【11曲目】冒険者たち
<intro>
護衛団が放った
その攻防を見かねたレウラ村警護組の魔術師ティギンは村から飛び出し
<side-A>
振り返ったノーマンは思った。
人質とられたら、
その時、ノーマンの
おいおい、なんだその新しい技は。
「ガウ、まかせた」
「ウオン(まかせて)」
ガウの背中から跳び上がったレオは
「人質は救出しました」
「あんまり無茶してくれるなよ、でもよくやった。ガウ太、来い」
ガウはレオを抱えたノーマンを背にのせそのままさらに
地上に降り瀕死の
「ごめんな。俺の師匠も悪気はなかったんだ。大切な巣と卵めちゃくちゃにして、ほんとにごめんな」
おいおい、そう来る? こいつ俺を悪もんにしやがった。レオよお前、
「あのさレオ、
ノーマンが提案する。
「
元々の相棒だったガウと違い、どう声をかければよいかわからないレオは
「もしよかったら、友だちにならないか?」
レオがそう語りかけると
「カー」
まったく世話のかかる弟子だ、師匠を悪もんにまでしやがって。
そして、弟子のわがままに付き合ってやるとばかりに
「悪かったなカラス。巣や卵があるのは知らなかったんだ。殺し合う間柄ではあるが、無抵抗な巣と卵に手をかけたのは申し訳ない。それと、レオと友だちになってくれてありがとう。」
「カー(もういい)」
「師匠、もういいってさ。『カーク』は俺の
謝罪はしたものの、そもそも魔獣の巣を破壊してなにが悪いんだろう。許すとか許さないとか、ゴブリンを大量虐殺した奴の台詞じゃないだろ。
憤りを感じながらもぐっとこらえてレオにたずねる。
「もう名前ついてるんだ」
「
一連の騒動がおさまって二人が村に入るとレオの祖父・トニオさんが歓迎してくれた。俺はここ数日の経緯を簡単に説明するとトニオさんは涙ながらに俺の両手を握り「孫をお願いします」と懇願した。
責任重たいわあ、いつまでこいつの面倒を見なきゃならんのだろう?
その夜はレウラ村に一泊すると決めたノーマンはレオを祖父に預けて、護衛団たちとの酒席に足を運ぶ。こちらの世界にきてから老人と子どもしか知らないノーマンにとっては、護衛団の若い男女は新鮮だ。
「ってことはだ。ノーマンさんがキルレイヴンの巣と卵を破壊したから、今回の騒動が起きたわけだ」すでに出来上がっていたパウロがからむ。
「それはほんと申し訳ない、悪気はなかったのよ。でも村人に被害がでなくてホント良かったわ」
「それは同感です」カーラが言うと、
「結果良ければですね」アニータも続いた。
久しぶりに女性の声を聞いた気がする。それはそうと俺にも今回の件については疑問がある。
「そもそもなんで
すると副長のディーノがそれにこたえる。
「それはですね。ここ数年、冒険者ギルドも人材不足なんですよ」
「魔王軍の残党狩りとか言って☆2~☆4の冒険者を大量につっこんだのに、みんな帰らぬ人となりまして」
「全員? ☆4までいたのにか?」
「ええ。魔王軍の残党といっても高レベルの
それだけの戦力があって攻めてこないのは、何かの準備をしているのか?
「で、
「そういうことですね」
なんとなく現状を把握したノーマンは、話を変えてパウロにたずねる。
「あのさ、パウロ君。なんでレオをスライムにけしかけた?」
パウロはばつ悪そうに渋々こたえる。
「今回の戦いっぷりを見てわかるでしょう? 俺ら三流の冒険者なんです。自分たちのことでいっぱいいっぱいなんです。
悔しそうな表情を浮かべ、パウロが続ける。
「だから無理難題をふっかければ、諦めてくれるかと。まさか挑んでいくなんて想像もしてなかったんです。申し訳ないというか情けないというか。。。」
卑屈になっていくパウロをノーマンが励ます。
「あのさ、パウロ君は立派だよ。決断は早かったし指揮も迅速だった」
「よしてください。自分が落ちこぼれなのは嫌ってほどわかってます」
卑屈な酔っぱらいは面倒くさいな。
「でもさ、護衛団のみんなはそうは思ってないよ、多分。ね?」みんなに助けを求めるが、
「こいつらも俺の同類です。勇者クリストフみたいに民を守り魔王軍を打倒したかった。ただ
「夢?いいじゃない、若いんだし。実際に君たちが村民の安全を守ってるんだ。誰も君らを馬鹿にしたりしてないよ。感謝してるに決まってるって」
ノーマンが必死にフォローをこころみるとパウロは涙を流しながら圧強めにノーマンに尋ねる。
「どうしたら、あんたみたいに強くなれるんすかね?俺ら」
ノーマンは急な質問に少しビックリして即答できなかった。
「レオまで俺らより、ずっと強くなっちまった・・・それでも俺ら冒険者やめられないんす」
悔し涙を流すパウロを見て、ノーマンは煙草に火をつけニヤニヤしながらたずね返す。
「あのさ、君って何歳?」
「・・・28歳です」
「僕ね、こう見えて46歳なんだ」
その場にいた全員が凍り付く。
はいはいこの反応ね。無視無視。
「28歳の頃の僕は今のパウロ君より・・・いやここにいる誰よりも圧倒的に弱かったよ、君らの圧勝。だからね、46歳になった君らが今の僕より強くなってたら君らの全勝ってことじゃね?」ニコリと微笑みパウロを見つめる。
「俺たちでも、強くなれますか?」
「正直わからん。でも諦めたらそこで終わりだよ。諦めて強くなれないより、やりきって強くなれない方が納得いくだろ?」
「やりきる?」
「レオはさ、毎日にやってるよ。僕がやらせる無茶な特訓も全部一所懸命。子どもだから夢中になりやすいだけかもだけど、いつも夜にはヘトヘトだもん」
煙草を大きく吸って煙を吐く。
「46歳のオッサンからしたら、君らもみんな子どもなんだぜ」
すると、パウロと護衛団が突然立ち上がりノーマンを取り囲む。
「ノーマンさん」
「はい?」
そして、その場にいた全員が頭を下げる。
「レオナルドをお願いします」
みんないいやつじゃん。うーん、こういう時は・・・とりあえず歌っとくか。
ノーマンは
「♪~」
そのころレオの家では、祖父とレオは寝仕度をしながら会話をしていた。
「なあ、じいちゃん」
「なんだ?」
「俺、師匠と一緒に旅に出たいんだ」
「そうか」
「じいちゃん、一人で大丈夫か?」
「レオは優しいな。お前の親父なんか家族ほっぽらかして勝手に出て行ったぞ」
「俺は親父とは違う。親父見つけてぶっ飛ばしたい。でも結局親父と同じようなことをしようとしてる」
「いいか、レオ。わしはお前の父親・・・わしの息子を誇りに思ってるし、お前も自慢の孫だと思ってるよ」
「じいちゃん」
「息子にも孫にも、後悔のないように生きてほしい。それだけがわしの望みだ」
「じいちゃん」
「大丈夫だ。今生の別れというわけじゃない。いつでも戻っておいで」
「じいちゃん」
「さあ一緒に寝よう。明日はお前の門出の日だ」
<side-B>
「ノーマンさん、おはようございます」
今日はパウロがレウラ村を案内してくれるらしい。レオは村の外でガウ太とカー助と遊んでいる。
「僕一文無しなんだけど、アイテムって売れるの?」
「この村じゃ厳しいっすね。なんなら俺らが買い取りましょうか?」
「大金じゃなくていいんだ。少し旅の準備ができればと」
「良心的な価格で買い取らせてもらいます」
「とりあえず、これなんだけど」
そういって俺は☆1~☆3の
「ノーマンさん。あんたらどんな日常過ごしてんですか?正直ヤバいっす」
「高価なものあった?」
「いやいやいや、数ですよ。数。どんだけ
朝から晩まで弱いものいじめを続けると、とは言えない。
「今日は最低でも魚介類と小麦粉と油と塩だけは買いたいんだけど、足りる?」
「それなら30Θ(シータ)もあれば買えます」
「じゃあその30Θで」
「いやいやいや、そんな悪徳できませんって。ちゃんと計算するんで少し時間ください」
そうしてパウロは仲間とアイテムの査定をはじめたが、そもそも俺はこちらの世界の貨幣価値も評価額の真偽もまったくわかっていないのだから、言い値で売るしかないものをパウロの誠実なことよ。というか時間が惜しい。
査定中のスザンナはノーマンのその様子にきづくと「ノーマンさんとりあえずこれで買い物してきちゃってください。こっちは少し時間かかるんで」と銅貨が入った布袋を手渡した。
「これは?」
「アイテムの前金100Θです。この価格は余裕で越えるんで」ウインクしてみせる。
気が利く娘だなあ。ありがたい。レオの嫁にはああいう気が利く娘がいいな。布袋の中身を確認すると銅貨がきっちり100枚入っていて、あぁ銅貨1枚=1Θなのね。
昨日の
「査定おわった?」
「あっ、ノーマンさんおかえりなさい。それが、査定額が6,248Θだったんですけど、今うちの
この国の通貨単位『Θ(シータ)』を使ってみたところ、先ほどの魚市場では車海老10尾10Θのところを8Θにまけてもらい銅貨8枚を払った。
その他の買い物も考えるとだいたい体感で銅貨1枚=100円=$1.-という印象だが、それが正しいとすると62万円? ☆1~☆3
「あのさ、この国かこの地域の地図と、ありったけの空き瓶が欲しいんだけど、いくらくらいかかる?」
「大まかな地図でしたら1,000Θもあれば。空き瓶はだいたい1本5Θくらいだから量にもよるかな」
「それなら地図と空き瓶200本用意してくれたら、そのアイテム全部あげるよ」
その提案に一同は驚きを隠せない。
「2,000Θくらいしかかかりませんけど?」
「だからあ、買い物が面倒くさいから買ってきてって言ってんの。おつりはお駄賃。冒険者への依頼料だよ」
ノーマンはそう言ってウインクして見せた。
それからしばらくすると地図と空き瓶は無事に用意され、パウロは泣きながらノーマンに感謝した。
「ほんとに・・・ほんとにありがとうございました。正直、活動資金がかつかつで苦しかったんです」
だと思った。62万円の査定だって必要経費やら手数料やら引いたうえでホントにギリギリ捻出できる査定額だったに違いない。
「できれば、他の
「この御恩は一生忘れません」両手で熱く強い握手をされる。
だから重たいんだって、一生こっちの世界にいるつもりはないんだよ。さて、村も無事だったし買い物も済んだから、そろそろディオさんとこに帰るか。
パウロに別れを告げると、護衛団のみんなとトニオが村の外まで見送りにきた。レオは護衛団とお互いのさらなる成長を約束し、トニオとは抱擁を交わしながら号泣していたが、トニオの目に涙はなく優しい微笑みを浮かべるだけだった。ノーマンは煙草1本分だけ別れの儀式を待って挨拶もせずさっさと一人で歩きだしてしまう。
46歳のオッサンは涙もろく、恥ずかしがり屋だ。
「師匠。おいてかないでください」あわててノーマンを追ってくるレオと2体の
その4人の背中に向かってパウロが左の方を指さしながら大声で叫ぶ。
「ノーマンさん、フィリトンはそっちじゃないっす。あっち、北です」
レオは振り返りディオの家の方を指さしながら「ディオさんの家に寄ってから行くんだ。ちゃんとわかってるから大丈夫」と元気よく言って、4人はそのまま東へ向かっていった。
護衛団とトニオは皆で顔を合わせながらざわつく。
「ディオって誰?」
「あの辺に人なんか住んでたか?」
森にさしかかったあたりでレオがノーマンにおそるおそる声をかける。
「師匠、実はですね・・・」
「ん?どした?」
「パウロたちの前では黙ってたんですけど・・・」
「だからなんだよ?」
「
ノーマンはピタッと立ち止まる。
「お前まさか」
「☆4の★2になってました」
ノーマンはゆっくり振り返りレオを凝視する。
こいつまじかよ。フィリトンにつくまでに勇者にでもなるつもりか?
「ガウ太とカー助は?」
「二人とも☆4です」
「そんで何かできることは増えたの?」
するとレオが嬉しそうにこたえる。
「それがですね。『
「じゃぁカー助は元の大きさにもなれるわけ?」
「はい。ガウも少し大きくなってました」
もはや、ラーガ森林ごときでは
「報告ありがとう。これからのことは飯食って考えよう」
「
そして4人はそこから
「おかえり。レウラ村はどうなった?というか、それは
ディオの興味はおのずとレオの新しい
「ご覧のとおり、ラーガ森林の主は今やレオナルド・ペスカーレ卿の使徒となりました。だものでレウラ村は無事です」
ディオは驚きと安堵で戸惑ったが、レオの無事を喜ぶ。
俺はもう無事が前提なわけね。信頼と受け取っていいのかな? ディオさんよ。
「じゃあ飯のしたくでもしようかね」
「いや、ちょっとまった。今日はさ、ディオさんに僕の郷土料理をごちそうしたいんだわ」
「郷土料理?材料はこちらの世界のもので作れるのか?」
「ばっちり揃ったよ。とりあえず仕込みをするからディオと遊んでて」
そう言って、レウラ村で購入してきた食材を並べ仕込みをはじめた。そしてディオはレオとガウとカークとともに何やら盛り上がっていた。
しばらくしてガウにノーマンから
「ウオン(できたって)」
「じゃあもどろっか」
4人が戻ってくるとそこにはカウンターキッチンが出来上がっており、ノーマンが腕まくりをして2人を座席にうながした。
「ディオさん、レオ。僕の国の郷土料理『天ぷら』をごちそうしましょう」
「天ぷら?」
「とりあえず、先付にこちら『だし巻き卵』から」
そうやってノーマンによるコース料理がはじまる。醤油のない文化圏だったので基本塩味になってしまうのが難点ではあったが、魚介類のてんぷら・野菜のてんぷら・椀物とレウラ村で手に入れた食材をふんだんに活かしたコース料理は、ディオを喜ばせたがレオにはまだ早かったのかもしれない。早々にコース料理からは離脱して、
食事と片づけが済むと、レオたちは食べすぎたらしく昼寝に入った。ノーマンとディオは食後の一服をたしなみながら、これからのことについて話をはじめた。
「さっきレオ君から聞いたが、フィリトンに向かうのか?」
「そうだね。ここらへんでできることはもうなさそうだし、そろそろ次に向かおうかなと考えてはいる」
「そうか・・・さびしくなるな」
「僕もだよ。でもさ、ここでディオさんやレオたちと暮らしてるとさ、元の世界に帰ることを忘れてしまいそうになる時があるんだ」
娘に会いたい。
ノーマンは一度大きく煙草を吸って、話題を変える。
「そういえばさ、ディオさん。レオたちまた☆増えたんだぜ」
「ああ聞いたよ」
「レベルアップ早すぎないかな?」
「それは多分『
「
「レオ君の
「まじか。じゃあアイツ僕といる限り、寝ててもレベルアップするの?」
「まあそんな単純なことではないが、理論上はそうだ。歳も歳だしある程度のところで上限に達するのが普通なんだが、
「ふーん」
しばしの沈黙のあと、ノーマンはぼんやりと宙を見つめながら、少し言いにくそうに口を開く。
「ディオさんは、僕をこっちに連れて来たのが誰か知ってるの?」
※【12曲目】は2022年5月24日に公開です。
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