第七章 兄弟と子どもたち、それぞれの戦い
第66話「頭脳戦 囚われの子どもたちVS海賊たち①」
海賊たちの騒がしい足音が大工の通路に響き渡る。船大工の手下に連れられて、多くの海賊たちが子どもたちのいる捕虜牢へとやって来ていた。
暗い捕虜牢は今、海賊たちが持っているランタンでオレンジに照らされていた。海賊たちが牢を半円形に囲む。その目は、壊された牢の扉にそそがれていた。
船大工の手下が、先ほどから子どもたちの人数を数えている。だが数が足りないのは、だれが見ても明らかだった。
「三十五人しかいない……。くそっ! 二十人近くが逃げやがった!」
へまをやらかした船大工の手下は、吐き捨てた。
「大工長を殺ったのは、あんたらが連れてきた
そう言うと、ジェイドを牢へ連れてきた海賊を見やった。ジェイドに足を刺されたあの海賊だ。足刺されの海賊は、憎々しげに舌打ちした。
「それで? そいつと、急に現れたっていうもう一人はどこ行ったんだ?」
「さ、さあ」
「さあ、じゃあねえだろう! ボサっとしやがって!」
「し、仕方ないでしょう。急に切断狂いの船医が現れたんですぜ!? それにもう一人のガキを取り逃がしてたのはあんたらだ」
「うるせぇ、人のせいにすんじゃねぇ! それになぁ、船医もそいつらに殺られたんだ。灰になって眠ってる船医が現れるわけないだろうが」
「そんな話、俺ぁ聞いてねぇし……」
話を聞いていた幹部のひとりが、子どもたちを見やる。
銃器や刀剣を保管している部屋──銃器室を仕切る銃器室長という幹部だった。腰には、カトラスと呼ばれる海賊がよく使用する片刃の剣をさげている。黒革のジャケットを羽織り、両肩に肩帯をかけていた。その左右の肩帯に、フリントロック式の銃をさげていた。
「ここから逃げた連中はどうした?」
凍てつくような目つきで、子どもたちを問いただす。集まっている海賊たちも、同じように子どもたちに視線をそそぐ。ほとんどの子どもが力なくぐったりしているが、足を縛っていたロープは、全員切られているようだった。
「…………」
女の子のひとりが、物言いたげな目つきで海賊たちを見上げていた。牢からの脱出の際にも一番元気が良くてよくしゃべる女の子だった。
船大工の手下は、その眼つきが気に入らず、牢を脅すように蹴り上げた。子どもたちが悲鳴をもらしてびくりとふるえる。
「わたしたちに八つ当たりしないでよ」
すると、その女の子がそう言った。
「ほかのみんななら、とっくの昔に出ていったよ」
「……話せ」
脅すような低い声で、銃器室長は言った。
すると子どもたちの何人かが取り留めもなくしゃべりだす。それをまとめると、どうやら、潜んでいたのは捕まった密航者の弟で、その弟が、そこの小窓から火薬を渡して鍵を壊したようだ。そして、船医のナイフとさるぐつわをモップにくくりつけて二人を脅し、見張りのふたりを襲ったようだった。
子どもたちは、素直にそう話した。でも、ジェイドとベリルのふたりだけでやったことであり、実は自分たちも関わっているという点には触れなかった。
話しのとおり、牢の前室には、モップやボロボロの布きれ、それに手術ナイフと猿轡も転がっていた。
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