第70話「戦闘 海兵隊長戦②」

 その素早さに、ジェイドはかわすのをあきらめ、斧で、どうにか海兵隊長の攻撃を受けた。

 金属どうしがぶつかる激しい音がラウンジに響き渡る。


 間一髪、海兵隊長の一撃をしのいだ。でも、力が強く、そのまま腰を落として床に膝をつく。両手がビリビリとしびれていた。


 たった一撃で、ジェイドは海兵隊長の強さを思い知った。今まで出会った敵とは違う。勝てないと思った。


「ほお、さすが……。よい武器は違うな」


 ジェイドの前に仁王立ちした海兵隊長がそう言って笑った。


「うおーっ!」


 後ろに控えていたベリルが、樽蓋の盾を両手に持って、海兵隊長に突進する。海兵隊長に全体重をかけて思いっきりぶちかましを決めた。が、海兵隊長はそれを片腕で止めるのだった。

 ベリルを逃がさぬように、盾を掴んだまま、サーベルの柄の底で盾を思い切りなぐりつける。

 強烈な打撃がベリルを襲った。ベリルは、そのまま壁までふっ飛ばされる。


「うぐっ!」


 床にたたきつけられ、ベリルがくもった声をもらす。ただの一撃で盾は粉々に砕けた。木片があたりに散らばる。


「ベリル!」


 ジェイドは立ち上がろうとしたが、海兵隊長から、すぐさま腹に蹴りをおみまいされた。真横にジェイドが倒れ込む。

 海兵隊長は、サーベルの切っ先を床につけると、情け容赦なく、ジェイドの顔面を下から上に斬り上げた。


「──っ!!」


 避けようとするジェイドの耳元に鋭い風切り音が届く。致命傷は免れたが、額に焼けるような痛みが走った。血が一筋頬につたう。

 転がって距離を取り、ジェイドは手斧を構え直す。海兵隊長は、悠然と近づいた。


「エリック・コルベール」


 ベリルの一言に、海兵隊長はぴくりと身をふるわせた。


「なんだ。それは?」


 声をひそめて海兵隊長は訊き返した。その目は、眼前のジェイドから、ベリルにのみ注がれている。


「エリック・コルベール……。それが、あなたの名前だね?」


 海兵隊長の変わりようにジェイドもベリルを横目で見る。弟の手には、くしゃくしゃになった紙が握られていた。どうやら石膏の中にあったものらしい。


 海兵隊長が見せたわずかな隙に、ジェイドは、立ちあがると、手斧で海兵隊長を横殴りに叩きつけた。


 斧の刃が身に触れる寸前、海兵隊長はサーベルでガードする。でも斧の勢いそのままに、横にふっ飛ばされるのだった。彼のサーベルは、殴打された部分から折れ曲がってしまった。


「へぇ、確かにいい武器みたいだな。ただ、使い手の一撃もなかなかだろ?」


 ジェイドは、肩で息をしつつも笑ってみせた。

 海兵隊長は使い物にならなくなった自らの武器を手放すと、ゆっくりと立ち上がる。その顔に戦意はなく、どこか遠くを見つめるように砕かれて床に転がった石膏像を見つめていた。


「真実は、ジプサムの中にある。ぼくたちを導いてくれたのは、あなただったのか」


 ベリルは、黒く変色した血文字が書かれた帆布の切れ端を海兵隊長に向けてそう言った。


「なにを言っている? なんの目的でこの船に忍び込んだ?」

「はぐらかすなよ」


 ジェイドが強い口調で切り返すように言った。

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