【10曲目】七つの子
<intro>
レオが自分の
「で、レオ君。槍の真髄は極められたかい?」
夕暮れ時を過ぎた頃に帰還した3人は、風呂を浴びてさっぱりしたあと当たり前のように夕飯のおかれたテーブルについたが、ディオは午後の半日ずっと心配していたらしい。
「はい・・・いえ、師匠に習ったことは出来るようになりました。でも、槍の真髄は多分まだまだ先にあります。よね?師匠」
おいおいレオよ、お前の
「うーん、あるだろうなあ。あのな、そもそも僕は槍使いじゃあないんだよ。自分の考えを槍で体現してるだけ。でもね、多分教えられることはまだまだありそうだ」
ノーマンは少しだけ自分が
「
さすがにそこまで言われると照れる。
「いやいや、誰の弟子になってもレオはちゃんとやれたさ。逆に僕の弟子にならなきゃ良かったなんて思う日が来るかもだよ」
「それはないです」語気を荒めて言い返す。
しゅんとなって椅子に座ったレオが語りはじめる。
「俺はちっちゃいころに親父がいなくなって。母さんも病気でいなくなって。爺ちゃん大好きだけど、優しくって。でも、強くなりたくって。それでも冒険者たちから馬鹿にされて。無茶した挙句死にかけて。そこで師匠に出会って。師匠たちは一所懸命に俺の力になってくれて。だから、俺の師匠は師匠しかいなくて、そんでディオさんは大師匠です」
『大師匠』というワードを聞いたノーマンはすねながらディオを見て、そして目で訴えた。
じゃあ、大師匠が全部教えてやればよかったじゃん
46歳のオッサンは、嫉妬深い。
<side-A>
6月26日、今日も晴れ。気持ちいいね。というより、まだこっちの世界に来てから雨にも雪にも降られてない。まさかこっちの世界は晴ればっかりってことはないよね?
「大師匠。おはよ」朝食のしたくをしているディオに朝の挨拶をする。
「嫉妬か?」手を止めずにディオが応じる。
「いやいや、レオはちゃんと人を見る目があるなと。僕はディオさんがいなかったら何もわからないままだったわけだしね」
「どうかな。お前は理解力があるし順応性が高い。私が色々教えなくても勝手に自分でみつけるような気がするよ」
「そりゃ買いかぶりすぎだよ。僕はただのオッサンさ」
「オッサン?お前そういえば歳はいくつだ?」手を止めてノーマンの顔を見る。
「46歳」
その回答にディオが驚愕する。
「えっ、お前そんなにいってるのか?レオよりわたしに近いじゃないか」
「いくつだと思ってたの?」
「30歳前後かと」
まあ日本でも同じようなことは良く言われた。12歳くらいから見た目の成長がないから、若いころは老けていると言われたが、30を越えたあたりから年下になめられることが増えた。
「良く言われるよ」
「だから色々知ってるし、飲み込みがいいんだな」
「まあね。ところでさ、こっちの世界って雨とか雪とかないの?」
「あるよ。今は乾期で変化がないだけだ。夏になれば嵐もくるし冬になれば雪も降る」
「なるほどね、そしたらこれからはそっちにも対策取らなきゃなんね。ところでレオは?」
「朝食前の朝練だと、いつもの練習場に行ってる」
「真面目だねえ」
朝食のしたくができたところで、あらためてディオがたずねる。
「ところでノーマン。レオ君はどうだ?」
「初実戦で僕の教えた
「ガウは?」
「あれも強い。あの
「半日でか?」
「うん。ありゃ戦闘じゃなくてもはや虐殺だよ」
「弱い者いじめばかりに慣れてしまうのも問題があるな」
「うん、僕も含めてそろそろかもね」
俺もディオさんもなんとなく別れの時が来るのを感じてる。
「とりあえず朝食だな。二人を呼んできてくれ」
ノーマンは犬笛の要領でガウにだけ聞こえる周波数の口笛を吹く。投石で湿度を調べたやり方をヒントにしてコウモリのように自分で音波を発する新技『
距離にもよるがこの能力は便利だしガウ太と相性がいい。ガウ太を俺の
朝食を終えた二人は今日の修行を開始する。
「師匠。接近戦で戦う相手なら
「うーん。レオは相手の攻撃を防ぐのに専念して、攻撃はガウに任せるのが理想的かな」
そう答えると、レオは露骨に不満げな表情を浮かべる。
多分、
「魔法の使えない
「じゃあ弓を覚えないとダメですか?」
「レオは槍に目覚めつつあるから槍のままでいこう」
「じゃあ槍をつかった斬撃?」
「それはまだ難易度が高いかな」
「じゃあ槍を投げるだ」
「正解。本来なら武器を投げて装備を失うなんてナンセンスなんだけど、さいわいなことにレオは大量の
ノーマンは切り株を横に向けて円形の的に見立てて指さす。
「とりあえず、試しにこれに向かって投げてみよう」
「
正解の構えがわからないままとりあえず槍を何度か投げてみると、思いのほかうまくは投げられたが、コントロールがつかないし距離を出すには山なりになる。
こうビシッと相手に向かって突き刺さる感じが欲しいんだよな。アメフトの
思いついたように
「これでキャッチボールしよ」
「キャッチボール?」
ノーマンはテレビ観戦で覚えたNFL選手の
縫い目に合わせてボールを掴んで、投げたい方向に
ノーマンが実演して見せるとレオも真似して投げてみる。
『ズバーン』激しい衝撃音とともにボールはノーマンの両手におさまるがスパイラル回転は止まらない。
レオはここでもセンスを見せ、二人は徐々に距離を開けながらキャッチボールを続けていった。レオはコツをつかんだのか前後左右に自然とステップを入れはじめ、かなり離れたところからでも球威は衰えず、スパイラル回転の真っ直ぐなパスをノーマンの胸元に向けて正確に放り込んでくる。そして、いつの間にか二人は槍投げの事を忘れキャッチボールそのものを楽しんでしまっていた。
なんやかんや言っても、やっぱりレオは子どもなんだよな。いつかさとこともキャッチボールしたいなあ。
少し感傷にひたりノーマンは我にかえる。
「そろそろ槍投げてみっか」
「まあボールとは勝手が違うから、すぐにはうまくいかないだろうけど・・・」
ノーマンがそう言いかけたところで、レオが投げた槍が切り株の中心に真っ直ぐきれいに突き刺さった。
すぐにうまくいくのね・・・うんもういい、10連続で真ん中刺さったらもう習得したってことでいいよ・・・。
ノーマンはレオの進化の速さに呆れながら、カウントダウンをはじめた。
この調子だと俺が槍用にアレンジした
<side-B>
ノーマンが十数個の小石を散弾のように一度に投げつけると、レオは右手首をうまく使い∞の軌道で槍を左右に旋回させてすべての小石を破壊した。
ほんと、もういいよ・・・はいはい、すごいすごい、全部できちゃうのね。
「はいはい習得習得。
ノーマンはなげやりになって声をあげる。
「師匠、なんか怒ってます?俺どこか間違ってますか?」
いかんいかん11歳の少年にいらぬ心配をさせてしまった。ここは大いにほめるべきだよな。
「いいや、レオ。お前は凄いよ。なんかもう凄いとしか、表現しようがない」
「昼飯までしばらく反復練習しててな」
「師匠どっか行くんですか?」
「ちょっとガウ太の様子みてくる」
俺の
ノーマンが現地に到着してガウについていくとそこには1mほどの卵らしきものの残骸が7つほどあった。この大木が倒れたことにより落下してすべて割れてしまったようだ。卵の殻を一つ
なにやら非常に嫌な予感がしております。
ノーマンとガウが急いでレオのもとに戻るとそこにはディオがいた。
「おいノーマン。これはまさか」切り株を指さす。
「先日うっかり大木を伐採してしまいました。それと・・・」
おそるおそる『キルレイヴンの卵の殻』をディオに差し出す。
「お前が切り倒した大木はキルレイヴンの巣があった木だ」
それが何か?という顔のノーマンにディオが強めにたたみかける。
「キルレイヴンは縄張りに侵入した人間には容赦ない。それどころか巣と卵を破壊されたと知ったら・・・人の村を襲うぞ」
うっかりでとんでもないミスをすることは未経験じゃあないが、これはかなり洒落にならないレベルっぽい。近隣の村といえばレウラ村か。
そんな時に
「師匠、レウラ村が危ない」そう言ってレオはガウに乗って慌てて飛び出す。
「
「あの森林の主だ、べらぼうに強い。レウラ村が滅ぶぞ」
「だって冒険者が常駐してるんでしょ?」
「辺境の村に常駐する冒険者なんて☆2か☆3程度だ。
「それはまずい」と言い終わるか終わらないうちにノーマンはレオとガウを追いかけた。
いくらレオとガウのコンビネーションがエグイといっても格上すぎる。しかも空の敵は俺も未経験だ。まずいことになっちゃたな。とにかく
そしてノーマンはレオたちとすぐに合流し走ったまま二人に指示を与え、自身は単身村へと向かった。
「『キルレイヴン』が襲ってくるぞ。とにかく家に隠れろ」
ノーマンが叫ぶと村民ははじめは何のことかわからない様子だったが、すぐにパニック状態になり避難をはじめる。そして騒ぎを聞きつけた常駐の護衛団が駆け寄ってくる。
「お前がパウロか?」
「ああそうだ、
「事情は後だ、とにかく村人をみな家の中に隠れさせろ」
12人の冒険者とノーマンは村人をとにかく隠れさせる。
「とりあえず村人は避難させた。それでこのあとはどうすればいい?」
「いいか
「俺らじゃ
「戦えとは言ってない。たった1羽だけでいいから村から遠ざけてくれ。あとは僕が何とかする。とにかく今は僕を信じろ」
リーダーのパウロは少し考えてから、覚悟を決める。
「わかった、あんたを信じる。ロベルトの
ほう、レオをスライムにけしかけたというからどんなろくでなしかと思ったが、判断も早いし決断力もある優秀な隊長じゃないか。
「あんたはどうする?」
「とりあえずこっちに飛んでくる数を一つ減らす」
そう言って
そのころレオはノーマンに指示されたとおり
『いいかレオ。お前は最後尾の1羽に不意打ちで槍投げをかましてやれ。当たればよし、外しても敵はお前を放ってはおかないはずだ。必ず攻撃してくる。倒そうなんて思わなくていいからとにかく死なないようにガウ太と二人で時間を稼いでくれ』
「師匠がやれと言ってることは、俺たちならできるってことだよな」
「ウオン(そうだ)」
レオは
「ウオン(きたよ)」
「最後尾の1羽、最後尾の1羽・・・」
レオは槍を握りノーマンの指示をブツブツ復唱しながら上空に集中する。
「あいつだ」
レオは槍を構え左足のつま先をしっかり目標に向けて踏み出し槍を射出した。そして、スパイラル回転しながら糸を引くような軌道で飛んでいく槍は、最後尾の1羽の足の部分に突き刺さる。ダメージは与えたようだが致命傷にはいたらず、むしろ敵の怒りを買い闘争本能に火をつけたかもしれない。
「やっぱり不意打ちじゃなきゃ当たらないのか」自分の力不足を嘆く。
「ウオン(のれ)」
「ウオン(どうする)?」
「ちゃんと逃走しちゃうと相手はのってこないみたいだから、ここで引き付けるしかない」
「ウオン(できるか)?」
「できるかできないかは関係ない。やるんだ」
「ウオン(だな)」二人は戦闘態勢にはいる。
距離がだいぶ近づいたところで、ガウが
「だめだ、ガウ。それじゃ
レオがそう言いかけると、ガウの肉球が光りを放つ。そしてまるで階段を駆け上がるかのように空中を駆け上っていったのである。不意を突かれた
☆5の
そう考えたノーマンはレオたちと護衛団に時間稼ぎを任せた。まずは1羽を倒し、次は護衛団が引き付ける1羽を倒し、最後の1羽はレオたちと挟撃する。だが現実はイメージ通りにはいかず、レオ担当の1羽以外の2羽は天高くノーマンを無視してそのまま村へ向かってしまった。
ぬかった。なぜ俺は1羽は俺を攻撃すると思い込んでいた。くるなら2羽まとめてくるし、こうなるほうが自然だろ。
レウラ村では護衛団が村唯一の兵器「
「これで倒せるとは思わないが、気を引くことはできるはずだ。問題は気を引いたあとどうするか」
「パウロ団長、とりあえず前衛の戦士4人は攻撃を捨てて盾で防御に専念。後衛のサンドロとカーラは魔法攻撃で牽制。アニータとスザンナは回復魔法と補助魔法。定番だけどパターンしかないでしょ」副長のディーノが諦めたように答える。
「そうだな。みんなよろしく頼む」
「幸運を祈る」
ノーマンは敵よりも速く村の近くまで戻ると護衛団に軽く挨拶をする。
「おいおい、あの兄さんあんな武器でしかもなんか歌ってるぞ、大丈夫か?」
護衛団の誰もが思ったその不安は
ノーマンが接近してくる2羽に背を向け超高速でダッシュしながら二刀を振りぬくと、後方に生まれた激しい衝撃波は1羽には命中したがもう1羽には回避された。
ちっ、まだ精度が悪いな。俺の新技『
「元気な方をよろしく頼む」と護衛団に声をかけ新技が命中してフラフラしている方の
「何したんだ・・・今?でも、あの人がいれば村を守れる。よし、俺らも根性見せるぞ」
実はパウロたちはノーマンの歌の影響を受けて気分が高揚していたのだが、歌による
現実問題として空を飛ぶ敵にダメージを与えるには魔法か飛び道具しかない。その対策としての一つが
なんだよこの鳥?近くで見たらセスナよりデカいじゃん。このサイズのせいで効かないのか?まだまだ改良の余地ありだな・・・じゃあこっちはどうだ?
敵の回避能力が皆無であると判断したノーマンは両手を頭の上で交差して構える。誰にも認識できぬレベルでタイミングをずらして二刀を振り下ろすと、楕円形のゆがんだ空間が高速で
こっちは☆5にも通用したな、新技その2『真空斬り・
さて、レオの方はどうだろう? ピンチの度合いによってはレオの方を優先させなきゃならんからね。
「げっ、あいつら倒してんじゃん。じゃあこっちに呼ぶか」
こりゃ楽勝かな?
そう思って振り返ると、護衛団はこの短時間で窮地に陥っていた。
※【11曲目】は2022年5月17日に公開です。
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