第68話「海賊船の正体」
中甲板船尾ラウンジ前──
「そろそろ、かな?」
ベリルはそう言った。
物陰に隠れていたふたりは表に出てきた。ここは中甲板、目の前に船尾ラウンジの白い扉がある。
上層からは物音ひとつしない。反対に、足元からは、慌ただしい足音や声が飛び交っている。
「どうやら、作戦はうまくいったみたいだな」
ジェイドはにたりと笑った。
「スピネルたちのお陰だね。僕らが船倉を爆発するって嘘を広める作戦で、海賊たちったら、慌てて船倉に向かったよ」
「ああ、おかげで上はがら空きだ」
ジェイドは、弟の言葉にうなずいた。船倉の火薬部屋の中は、スピネルが率いる子どもたちが占拠していることだろう。
捕虜牢にわざと残って海賊たちに嘘をつく役目、火薬部屋の中で立てこもって時間を稼ぐ役目……これが赤髪の少女スピネルが考えた作戦であった。
『近づいたら、船を爆破する』
そう言われたら、海賊とてうかつに手は出せないだろう。あのスピネルならば、しばらくは持ちこたえてくれるはずだ。そして、その中にジェイドとベリルもいることになっているのだ。
そうやってスピネルたちが時間を稼いでいる間に、クリスタルの瓶と悪魔の名前を見つけ出すことがジェイドとベリル兄弟の役目である。
「船尾ラウンジか。いよいよだな」
ジェイドが意気込む。
ベリルも応じるようにうなずきかえす。ふたりは、白い大きな扉を押し開けた。
船尾ラウンジは、白塗りの壁で仕切られ、ほかの場所と雰囲気が異なる。豪華な造りだった。壁にはタペストリーがかけられ、装飾がほどこされた食器棚などがならぶ。まるで貴族の屋敷のようだった。
「ここは、わりといい空気だな。いや、俺の感覚がマヒしてるだけか……」
ジェイドが周囲を警戒しながらそう言った。
「まあ、カビと埃だらけの衣装部屋とかウジ虫が這ってる手術部屋とかよりは百万倍マシだけどね」
ベリルも応じた。
ジェイドがラウンジを見渡す。奥行きのある部屋で、左右の壁には等間隔に扉があった。幹部たちの個室になっているのだ。ラウンジの一番奥の壁はガラス張りになっている。その手前に昇降梯子があった。ここの上は、上甲板だ。
「ジェイド、あれを見て」
ベリルが何かを見つけて指さす。壁にかけられたタペストリーに紋章が描かれいている。それは、フラバルト王国に住む兄弟にも見覚えのあるものだった。
「ロリスの花弁に剣と盾の紋章、これって……」
「うん。フラバルト王国の王家の紋章だよ。これでハッキリした。この船は、ただの海賊船じゃない。フラバルト王国の戦艦なんだ」
「なるほどな。よく考えたらおかしいもんな。海賊船なのに、こんなに立派なラウンジがあったり……」
もっとも海賊船の多くは、もともとは乗っ取られた商船や国の艦船だったりもするが。
「海賊たちも、本当は戦艦の乗組員なのかもしれないね」
「フラバルト王国の海軍の海兵、か」
ジェイドはそう言った。脳裏にあの海兵隊長が浮かんだ。
ふたりは、注意深くラウンジを進んでいく。
「あったぞ」
ジェイドが何かを見つけて立ち止まる。本棚と本棚の間に、クモの巣をかぶった若い女性の胸像があった。白い石膏像である。
「真実は、
ベリルが、胸像を見つめてつぶやく。
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