綺麗な幕引きを…

「は?お蔵入りが免れた?」


真っ昼間のオフィスに谷浦の驚いた声が響き渡る


「今回の件は鳴川さんが亡くなっているのに、遺族の方は大丈夫なんですか?」

どうやら、先の件のお蔵入りがなくなった報告だったようだ

しかし亡くなって人がいるだけに谷浦は素直に納得が出来ない



「そう、その遺族の方がね、承諾してくれたんだ」

保田も同じ気持ちなのか、あまり嬉しくなさそうな様子で歯切れ悪く経緯を軽く説明した


「鳴川さんどうやら結構、というか、かなり借金が多かったみたいでね………」

「………出演料目当てか」


承諾の内容はあまり良い内容ではなかった、その後の事を聞かなくても粗方理解できたのか、谷浦は深いため息を吐いた


「本来なら、息子が死んだことをネタにされるなんて残された側としては苦しいはずなのにね」

「案外、金が入るならどうでもいいってのもありますよ」

「………どちらかというとそういう雰囲気だったかな」

つい先日、無事に子供が生まれたばかりだからなのか

保田は少し感傷的になりながらため息をつく


「やめましょう保田さん、俺らがこれ以上言う権利はない」

谷浦はこれ以上保田が落ち込まないように声を掛けた


「………ごめんね、そうだ、その通りだ」

保田も谷浦の喝で本来の目的を思い出したようだ、これ以上は何も言わずこれからの段取りを今後話し合うことでこの話は終わった





「えっ!江國くん辞めないの!?」

しばらくすると、谷浦たちとは少し離れたところで池谷と江國が会話をしたのだろう、急に大声をだす池谷の様子に谷浦と保田も気になり振り向く


「そんなに驚くことですか?」

対して江國は気にすることなく、1人画面を見ながら黙々と作業をしていた


「どうした、池谷」

またくだらない内容だろうと思いながら声を掛けるが、池谷は落ち着かない様子で谷浦に迫ってきた


「谷浦さんは知ってたんですか?!」

「何を………」

「江國くんですよ!この会社辞めないって」

「あ~…」


谷浦はどうやら心当たりがあるのか、気まずそうに頭を掻いた

池谷は江國の実家が祓い屋であることが社内にバレた事と、今回の件で江國の能力がその実家側に認められた事で、池谷は江國が退社してしまうと思い込んでいたようだ


江國は目線を画面に向けたまま淡々と答える


「むしろ辞めてどうするんですか、家業は兄貴が継いでるんで俺は認められたところでせいぜい臨時で呼ばれるくらいですよ」

「むしろお前、その話すら蹴ったじゃねーか」

谷浦のその言葉が引き金になった


「えっ、谷浦さん何か知ってるんですか?」

池谷が目ざとく谷浦の言葉を拾う


しまったという顔をした谷浦だが、もう遅かった

池谷は嬉しそうに目を光らせる

さらに江國が追い打ちをかけるような発言をした


「俺は谷浦さんがこの仕事をしている限り、この人を守り抜くって決めましたからね」

変わらず視線はそのままで、まるで報告書でも読み上げるように江國は語る


「俺は元々、この人に会うためにここに入社したようなもんなんで、大学卒業したらゆくゆくはここの正社員になるつもりでいます」

「ぼ、僕としては大歓迎なんだけど、………えーっと待って僕その話知らないから誰か教えて」

ここで何となく状況を理解した保田だが、うまく吞み込めずしどろもどろになる

そんな保田を見かねて谷浦は呆れたように江國に声をかけた


「……江國、この話は後にしな…」

「嫌ですよ、やっと谷浦さんが俺の恋人になってくれたのに、ここで宣言しないと示しがつかないじゃないですか」

谷浦の言葉もむなしく、江國は言葉を遮りサラッと衝撃的な発言をする

その場にいたものは全員びっくりして固まり


谷浦はみるみるうちに顔を赤くなった


「おまっ…」

「えっ!えっ!えぇぇ!?本当なの!?江國くん!!良かったじゃない!!やっと谷浦さんが振り向いてくれたんだ!!」


真っ赤になり江國に詰め寄ろうとする谷浦だが、ハイテンションになった池谷に邪魔をされてしまう


「え、やっと………?」

またもや状況が読めなくなってしまった保田は1人虚無空間に行ってしまう


「これは朗報よ!社内の女の子たちで前々から話題になってたんだから!」

「おい!池谷!俺はそれ初耳だぞ!どういうことだよ!」

「谷浦さんが今まで知らなかっただけですよ!随分前からみんな知ってました!」

「はぁ!?」


朗報だと喜び掛け回る池谷に、谷浦が顔を真っ赤にしながら追いかける

保田は自身の部下の色恋沙汰の衝撃で頭の処理が追いついていない様子だった


「ちょっと、待って、僕、頭がパンクしそう、あれ?社内恋愛ってうち大丈夫だったっけ………あれ?」

「細かい事はいいんですよ!保田さん!」

「良くねーよ!俺にもプライバシーってもんがあるんだよ!」


こうして、またいつもの日常に戻った谷浦たち




しかし、そう思われたのも束の間………




誰かがつけっぱなしにいたのか、そのテレビからニュースが流れる


《昨日未明、アパートで男性2人がが遺体で発見されました。

遺体はどちらも腹部の損傷が激しく、警察は事件性がないか捜査しています。》


その内容に騒いでいた全員が止まった


テレビから聞こえるアナウンサーの声と一緒に画面の映像が切り替わる

どこか聞き覚えがある内容、そして映し出された被害者の顔に谷浦は目を見開いた


「………噓だろ」

映し出された被害者の2人の顔のうちの1人に見覚えがあった

「そんな……」

そして谷浦につられてテレビを見ていた池谷も同様だった


被害者の名前こそ覚えていないが、「正則」と書かれた見知らぬ男に嫌な確信が出た


そして見覚えがある男、その男は


ーーーー「あの人の、正則さんとの子供が欲しいです…」ーーーー


あの日、恋人の子供が欲しいと神社に向かった男性だった


「終わったんじゃないのか………」

あまりの事に谷浦は動揺が隠せない


「そういえば………」

突然、池谷が思い出したように自身のデスクへと走った


「まだ、調査していた頃、姑獲鳥村に関する調べ物してたら、こんなページを見つけたんです」

そう言って池谷はある一枚の紙をみんなに見せた


それは、羽衣澪の超能力の研究をしていたと思われる記事

資料図書館に寄贈されていた学者の名前が記載されていた


「この記事によると、ある程度、超能力らしい結果もあったのですが、どうも一部人工的に仕組まれた疑いが出てきたって記事でして、ただ私は胡散臭いと思って破棄にしてたんです」


その紙を見ながら保田も池谷の意見にうなずいた

「確かに、この記事の通りなら"村人全員"が協力しないと成り立たない」


「まぁ、この記事とさっきのニュースがどうって訳じゃないですけど、なんでだろう急に気になって…」

すみません、と付け足し謝る池谷



だが、谷浦は違うところが気になっていた様子だった


「おい、江國も来い、いつまで画面を見ているつもりだ」


谷浦はいくら騒いでも画面から目をそらさない江國に注意をした


しかし


「来ないでください」

江國はいつになく強張った様子で目線をそのままにして、谷浦がこれ以上来ないように手を伸ばす


谷浦も直感的に不振に感じた

「お前、見てるんだ………」

恐る恐る、声を掛ける


よく見れば、江國が見ていたのは一番最初に鳴川が投稿した神社の肝試しの映像だった

ちょうど最後の部分の女の亡霊が映っている場面で映像が停止している


だが停止しているはずなのに、女の亡霊はどこか動いているようにも見えた


「こいつの正体がわからなかったんですよ」

江國は画面にいる女の亡霊を睨みながら答える

「最初は、今までの状況から羽衣澪だと思ってました」

次第に江國の睨みが段々と鋭くなる


「だけど、こいつは羽衣澪なんかじゃない」


谷浦は状況が理解できた

もちろん、そばで聞いていた保田も池谷も伝わったようだ


「もしかしたら保田さんがさっき言っていた"村人全員"ってのは、あながち間違いじゃないかもしれませんね」


画面に映っていた女は、黒く爛れた表情ででこちらを睨んでいた

その恰好はよく見れば

まるで今その場所に居るかの様に恨めしそうな顔で


「呪いは、で起こしていたのか?」


江國は恐怖で引き攣っている谷浦にやっと目線を向け微笑む


「ま、どんな奴でも俺は負けませんよ」


そして宣戦布告の様につぶやき画面ごとその女を破壊した


「谷浦さん、必ず貴方を守ってみせます」


江國は不敵な笑みを谷浦に向けた


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