【11曲目】冒険者たち

<intro>

 護衛団が放った巨大弓バリスタ鴉型魔獣キルレイヴンにあっさりかわされた。鴉型魔獣キルレイヴンはゆっくり旋回で助走をとると一気に護衛団に襲いかかる。パウロは先頭に立ち大盾を構え衝撃に備えたが後方に簡単に弾き飛ばされ同時に巨大弓バリスタが破壊されてしまう。後衛のサンドロとカーラは鳥型の魔獣モンスターに効果的と思われた火弾バレットを放つがほとんど効かない。鴉型魔獣キルレイヴンがいったん離脱し旋回している間にアニータはパウロに回復魔法をかけ、スザンナは前衛の4人に防御力強化タフネスの補助魔法をかける。

 鴉型魔獣キルレイヴンはサンドロとカーラを標的にして再び襲いかかると戦線に復帰したパウロが横っ飛びして防御する。再び倒れたパウロを守るように3人が盾を構える。回復チームがまごついている間にさらに鴉型魔獣キルレイヴンは襲ってくる。


 その攻防を見かねたレウラ村警護組の魔術師ティギンは村から飛び出し鴉型魔獣キルレイヴン氷針ニードルを放つ。しかし、その一撃が鴉型魔獣キルレイヴンの怒りを買い、攻撃の標的が護衛団からティギンに移り変わってしまった。そして、鴉型魔獣キルレイヴンは三度目の旋回から高速でティギンを捕獲して上空へ舞い上がった。



<side-A>

 振り返ったノーマンは思った。

 人質とられたら、衝撃音波ソニックブーム鎌鼬かまいたちも使えないじゃん。

 その時、ノーマンの音感探知ソナーが急接近してくるガウを感知した。疾風ゲイルの勢いのまま崖から飛び出したガウは、覚えたばかりの風踏エアステップ鴉型魔獣キルレイヴンに接近する。

 おいおい、なんだその新しい技は。

 「ガウ、まかせた」

 「ウオン(まかせて)」

 ガウの背中から跳び上がったレオは鴉型魔獣キルレイヴンと同じ高さまで届くと黒く広い背中に制圧ホールドを放った。鴉型魔獣キルレイヴンはその衝撃でティギンを落とすが反射的に翼でレオに反撃をする。落下するティギンを背中で受け止めたガウは地上に降りティギンをおろすと、すぐに風踏エアステップで上空に駆け上がった。ノーマンは鴉型魔獣キルレイヴンの反撃をうけ頭から真っ逆さまに落下するレオを空中でキャッチする。

 「人質は救出しました」

 「あんまり無茶してくれるなよ、でもよくやった。ガウ太、来い」

 ガウはレオを抱えたノーマンを背にのせそのままさらに鴉型魔獣キルレイヴンめがけて駆け上がる。それを察知した鴉型魔獣キルレイヴンが3人めがけて突撃してくるとノーマンはガウを足場にして跳び上がり攻撃をかわし、レオを抱えたまま鴉型魔獣キルレイヴンの首に回し蹴りをあびせる。そして、鴉型魔獣キルレイヴンは意識を失い落下して地面に激しく衝突した。

 地上に降り瀕死の鴉型魔獣キルレイヴンにとどめをさそうとするノーマンをレオはそれを制し、よろよろと鴉型魔獣キルレイヴンに近づいて目の前で土下座をした。

 「ごめんな。俺の師匠も悪気はなかったんだ。大切な巣と卵めちゃくちゃにして、ほんとにごめんな」

 鴉型魔獣キルレイヴンは力無くレオを見つめる。

 おいおい、そう来る? こいつ俺を悪もんにしやがった。レオよお前、魔物モンスター側の人間か? でもこれはもしかして・・・

 「あのさレオ、従魔契約アグリーメントしてみなよ。枠空いてんだろ?」

 ノーマンが提案する。

 「従魔契約アグリーメント?」

 元々の相棒だったガウと違い、どう声をかければよいかわからないレオは鴉型魔獣キルレイヴンの顔に手を添え同世代の子どもに語り掛けるようにたずねた。

 「もしよかったら、友だちにならないか?」

 レオがそう語りかけると鴉型魔獣キルレイヴンとレオの額に魔法陣が浮かぶ。

 「カー」鴉型魔獣キルレイヴンがそう答えると二つの魔法陣が光の線でつながる。そして、鴉型魔獣キルレイヴンは光をまといガウくらいのサイズに小型化し、ダメージも完全に回復した。

 まったく世話のかかる弟子だ、師匠を悪もんにまでしやがって。

 そして、弟子のわがままに付き合ってやるとばかりに鴉型魔獣キルレイヴンに謝意を述べる。

 「悪かったなカラス。巣や卵があるのは知らなかったんだ。殺し合う間柄ではあるが、無抵抗な巣と卵に手をかけたのは申し訳ない。それと、レオと友だちになってくれてありがとう。」

 「カー(もういい)」鴉型魔獣キルレイヴンが答える。

 「師匠、もういいってさ。『カーク』は俺の従魔サーヴァントになったし、師匠のことも許すってさ」

 謝罪はしたものの、そもそも魔獣の巣を破壊してなにが悪いんだろう。許すとか許さないとか、ゴブリンを大量虐殺した奴の台詞じゃないだろ。

 憤りを感じながらもぐっとこらえてレオにたずねる。

 「もう名前ついてるんだ」

 「押忍オス。鳴き声から決めました」


 一連の騒動がおさまって二人が村に入るとレオの祖父・トニオさんが歓迎してくれた。俺はここ数日の経緯を簡単に説明するとトニオさんは涙ながらに俺の両手を握り「孫をお願いします」と懇願した。

 責任重たいわあ、いつまでこいつの面倒を見なきゃならんのだろう?

 

 その夜はレウラ村に一泊すると決めたノーマンはレオを祖父に預けて、護衛団たちとの酒席に足を運ぶ。こちらの世界にきてから老人と子どもしか知らないノーマンにとっては、護衛団の若い男女は新鮮だ。

 「ってことはだ。ノーマンさんがキルレイヴンの巣と卵を破壊したから、今回の騒動が起きたわけだ」すでに出来上がっていたパウロがからむ。

 「それはほんと申し訳ない、悪気はなかったのよ。でも村人に被害がでなくてホント良かったわ」

 「それは同感です」カーラが言うと、

 「結果良ければですね」アニータも続いた。

 久しぶりに女性の声を聞いた気がする。それはそうと俺にも今回の件については疑問がある。

 「そもそもなんで鴉型魔獣キルレイヴンを冒険者ギルドは放置してたんだ?」

 すると副長のディーノがそれにこたえる。

 「それはですね。ここ数年、冒険者ギルドも人材不足なんですよ」

 「魔王軍の残党狩りとか言って☆2~☆4の冒険者を大量につっこんだのに、みんな帰らぬ人となりまして」

 「全員? ☆4までいたのにか?」

 「ええ。魔王軍の残党といっても高レベルの魔獣モンスターも多くて、現状は彼らの縄張りには立ち入れない状態です」

 それだけの戦力があって攻めてこないのは、何かの準備をしているのか?

 「で、鴉型魔獣キルレイヴンの縄張りにも立ち寄れない?」

 「そういうことですね」

 なんとなく現状を把握したノーマンは、話を変えてパウロにたずねる。

 「あのさ、パウロ君。なんでレオをスライムにけしかけた?」

 パウロはばつ悪そうに渋々こたえる。

 「今回の戦いっぷりを見てわかるでしょう? 俺ら三流の冒険者なんです。自分たちのことでいっぱいいっぱいなんです。所持者ホルダーでもない子どもを連れて遠出なんてできませんよ。フィリトンまで守りきれる自信がありません」

 悔しそうな表情を浮かべ、パウロが続ける。

 「だから無理難題をふっかければ、諦めてくれるかと。まさか挑んでいくなんて想像もしてなかったんです。申し訳ないというか情けないというか。。。」 

 卑屈になっていくパウロをノーマンが励ます。

 「あのさ、パウロ君は立派だよ。決断は早かったし指揮も迅速だった」

 「よしてください。自分が落ちこぼれなのは嫌ってほどわかってます」

 卑屈な酔っぱらいは面倒くさいな。

 「でもさ、護衛団のみんなはそうは思ってないよ、多分。ね?」みんなに助けを求めるが、

 「こいつらも俺の同類です。勇者クリストフみたいに民を守り魔王軍を打倒したかった。ただ所持者ホルダーってだけで、そんな夢みてるんです」

 「夢?いいじゃない、若いんだし。実際に君たちが村民の安全を守ってるんだ。誰も君らを馬鹿にしたりしてないよ。感謝してるに決まってるって」

 ノーマンが必死にフォローをこころみるとパウロは涙を流しながら圧強めにノーマンに尋ねる。

 「どうしたら、あんたみたいに強くなれるんすかね?俺ら」

 ノーマンは急な質問に少しビックリして即答できなかった。

 「レオまで俺らより、ずっと強くなっちまった・・・それでも俺ら冒険者やめられないんす」

 悔し涙を流すパウロを見て、ノーマンは煙草に火をつけニヤニヤしながらたずね返す。

 「あのさ、君って何歳?」

 「・・・28歳です」

 「僕ね、こう見えて46歳なんだ」

 その場にいた全員が凍り付く。

 はいはいこの反応ね。無視無視。

 「28歳の頃の僕は今のパウロ君より・・・いやここにいる誰よりも圧倒的に弱かったよ、君らの圧勝。だからね、46歳になった君らが今の僕より強くなってたら君らの全勝ってことじゃね?」ニコリと微笑みパウロを見つめる。

 「俺たちでも、強くなれますか?」

 「正直わからん。でも諦めたらそこで終わりだよ。諦めて強くなれないより、やりきって強くなれない方が納得いくだろ?」

 「やりきる?」

 「レオはさ、毎日にやってるよ。僕がやらせる無茶な特訓も全部一所懸命。子どもだから夢中になりやすいだけかもだけど、いつも夜にはヘトヘトだもん」

 煙草を大きく吸って煙を吐く。

 「46歳のオッサンからしたら、君らもみんな子どもなんだぜ」

 すると、パウロと護衛団が突然立ち上がりノーマンを取り囲む。

 「ノーマンさん」

 「はい?」

 そして、その場にいた全員が頭を下げる。

 「レオナルドをお願いします」

 みんないいやつじゃん。うーん、こういう時は・・・とりあえず歌っとくか。

 ノーマンは戦譜スコアからギターを取り出し、その場にいる冒険者たちへ精一杯のエールを込めて応援歌を歌った。

 「♪~」

 

 そのころレオの家では、祖父とレオは寝仕度をしながら会話をしていた。

 「なあ、じいちゃん」

 「なんだ?」

 「俺、師匠と一緒に旅に出たいんだ」

 「そうか」

 「じいちゃん、一人で大丈夫か?」

 「レオは優しいな。お前の親父なんか家族ほっぽらかして勝手に出て行ったぞ」

 「俺は親父とは違う。親父見つけてぶっ飛ばしたい。でも結局親父と同じようなことをしようとしてる」

 「いいか、レオ。わしはお前の父親・・・わしの息子を誇りに思ってるし、お前も自慢の孫だと思ってるよ」

 「じいちゃん」

 「息子にも孫にも、後悔のないように生きてほしい。それだけがわしの望みだ」

 「じいちゃん」

 「大丈夫だ。今生の別れというわけじゃない。いつでも戻っておいで」

 「じいちゃん」

 「さあ一緒に寝よう。明日はお前の門出の日だ」


 

<side-B>

 「ノーマンさん、おはようございます」

 今日はパウロがレウラ村を案内してくれるらしい。レオは村の外でガウ太とカー助と遊んでいる。

 「僕一文無しなんだけど、アイテムって売れるの?」

 「この村じゃ厳しいっすね。なんなら俺らが買い取りましょうか?」

 「大金じゃなくていいんだ。少し旅の準備ができればと」

 「良心的な価格で買い取らせてもらいます」

 「とりあえず、これなんだけど」

 そういって俺は☆1~☆3の魔獣モンスターから集めたアイテムを並べると、同行したパウロの小隊パーティーが驚きの声をあげる。

 「ノーマンさん。あんたらどんな日常過ごしてんですか?正直ヤバいっす」

 「高価なものあった?」

 「いやいやいや、数ですよ。数。どんだけ魔獣モンスター狩ったらこんなに大量のアイテム手にはいるんすか?」

 朝から晩まで弱いものいじめを続けると、とは言えない。

 「今日は最低でも魚介類と小麦粉と油と塩だけは買いたいんだけど、足りる?」

 「それなら30Θ(シータ)もあれば買えます」

 「じゃあその30Θで」

 「いやいやいや、そんな悪徳できませんって。ちゃんと計算するんで少し時間ください」

 そうしてパウロは仲間とアイテムの査定をはじめたが、そもそも俺はこちらの世界の貨幣価値も評価額の真偽もまったくわかっていないのだから、言い値で売るしかないものをパウロの誠実なことよ。というか時間が惜しい。

 査定中のスザンナはノーマンのその様子にきづくと「ノーマンさんとりあえずこれで買い物してきちゃってください。こっちは少し時間かかるんで」と銅貨が入った布袋を手渡した。

 「これは?」

 「アイテムの前金100Θです。この価格は余裕で越えるんで」ウインクしてみせる。

 気が利く娘だなあ。ありがたい。レオの嫁にはああいう気が利く娘がいいな。布袋の中身を確認すると銅貨がきっちり100枚入っていて、あぁ銅貨1枚=1Θなのね。

 

 昨日の鴉型魔獣キルレイヴン騒動の件のおかげで村は歓迎ムードだったので、ノーマンは快適に買い物ができた。お目当ての商品を手に入れて査定場所に戻ると査定係たちがなにやら協議している。

 「査定おわった?」

 「あっ、ノーマンさんおかえりなさい。それが、査定額が6,248Θだったんですけど、今うちの小隊パーティーで自由に使えるお金がギリギリで」

 この国の通貨単位『Θ(シータ)』を使ってみたところ、先ほどの魚市場では車海老10尾10Θのところを8Θにまけてもらい銅貨8枚を払った。

その他の買い物も考えるとだいたい体感で銅貨1枚=100円=$1.-という印象だが、それが正しいとすると62万円? ☆1~☆3魔獣モンスターのドロップアイテムでその値がつくなら、いま俺が保有しているアイテムにはもっと高値がつくはずだな。当面お金を使う機会もないだろうから欲張らずにおこう。

 「あのさ、この国かこの地域の地図と、ありったけの空き瓶が欲しいんだけど、いくらくらいかかる?」

 「大まかな地図でしたら1,000Θもあれば。空き瓶はだいたい1本5Θくらいだから量にもよるかな」

 「それなら地図と空き瓶200本用意してくれたら、そのアイテム全部あげるよ」

 その提案に一同は驚きを隠せない。

 「2,000Θくらいしかかかりませんけど?」

 「だからあ、買い物が面倒くさいから買ってきてって言ってんの。おつりはお駄賃。冒険者への依頼料だよ」

 ノーマンはそう言ってウインクして見せた。

 それからしばらくすると地図と空き瓶は無事に用意され、パウロは泣きながらノーマンに感謝した。

 「ほんとに・・・ほんとにありがとうございました。正直、活動資金がかつかつで苦しかったんです」

 だと思った。62万円の査定だって必要経費やら手数料やら引いたうえでホントにギリギリ捻出できる査定額だったに違いない。

 「できれば、他の小隊パーティーの連中にも酒くらいおごってやってくれ」

 「この御恩は一生忘れません」両手で熱く強い握手をされる。

 だから重たいんだって、一生こっちの世界にいるつもりはないんだよ。さて、村も無事だったし買い物も済んだから、そろそろディオさんとこに帰るか。

 パウロに別れを告げると、護衛団のみんなとトニオが村の外まで見送りにきた。レオは護衛団とお互いのさらなる成長を約束し、トニオとは抱擁を交わしながら号泣していたが、トニオの目に涙はなく優しい微笑みを浮かべるだけだった。ノーマンは煙草1本分だけ別れの儀式を待って挨拶もせずさっさと一人で歩きだしてしまう。

 46歳のオッサンは涙もろく、恥ずかしがり屋だ。

 「師匠。おいてかないでください」あわててノーマンを追ってくるレオと2体の魔獣モンスター

 その4人の背中に向かってパウロが左の方を指さしながら大声で叫ぶ。

 「ノーマンさん、フィリトンはそっちじゃないっす。あっち、北です」

 レオは振り返りディオの家の方を指さしながら「ディオさんの家に寄ってから行くんだ。ちゃんとわかってるから大丈夫」と元気よく言って、4人はそのまま東へ向かっていった。

 護衛団とトニオは皆で顔を合わせながらざわつく。

 「ディオって誰?」

 「あの辺に人なんか住んでたか?」


 森にさしかかったあたりでレオがノーマンにおそるおそる声をかける。

 「師匠、実はですね・・・」

 「ん?どした?」

 「パウロたちの前では黙ってたんですけど・・・」

 「だからなんだよ?」

 「戦譜スコアを確認したらですね」

 ノーマンはピタッと立ち止まる。

 「お前まさか」

 「☆4の★2になってました」

 ノーマンはゆっくり振り返りレオを凝視する。

 こいつまじかよ。フィリトンにつくまでに勇者にでもなるつもりか?

 「ガウ太とカー助は?」

 「二人とも☆4です」

 「そんで何かできることは増えたの?」

 するとレオが嬉しそうにこたえる。

 「それがですね。『収容ハウス』といって従魔サーヴァント戦譜スコアに収容できるようになりました。それとガウとカークに『体躯伸縮リサイズ」という体を大きくしたり小さくしたりする技能スキルがつきました」

 「じゃぁカー助は元の大きさにもなれるわけ?」

 「はい。ガウも少し大きくなってました」

 もはや、ラーガ森林ごときでは魔物モンスターが寄ってすらこなくなる恐れがあるな。

 「報告ありがとう。これからのことは飯食って考えよう」

 「押忍オス

 そして4人はそこから技能スキルを使って最速で帰宅する。


 「おかえり。レウラ村はどうなった?というか、鴉型魔獣キルレイヴンか?」

 ディオの興味はおのずとレオの新しい従魔サーヴァントに向く。

 「ご覧のとおり、ラーガ森林の主は今やレオナルド・ペスカーレ卿の使徒となりました。だものでレウラ村は無事です」

 ディオは驚きと安堵で戸惑ったが、レオの無事を喜ぶ。

 俺はもう無事が前提なわけね。信頼と受け取っていいのかな? ディオさんよ。

 「じゃあ飯のしたくでもしようかね」

 「いや、ちょっとまった。今日はさ、ディオさんに僕の郷土料理をごちそうしたいんだわ」

 「郷土料理?材料はこちらの世界のもので作れるのか?」

 「ばっちり揃ったよ。とりあえず仕込みをするからディオと遊んでて」

 そう言って、レウラ村で購入してきた食材を並べ仕込みをはじめた。そしてディオはレオとガウとカークとともに何やら盛り上がっていた。


 しばらくしてガウにノーマンから超音波ソニックで準備完了の合図が入る。

 「ウオン(できたって)」

 「じゃあもどろっか」

 4人が戻ってくるとそこにはカウンターキッチンが出来上がっており、ノーマンが腕まくりをして2人を座席にうながした。

 「ディオさん、レオ。僕の国の郷土料理『天ぷら』をごちそうしましょう」

 「天ぷら?」

 「とりあえず、先付にこちら『だし巻き卵』から」

 そうやってノーマンによるコース料理がはじまる。醤油のない文化圏だったので基本塩味になってしまうのが難点ではあったが、魚介類のてんぷら・野菜のてんぷら・椀物とレウラ村で手に入れた食材をふんだんに活かしたコース料理は、ディオを喜ばせたがレオにはまだ早かったのかもしれない。早々にコース料理からは離脱して、従魔サーヴァントと一緒に肉に食らいついていた。


 食事と片づけが済むと、レオたちは食べすぎたらしく昼寝に入った。ノーマンとディオは食後の一服をたしなみながら、これからのことについて話をはじめた。

 「さっきレオ君から聞いたが、フィリトンに向かうのか?」

 「そうだね。ここらへんでできることはもうなさそうだし、そろそろ次に向かおうかなと考えてはいる」

 「そうか・・・さびしくなるな」

 「僕もだよ。でもさ、ここでディオさんやレオたちと暮らしてるとさ、元の世界に帰ることを忘れてしまいそうになる時があるんだ」

 娘に会いたい。

 ノーマンは一度大きく煙草を吸って、話題を変える。

 「そういえばさ、ディオさん。レオたちまた☆増えたんだぜ」

 「ああ聞いたよ」

 「レベルアップ早すぎないかな?」

 「それは多分『小隊パーティー効果エフェクト』だよ」

 「小隊パーティー効果エフェクト?」

 「レオ君の相乗効果シナジーみたいなもので、小隊パーティーを組んでいると敵を倒した時に経験値が分配されるんだ。おそらくレオ君はお前と小隊パーティーを組んでることになっているから、お前が強い魔獣モンスターを倒すとレオにも経験値が入る」

 「まじか。じゃあアイツ僕といる限り、寝ててもレベルアップするの?」

 「まあそんな単純なことではないが、理論上はそうだ。歳も歳だしある程度のところで上限に達するのが普通なんだが、魔獣操者モンスターテイマー従魔サーヴァントも規格外なところがあるみたいなのでなんとも言えん」

 「ふーん」


 しばしの沈黙のあと、ノーマンはぼんやりと宙を見つめながら、少し言いにくそうに口を開く。

 「ディオさんは、僕をこっちに連れて来たのが誰か知ってるの?」



※【12曲目】は2022年5月24日に公開です。

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