【10曲目】七つの子

<intro>

 レオが自分の戦譜スコアを確認すると技能スキル欄に、押出プッシュバック制圧ホールド迎撃カウンターが追記されていた。切り株の練習で体得した技が実戦で使用されたことにより技能スキルとして認められたということだろう。レベルの欄には「★☆☆」が表示されており、☆こそ増えていないが、習熟度が上がりレオの戦闘能力が向上したことを示している。


 「で、レオ君。槍の真髄は極められたかい?」

 夕暮れ時を過ぎた頃に帰還した3人は、風呂を浴びてさっぱりしたあと当たり前のように夕飯のおかれたテーブルについたが、ディオは午後の半日ずっと心配していたらしい。

 「はい・・・いえ、師匠に習ったことは出来るようになりました。でも、槍の真髄は多分まだまだ先にあります。よね?師匠」

 おいおいレオよ、お前の職業ジョブ魔獣操者モンスターテイマーで、槍使いの戦士ではないんだぞ。それでも師匠らしいことを言わねばならんか・・・。

 「うーん、あるだろうなあ。あのな、そもそも僕は槍使いじゃあないんだよ。自分の考えを槍で体現してるだけ。でもね、多分教えられることはまだまだありそうだ」

 ノーマンは少しだけ自分が迎撃カウンターから進化させた刃幕シールドの事を考えていた。

 「押忍オス。最初の蜂型魔獣スパイクホーネットを倒した時に思ったんです。やっぱり俺の師匠がノーマンさんで良かったって」

 さすがにそこまで言われると照れる。

 「いやいや、誰の弟子になってもレオはちゃんとやれたさ。逆に僕の弟子にならなきゃ良かったなんて思う日が来るかもだよ」

 「それはないです」語気を荒めて言い返す。

 しゅんとなって椅子に座ったレオが語りはじめる。

 「俺はちっちゃいころに親父がいなくなって。母さんも病気でいなくなって。爺ちゃん大好きだけど、優しくって。でも、強くなりたくって。それでも冒険者たちから馬鹿にされて。無茶した挙句死にかけて。そこで師匠に出会って。師匠たちは一所懸命に俺の力になってくれて。だから、俺の師匠は師匠しかいなくて、そんでディオさんは大師匠です」

『大師匠』というワードを聞いたノーマンはすねながらディオを見て、そして目で訴えた。

 じゃあ、大師匠が全部教えてやればよかったじゃん

 46歳のオッサンは、嫉妬深い。



<side-A>

 6月26日、今日も晴れ。気持ちいいね。というより、まだこっちの世界に来てから雨にも雪にも降られてない。まさかこっちの世界は晴ればっかりってことはないよね?

 「大師匠。おはよ」朝食のしたくをしているディオに朝の挨拶をする。

 「嫉妬か?」手を止めずにディオが応じる。

 「いやいや、レオはちゃんと人を見る目があるなと。僕はディオさんがいなかったら何もわからないままだったわけだしね」

 「どうかな。お前は理解力があるし順応性が高い。私が色々教えなくても勝手に自分でみつけるような気がするよ」

 「そりゃ買いかぶりすぎだよ。僕はただのオッサンさ」

 「オッサン?お前そういえば歳はいくつだ?」手を止めてノーマンの顔を見る。

 「46歳」

 その回答にディオが驚愕する。

 「えっ、お前そんなにいってるのか?レオよりわたしに近いじゃないか」

 「いくつだと思ってたの?」

 「30歳前後かと」

 まあ日本でも同じようなことは良く言われた。12歳くらいから見た目の成長がないから、若いころは老けていると言われたが、30を越えたあたりから年下になめられることが増えた。

 「良く言われるよ」

 「だから色々知ってるし、飲み込みがいいんだな」

 「まあね。ところでさ、こっちの世界って雨とか雪とかないの?」

 「あるよ。今は乾期で変化がないだけだ。夏になれば嵐もくるし冬になれば雪も降る」

 「なるほどね、そしたらこれからはそっちにも対策取らなきゃなんね。ところでレオは?」

 「朝食前の朝練だと、いつもの練習場に行ってる」

 「真面目だねえ」

 朝食のしたくができたところで、あらためてディオがたずねる。

 「ところでノーマン。レオ君はどうだ?」

 「初実戦で僕の教えた迎撃カウンターを成功させたあと、日が沈むまで魔獣モンスター狩りしてたんだけど。群れを相手にするとさすがに一人じゃ厳しいかな。でも、タイマンでレオに倒せない魔獣モンスターはあの辺にはもういないね」

 「ガウは?」

 「あれも強い。あの機動力スピードは戦闘を圧倒的に有利にする。あの二人のコンビネーションにかかったら、よほどの大群じゃない限りは蹂躙されるね。現にゴブリンの住処らしき場所からゴブリンが消滅したよ」

 「半日でか?」

 「うん。ありゃ戦闘じゃなくてもはや虐殺だよ」

 「弱い者いじめばかりに慣れてしまうのも問題があるな」

 「うん、僕も含めてそろそろかもね」

 俺もディオさんもなんとなく別れの時が来るのを感じてる。

 「とりあえず朝食だな。二人を呼んできてくれ」

 ノーマンは犬笛の要領でガウにだけ聞こえる周波数の口笛を吹く。投石で湿度を調べたやり方をヒントにしてコウモリのように自分で音波を発する新技『超音波ソニック」。ガウはそれが聞こえると了解の合図で遠吠えをあげ、レオをのせて戻ってくる。

 距離にもよるがこの能力は便利だしガウ太と相性がいい。ガウ太を俺の従魔サーヴァントにしたいくらいだ。

 

 朝食を終えた二人は今日の修行を開始する。

 「師匠。接近戦で戦う相手なら迎撃カウンターで倒せるようになったけど、遠距離から攻撃してくる敵には防御しかできませんか?」

 「うーん。レオは相手の攻撃を防ぐのに専念して、攻撃はガウに任せるのが理想的かな」

 そう答えると、レオは露骨に不満げな表情を浮かべる。

 多分、魔獣モンスターを倒せる自信がついちゃったんだろうなあ。まああれだけ強ければそうなるか。そもそも防御に特化して育てようと考えたのはレオが弱っちい前提だったわけだし、実際相当強いんだよなあ・・・よし、ここは自信を伸ばしてあげよう。

 「魔法の使えない所持者ホルダーができる遠距離攻撃は、弓とか自分の武器を投げるかの投擲か、武器の威力をつかった斬撃しかないと考えている」

 「じゃあ弓を覚えないとダメですか?」

 「レオは槍に目覚めつつあるから槍のままでいこう」

 「じゃあ槍をつかった斬撃?」

 「それはまだ難易度が高いかな」

 「じゃあ槍を投げるだ」

 「正解。本来なら武器を投げて装備を失うなんてナンセンスなんだけど、さいわいなことにレオは大量の悪鬼之槍ゴブリン・ランスをもっているから、槍を投げても装備はなくならないしね」

 ノーマンは切り株を横に向けて円形の的に見立てて指さす。

 「とりあえず、試しにこれに向かって投げてみよう」

 「押忍オス

 正解の構えがわからないままとりあえず槍を何度か投げてみると、思いのほかうまくは投げられたが、コントロールがつかないし距離を出すには山なりになる。

 こうビシッと相手に向かって突き刺さる感じが欲しいんだよな。アメフトの投手QBがやるみたいな・・・あっ。

 思いついたように戦譜スコアを出すと所持品アイテムからゴム製のアメフトのボールを取り出す。昔、アメフト漫画の影響を受けて大手玩具量販店で購入した品物だった。

 「これでキャッチボールしよ」

 「キャッチボール?」


 ノーマンはテレビ観戦で覚えたNFL選手の投手QBの投げ方をレオに教える。

 縫い目に合わせてボールを掴んで、投げたい方向に半身はんみで構え、投げる方向につま先を向けて前足を踏み込む。軸を意識して体を回転させて、ボールが頭より高い位置にくるように肘からまっすぐ振り下ろし、後ろの軸足をしっかり蹴ってフォロースルーを大きくとる。

 ノーマンが実演して見せるとレオも真似して投げてみる。

 『ズバーン』激しい衝撃音とともにボールはノーマンの両手におさまるがスパイラル回転は止まらない。

 あちっ。おいおいおい、なんなのこの子? いきなり成功かよ。おそろしい子。

 レオはここでもセンスを見せ、二人は徐々に距離を開けながらキャッチボールを続けていった。レオはコツをつかんだのか前後左右に自然とステップを入れはじめ、かなり離れたところからでも球威は衰えず、スパイラル回転の真っ直ぐなパスをノーマンの胸元に向けて正確に放り込んでくる。そして、いつの間にか二人は槍投げの事を忘れキャッチボールそのものを楽しんでしまっていた。

 なんやかんや言っても、やっぱりレオは子どもなんだよな。いつかともキャッチボールしたいなあ。

 少し感傷にひたりノーマンは我にかえる。

 「そろそろ槍投げてみっか」


 「まあボールとは勝手が違うから、すぐにはうまくいかないだろうけど・・・」

 ノーマンがそう言いかけたところで、レオが投げた槍が切り株の中心に真っ直ぐきれいに突き刺さった。

 すぐにうまくいくのね・・・うんもういい、10連続で真ん中刺さったらもう習得したってことでいいよ・・・。

 ノーマンはレオの進化の速さに呆れながら、カウントダウンをはじめた。

 この調子だと俺が槍用にアレンジした刃幕シールドも簡単にできるようになっちゃうんだろうな。



<side-B>

 ノーマンが十数個の小石を散弾のように一度に投げつけると、レオは右手首をうまく使い∞の軌道で槍を左右に旋回させてすべての小石を破壊した。

 ほんと、もういいよ・・・はいはい、すごいすごい、全部できちゃうのね。

 「はいはい習得習得。刃幕シールド完成」

 ノーマンはなげやりになって声をあげる。

 「師匠、なんか怒ってます?俺どこか間違ってますか?」

 いかんいかん11歳の少年にいらぬ心配をさせてしまった。ここは大いにほめるべきだよな。

 「いいや、レオ。お前は凄いよ。なんかもう凄いとしか、表現しようがない」

 「昼飯までしばらく反復練習しててな」

 「師匠どっか行くんですか?」

 「ちょっとガウ太の様子みてくる」


 俺の音感探知ソナーをなんとなく理解しているガウ太が咆哮ハウルを使ってさっきから俺を呼んでいる。ガウ太のいる位置は先日伐採してしまった大木の先端の方だ。

 ノーマンが現地に到着してガウについていくとそこには1mほどの卵らしきものの残骸が7つほどあった。この大木が倒れたことにより落下してすべて割れてしまったようだ。卵の殻を一つ所持品アイテムに収納するとリストには『キルレイヴンの卵の殻』と表示された。

 なにやら非常に嫌な予感がしております。


 ノーマンとガウが急いでレオのもとに戻るとそこにはディオがいた。

 「おいノーマン。これはまさか」切り株を指さす。

 「先日うっかり大木を伐採してしまいました。それと・・・」

 おそるおそる『キルレイヴンの卵の殻』をディオに差し出す。

 「お前が切り倒した大木はキルレイヴンの巣があった木だ」

 それが何か?という顔のノーマンにディオが強めにたたみかける。

 「キルレイヴンは縄張りに侵入した人間には容赦ない。それどころか巣と卵を破壊されたと知ったら・・・人の村を襲うぞ」

 うっかりでとんでもないミスをすることは未経験じゃあないが、これはかなり洒落にならないレベルっぽい。近隣の村といえばレウラ村か。

 そんな時に音感探知ソナーが大きな鳥を察知する。4人が上空を見上げると3羽の黒い怪鳥が旋回しながら破壊された我が家こどもの元へ舞い降りようとしていた。

 「師匠、レウラ村が危ない」そう言ってレオはガウに乗って慌てて飛び出す。

 「鴉型魔獣キルレイヴンって強いの?」

 「あの森林の主だ、べらぼうに強い。レウラ村が滅ぶぞ」

 「だって冒険者が常駐してるんでしょ?」

 「辺境の村に常駐する冒険者なんて☆2か☆3程度だ。鴉型魔獣キルレイヴンは☆5扱いされとる」

 「それはまずい」と言い終わるか終わらないうちにノーマンはレオとガウを追いかけた。

 いくらレオとガウのコンビネーションがエグイといっても格上すぎる。しかも空の敵は俺も未経験だ。まずいことになっちゃたな。とにかく鴉型魔獣キルレイヴンより先に村に行って、村人の安全確保が最優先だ。

 

 そしてノーマンはレオたちとすぐに合流し走ったまま二人に指示を与え、自身は単身村へと向かった。

 「『キルレイヴン』が襲ってくるぞ。とにかく家に隠れろ」

 ノーマンが叫ぶと村民ははじめは何のことかわからない様子だったが、すぐにパニック状態になり避難をはじめる。そして騒ぎを聞きつけた常駐の護衛団が駆け寄ってくる。

 「お前がパウロか?」

 「ああそうだ、鴉型魔獣キルレイヴンがなんで?」

 「事情は後だ、とにかく村人をみな家の中に隠れさせろ」

 12人の冒険者とノーマンは村人をとにかく隠れさせる。

 

 「とりあえず村人は避難させた。それでこのあとはどうすればいい?」

 「いいか鴉型魔獣キルレイヴンは最大で3羽襲ってくる。お前ら護衛団はとにかく敵を引き付けて村から遠ざけろ」

 「俺らじゃ鴉型魔獣キルレイヴンとの戦闘なんて無理だ。すぐに殺されちまう」

 「とは言ってない。たった1羽だけでいいから村から遠ざけてくれ。あとは僕が何とかする。とにかく今は僕を信じろ」

 リーダーのパウロは少し考えてから、覚悟を決める。

 「わかった、あんたを信じる。ロベルトの小隊パーティーは引き続き村の警護。リコと俺の小隊パーティーは村の外で引き付ける準備だ」

 ほう、レオをスライムにけしかけたというからどんなろくでなしかと思ったが、判断も早いし決断力もある優秀な隊長じゃないか。

 「あんたはどうする?」

 「とりあえずこっちに飛んでくる数を一つ減らす」

 そう言って音感探知ソナー鴉型魔獣キルレイヴンの位置をわりだし、討伐に向かった。


 そのころレオはノーマンに指示されたとおり鴉型魔獣キルレイヴンの通り道になりそうな場所に身を隠していた。

 『いいかレオ。お前は最後尾の1羽に不意打ちで槍投げをかましてやれ。当たればよし、外しても敵はお前を放ってはおかないはずだ。必ず攻撃してくる。倒そうなんて思わなくていいからとにかく死なないようにガウ太と二人で時間を稼いでくれ』

 「師匠がやれと言ってることは、俺たちならできるってことだよな」

 「ウオン(そうだ)」

 レオは悪鬼之槍ゴブリン・ランスを10本ほど地面に突き立て投げる用の槍の準備をする。そのあいだ空を警戒していたガウが敵の襲来を察知する。

 「ウオン(きたよ)」

 「最後尾の1羽、最後尾の1羽・・・」

 レオは槍を握りノーマンの指示をブツブツ復唱しながら上空に集中する。鴉型魔獣キルレイヴンはV字で隊列を組んでいたので最後尾は判断しやすかった。

 「あいつだ」

 レオは槍を構え左足のつま先をしっかり目標に向けて踏み出し槍を射出した。そして、スパイラル回転しながら糸を引くような軌道で飛んでいく槍は、最後尾の1羽の足の部分に突き刺さる。ダメージは与えたようだが致命傷にはいたらず、むしろ敵の怒りを買い闘争本能に火をつけたかもしれない。鴉型魔獣キルレイヴンは足に刺さった槍を嘴で引き抜き、隊列を離れレオたちの方向に襲来してくる。その時、足止めのつもりで放った2本目の槍はあっさりかわされてしまった。

 「やっぱり不意打ちじゃなきゃ当たらないのか」自分の力不足を嘆く。

 「ウオン(のれ)」

 蜂型魔獣スパイクホーネットの時のように後ろ向きに槍を構え敵を引き付けながら逃走するが、追いつかないと判断したのか鴉型魔獣キルレイヴンが追走の手を緩めた。それを察知したレオはガウからおりて槍を投げつける。槍は外れたがその挑発に乗って敵はまんまと再度レオたちを標的にした。

 「ウオン(どうする)?」

 「ちゃんと逃走しちゃうと相手はのってこないみたいだから、ここで引き付けるしかない」

 「ウオン(できるか)?」

 「できるかできないかは関係ない。やるんだ」

 「ウオン(だな)」二人は戦闘態勢にはいる。

 距離がだいぶ近づいたところで、ガウが咆哮ハウルで威嚇するが格上の敵には通用しない。羽根による散弾攻撃で反撃されるが、レオは刃幕シールドで難なくかわす。ガウも反撃したいが上空の敵を攻める手段がない。急降下してきた鴉型魔獣キルレイヴンは爪と嘴で二人を襲う。ガウをかばうように迎撃カウンターを放つと射程に入った鴉型魔獣キルレイヴンにガウが飛び掛かるが、敵は素早く上空に退避する。そんな攻防を繰り返しているとストレスのたまったガウが猛ダッシュで助走をはじめ大きくジャンプした。

 「だめだ、ガウ。それじゃ鴉型魔獣キルレイヴンの絶好の的に・・・」

 レオがそう言いかけると、ガウの肉球が光りを放つ。そしてまるで階段を駆け上がるかのように空中を駆け上っていったのである。不意を突かれた鴉型魔獣キルレイヴンの回避は間に合わず、ガウの咬撃バイトが首に直撃した。そして意識を失い墜落した鴉型魔獣キルレイヴンにすかさずレオがとどめをさす。


 ☆5の魔獣モンスターがどのくらい強いのか見当がつかない。それに鳥型ともなると飛んで逃げられたしまいだ。3体同時に狩るには情報が不足している。できれば1体ずつ確実に仕留めたい。

 そう考えたノーマンはレオたちと護衛団に時間稼ぎを任せた。まずは1羽を倒し、次は護衛団が引き付ける1羽を倒し、最後の1羽はレオたちと挟撃する。だが現実はイメージ通りにはいかず、レオ担当の1羽以外の2羽は天高くノーマンを無視してそのまま村へ向かってしまった。

 ぬかった。なぜ俺は1羽は俺を攻撃すると思い込んでいた。くるなら2羽まとめてくるし、こうなるほうが自然だろ。


 レウラ村では護衛団が村唯一の兵器「巨大弓バリスタ」を村のはずれに設置していた。

 「これで倒せるとは思わないが、気を引くことはできるはずだ。問題は気を引いたあとどうするか」

 「パウロ団長、とりあえず前衛の戦士4人は攻撃を捨てて盾で防御に専念。後衛のサンドロとカーラは魔法攻撃で牽制。アニータとスザンナは回復魔法と補助魔法。定番だけどパターンしかないでしょ」副長のディーノが諦めたように答える。

 「そうだな。みんなよろしく頼む」

 「幸運を祈る」


 ノーマンは敵よりも速く村の近くまで戻ると護衛団に軽く挨拶をする。山刀マチェットを構え歌をうたいながら鴉型魔獣キルレイヴンを待った。

 「おいおい、あの兄さんあんな武器でしかもなんか歌ってるぞ、大丈夫か?」

 護衛団の誰もが思ったその不安は鴉型魔獣キルレイヴンの接近とともに一瞬でかき消される。

 ノーマンが接近してくる2羽に背を向け超高速でダッシュしながら二刀を振りぬくと、後方に生まれた激しい衝撃波は1羽には命中したがもう1羽には回避された。

 ちっ、まだ精度が悪いな。俺の新技『衝撃音波ソニックブーム

 「元気な方をよろしく頼む」と護衛団に声をかけ新技が命中してフラフラしている方の鴉型魔獣キルレイヴンを狩りに向かう。

 「何したんだ・・・今?でも、あの人がいれば村を守れる。よし、俺らも根性見せるぞ」

 実はパウロたちはノーマンの歌の影響を受けて気分が高揚していたのだが、歌による効果エフェクトであることには気づいていなかった。とにかく言われた通りに時間を稼ぐという強い思いで巨大弓バリスタを放つ。矢は見事に回避されたが、敵を引き付けるには十分な効果を発揮した。


 現実問題として空を飛ぶ敵にダメージを与えるには魔法か飛び道具しかない。その対策としての一つが衝撃音波ソニックブームだった。外傷を与えるのではなく相手の知覚に衝撃を与える技であり、食らった敵の高度が下がって自分の攻撃射程に入ってくれればとノーマンは考えていたが、敵はフラフラと上空を旋回している。

 なんだよこの鳥?近くで見たらセスナよりデカいじゃん。このサイズのせいで効かないのか?まだまだ改良の余地ありだな・・・じゃあはどうだ?

 敵の回避能力が皆無であると判断したノーマンは両手を頭の上で交差して構える。誰にも認識できぬレベルでタイミングをずらして二刀を振り下ろすと、楕円形のゆがんだ空間が高速で鴉型魔獣キルレイヴンを襲い首をはねた。

 こっちは☆5にも通用したな、新技その2『真空斬り・鎌鼬かまいたち

 

 さて、レオの方はどうだろう? ピンチの度合いによってはレオの方を優先させなきゃならんからね。

 音感探知ソナーで確認する。

 「げっ、あいつら倒してんじゃん。じゃあこっちに呼ぶか」

 超音波ソニックでガウを呼ぶ。

 

 こりゃ楽勝かな?

 そう思って振り返ると、護衛団はこの短時間で窮地に陥っていた。



※【11曲目】は2022年5月17日に公開です。

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