第44話「奪われる装備」

 海兵隊長は、ジェイドの首のロープを外すと、甲板長に渡す。


「縛るなら、手のほうがいいでしょう」


 あくまでもジェイドから目線を外さぬまま、海兵隊長が甲板長に言う。海兵隊長は、刃を首すじギリギリのところで横に滑らせながら、ジェイドに近づいた。


「持ち物を調べるんだ」


 周りを囲む海賊たちにそう命じる。


「いいか? 妙な真似は、するなよ?」


 ジェイドにむかってそう言うと、刃でトンとあごの下を叩いた。


「君は船長かね? 海兵隊長殿」


 海兵隊長を睨んでそう言うと、ジェイドは笑った。


「なに?」

「捕虜を処刑する権限は船長にあることを知らないのかね? 下っ端がこんなもん首に当てても、脅しにもならんよ」


 さっき海兵隊長自身が言った言葉をそのまま返して、ジェイドはほくそえんだ。すると海兵隊長は、愉快そうに笑った。


「たしかにそうだな。船長の許可がなければ殺しはしないさ」


 サーベルを滑らせて、ジェイドの耳の真下につける。


「先ほどまでの立ち回り、見させてもらっていたよ」


 海兵隊長はそう言った。


「あれだけ大勢を相手によく動き回ったな。機転も利くし、度胸もある」

「なんだ、見ていたのか? だったら手伝えよ」


 甲板長は、ジェイドの手首を縛りながら、不満げに口をはさんだ。


「だが、もう下手な動きはするなよ。お前の言った通り殺しはしない。殺しはしないが、下手に動けば、耳が落ちるぞ」


 刃を少し持ちあげる。


「っ!」


 右耳に、ピリリと痛みが走った。ジェイドは、眉を大げさに上げて、両手を上げてみせた。


「了解。降参だよ」

「身体を調べるんだ」


 海兵隊長の命令で、海賊たちが、ジェイドの前に樽を持ってくる。


「まずは、コイツだ! 忌々しい!」


 さっき、足を刺された海賊が、樽にぐさりとロープ通しをぶっ刺した。

 周りを囲む海賊たちがランタンを掲げる。数人がジェイドの身体をまさぐる。ズボンのポケットには、なにも入っていなかった。次に、腰のベルトポーチを切り裂いて、中身をすべてぶちまけた。


 まず、ごろりと落ちてきたのは、瓶の頭だった。下半分は破片となっている。飲み水を入れていたガラスの瓶だ。甲板に落ちた衝撃で割れたようだ。

 ポーチからは、ぽたぽたと水滴がこぼれていた。


 海賊たちが、ポーチから転がり出たものをひとつずつ調べていく。


「これはトウガラシ? なんでこんなもんが……」

「それと丸まった包み紙。こっちは……紐? なんだぁ? ごみばっかりだな」

「中身は、こんなところですね。あとは空っぽだ」

「それ以外、本当になにもないのか?」


 海兵隊長が訊き返す。


「へい。もう特には、怪しいものはありませんぜ」


 ポーチを振りながら、海賊のひとりが答える。


「…………」

「おい、ガキ。目的はなんだ? 海賊のまねごとじゃあるまい? ええ?」


 海賊のひとりがそう言うと、笑いながらジェイドの顔に手をのばす。


「触るんじゃねぇっ!」


 ジェイドは、急に怒鳴って身をよじった。


「動くな!」


 海兵隊長が、そう言ってジェイドの腕をつかんだ。こいつを忘れるな、と刃をもう一度耳に押し当てる。


「なにが密航だよ。そっちが勝手に襲撃して来たんだろ? こっちは沈没する船から、この船に乗り移っただけのことさ」


 ジェイドは、わざと怒ったように吐き捨てた。そして、素直に木箱に隠れていたことを白状した。

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