2-01 優美
「つ、
俺は、眼前の美女が『
学校に来ていた地味な印象とは正反対の、優美にして
横を見ると、先ほど俺たちをここに招き入れた女中らしき人物は、掌ちゃんに向かって平伏している。どういうことだ。
掌ちゃんが口を開ける。いや、もうすでに『ちゃん』付けで呼ぶことが失礼に当たるかのように思えるほどの
「私は、『
確かに俺の知っている下野掌の声音だったが、声のトーンが自信に満ち溢れたような印象を感じるものであった。
「カ、カバタショウ?」
「初見では『下野』と書いて『かばた』なんて読んでもらえないからね。
「……」
言っていることの理解はできるが、その前に説明が必要なことがありすぎる。
「とにかく、遠路はるばるよくお越し下さいましたこと。深謝致します。取りあえず、そちらで話しましょうか。タイフ、ご案内を」
†
俺たちは案内された部屋で椅子に座って待機することになった。
「下野さん、何か、全然違う人になっちゃったんだな……」
俺は、今朝方まで抱いていた想像とは異次元の事態、最愛の彼女の異次元の変化を受け入れられなかった。
「下野ちゃん、あんな美人だったんだ。ありゃ、男子が噂するはずだ」明日佳は掌ちゃんの美貌に完敗を認めて悔しがっているが、そんなことはいまはどうでも良いような気がする。
「やっぱり、カラコン、ウィッグ疑惑は本当だったんだ……」
瞳志は、まだそんなことこだわっていたのかい。
「……シュン」華波さんは独り言だろうか。
しばらくすると、扉が開き
「お待たせしました」
中にいる女中は一斉に平伏する。やはり異様だ。下野さんはここではこんなに身分の高い人物なのか。
服装は変わっていないが、錫杖は置いて来たのだろうか。彼女は手ぶらだった。
女中の一人が豪華な肘掛けの椅子をさっと差し出し、黙って下野さんは腰掛けた。目の前を下野さんが通ったとき、ムスクの香りがした。
すでにオーラだけで、彼女の
「畏まらなくていいよ、霜鳥くん。楽にしてて」
そうは言ってくれたが、改めて見て、彼女はこの世のものと思えないほど異次元の美しさを誇っていた。西洋美術で描かれるような、繊細かつ精緻に彫刻されたような、はたまた
「ど、どうしたの。どうなってんの? こ、ここはどこなの?」
俺は戸惑いを、
「ここは、カバタシンキョウコクの中です」
「カ、カバタシンキョウコク?」
「そう。
「……信じられん」
信じられないのは、彼女の発言の内容なのか、それともちょっと前まで初恋のクラスメイトであった事実なのか。きっとその両方だろう。
「私は、シュンカンタイソウハクという官職を仰せつかっています。さっきも言ったように
「タ、タイソウハク?」
「そう、
「だ、大臣?」
この華波多真教国なるものがどれくらいの規模感か分からないが、日本で言うナントカ大臣と言われれば、彼女がこの世界で高い地位にいることが、否が応にも分かる。
「古代中国の
瞳志は眼鏡のブリッジの部分を少し持ち上げながら言った。
「よくご存知で。でもちょっと違うのは、私は日本で言う大臣であるとともに、知事も兼ねている。ここは
「何だかよく分からんけどすごいんだね」明日佳が言う。
「で、本題はここから」掌の顔つきが変わった。何とも言えない威厳がある。「あなたたちには入信してもらいます。そして私の役に立って欲しいの」
「な?」瞳志の声だ。俺も心の中で同じ声を上げている。
入信ということは宗教に入ることだろう。俺は特にこれといった信仰を持たないが、それでもいきなりよく分からない所に連れてこられて、どんな教義かも分からない宗教を信仰しろというのは、いくら何でも無理があるだろう。
「冗談じゃねえ! 信仰の自由ってものがあんだろう?」華波さんが立ち上がって憤った。
「
「じゃあ、あたいらは無関係か!」
「そうじゃない、霜鳥くん以外の3人は選択する権利はありません。今日をもって改宗し、華波多真教へ入信することは強制です」
「は、何でだよ!」
「華波多真教の門を自らの足で
「そんな」瞳志は情けない声を出した。
「さあ、霜鳥くん、どうするの?」
掌の大きく円らな、黄色と言うより
「分かった。俺も入信するよ」
不思議と、そんな言葉が自然と出てしまっていた。
「航!」明日佳の声だ。
「おめでとう。そしてようこそ。これで私の仲間。心も身体もね」
掌は妖艶すぎる微笑みを浮かべた。
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