第12話 混乱!ヘブンズメイズ

 「ここでトップ13名が全員フィフスゾーン、〈ヘブンズメイズ〉へ入りました!現在トップ独走中の掛釣選手もなかなか進めていない様子!まだ誰が1位になるのかわからない、大波乱の展開です!」


 俺達がフィフスゾーンへ入ると、実況が聞こえた。ほう、全員このヘブンズメイズで足止めを食らっているのか…いいことを聞いた!


 「ターボが溜まるまでもう少しかかります。だから2人は一旦別の方向を探してください。」


 「でも合流できなくなったらどうするんだ?」


 「俺に任せてください!俺は分身の居場所がわかるんです。だから分身を作って、案崎先輩と一緒に行動させます。俺は走太先輩と行動しますので。」


 「よし、わかった。」


 協力が疑われるのを極力防ぐため、一度、妨害しあっている感じを醸し出す。そして俺と案崎さんは左右に別れ、それを追うために二身が分身する。なかなかの作戦だ。


 右…左…行き止まり。戻ってまた右へ左へとさまよう。壁は硬いから〈ターボ〉で壊すこともできないし、登ることもできない。上から見れない迷路がこんなにじれったいなんて。


 「あーもう!こんなんいつになったらクリアできんだよ…」


 「まぁ終盤ですしね!これくらいやってもいいんじゃないすか?」


 「でもこれはやり過ぎってもんだ、って危なっ!」


 油断して走っていると、急に行き止まりに突き当たった。あと少しで壁にぶつかるとこだった…

 戻らないといけないので、一度二身と殴り合いをしておく。当てないようにだけど。


 「お、溜まった!二身、案崎さんの場所はどこらへんだ?」


 「じゃあそこまで連れてくんで、少しだけターボを使って俺を飛ばしてください。その方が距離も取れるので攻防する手間が省けます!」


 「よし、わかった!」


 俺は3秒間〈ターボ〉を使い、二身を飛ばす。俺はそれを追いかける。…全く、戻るのも一苦労だ。角が多すぎる。そして距離がある。


 「クーッ、ターボ使いたいけど、案崎さんと合流するまで我慢我慢…」


 懐かしいなぁ…学生時代はよくマラソン大会に出たものだ。当然、〈ターボ〉なんて使えないし、あの世みたいに走っても体力を消耗しないなんてこともない。辛くても地道に走ったな。そう考えると、ゴースト・ランなんて大したことないなって思えてくる。

 

 「お、着きました!」


 「やっとか…」


 「合流したな。早速やろう。」


 「はい。じゃあ俺が二人を振りきろうとするので、2人は俺に摑まってくださいね。」


 「おう」


 「よし…〈ターボ〉!」


 「〈ガイド〉!」


 ビシュゥゥゥン!


 「左!左!直進!からの右行ってまっすぐ!」


 「なかっ、なかっ、曲がるのがっ、きついっ」


 7秒経ち、ターボが切れた。二身の〈ダブル〉はさっき使ったばかりなので、残りは案崎さんに続いて普通に走るしかない。


 「ここで順位が大きく入れ替わりました!案崎選手、走太選手、二身選手がそれぞれ4.5.6位にアップ!いよいよ展開が読めなくなってきたー!」

 

 「いいぞ!この調子だ!」


 「これだけ走ったんです。ゴールはもうすぐなはず!」


 そう言った途端、地面から何かを掘るような音が聞こえ始めた。いや、掘るというかなんというか…とりあえずドリルの音なのには違いないが…まさか!


 「2人とも!避けて!」


 グォォォン!


 「ゴラァァ!」


 「うおっ!」


 突如、下から男が出てきた。まるでモグラだ。


 「あぁ?なんだ?地上に出てみりゃあ敵が3人もいるじゃねえか!邪魔だ、どけぃ!」


 グォォォン、と手を変形させたドリルで俺達を攻撃しようとする。間一髪避けたが、こいつ、凶暴すぎる。


 「お、よく見たらおめぇ、ターボのやつじゃんか。しかもレベル2だろ?やるねぇ」


 「あぁそうだ。悪いが、お前にかまってる暇はない。じゃあな!」


 「へっ…〈ドリル レベル2〉!」


 「ん?」


 そう言うと、男は自分の体ごと回転し始める。


 「悪いな、俺もレベル2なんだよ!ゴラァァ!」


 男は地面に再び戻る。


 「ここか!」


 「くる!」


 すると、男は、俺と二身の間から出てきた。だが今度は規模が大きく、周りの壁までも粉砕したため、道が塞がれてしまった。


 「二身!」


 「先輩!」


 まずい、二身と俺達が分断されちまった!


 「お前さん、二身っつうのかい。ワテは盛栗。よろしくな。まずは後ろにいるお前からやらせてもらう。」


 「ちっ…ファンキーだな、盛栗さんよ!」


 「ここは3人で…」


 「お前らも戦いてぇのか!案崎に走太!なら俺がぶっ潰してやるっすよ!」

 

 「な…」


 二身がこちらを見ながら叫ぶ。だがそれは敵意によるものではなく、先に行け、という気持ちからだと読み取った。


 「お言葉に甘えて先に行かせてもらうぜぇ!せいぜい頑張んな!」


 案崎さんはそう返し、再び走り始めた。案崎さんも意志を読み取ったのだろう。俺もうなずき、先へ進む。


 「待て!案崎!」


 ありがとう、二身。お前の分も、走り抜ける!





 「なかなか気迫あるじゃねぇか。気に入ったぜ…」


 「…」


 先輩2人は俺の意志を読取ってくれたのだろう。流石だ。


 「あんた、相当なスキルを持ってるんだな。」


 「あぁ。俺の〈ドリル〉は腕をドリルに、〈レベル2〉だと全身をドリルに変えられる。このスキルのおかげで、サードゾーンまでは余裕だったな。」


 「なるほどねぇ…」


 スキルはまだ溜まってない。だが、この盛栗の〈ドリル〉は音がでかい。地中に潜られてもなんとか避けられる。それで耐えしのいで、スキルが溜まったら反撃にでよう。


 「戦うのはお前が最後くらいになりそうだ。よろしく頼むぜぇ。」


 「あぁ…かかってこい!全力で倒してやる!」


 先輩のもとへこいつを向かわせない。これが最後の…バトルだ。




 


 


 

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