1-02 図星
私立
俺の住む千葉寺周辺は中央区、高校は
明日佳も家は千葉寺だ。小、中学校が同じだから近所なのは当たり前だけど、明日佳の方が寺に近い。ここは名前のとおり
花美丘高校を選んだ理由は、成績からして少し背伸びすれば手が届くレベルだったこともあるが、いちばんは陸上部が強かったことが大きい。いや、陸上だけでない。運動部全般強い。一方で進学率だって高いのだから、文武両道と言える。もっとも国体に出るような人は、スポーツ推薦枠で入っているらしいが。
明日佳も俺も一般入試で入っている。明日佳は実は、スポーツ推薦でも入れるくらい武道の達人らしい。空手、合気道、日本拳法、
俺は残念ながらそこまでスポーツの才能はないが、唯一持久走では昔から負ける気がしない。距離が長くなればなるほど有利だ。もちろんオリンピックの長距離選手みたいには速くは走れないが、それでもなぜかどれだけ長く走っても肺が悲鳴を上げる気配がない。試したことはまだないが、ウルトラマラソンでも走れるような気がしている。
そんな俺にとって、部活は高校生活の青春の1つにしようと思っていた。
しかし、そんな
下野さんはどこに住んでいるのだろう? 趣味は何だろう? 好きな食べ物は? 好きな色は? 好きな人はいるのかな?
ときどき上の空になって、先生や先輩に叱られることもしばしばあった。
でも、彼女に話しかけることはやっぱりできなかった。彼女が俺に助けを求めてくることはなかったし、理科の実験とかでペアを組むこともなかった。
『というわけで、あたしは航の恋を応援するからさ、いつでも声をかけてよ!』
不意に明日佳がそんなことを俺に言ったことを思い出した。悩みを相談したら聞いてくれるだろうか。明日佳の良いところは、人をからかうことはあるが、決してバカにしないところだ。友達であろうとなかろうと人を大切にする。だからこそ嫌う人は少ない。小学校から見てきたからいまさら恋心が芽生えないけど、高校ではじめて知り合っていたら、明日佳のことに惚れていたかもしれない。
実際のところ、俺のもとに何人か、明日佳に恋人がいるかどうか聞かれたこともあった。いまのところ明日佳も彼氏がいるような素振りはないけど、それも時間の問題だ。誰かと付き合いはじめたら声をかけにくくなる。だったらいまのうちか、となぜか急に焦りはじめた。
「ごめん。今日部活何時に終わる?」
いきなり声をかけられた明日佳は驚いていた。
「珍しいね、航から話しかけるなんて?」
明日佳とはよくしゃべるけど、確かに俺からは珍しいかもしれない。
7時前くらいに部活は終わるそうなので、校門で待ち合わせることにした。通学ルートは同じはずだが、一緒に帰るのははじめてかもしれない。
「で、用件は何なの?」京成幕張本郷駅に向かっているときに、明日佳は聞いて来たが、同じ制服の学生がいるので答えあぐねた。
「ここじゃ話しにくい。千葉寺で話す」
「何それ? だったら校門でわざわざ待ち合わさんでも。ってか土日とかに呼び出してくれればいいじゃん!? 近所だし」
「……そうだな」
指摘はごもっともかもしれない。そんなことを冷静に考える余裕もなかった自分を恥ずかしく思う。
「……どうせ、恋の相談でしょ?」
図星だった。充分察することができる状況かもしれないが、いとも簡単に見抜かれてしまったので
「……そ、そうだよ。す、好きな子できたんだ」
俺が勇気を出してそう言うと、突然大きな声で明日佳は言った。
「あーあ、そっかぁ。その相手があたしだったら、ってちょっと思ったのに、残念だな!」
「な!? よせ! 声でかい!」
周りに知っているヤツがいると気まずい。俺は慌てて制止した。
「あは、ごめんねっ」と反省の色のまるでない謝り方で謝ったあと、「でも、ちょっと航のこといいなって思ってたのは事実だから」
「えっ?」思いがけない言葉に俺は戸惑った。
「冗談、冗談! 忘れて!」
明日佳は俺のことをからかっているかと思ったが、見ると意外にも彼女は赤面していた。このような表情を見るのははじめてのような気がする。そしてその顔は疑う余地もなく可愛らしく、ハッとした。
千葉寺に着くと、明日佳が立ち話もなんだしマクドナルドに入ろうと言ってきた。まあ、ここまで来たらさすがに同級生にも遇わないだろう。スーパーマーケットが併設されているので家族が買い物している可能性はあるが、マクドナルドには入ってこないだろう。
適当にコーヒーを注文して、隅っこの二人席に座る。そう言えば、ずっと明日佳とは同級生で会えば喋る仲だったけど、こうやって二人でお茶をするのははじめてだ。
「さ、本題に入ろうか」明日佳はニヤリと笑みを浮かべてドキリとした。
「まさか、俺を尋問するわけじゃないだろうな」
「違うって。あたしはあんたをアシストするだけ。だから誰が好きになったかはもちろん聞かないといかんけどね」
そりゃそうだけど、不敵な笑みを浮かべられると
「お、お手柔らかにお願いします」と仰々しく頭を下げてみた。すると思いがけない言葉が彼女の口から飛び出した。
「でさ、あたしの推理だけど、航の好きな人って下野ちゃんでしょ!?」
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