第69話「戦闘 海兵隊長戦①」

 真実は石膏ジプサムの中──


 それは、どういう意味なのだろうか?


 ベリルは、胸像を見つめて、あごに指をあて思案する。


 まさか、クリスタルの瓶がこの中に? いや、それならば大タコは一体何を守っていると言うのだろう? もしかして、悪魔の名前を記す何かがあるということか……? まずは、胸像のうしろを調べて、それから底も見てみよう。なにかが刻まれているかもしれない。


 考え込むベリルの横で、ジェイドが一歩踏み出した。


「単純に考えるんなら、まずは、こうだよな?」


 言うが早いか、ジェイドが銀の手斧を胸像に叩きつける。


「んなぁ!!??」


 ベリルが驚きのあまり腰を抜かす。胸像の首が吹っ飛んで、下は砕け散る。


「取り返しのつかないことやめろよ! 違ってたらどうすんのさ!?」


 ベリルがすごい剣幕で怒る。


「そんなに怒んなよ。もたもたしてらんないだろ? 中からクリスタルが出てくりゃそれで解決なんだから」


 手をひらひらさせて、ジェイドは弁解した。


「まったく、考えなしに……」


 ベリルがため息をもらす。

 それでは、結果はどうか。ふたりは、砕けた石膏像をのぞき込んだ。それらしいものは見あたらない。


「ハズレ、か。同じ方な石膏像がどこかにあるのかな?」


 ジェイドはそう言うと、転がっている頭を見やった。

 ベリルが膝をついて頭部を調べる。すると、切り離された首の断面に小さな穴が空いていた。

「待って、中が空洞になってる」


 そう言うと、指で、その穴を崩していく。中をのぞき込む。


「やはり、ここだったか」


 背後から声がした。ふたりは、驚いて後ろを振り向いた。

 ラウンジの扉前に海兵隊長が立っていたのだ。石膏像に意識を取られて、ふたりともまったく気がつかなかった。

 固まるふたりを前に、海兵隊長は、後ろ手にぱたりと扉を閉め切った。


「賢かったり間が抜けていたり……。おかしな連中だ」


 海兵隊長はそう言うと、ふたりを見たままに笑った。どこか、うれしそうな笑い方だ。


「そりゃあ、どうも。そっちには間抜けが多くて助かったよ」


 ジェイドが皮肉で返す。おもむろに、ベリルの前に立つ。腰ベルトから手斧を外すと、両手に持って構えた。


「海賊ごっこは楽しめたかな? 俺たちを船倉に陽動し、それで? 船長を倒す気でもいたのか?」


 海兵隊長が赤いロングジャケットをめくり、おもむろにサーベルの柄を出した。ゆっくりと歩いてくる。

 ふたりもその分、後退して距離を取る。


「ごっこ遊びをやってんのはどっちだよ? 死にぞこない」


 ジェイドにそう言われて、海兵隊長は、真顔に戻ると立ちつくした。急に肩を揺らして笑う。


「確かに……。確かに……」


 そう言いつつ、油断しきってたように天を仰いだ。だが、その右手を腰に回して柄に手をかけると、つぎの瞬間、ノーモーションでサーベルを抜き放つ。一足飛びでジェイドの前に躍り出る。抜き放たれたサーベルは、やはりよく磨かれていた。


 海兵隊長が、抜剣の勢いのままにサーベルをジェイドの頭に叩き下ろす。


 間に合わない!

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