第04話 激突!スキルとスキル

 「あ…やっべ」


 俺が上を見上げると、そこには大きな鉄球があった。それは、俺をめがけて落下してくる。


 「脱落…かよ…」


 ヒューンガァン!


 脱落を覚悟した瞬間、上にあった鉄球が別の鉄球の方へ吸い寄せられていった。


 「命拾いしたわね。私の〈マグネット〉がなかったらあなた、脱落してた。」


 そう言うと、ポンと肩をたたきながら一人の参加者が俺を追い抜かした。


 「今のは私も巻き込まれそうだったから使っただけ。二度はないから、そのときは潔く潰されることね。」

 

 「走太!大丈夫か?」

 

 「えぇ…あの人のおかげで命拾いしました。」

 

 「そうか…それはそうと、今の俺達の順位は15位だ。」

 

 「かなり良くない状況じゃないですか!」

 

 「だが前を見てみろ。他の奴らも苦戦してる。だから前のやつが鉄球をなんとかしてる隙を狙ってすり抜けるんだ。」


 それは賢い戦法だ。参加者を抜かせてかつこのゾーンをクリアできるんだから。

 俺と案崎さんは一気に走り出す。

 水流で勢いを弱める参加者、先程よりは弱いが、爆発で鉄球を止める参加者、鉄球を柔らかくし、潰されるのを防ぐ参加者…彼らを利用して俺達は突き進む。


 そして俺達は、10位でこのゾーンを通過した。


 「やったな走太!10位までなんとか持ち直した。」

 

 「そうですね…ちょっとスッキリしないクリアでしたけど。」

 

 「まだまだ甘ちゃんだな。これもレースの醍醐味だ。それに、今は俺達が追い抜かしたが、次は俺達が抜かされるかもしれない。抜いて抜かれての勝負、それがレースってもんだろ?」

 

 「まぁそうですが…」


 仕方ないことではあるが…やはり勝利は自分の力で勝ち取りたい気持ちも少なからずある。

 でもまぁ、今はグズグズ考えてても仕方ない。先を急ぐのが先決だ。


 「さて、トップ10の選手たちがセカンドゾーンを突破!続いてのサードゾーンは地獄にある釜茹で地獄です!灼熱のマグマが選手たちを襲います!」


 地獄か…どんなところなのかイメージがわかない。

 天国と「振り分け所」のある地上は現世とほぼ同じ風景だったが、果たして地獄はどうなのだろうか。


 「そろそろレースも中盤だ。だが、ここからが本番でもある。ここまではスキルの確認、感覚掴みのためのステージだったが、あとのステージはかなりレベルが上がる。それに…」


 ふと、前がなにやら賑やかになっていることに気づく。

 

 「案崎さん、なんか前で戦闘になってませんか?」

 

「あぁ…正にそれがここからが本番になってくる理由だ。このゴースト・ランのルール上、他の奴らへの妨害はありになっている。というか、できないことってあるのかってレベルで何でもありだ。」

 

「おっと!ここでスキルによる選手同士の妨害が始まりました!毎年恒例の光景ですが、今回のトップ集団のスキル活用法は中々にクレバーです!どうなるか全く予想ができません!」

  

「走太、この通りここからは喧嘩をふっかけれる。覚悟しないと…やられるぜ。」


 「えぇ、ですから〈ターボ〉を使って後ろと距離をとります。」


 「OK、ガイドは任せな。」


 俺と案崎さんは〈ターボ〉で一気に前進する。

 途中2人を抜かし、8位に躍り出た。


 「よし、この調子でサードゾーンへ突っ込むぞ!」


 興奮した様子で案崎さんが言う。

 と、俺は背中が何かに引っ張られてる感触があることに気づいた。案崎さんは背中から降りているからそのせいではない。となると…


 「また会ったわね、俊足くん」


 「はっ!」


 後ろを向くと、〈マグネット〉を使う参加者が迫っていた。

 反射的にガードの姿勢を取ったが、繰り出された蹴りによってふっとばされる。


 「うぐあっ!」


 「走太!」


 「あら、どなた?」


 「案崎内樹だ。」


 「そういうお名前なのね。俊足くんにひっついてる若者だって覚えとくわ。私は磁海百合香。年齢は永遠の20歳。スキルは〈マグネット〉。覚えといてね。まぁあななたちは今ここで脱落するけどね!」


 磁海さんはそういうと案崎さんに蹴りを放つ。


 「おっと!なかなか素早い蹴りだな。死ぬ前はキックボクシングでもやってたのか?」


 「空手よ。」


 俺の目の前で素早い攻防が繰り広げられる。

 案崎さんも何か武術をやっていたのだろうか?


 「はっ!」


 磁海さんのパンチを受け止める案崎さん。直後に後ろに引いて距離をとる。と同時に、磁海さんの表情が変わる。


 「距離をとるの?いいけど…離れれば離れるだけ私の蹴りが強くなるわよ?」


 「どういうことだ?」


 「こういうこと。〈マグネット〉!」


 スキルを使った途端、案崎さんが磁海さんの元へ引き寄せられる。


 「やっ!」


 「くっ!」


 今の攻撃、さっき俺がやられたのと同じだ!


 「なんだ?自分が引き寄せたいと思ったものに磁力を付与できるとかそういう感じか?」


 「違うわね。私の〈マグネット〉は手で触れたものに磁力を付与する。SとN、それぞれ一度に一つのものにしか付与できないけど、使い方によっては強力。」


 「そうか…鉄球街道で俺の肩に触れていたからさっき俺のところに飛んできたのか…」


 「ご名答!このスキルはプレイヤー妨害特化って感じかしら。」


 「磁海さんは闘いに慣れています。ここは2人でかかったほうが…」


 「いや、お前は〈ターボ〉で先に行け。あとで追いつく。」


 「でも…」


 「いいから行け。俺は大丈夫だ。」


 「分かりました、また必ず会いましょう。」


 「おうよ」


 案崎さんの目はいわゆる「マジ」ってやつだった。ここは信じて先に行こう。


 「〈ターボ〉!」


 「行ったか…」


 「あなた、あの俊足くんと協力してるの?それって」


 「そんなことより早く決着をつけよう。あんまり距離離れちまうと追いつくのが大変だ。」


 「いいわ。話は勝ってからゆっくり聞くとしましょう。」



 「案崎さん、やられないといいけど…」


 「まーてぇー!」


 「今度はなんだよ!」


 ついさっき〈ターボ〉で追い抜かした参加者が追いかけてくる。


 「おら!」


 「はっ」


 突然殴りかかってくる参加者。


 「お前も妨害してくるのかよ!」


 「あったりまえよ!そうしなきゃ勝てないんでね!」


 〈ターボ〉が溜まるまでまだ時間がかかる。このまま走っても邪魔が続くだけだ。やるしか…ない!


 「だったらこっちもやらせてもらうぞ!」


 俺はこの参加者を蹴った。が、ギリギリ受け止められる。


 「いいねぇ、じゃ、ちゃっちゃとやるか。〈ダブル〉!」


 ぼふん!という音と煙が出たと思ったらもうひとり同じ人が現れた。


 「パーンチ!」


 「うっ!」


 このスキル…


 「自分を2倍にするスキルか?」


 「その通り。なんなら俺以外の人間も2倍にできる。物質には適応されないがな。」


 「厄介なスキル持ちやがって…」


 「お前だって大概だろ?加速が使えるなんて何気に反則級よ?」


 「ああそうかい」


 スキルは使えない、おまけに1対2だ。少々分が悪いが…乗りきってやる。勝利のために!


 


 


 



 

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