧ホールド刃幕シールド加速アクセルの5種の技能スキルを巧みに使い敵の戦力をじわりじわりと削っていった。そして、気が付けば敵は残り5体。

 あとのこり5体。前衛のデカいの3体は盾と片手武器、後衛の小さいの2体は杖を持っていて攻撃魔法を使ってくる。奢るな。落ち着け。

 レオは自分にそう言い聞かせたが、後衛の2体が同時に攻撃魔法のモーションに入ったことに気づいた。しかし、前衛の3体への警戒を解く余裕はなく投擲ジャヴェリンが使えない。

 「チッ」

 少しでも余裕を作るために後方にステップすると一足先に敵の攻撃魔法が放たれた。

 「まずい」

 レオは一瞬焦ったが、心の焦りとは裏腹に肉体の方は2つの攻撃魔法に自然と反応する。このとき同時に放たれた攻撃魔法が同じであれば、あるいはレオは対処できなかったかもしれない。しかし、2体の敵が放った攻撃魔法は『氷針ニードル』と『風刃エッジ』。この二つの攻撃魔法は速度が異なっていたため、レオの肉体はその着弾までの時間差を使って一つずつに反応できたのである。二つの攻撃魔法を迎撃カウンターで相殺すると、隙だらけの前衛3体の隙間を加速アクセルで駆け抜け、後衛の1体を木に押し付けそのまま押出プッシュバックで圧殺し、もう1体は制圧ホールドで撲殺した。

 のこり3体、デカいのだけだ。とりあえず攻撃魔法の警戒はしなくてよくなった。

 大型3体のうち2体は怒りに満ちたような雄たけびを上げながらレオに向かって走ってくるが、残りの1体は臆したのか動けずにいた。そして敵2体が直線状に並んだ瞬間、レオの体が閃いたように反応する。

 レオは迎撃カウンターのようなモーションから体をねじり反動をつけ、その回転運動のエネルギーをそのまま槍の直線運動に変換させる。右手1本で敵の体の中心に穂先をあわせると、そこからさらに体をねじり一気に真っ直ぐ槍を押し込んだ。

 まるでビリヤードのブレークショットだね。

 ノーマンはを少しだけ思い出す。

 大型2体はレオの槍でまとめて串刺しにされ絶命し、それを見た最後の1体は恐怖のあまり逃走を試みた。しかし、それを見逃さなかったレオの投擲ジャヴェリンは、敗走する逃亡者の背中を貫き最後の1体の命を奪った。結局その場にいた20体近い敵をたった一人で全滅に追い込んだレオは、肩で大きく深呼吸しながら乱れた呼吸を整える。しかし、さすがに疲れたようでその場に座り込んだ。そして後方で戦況を観察していたノーマンが駆け寄る。

 「ちゃんと敵の観察できましたか?師匠」

 「お前の戦いっぷりに見とれて、敵の観察を忘れてたよ」 

 こんなに強くなるもんかね。

 「ちゃんと観察してくれなきゃダメですよ。師匠」

 「とりあえず、お前の観察はできた。僕が教えたことは全部合格、いや、それ以上だね。特に相手との体重差を利用して押出プッシュバックで後退するなんて素晴らしかったよ。それに攻撃魔法をさばいた後の急襲、木に押し付けて倒すなんて見事すぎる。極めつけはあの突き、俺が教えていない技だ。お前が考えたのか?」

 「『蜂刺スティング』です。。蜂型魔獣スパイクホーネットの攻撃を参考にした迎撃カウンターの応用です。隠れて練習してました」

 この子、天才かも。

 「レオ、ありがとな」」

 「師匠の役に立てますか?俺」

 「弟子のお前が僕の役に立たなくていいんだよ。お前の成長の役に立つのが師匠である僕の仕事でしょ?」

 「えへへ、そっか。迷惑かけてませんか?」

 「迷惑?とんでもない。どんどん強くなるお前を見せてもらって楽しいよ」

 「俺、強くなってますか?」

 「自分でわかるだろ?」

 「えへへ」力なく笑ってノーマンに倒れかかった。

 そのまま眠ってしまったレオをそのまま地面におろし毛布を掛ける。

 ここをキャンプ地とするか。

 

 煙草に火をつけて煙をくゆらせながら、全身から殺気を放つ。

 「レオの眠りを邪魔したら、皆殺しだからな」

 その殺気が広範囲に広がると、リオウ山脈中の魔獣モンスターに戦慄が走る。そして何かのスイッチが入り、何かが起動した。


 二人の旅の初日はこうやって終わっていった。



<side-B>

 目覚めると師匠は木に寄りかかり座ったまま寝ていた。右手で山刀マチェットを握ったまま、まるでこのエリアへの敵の侵入を威嚇するように構えている。表情はヘラヘラしているけど、寝ていても隙がない。師匠は見た目は若くて、それこそパウロと同世代だと言われてもなんにも違和感がないし、どちらかと言えばゆるい人だ。ゆるいしヘラヘラしているのに隙がない、不思議な人だ。

 「えへへ、サトコはかわいいね。。。サトコはげんきだね。。。サトコがだいすきだよ。。。」

 師匠が割とハッキリした寝言を言っている。師匠の言うって誰なんだろ? 寝言からして相当大切な人なんだろうな。

 レオがノーマンの顔を覗き込みまじまじ見ながら考えていると、ノーマンが突然パッと目を開ける。

 「すまん寝てた。で、なんでお前の顔がこんなに近くにあるんだ?」

 「あっ、おはようございます。46歳には見えないなあって」

 「お前くらいの歳のころから見た目に変化がないらしい」

 「まじっすか?じゃあ俺も46歳になってもここままってこと?」

 「安心しろ。僕は11歳の時からオジサンだったけど、お前はちゃんと子どもだから、歳とともにちゃんと成長するよ」

 「それなら良かったです」

 少し安心するレオ。

 「それはそうと、師匠。俺、昨日戦いの後、どうなったんですか?」

 「少し会話して寝た。相当集中して神経使ったんだろうな、死んだように寝たよ。体調は?生きてる?」

 「ばっちりです。生きてます」

 「それなら結構。そんじゃ生きてる人間は飯を食って栄養とらなきゃな。午前中にはカトリヤ村まで行こう」

 「押忍オス


 「あっ、アイテムどうしました?」

 「回収しといたよ、ホレ」

 二人はアルセルクの干し肉をかじりながら昨日の戦利品をチェックする。

 『魔鬼ゴブリン之杖ロッド』が2つ、

 『魔鬼ゴブリン之法服ローブ』が2つ、

 『武鬼ゴブリン之手斧アックス』が3つ、

 『武鬼ゴブリン之槌鉾メイス』が2つ、

 『武鬼ゴブリン之剣ソード』が2つ、

 『武鬼ゴブリン之盾シールド』が3つ、

 『武鬼ゴブリン之胸当プレート』が3つ、

 『武鬼ゴブリン之手甲ガントレット』が3つ、

 『武鬼ゴブリン之脛当レガース』が5つ、

 とここまでは魔獣モンスター系の装備品なんだけど、ここからが、

 『魔術師ソーサー之杖ロッド』が2つ、

 『鉄之剣アイアンソード』が2つ、

 『鉄之盾アイアンシールド』が3つ。

 これって多分、魔物モンスター側が倒した人間の装備品を戦利品として使ってるってことだよな。自分のレベルを無視するとじゃなくてになるわけだ。

 「数が随分多いですね」

 「なんか半分くらいは、1体から2つアイテムがとれたんだ」

 「ゴブリンの装備品よりも強そうですね」

 そうなんだよなあ。ゴブリンの装備品の時から疑問だったんだけど、このゴブリン系の装備品は自作なのかな? 結構しっかりと作られているところを見ると、それなりの知能レベルがあるとみるべきか?もしくは、こういうのを作り出す魔法かなにかかが使えるのか? あとは、うーん・・・魔王軍からの支給品ってこともあるか・・・まいっか、今は深く考えるのはよそう。

 「そうだねえ、でもレオにはまだ大きいからサイズが合うようになるまでは売らずにとっておけばいいよ」

 「そうっすね。それよりこの人間の装備品ってやっぱり」

 「このリオウ山脈に入った冒険者か兵士のものだろうね」

 「戦譜スコアに収納してごらん」

 「押忍オス」レオは言われた通りにする。

 「なんかこれにも☆ついてます。魔術師ソーサー之杖ロッドは☆2と☆3、鉄之剣アイアンソードは両方☆3、鉄之盾アイアンシールドは☆3二つと、おっ☆4もある・・・なんなんすかね?」

 「多分、武器のグレードだな。人間の装備品だと表示されるみたいだ」

 「師匠の山刀マチェットは☆いくつなんですか?」

 「僕のは山刀マチェットは武器とはみなされていないみたいなんだよ」

 「げっ、まじっすか? じゃあちゃんとした武器を装備したら、もっと強くなるかもですね・・・ソードいります?」

 確かに今から武器変してももう職業ジョブには影響なさそうだしな・・・でも。

 「ありがとう。でも、いらない。僕は気に入ってるんだ、ディオさんにもらった山刀マチェット

 「そうっすね。師匠には似合ってますよ、それ」

 「あっでも、武鬼ゴブリン之手甲ガントレット武鬼ゴブリン之脛当レガースはカッコいいから頂戴な」

 「もちろんっす」

 「ありがとう。ところでレオ、昨日倒した魔獣モンスターの情報をくれないか?」

 「記録レコードですね。えーと、魔法を使っていたのが『ソーサー・ゴブリン』で、デカい連中は皆『アームド・ゴブリン』です」

 「じゃぁ、魔法を使えるようになったゴブリンと、大型化して強くなったゴブリンってわけだな」

 「別種族かもしれませんよ」

 「多分・・・別種族だったら一緒に行動してないよ」魔王軍の統制でもあれば別だけど。

 「・・・ディオさんも言ってたけど、師匠って賢いですよね」

 「なんだよ急に」

 「いや普通、人って自分の思いついたことを言うじゃないですか」

 「僕だってそうだよ」

 「違いますよ。師匠は自分が思いついたことの他にもいくつか答えを考えて、その中から選んで言ってる感じがするんです。だから多分、『別種族』ってこともちゃんと考えてた上で『同種族』って思ったんですよね?じゃなきゃあんな即答できないです」

 この子自身も相当頭が切れるし、あいかわらず人を良く見ている。しっかし、11歳の少年が46歳のオッサンの思考回路を分析するかね、普通。

 「まあ無意識にそうやって言葉を選んでいるところはあるかもだけど、それは賢いからじゃない。臆病なだけなんだよ。防衛本能がそうさせるんだ」

 「防衛本能?」

 「僕は昔から考えなしに発言して相手を傷つけてしまったり、言葉を選びを間違えたりしてよく怒られていたんだ。その結果自分が傷つくことになったり、ひとりぼっちになってしまったこともたくさんあってね」

 「今の師匠からは考えられないっすね」

 「あのなレオ。僕は君の4倍以上生きてるんだ。それはレオが生まれてから今日までの時間を4回繰り返すくらい長い長い時間だ。色んな事を学んで、色んな痛い目にあって、今の僕が出来上がったんだ。人は変わるんだよ」

 「変わる?」

 「だって1週間前のレオはガウ太と一緒にスライムに殺されかけてたんだぞ。今だったらお前とガウ太でこの山脈の主になれるかもしれない」

 「なりませんよ。でも師匠も殺されかけてた時代があったってことですね」

 殺されかけたというよりは、傷心で死にかけたけどな。ちっ、嫌な失恋を思い出す。

 「そういうことだ。んっ?」

 ノーマンの音感探知ソナーが自由行動中のガウとカークの異常な動きに反応する。どうやら必死にこちらへ向かっているらしい。

 「レオ、収容ハウスって距離は関係あるのか?なければ二人ともすぐに収容ハウスしてやれ」

 「押忍オス」少し慌てて2体の従魔サーヴァント戦譜スコアに戻す。

 「何があったんですか?」

 「しっ」人差し指を口にあてレオを黙らせて、音感探知ソナーに集中すると、フルサイズのカークよりもさらに大きな物体がゆっくりとこちらに向かっている。

 人型?巨人?サイズ的に8m~10mといったところか。数は1、2、3、4、5、6、7、8、9体。こちらに向かっている?逃げるべきか?

 「師匠」

 「なんだ?」

 「敵ですよね、ちょっと見てきます」

 ノーマンが巨大な敵に集中している間にレオはカークを出して準備をしていた。そして偵察に飛び出してしまった。

 「いや待て、やばいから。レオ、カー助、戻れー」ノーマンの声は届かない。


 二人を戻さなきゃならないほどの敵だとすると、あまり接近はできないな。

 「カーク、何が来たんだ」

 「カー(大きな石の巨人)」

 「なんだって。近くまで寄れるか?」

 「カー(やってみる)」

 カークは敵にみつからないように高度を上げて、慎重に近づいていった。

 「あれか。1、2、3、4、5、6、7、8、9体?戻って師匠に知らせなきゃ。カーク戻るぞ」

 「カー(りょうかい)」

 カークはノーマンの元に帰るために旋回し、そして油断した。先頭の石の巨人がカークに向かって岩石を投げつける。「しまった」猛スピードで接近する岩石をよけきれなかったカークは右翼を負傷して、二人は旋回しながらゆっくりと滑空していった。その状況をノーマンはもちろん音感探知ソナーで把握はしていたが、一つの可能性により救出に動くのをためらった。

 墜落するレオたちには目もくれず、アイツら俺に向かって来てる。ってことはレオの救出にむかうとアイツらも付いてくる。となるとレオがかえって危険だな。どうか機転を利かせて生きてろよレオ。いずれにせよ、あちらから来てくれるなら慌ててこちらから行く必要もない。

 ノーマンはギターを取り出し自分を奮い立たせる歌をうたう。もうさすがに自分の歌が一時的にだが諸々の能力を高める効果を持った職能アビリティのたぐいであることは理解していたからだ。そして歌いながら思考を巡らせる。

 「♪~」

 とにかくデカくて歩くのが遅いということ以外、強さも弱点もまったくわからない。とりあえずスピードでは負けないから、あとはあの投石攻撃さえ対処すれば勝てないまでも逃げ切れるか?いやいや、俺のいる場所はわかるんだろうから倒されるまで追ってくるだろうな。カトリヤ村に連れていくわけにもいかないし、ここらの魔獣生息領域内で倒しきらないと後々面倒になるに決まってる。考えろノーマン、考えろ野間時親。使える技能スキルはなんだ?使えそうな所持品アイテムはないか?

 「あっ、はありかも知れない。」

 プランが閃く。

 「とりあえず地の利だけでも取りたいな」

 ノーマンは一曲終わるとギターをしまい、レオが落ちた地点から出来るだけ遠くに離れるように縮地フリートを使って最大の速度で移動をはじめる。

 剣聖様の教え通り『敵を見下ろす』『上座をとる』。できるだけ高い場所に陣取って、こちらに有利な戦場を設定してやる。まったく次から次へと、この世界は激しい歓迎をしてくれるもんだよ。


 「、火の巻まで読んどいてよかったー」

 サトコ、お勉強は大切だぞ。



※【14曲目】は2022年6月7日に公開です。

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